「教室」と「世界」をどうつなぐか。生徒の没頭(エンゲージメント)を生む授業と海外研修の相乗効果

最終更新日:2026年3月10日

「生徒が授業になかなか集中してくれない」「海外研修と普段の授業が分断されている」──。多くの現場教員が抱えるこの悩みに対し、「学習者のエンゲージメント(没頭)」という視点から、授業と研修をつなぐ実践的なヒントを提案するのが、武蔵野中学校高等学校の泉澤誠先生です。

4種の海外研修プログラムの運営に奔走する一方、『エンゲージメントを促す英語授業』(大修館書店)の分担執筆を担当するなど、アカデミックな知見も現場に取り入れる泉澤先生。高校教員、大学講師、入試広報と多角的な視点を持つ同氏に、教室と世界を地続きにする「コンテクスト(文脈)」指導の工夫と、生徒の主体性を引き出すマインドセットについて詳しく伺いました。

生徒を動かす「エンゲージメント」の視点

――泉澤先生は、学習者の「エンゲージメント(没頭)」に関する書籍の執筆にも携わっていらっしゃいます(※)。普段の授業において、最も意識されていることは何でしょうか。

(泉澤) やはり、いかに生徒が授業に没頭できるか、という点を重視しています。私たち教員が一方的に前に立って50分間話し続けるのは簡単ですが、それでは生徒は受け身になってしまう。ここ数年は意識的に、いかに子供たちを動かすか、取り組ませるかという点に注力しています。

――「生徒を動かす」というのは、具体的にどのようなイメージですか?

(泉澤) 単に活動させるだけでなく、授業中に「集中して没頭する感覚」を持たせることです。 私は今年度、付属大学で大学1年生の必修授業も担当したのですが、改めて「自律的な学習姿勢」の重要性を感じました。受験生や大学生にとって圧倒的に大事なのは「自習の集中力」です。英語の授業で没頭体験ができれば、その集中力や取り組み方は、自習や他教科の学習、ひいては大学での学びにも波及します。英語を通して、グループワークへの姿勢など「自律学習」の素地を身につけてほしいと考えています。

「好き」が入口になる。「教室の外」へつなぐ指導

▲授業風景(先生ご提供)

――生徒を授業に没頭させるために、どのような工夫をされていますか?

(泉澤) 生徒との「関係作り」を軸に、彼らの興味関心に寄り添った具体例を出すようにしています。 例えば、生徒に人気のある『ポケモン』の話をすることもあります。「イーブイ」というポケモンがいますが、あれは「Evolution(進化)」から来ているんだよと伝えると、生徒たちは「ああ!」と納得してくれるのです。

――それは生徒も食いつきそうですね!

(泉澤) そうなんです。英語教師の大事な能力として「例をすぐ出せる」ことがあると思います。4月の自己紹介などで生徒の好きなもの(K-POPやゲームなど)をリサーチし、クラスによって具体例を変えるようにしているのです。生徒が自分の中に結びつけられる話題を提供することで、授業への入り込み方が変わります。

――そうした日常の授業と、貴校が力を入れている「海外研修」はどのようにリンクさせているのでしょうか?

(泉澤) 単語の意味や形を覚えるだけでなく、「コンテクスト(文脈)」を伝えることを意識しています。 どうしても高校生はテストのために正しい意味や形を覚えることに終始しがちです。しかし、言葉の一番の醍醐味は「この場面でこれを使ったら、こんなことが伝えられる」という実感にあります。

――具体的にはどのような指導を?

(泉澤) 例えば関係代名詞を学ぶ際、「ホストファミリーに『これは私が原宿で買ったTシャツだよ』と説明する時に使えるよね」といった具体的な場面設定を伝えます。 また、留学に限らず、通学路の電車にある優先席が「Priority Seat」と表記されていることなど、日常の中で英語がどう使われているかに気づかせます。「教室の外の世界」とつながる感覚を持たせることが、海外研修への架け橋になるはずです。

多様なニーズに応える4種類の海外研修

▲現地での様子(先生ご提供)

――貴校の海外研修プログラムについて教えてください。

(泉澤) 現在はニュージーランド、マルタ、カナダ、セブ島の4種類を実施しています。 ニュージーランドとマルタは中高一貫コースの生徒向けプログラムで、高校1年生の時にどちらかへ行くことが「必須(全員参加)」です。一方で、一般コースの生徒も参加できる希望制のプログラムとして、異文化理解を深める「カナダ」と、語学に特化した「セブ島」を実施しています。生徒が自身の目的に合わせて、最適な学びを選べる仕組みです。

――一貫コース生は全員参加なのですね。英語が得意な生徒ばかりではないと思いますが、現地での活動を通して生徒にはどのような変化が見られますか?

(泉澤) 一番の変化は「自信をつけて帰ってくること」ですね。 行き先やプログラムによって期間は異なりますが、例えば1〜2週間程度の短期研修であれば、英語力が爆発的に伸びるわけではありません。しかし、「自分の拙い英語でも通じるんだ」「ジェスチャーを含めてでも言いたいことが伝わった」という成功体験が、大きな自信になります。

――その「自信」が、帰国後の学習姿勢を変えるわけですね。

(泉澤) おっしゃる通りです。現地でリアルなやり取りをして、相手からの反応を得る経験をして初めて、言葉は身につくものだと思います。 自信がつくと、授業中のアウトプットへの抵抗感がなくなります。「もっとできるようになりたい」と前向きに取り組むようになり、結果として学力が伸びていく。そのきっかけ作りとして、海外研修は非常に重要だと考えています。

「行って終わり」にしないための事後指導と責任

▲プレゼンテーションの様子(先生ご提供)

――多くの学校が課題としている「国際教育プログラムの一過性問題」については、どのような対策をされていますか?

(泉澤) 「行って終わり」にしないために、現在は帰国した生徒が次年度の参加希望者に向けてプレゼンテーションを行う取り組みを一部実施しています。 現地では「ノリ」や勢いで通じたかもしれませんが、人前で発表するとなると、きちんとした英語や文法を組み立て直す必要があります。ただ楽しかった記憶を語るだけでなく、この「言語化」のプロセスを経ることが、英語学習としての重要なリフレクション(振り返り)になるのです。

――「通じた体験」を、さらに「伝える言葉」として整理し直すわけですね。

(泉澤) おっしゃる通りです。昨今は大学入試でも、総合型選抜などで自己PRが重要視されます。そこで「楽しかったです」で終わらせず、「こういう困難があって、こう乗り越えて、ここが成長しました」と論理的に言語化できるように指導しているのです。今後はこの振り返りをより体系化し、生徒同士で経験を伝え合う文化を学校の「伝統」として定着させたいと考えています。

――生徒に研修の意義を伝える際、特に強調されていることはありますか?

(泉澤) 「英語+人間性=将来」というキーワードを伝えています。 私は入試広報も担当しており、保護者の方とお話しする機会も多いのですが、海外研修は高額な投資であり、行けることは当たり前ではありません。生徒には「親御さんが将来のために投資してくれている」ことを自覚させ、ごまかしてはいけない責任があるのだと伝えます。親への感謝や、慣れない環境で自分を律する自立心など、英語力以上に人間的な成長を期待しています。

教師自身が学び続けるロールモデルであるために

――泉澤先生ご自身も、入試広報や大学での授業、研修引率など、多岐にわたって活動されています。その原動力は何でしょうか。

(泉澤) 「教えるなら倍学べ」という精神を大切にしています。 教師が楽しんで学んでいる姿を見せることが、生徒のモチベーションにつながると思うんです。私自身、学習者のロールモデルでありたいと思い、昨年久しぶりにTOEICを受験しました。

――生徒と同じ目線に立って、実際に受験されたのですね。

(泉澤) はい。学生時代のベストスコアに戻すのには苦労しましたが(笑)、試験中の集中力が切れる感覚など、学習者の苦労を再確認する良い機会になりました。 授業中の音読指導などでも、ペアワークの片方を「先生役」にして、フィードバックさせる手法をとっています。これも生徒に「教えることが学びになる」という体験をしてほしいからです。

――最後に、全国の先生方へメッセージをお願いします。

(泉澤) 生徒との関係作りにおいて、教師の威厳も必要ですが、それ以上に「先生自身が生き生きとして英語を楽しんでいる姿」を見せることが大切だと思います。 ジェネレーションギャップを埋めるために生徒の好きなものをリサーチしたり、自らも英語学習者として挑戦したり。自分の好きなものや英語の魅力を伝えながら、生徒と共に成長していく。そんなスタンスで、これからも教育に携わっていきたいと考えています。

 

※『エンゲージメントを促す英語授業:やる気と行動をつなぐ新しい動機づけ概念』(廣森友人・和田玲 編著/大修館書店)の一部をご担当

(取材:浜田結和/記事構成・執筆:松本 亜紀)

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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