英語教員の複業|生涯教育としてのICT教育と実践事例
最終更新日:2023年3月21日
中高の教師でありながら、別の顔も持つ、そんな英語教員も増えてきました。職業としての「複業」ではなく、プロボノとして活躍している人もいます。
複業に興味はあっても「どのような仕事があってどんな活動をしているのかわからない」という方のために今回は、同志社中学校・高等学校の英語教員・反田任先生が複業とされているICT教育について多くの実践実例を交えながらお話をいただきました。(聞き手:早坂)
英語教員の複業とは?その種類と見つけ方
(早坂) 便宜上「複業」と表現してはいますが、現実的には一般社団法人やNPO法人、ボランティアのような形でご活躍されている先生方も多数おられます。本日は「英語教員の業務のほかにもなにかをされている」といったイメージでお話をお伺いできればと思います。
まずは、先生の自己紹介からお願いできますでしょうか?
(反田) わかりました。私は同志社中学校・高等学校の教員で、中学で英語を教えています。また、同志社大学文学部の「教育実習指導」という科目で、教育実習に行く学生さんの指導も担当しております。
あと、アイティーチャーズアカデミーの理事もしておりまして、年に1回カンファレンスを担当したり、ICT 教育をメインに取り上げている『アイティーチャーズTV』というYouTube番組に出演したりしています。
(早坂) こちらですよね。
(反田) そうです。こちらでは会員さん向けのワークショップなどもありまして。
(早坂) これは先生ですか?もしかして。
(反田) それは私です。数年前になりますが。
中高英語教師の「現場力」や「実践」が活かせる複業とは?
(早坂) 先生のご活動にもありましたが、中高の先生方が大学でも教鞭をとられるのはよくあることですか?
(反田) それはケースバイケースかなと思います。
大学の教職課程では、生徒への学習支援や授業デザインなども学びます。その点においては、大学の先生は「研究者」であり、現場教員は「実践者」です。実務的な内容については、現場の教員のほうが研究者である大学の先生よりもよく知っているという部分があります。
ですので、教職課程では、中高の教員がレクチャーしている大学は割とあるかなと思いますね。
(早坂) 中高の教員が「大学でも教えたい」と思った場合には、自分から応募するのですか?
(反田) 私の場合は、大学から講師の委嘱がありました。同志社中学校と同志社大学は同じ法人内ですから、法人内出講ということになりますね。
(早坂) なるほど。そのような活動をされつつ、アイティーチャーズの理事もされているわけですが。そもそも、なぜ「教育×ICT」について取り組もうと思われたのでしょうか?
(反田) 私がアイティーチャーズになったのは2015年頃で、初期メンバーではないんです。
本校で2014年からiPad が1人1台導入されたことをきっかけに、「教育ICTでさまざまな実践をやっていきたい」「自分の実践を多くの方にシェアできれば参考になるかな」と思い、活動に参加させていただくことにしました。
いざ、「教育×ICT」の実践
ICTは「使うこと」が目的になってはいけない!授業の中にどう組み込んでいくかがポイント
(早坂) 2015年のIT環境といいますと、やっとiPhoneが普及してきたかな、という時期ですよね。
(反田) iPadは第4世代の頃ですね。まだ国内の学校でWi-Fi環境を構築している学校はほとんどなかったと思います。
(早坂) やっと若い人を中心にスマホが普及しはじめた時期からICT教育に取り組まれていたのは、すごいことですよね。
(反田) ありがとうございます。
(早坂) 今でも1人1台の環境は維持されていると思うのですが、コロナ以降はどのようにICTを活用されているのでしょうか。
(反田) 本校の場合は、基本的に最初から学校で構築したオンプレミスの学習用ポータルサイトがありました。それにプラスして、「Appleスクールワーク」という授業支援のシステムですね。それから「Microsoft365」、あと「Google Workspace forEducation」と「Adobe Creative Cloud」です。
これらはすべて使えるようになっていて、教員が自分に一番合うものを選んで使用します。生徒にしてみれば、教員によって使うものが違うので慣れるのに少し時間がかかるかもしれませんが。
私は、ICTというのはひとつのものを固定して使うわけではなく、その時々に応じて一番ふさわしいものを活用することが大事かなと思っています。
(早坂) なるほど。「まずICTありき」というより、「授業ありき」で先生方それぞれのスタイルに合わせて運用されている、と。
(反田) そうです。ICTは「使う」のが目的ではなく、「授業の中にどう組み込んでいくか」というところがポイントだと思います。
最近は、GIGAスクール構想ということで全国の小中学校、高校へと段々と1人1台が広がってきている一方、「ICTを使うこと」を目的にしているような授業も散見されます。ICTを使わないほうが効果的な場面もありますので、決して「使うこと」が目的になってはいけないと思っています。
本校の状況をちょっとお見せいたしましょうか?
(早坂) 見たいです!
メンテナンス作業までこなすのは至難のワザ!機器の設定や管理はシステム会社に任せる
(早坂) 2014年から現在までの様子なんですね!やはり、早い時期から1人1台持たれていますね。
(反田) 生徒用も、先生方の授業用PCもMacで、シームレスに使えます。AppleとMicrosoftとGoogle、それとは別に、学校独自の学習ポータルサイトがある形です。
(早坂) 学習ポータルサイトは、独自開発されているのですか?
(反田)国立情報学研究所が開発した、授業支援やコンテンツマネジメントができるプログラムをベースに作っています。私が自分で勉強して設定などは一応できますので、サーバー管理は校内でやっています。
(早坂) 結構大変そうですね。
(反田) トレーナー資格を持っているので、そんなに大変ではありません。失敗例でよく見られるのは、先生方がメンテナンスまで全部やっているケースなんですね。いくら授業時間を減らしても、そこまで時間的な余裕が出てこないのです。今は、先生方の働き方改革も言われていますし。
本校では、生徒の設定やどういう教育をするかといった部分は学校でやり、機器の設定や管理については、すべてシステム会社に任せています。費用はかかりますが、先生方の負担は大きく減らせます。
(反田) 私の授業の例から、中学校一年生の英語の授業の命令文の単元を紹介しましょう。命令文が一番よく使われているのは、レシピとか取扱説明書なんです。それで、ただ単に「命令文を教える」ということよりも、「レシピを作ろう」というプロジェクトにしています。
そうすると、命令文の表現だけではなくて、他の表現も覚えることができるのです。例えば、生徒は「切る」っていうと「cut」ぐらいしか出てこないのですが、本来は「slice」とか「chop」とかいろいろありますよね。クイズのような形で、普段使っている言葉も覚えてもらえるみたいなところがあります。
ただ単に好きなもののレシピを作るのではなくて、また外部連携をとって大学の栄養学科の先生にレクチャーをしてもらい科学的な勉強をした上で、中学生にとって「ヘルシーなレシピとは何か」というのを考えてもらうといった授業をしています。これは生徒が作ったレシピです。
(早坂) 楽しそうですし、美味しそうですね。そして役にも立ちそう。
(反田) レイアウトとかすごいでしょ?これ男子のグループが作ったんですよ。
(早坂) 男子、やりますね。
(反田) こんな感じで、デザインまで含めてICTを使ってアウトプットする授業をしています。
私自身は、「英語はアウトプットのツール」として捉えていまして。英語って、単に「単語を覚えて、文法を覚えて・・・」みたいなイメージがあるじゃないですか。いろいろな学びの要素を加えてプロジェクトにしていくと、英語は日常の自分なりの考えをアウトプットする方法のひとつであると気づけます。
(早坂) 英語はツール、とおっしゃりましたけれども、ICTも、この授業のためのツールということですね。
(反田) そうですね。はい。
教育ICTの未来のために——「人とのつながり」と「自分をアップデートしていくこと」を大切に
教育ICTに「こうあらねば」はない。「どのように使うか」が大事
(早坂) 先生の大学やアイティーチャーズでのご活躍を、今回のテーマでは「複業」と表現しています。先生は、こういった活動を皆様にもシェアされている、と。
(反田) はい。2015年には、Appleの認定教育者にもなりました。タブレット導入時にiPadの活用方法をレクチャーさせていただいたり、実際の現場にアドバイスで入らせていただいたり。文科省のICT関連事業をお手伝いしたこともあります。
(早坂) コロナもあって、今やっと教育ICTがどんどん促進されてきたところかなと思うのですが、いろいろとアドバイザリーに入られている先生からご覧になって、現状どのような課題があると捉えていらっしゃいますか。
(反田) 全国の小・中学校に一気にタブレット・PCが入ってきたことは、新型コロナ対応としても非常によかったかなと思います。しかしどのように使うかというところが追いついていない。やはり、ICTを使うことが目的になる授業ではいけないと考えています。大切なのは教員が生徒たちに何を学ばせるか、生徒たちは何を学びたいか。それぞれが自分に一番ふさわしい方法、使いたい方法で使っていくことが一番大切なポイントなのかなと思います。
(早坂) 先生ご自身は、さまざまな活動を通じて気づかれたことなどございますか?
(反田) ひとつは、ワークショップなどに行かせていただくことによって、私自身も学びになっているところが大きいです。人と人とのつながりは、やはりイベントやカンファレンスなどを通じてできます。そこで、いろいろと情報交換ができる。
そして、SNSですね。情報を発信するだけでなく、新たな学びの機会が生まれています。「一緒にこういったイベントやりましょうよ」というようなところで、いろいろな先生に広がったり、学んでいただけたり。自分自身をブラッシュアップする大きな機会にもなってます。
(早坂) 今後こんなこともやってみたいな、ということはおありですか?
(反田) 私がアドバイザー的に関わっている学校や先生方のなかには、授業デザインに悩んでいらっしゃる方もおられます。そういった先生方と一緒に授業を作っていくことに取り組みたいと思っています。
あと、自分自身が普段の授業で実践していることを、自分なりに研究的な視野からまとめたいと思っています。ある程度エビデンスを出すと、感覚でモノをいうより説得力がありますよね。
「キャリア」ということにはならないかもしれませんが、自分自身をアップデートしていくという視点で取り組みたいと考えています。
学校の外にもしっかり目を向けて。いろいろな方とつながるべし!
(早坂) 活動を広げるにあたって、先生方もご多忙でいらっしゃるので、「目の前のことでいっぱいいっぱいだな」「なかなか他の方との交流を持つ勇気が出ない」という方もいらっしゃると思います。そういった先生方にアドバイスをいただけますか?
(反田) 「学校の中だけにとどまっていないで、学校の外にもしっかり目を向けていろいろな方とつながってください」と言いたいです。
教育が仕事のベースにあるので、「忙しい」のはみんな同じだと思うんです。そのなかでも自分をアップデートすることがこれから大事になると思うので、「人とのつながり」と「自分をアップデートしていくこと」を大切にしていただきたいです。
私のいう「学び」というのは、きちんとした学術的な理論のことです。学習科学も含めて、きちんと自分の中に知識として持っておくことは大切なことだと思います。私も、まだまだ勉強中なんですけども。
「自分ごと」で考えるライフログラーニング
学びプロジェクト|自分たちでできる行動って何だろう
(反田) 本校に「学びプロジェクト」というのがあるんです。これは授業じゃないんです。課外講座なんですよ。教員が自由に講座を設定できて、生徒は希望すれば誰が参加してもいいんです。
私は、海外の起業家の方と結んで「海洋・マイクロプラスティックの問題を自分ごととして考える」という講座を開きました。環境への影響や、どこに水を飲める場所があるかがすぐ分かるアプリを開発した海外起業家の実績などについて勉強しながら、「じゃあ自分たちはどういうことができるか」というのを考えて英語で最後に海外起業家の方にプレゼンをしてコメントをもらったんです。
生徒たちも、学校の外の方と繋がっていくことによっていろいろな視点を見いだせることがあると思います。このような授業をやると、その前と後で生徒の意識がやっぱり変わってくるんです。
(早坂) そう思います。
(反田) 最後は、「自分たちでできる行動って何だろう」と考えはじめます。。すぐに行動できないとしても、Take Action(行動を起こす)の意識を子どもたちに持ってもらうのは、非常に大切なことかなと思いました。
先生に限らず、大人の私達も含めてみんなが「自分自身ができる行動は何か」と考えるチャンスを、教育のさまざまな場面で持てたらいいかなと思います。
「人間としてどう生きるか」、「社会をどのようによりよくしていくか」、という視点で授業づくりをしていかないといけないと私自身も感じている次第です。ひいてはそれが自分たちのキャリアアップとか、アップデートに繋がっていくことになっていくと思っています。
生涯学習のすすめ|ワクワク感という学び
(反田) 今、経済産業省も「STEAM Library」という事業のホームページを作っています。「創る」と「知る」、そのなかにワクワクした学びがあるということです。
「Life Long Learning」生涯学習という語をよく耳にします。決して、学校にいる子どもたちだけじゃなくて、大人である私達も、そういう気持ちを忘れずに人生を送っていけたらよいな、と思います。
経済産業省「STEAM Library 」
( https://www.steam-library.go.jp/ )