iPadを使って英語力だけでなく人間力も育成する
最終更新日:2023年5月19日
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和田 一将 / 東京成徳大学中学・高等学校 ICT活用推進部長 / 英語科教諭
iPadでつくる!クリエイティブな英語授業
明治図書
- おすすめのポイント
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おすすめのポイント
本書を編集した目的・コンセプト
GIGAスクール構想により、全ての児童生徒が一人一台パソコン、もしくはタブレットを活用して今後日々の学習を進めることが示された。この指針によって「授業でパソコンを使えと言われても活用の仕方がわからない」「タブレットを渡しても生徒は遊んでしまうだけなのではないか」といった不安要素を急に抱えながら授業をすることになってしまった現場の先生方は少なくない。
手探りのまま積み上げてきた、iPadを使った6年間の授業実践をまとめたのが本書である。
ICT機器を扱うのが初めての先生方でも効果的に授業に取り入れ、生徒の力(特に実践的な英語力)を伸ばしていくためのアイデアをまとめている。いくつか押さえる必要があるポイントをきちんと押さえて授業設計をすれば、誰でもiPadを使って内容が濃く、深く、素晴らしい授業ができるだろう。Q. 対象としたクラスの特徴(学年、人数、授業目標等)
学年と人数:中学校1~3年 どれくらいの人数でもやり方によっては可能だが、標準の人数(30~40人)を想定している
英語能力のレベル感、動機付けの強さ:中学で初めて英語に触れるレベルから参照可能
授業目標:総合的な人間力を育成する。
個人的に達成したいこと・こだわりたいこと:英語教育の面でいうと、日本に限らず、自分の置かれたところで、自分らしく行動できる人間を育てたいというのが教育の根幹。
Q. 課題意識、導入の経緯
ここ数年、新型コロナ感染症への対応として、オンラインによる人との関わりが多くなった。生徒たちは、直接的な「人との関わり」が希薄になっている。そういった生徒たちに対して、直接的な「人との関わり」をベースにしつつ、iPadを用いて英語力を高めていくことを意識した授業展開を目指した。
Q. 実際の使い方
授業における展開:本書は、授業計画の際の工夫や、授業実践を紹介しており、その工夫や実践を参考に授業計画ができるようになっている。
目次
Chapter1 iPadの活用とクリエイティブな授業(01~05章)
Chapter2 クリエイティブな授業の準備と評価(01~05章)
Chapter3 実践!クリエイティブな英語授業
〔L:聞く,R:読む,S1:話す[やり取り],S2:話す[発表],W:書く〕
1年(実践01~07)
2年(実践08~19)
3年(実践20~25)
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以下、Chapter3の内容について詳しく説明する。〇中学1年生
◆be動詞,一般動詞,語彙習得〔L, S1〕
実践01 Small Talkをしてみよう
◆be動詞,一般動詞,語彙習得〔L, S1〕
実践02 プレゼンテーションをしてみよう―Show and Tell
中学1年生では、初めて英語に触れる生徒から、幼少期に海外生活を経験した生徒もおり、全く異なる英語レベルの生徒たちが同じ教室で学ぶ状況も少なくない。
そのため授業では、中1の段階から生徒たちに合わせた語彙の習得や発話力が獲得できるよう、iPadを用いて「Small Talk(あらかじめ設定したテーマに沿った1分間のスピーチ)」や「Show and Tell(写真を見せ合いながら英語で紹介)」などの活動を取り入れ、自分を表現する機会を設けている。
iPadを用いることで、テーマの共有がスムーズにできたり、即時に紹介したい写真や、図、自分の書いたものを共有したりできることは、生徒たちの意欲向上の一助になる。また、アウトプットのツールのバリエーションを増やすことは、生徒たちが積極的に活動できる工夫となると考えている。〇中学2年生
◆過去形,過去進行形 〔R, S2〕
実践08 教科書の文章を4コママンガで要約しよう
◆時制(過去形,現在進行形,未来形)〔S2, W〕
実践14 テーマ「時空を超える」で短編映画を撮影しよう
中2は、まとまった英文を読む機会が増え、学習内容も難しくなる。いかに英語を嫌わずに長い英文を「読み・書き」できるようになるかが、その後の英語スキルに大きく影響する。
生徒たちが長文を読み、素早くその長文全体のイメージを掴めるようになるために、長文を読んで自分の好きな場面を4コママンガに描きiPadを用いて共有した。
そのほかにも、教科書のテーマ「時空を超える」で、映画仕立てのビデオに撮影したものをiPadで編集するなど、日本語を介さずに長文のイメージを掴み、自己表現をするというトレーニングも実施した。全体像を捉えることによってインプットした知識を、生徒たちなりにアウトプットすることで、知識の定着を図った。これは、英語の感覚を養うと同時に、個性的に表現することの大切さも学んでほしいという想いからである。〇中学3年生(番外編)
◆中学校のまとめ 〔S2, W〕
実践24 オンラインで様々な学校や人とつながろう
中3になると、関係代名詞や現在完了を用いて長い文章が書けるようになり、プレゼンテーションに必要な英語表現も学ぶため、より高度なアウトプットに挑戦させたい。
授業ではiPadを用いて、インターネット上の英語の情報や文献から幅広い知識・語彙に触れながら、リアルな海外の学校や人と向き合い、自分たちの意見を英語で表現する。この試みの中で、「内容を的確に伝えるにはどう表現すればいいか」、自分の伝えたいことを明確化し、表現を工夫する経験を積む。実際に、オンラインで様々な学校や人とつながることで、英語のスキルを伸ばしつつ、自分の視野を広げて社会や世界に対する興味・関心を高めることができた。
本校では、中3でニュージーランドに3か月留学するプログラムもあり、本物の英語、世界を体験する。毎年、たくさんの自律体験や苦労を重ね、これまでの学習成果を実感しながら、見違えるくらい成長し、笑顔で帰ってきてくれる。Q.工夫したポイント
授業準備で工夫していること(あれば):
「この単元では、生徒たちの何を伸ばすか」という狙いをもって授業を計画する。英語の力のみならず、例えば、協調性、表現力、俯瞰的に物事を見る力など、人間力も相乗的に高められるようなテーマをもって授業計画をしている。
従来からの英語の授業でありがちな暗記や筆記による学習だけでなく、iPadを用いることによって日頃から親しんでいる写真を用いたり、映像にして表現したり、自らの発見やひらめきによる創造的な学習ができるよう展開している。Q. 実施した結果
生徒の成績の変化等:
「iPadを活用して、より多くの人に分かりやすく表現するという体験」を積み重ねることによって、インプットした英語力が定着すると同時に、個々の探究心や興味の幅も広がり、相乗的に人間性が高まったことを実感している。
具体的には、コロナ禍で文化祭や体育祭が中止になるなか、生徒会主体で英語の「映画祭」を運営するなど、現状を鑑みて、どのようにしたら自分たちのしたいことが実現するかという自主性や創造力、協調性も同時に身についた。
「映画祭」では、英語での映画制作にチャレンジし、実践的な英語を使う機会が得られた。動画の視聴者などの“画面の向こうにいる人”に伝わる英語表現を、工夫しながら組み立てる力も身につけることができた。動画サイトやSNSを活用することで、海外にも英語で発信する機会を設け、その反応から達成感を感じることもできた。生徒自身が充実感を得られたことが、更なる学びへと繋がったと思う。
また、英語が苦手だったり、英語の先生が苦手だったりすると、そのうち生徒は英語を嫌いになってしまうことが多いが、iPadを使った授業は写真を撮ったり絵を描いたり、ストーリーを考えるといった多くの要素が詰まっており、何かしら生徒が夢中になる部分が備わっている。何か1つでも夢中になる点があれば、結果的に英語を嫌いにならずに済むという意味でも、iPadを用いた活動の魅力が感じられた。
昨今、大学入試共通テストや英語外部検定試験などでも「大量の文章を瞬時に理解し、自分の意見や考えを的確に伝える力」を問う問題が増えているが、実践例に挙げたように、iPadを用いた英語学習の中で様々な英文に触れ、そのまま英語で表現することに中学生の早い段階から慣れることで、受験にも対応できる力を養うことができた。高校2年で英検準1級取得した生徒もおり、全体的には英検2級の取得率も上がった。
生徒たち自身も、「中学生の頃からプレゼンする機会がとても多かった」と、プレゼンや創作活動によるアウトプットで、インプットした知識が定着したことを満足しているようである。Q. 今後に向けて
学校には、生徒たちの一面だけでなく、あらゆる面を総合的に育成する機会があると考えている。学習は、教えてもらうという受け身では継続が難しいため、生徒たちの自主性や意欲を高めることが重要である。ニュージーランドの教師はそれを後押しするために、小学校から『グロース・マインドセット(Growth Mindset=自分の成長は経験や努力によって向上できるという考え方)』を教えている。生徒たち自身が、「やりたい」「知りたい」「伝えたい」という意欲的な気持ちを抱くきっかけとして、多様なアクティビティを盛り込みたい。そのためにiPadは大変有効なツールだと考えている。
今後も、生徒たちの実情や世界の状況に応じて、生徒たちの好奇心・探究心をくすぐるような授業展開をしていきたい。
- 和田 一将
- 東京成徳大学中学・高等学校 ICT活用推進部長 / 英語科教諭
プロフィール
国際交流やiPadを活用したクリエィティブな英語の授業などを通して、多様な価値観の中で活躍できる創造的な人材育成に取り組む。Apple Distinguished Educator