発問はメリットばかり。生徒は能動的で、授業のムードは明るく、英語力に加え自己肯定感も高められる。
最終更新日:2024年1月19日
普段から生徒に思考を促す発問を活用する杉内光成先生は、2023年1月、一般財団法人語学教育研究所主催のオンライン講習会に講師として登壇。「教科書から対話を導き出す発問」をテーマに講演されました。今回は教育現場に携わる方々が関心を持たれる発問について、「そもそも発問とは何か?」というベーシックな質問から「生徒を夢中にさせる授業法」までを伺いました。
教科書の内容を“自分ごと”にする発問が、授業への姿勢を能動的に
―――オンライン講習会では「教科書から対話を導き出す発問」をテーマとされましたが、講演内容について教えていただけますでしょうか?
(杉内)今回のテーマは、「英語教科書を活用して、生徒が能動的に勉強できるようにする工夫の一つとしての発問」でした。実は発問について、よく理解されていない教員の方が少なくないんです。または、発問のことは知っていても、授業における活用法が今ひとつわかっていない。そのような方にとってのヒントになればと思い、お話しさせていただきました。
―――参加されたのは、語学教育研究所に属されている中等教育機関や大学などの教員の方々でしょうか?
(杉内)そうですね。語学教育研究所には小学校の教員から大学の教授まで、あとは教育委員会の方や、教育系出版社の編集者などが所属されていまして、今回のような講演会に参加されています。
―――いわば教育現場に勤められている方々がレクチャーを受けた発問とは、どのようなものでしょうか?
(杉内)発問というのは、教員が考えている授業の方向性に生徒を導くための問いかけみたいなものです。というと、「教員から生徒への一方的な問いかけ」と認識される場合が多いのですが、「教員⇔生徒」「生徒⇔生徒」と、矢印がマルチディレクションになるような授業を意識しています。各学校によって、授業時間や教育目標、カリキュラムがあるので、教員がデザインした授業に生徒を乗せていくのは大切な要素の一つです。
ただ、教員主導一辺倒になってしまうと、「生徒は本当に言いたいことを発信しているのだろうか?」「教員が求める正解を探して答えているだけではないだろうか?」という疑問が浮かんできます。本来、コミュニケーションはお互いが持っている情報を交換し合ったり、お互いを理解し合うために言葉を交わしていくものです。立場によって一方的になるものではありません。
そこで、教員がある程度の授業を設計しつつも、できる限り生徒が自分の言葉を発信する、教員や他の生徒に対して発問していけるような仕掛けが大切になってきます。それに加え、私は授業で「教科書を使ってどう英語を学ばせるか」だけではなく、「知的好奇心をくすぐり、かつ教科書の内容と日常生活をリンクさせられるか」ということを意識しています。そのため授業の冒頭で発問、つまり問いかけを通して、教科書の内容にリアリティを感じてもらう。それができれば生徒は引き込まれていき、能動的に授業に参加するようになるんです。
―――教科書の内容を“自分ごとにする”という発想は、あまり聞いたことがありませんでした。
(杉内)きっと他の授業もそうですよね。ともすると、教科も勉強のための勉強になってしまう場合があるので。講演ではAIを題材としたのですが、AIという言葉自体は知っていても実生活で出会うシーンは少なく、ピンとこない生徒が多いという実情を前提に、どう自分ごとにさせるかが大切だと伝えました。
たとえば本校で使用しているLANDMARKの教科書にも、自動運転などのようにAIをテーマにした題材が載っています。近年はエアコンも自動調節できるようになっていますが、そのような生徒に身近な事例を用いながら、英語で生徒に問いかけ、生徒の中から何かを引き出していくというイメージです。
生徒のアウトプットは英語なので、完全な文章でない場合も多く、そのときは「こういうことを言いたいのかな」ときちんとサポートをします。単語が出てこなければそれを教えて、改めて文章として言い直してもらう。結局はインタラクションになっていくのですが、発問はインタラクトするための一つのきっかけなのです。ですから発問を使う目的も、生徒の英語力向上に置かれます。
―――たしかに英語の授業ですものね。そして教科書をどう使っていくのかが腕の見せどころとなるのですね。
(杉内)こう発問すると、生徒はどう反応してくれるのか。そこを想像しながら授業を組み立てるところに醍醐味があります。生徒がこちらの想像を超える反応を見せてくれると、「おお! 賢いな」と驚きます。しかも1クラスは40人ほどと多いので、私の想定外の反応があちらこちらで見られます。実際の授業では私一人で考える以上のことが起こりますので、こちらも勉強になりますし、楽しくなるんです。
授業の状況に応じて、発問の方法を使い分ける
―――実際の授業では、生徒にどのような発問をされるのでしょうか?
(杉内)先ほどの自動運転の話をすると、まず教科書に掲載されている写真を「この写真を見てください」と言って見せ、次に「これはどこかな?」という感じで場面について質問します。そして生徒から「車の中です」とか「高速道路だと思います」といったアンサーがあると、「そうだね。それ以外に気づくことはない?」と言って先を促していくんです。もちろん、これらはすべて英語でのやりとりです。
そして「見て見て、車を運転するときは普通ハンドルを握るよね?」「でもこの写真の運転手はハンドルを握ってないよね? なんでだろう」と話を振ると、大体の生徒は状況を理解します。そしてAIという言葉が出てきたら、「そうだね!」と。「実は今日はAIの話をしようと思います」と展開していきます。
AI自体はみんな知っているんです。けれど英語の授業ですからそこから発展していく必要がある。なので「そもそもAIって何の訳だかわかる?」とか、「ちょっとそれは考えてごらん」と言って、私と生徒、もしくは生徒同士で、英語で会話を交わしていく感じですね。
さらに「AIは自動運転だけじゃないよね。他に何があるか周りの人と話してごらん。あとで答えてもらうからね」と促すと、みんな頑張って考えだします。そして英語で答えてもらい、さらに教科書の内容との共通項を見出してきて、もし頻出単語がリンクするようなら、その単語をピックアップして教えていく。すでにストーリーは把握できていますから、単語の意味も説明する前に大体想像できているんですよね。
ここまで流れてくると、授業へのウォーミングアップとしては十分。「さあ、これから英語を勉強していくよ」というムードが生まれています。
―――ウォーミングアップというと、時間にするとどれくらいでしょうか?
(杉内)10分ほどでしょうか。意外に短いと思われるかもしれませんが、長いと飽きてしまいます。発問を授業への導入として使い、そののちに本文をリーディングしていったり、というのが授業の大まかな構成になっています。
またリーディングなどのパートでも発問を使います。オーラルイントロダクションやモデルリーディングから始めて、次に解説もしていくんですけれど、その際にストーリーの内容を理解しているかどうか確認するために発問をしたり。文構造を教える際には、「動詞はどこだ?」「動詞は何個ある」という具合に、思考のプロセスを一緒に辿るような発問をします。
あとは行間を読むような推論発問や、評価発問もします。「ここから何がわかる?」「どうして筆者はこのような文章を書いたのかな?」とか、「この文について、あなたはどう思う?」という感じで。深く理解するために必要だなと思うところは、こうした発問を入れますし、英語で言うのが厳しそうなときは日本語で答えてもらうこともあります。
生徒の自己肯定感が高まる授業を続けていきたい
―――発問を軸にした授業で見られる生徒の反応には、どのような特徴がありますか?
(杉内)能動的に授業に向き合ってくれていると思います。あとは英語に対してマイナスなイメージを持っていない。英語で話すことを億劫がらない。そのような印象がありますね。
もともとみんな英語が話せるようになりたい気持ちを持っているんです。そこをプッシュしてあげる。そういうイメージですね。あとは、「え、もう授業終わりなの?」と言われたときは、とても嬉しかったですね。
―――夢中になっているということですよね。いわゆる学力の差があっても、アイデアを出すことに差はないでしょうから、クラスで発話をするときにも苦手意識を超えて声を出してくれそうですね。どうしても教科の授業というのは点数が取れないと苦手意識を生み、気持ちも後ろ向きになりがちですが、先生の授業だとそのようなことはなさそうです。
(杉内)評価の観点が違いますからね。成績だけで評価されてしまうと、やはりそうなってしまいがちなのでしょう。思うに、点数になるかどうかは置いておいて、日頃のちょっとしたやりとりを評価するということが大事なのかな、と。褒めるところは褒め、ダメ出しもするのですが、これは仕事でも同じですよね。業績だけではなく普段の姿勢も見てくれていると思うと、それが給料アップに直接的につながるわけではないとしても、仕事をしている自分を肯定できて楽しくなりますよね。
―――モチベーションが変わりますよね。
(杉内)そのことは大人も中高生も同じだと思うんです。「だいぶ喋れるようになったね」とか、「そのアイデアはおもしろいね」とか。そのおもしろいアイデアのおかげで授業の雰囲気が華やかになったりしますから、きちんと声をかけてあげる。そうして一人ひとりの授業への参加意識が高まって、その結果、「英語力だけでなく内面的な成長も獲得できた」という状況にしてあげることが大事だなと思います。
取材・構成:小林慧子/記事作成:小山内 隆