英語でBig Questionを考える授業への挑戦
最終更新日:2024年1月24日
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竹中 淳 / 神戸市立葺合高等学校
21st century reading
NATIONAL GEOGRAPHIC
- おすすめのポイント
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おすすめのポイント
英語でBig Questionを考える授業への挑戦
対象としたクラスの特徴(学年、人数、授業目標等)
学年と人数:
国際科の高校2年生・80名英語能力のレベル感、動機付けの強さ:
現在の国際科は、英語能力の幅が広い。英検2級程度の生徒がほとんどだが、海外生活が12年の帰国子女や英検1級レベルの生徒は各クラスに2名程度いる。
今回対象となった2年生が1年生だった当時、コロナの影響をうけて海外での活動を行えないことが確定していた。そのため受験者の人数が限られ、英語力の幅につながった。授業目標:
国際科は”foster the leaders of tomorrow”を掲げており、英語に加えて探究の授業もオールイングリッシュで実施をしている。リーダーとして”put yourself in someone else’s shoes”ができることが重要だと伝えていて、そのためにツールとして英語が使え、また抽象的に考えられるようになることが必要だと考えている。英語能力については、生徒たちには入学時に「卒業時には全員が英検準1級を取得していよう」と伝えており、実際に記事執筆の今は、ほとんどの生徒がそのレベルに達している。
教科書の目標レベル設定は、CEFR B2。記事執筆当時の現在は、3年生でCEFR C1レベル設定の教科書を採択している。課題意識、導入の経緯
国際科では、例年自主教材で指導していたが、今回は前年とは違った教材を使いたかった。ただし、一から教材を作成する時間もなかったため、軸となる資料が欲しかった。CambridgeなどのB2レベルの教材をいくつか検討した結果、本教材を選ぶに至った。
本教材を導入した理由のひとつとして、科学的なテーマも扱っているというのがある。国際科には、英語の学習に頑張っている分、理科や数学などに時間を使えずサイエンスに弱い生徒が多い。
数字やグラフに苦手意識を持ち、論理過程を導き出せない傾向にある。科学的な要素が入っている教材を使用すれば、英語を学びながらロジカルな思考も身に付くのではないかという期待があった。
実際の使い方
「English Understanding・英語理解」の授業で使用した。授業は基本的にオールイングリッシュで行っている。
教科書の内容に従って進めながら、テーマについて抽象的に考えてほしいという気持ちもあったため、Big Questionを設定して、生徒に答えを出させるという方法をとった。
教科書の本文から得た情報を各自がノートにまとめ、それぞれの考察を経て答えを出す。授業の最後に答えを発表させることもあった。
例えばUnit2は”Sleep Matters”というテーマになっている。このUnitではBig Questionを「How do we live a better life?/どのようにしたらよりよい人生を送れるようになるか?」に設定した。テンプレートと生徒のサンプルを添付している。
Time Lapseの映像に関するテーマでは、「トンボの羽を超スローモーションで撮影した映像からドローンが作られた」などの内容から、「Time Lapseが人間に与える影響とは」というBig Questionを設定した。Time Lapseについての解釈を「科学の力」という広い意味に拡大し、「自然の恩恵を受けていることを知り、より良い人間になる」ことがBig Questionのテーマだと気付けるように誘導した。
グローバルリーダーを育てたいという目標もあったため、「ロータスリーフが水をはじく仕組みをどう生かせるか」などバイオミミクリーに関する話もして、人間と自然との関わりについても考えてもらった。これは近年話題のSDGsをテーマとした授業となっている。
工夫したポイント
生徒が考察するためのノートは、自律型学習者を育てる「教えない授業」を実践している山本崇雄先生の「魔法のノート」を参考にしてひな形を作成した。
「Essential Question」「Summary of the textbook」「Data from your Research」「Consolidation」「Result」「Future Study(Research)」の6つの項目を作り、A3のプリントにして生徒に配った。
実施した結果
ここでは実施した結果として、Unit2の生徒のSampleを表示する。
睡眠の重要性を問うUnitに対して、ひとつ抽象度を上げて「人生の質」を考えてもらうようにした。シートを埋めるにあたり、授業を進める中でテキストの内容を整理するだけでなく、自分の観点に合う外部資料も調査し、自分なりの展開を述べる設計となっている。
このUnitでは参考資料を私が作成して、その中でBig Questionを考えやすくするよう、テキストの内容を個人レベル、人間関係レベル、社会構造レベルの3つに整理するよう促した。それに対して、サンプルの学生は文化、ビジネス、教育という独自の視点で整理を試みた。この作業の目的は抽象的に考えることであるので、その観点から高く評価をした。
全体の結果としては、Big Questionに対する答えを出すのが難しかったようだ。何をしてよいかわからない生徒には、「気付いたことを書けばよい」と伝えた。基本的には授業でやったことをたどればテーマに関する周辺の要素はわかると考え、考察のきっかけとなるようなヒントを出すことはなかった。ただし、モチベーションが切れそうな生徒に対してはサポートをした。
生徒は、楽しんで授業に取り組んでいたようだ。「やらされている」という感覚はなく、「おもしろい」「この授業が一番好き」という声も多かった。
オールイングリッシュの授業に関しては、生徒同士で質問し合うときは日本語を使ってもOKとしていたが、英語で相談し合っている生徒もいた。また、教員が「Why did you think so?」 と投げかければ英語で返してきていた。
授業を通じて、自分で問題意識を持ち解決するというスタンスが身に付いたのではないかと思う。大学受験の志望理由にもそのスタンスが反映されている。例えば、「日本の異文化理解を進めたい」「貧困の子どもを救いたい」など、学びの目的を明確に持っている生徒が多い。
Big Questionに対する考察を通じ、目の前の課題だけでなく、より大きな幸せを手に入れるための方法を考える力が身に付いていればうれしい。
個人的な振り返りとしては、生徒がもっと意見を出せる場をつくれていれば、さらにダイナミックな授業になったのではないかと思う。
今後に向けて
来年度以降は、ゴールを見据えた指導をしていきたい。本校では「英語による探究学習」を教育目標のひとつとしている。一般的にもますます「探究」が重要なキーワードになってくるだろう。高校3年間の学びは単なる通過点ではあるが、その間に自分の課題を見つけ、課題を解決するための学びであることを伝えていきたい。
また、本校では外部の専門機関と連携した研究も行っている。そのひとつとして、一般社団法人麻布教育研究所のシニアアドバイザーを招き、2年間授業研究会を行ってきた。研究を通して得た専門家の意見も、授業に生かしていきたい。
授業は「生き物」なので、必ずうまくいくというメソッドはない。生徒の反応を観察し、臨機応変に対応することが必要だ。ただ机を並べて授業を受けさせるだけでなく、わからないことがあれば生徒同士が相談できる環境をつくったり、グループで話す場を増やしたりしていきたい。そのためにもBig Questionを与えるという方法は効果的だと考えている。
知識のIntakeだけならYouTubeなどの動画でも可能になったなかで、学校教育も過渡期を迎えていると思う。学校は、知識を得るだけでなく、価値観を共有できる場でもある。多くの学校で、従来のような一斉指導から脱却した授業が活性化していってほしいと思う。
- 竹中 淳
- 神戸市立葺合高等学校
プロフィール
神戸市立葺合高等学校の卒業生。在学中は、陸上部に所属して汗を流す。神戸市外国語大学を卒業。米国若手教員派遣事業に選抜され、参加。神戸市立須磨翔風高等学校を経て、2019年に神戸市立葺合高等学校に着任。自分の出身校で教えるのに加え、所属していた陸上部の顧問も担当…