中等部設立の挑戦 東京農業大学第二高等学校
最終更新日:2024年4月24日
2023年に開校した東京農業大学第二高等学校 中等部。本校には、教師としては異色の経歴を持つ河野和幸先生がいらっしゃいます。先生は経済学部を卒業し一般企業で営業職に就いたのち、通信教育にて教職員免許を取得、その後アメリカ留学をして大学院を卒業しています。今回は、「開拓と創造の精神を持った若者を育てたい」という河野先生の授業法や今後の展望などを伺いました。
開拓と創造の精神を持った若者を育てたい
———河野先生が現任校に来られた経緯を教えてください
(河野)本校中等部は2023年に開校しました。私は2022年の開校準備段階より学校づくりに携わっています。以前教えていたのは公立高校だったのですが、3年間で行う英語教育に限界を感じていました。というのも、高校の授業は大学受験に向けて忙しく、学習すべき文法や内容を終えることに追われ、日本語での文法説明や構造分析の授業が多くなりがちだったからです。その中で、もっと生徒に英語を使わせたい、使えるようにさせたい、世界で戦えるように英語で内容を理解させたり、議論させるようなディベートやディスカッションの授業を取り入れたい、さらには自分が調べた内容を英語で発表させる時間をもっと取りたいと思っていました。
その後、他の学校に行き、グローバル教育、英語教育、探究活動まで主導した結果、やはり世界で活躍できる人材を育てたいという気持ちが強くなっていきました。そんなとき、本校の校長より「中高一貫の6年間でグローバル教育、英語教育、探究活動まで行う学校づくりに協力してほしい」と声掛けいただき、参加させてもらうことに決めました。
———目指される生徒像を教えてください
(河野)開拓と創造の精神を持った若者を育てたいです。世界の問題に対して自分で課題を見つけ、それに対して他人と協力しながら解決していくような人間に育ってほしいですね。そのために必要な英語力やコンピテンシーをつける教育を目指しています。
自分の考えや経験を英語で話せるようになるのが英語学習の醍醐味
———先生の授業ではどのようなことを行っているのでしょうか
(河野)CEEL(Communicative Enriching English Learning)と銘打って、インプットとアウトプットの機会をより多く取り入れています。具体的には、週5回の通常の英語クラスに加え、外国人講師との日常英会話を行う授業があります。1クラスに5人の外国人講師に来てもらい、6人から8人の生徒のグループに対して1人の講師をつけて行うのです。また、オンライン英会話も1年で60回受けてもらいます。そのため、他の学校に比べると、英語に触れる機会は圧倒的に多いですね。
また、リーディングの授業はオールイングリッシュでCLILの手法をとっています。教科書の各レッスンのリーディングパートの英文は中一なので英文の量や内容が限られています。そのため、その英文の背景にある考えや心の動きを推測してもらったりしています。内容と言語を統合したような、オールイングリッシュで思考を深めていくような形ですね。英語学習の醍醐味は、自分で考えたことや自分が経験したことを英語にして話せるようになることです。難しい内容ですが、生徒は一生懸命ついてこようとしてくれて、すごいなと思っています。
こまめなチェックとフォローアップ
———高度な授業で、ついてこられない生徒さんはいらっしゃらないのでしょうか
(河野)もちろんいますが、そのような生徒にはフォローアップを実施しています。具体的には、週1回の単元テストで85%以上取れなかった生徒に対する再テストの実施です。85%は高い基準設定なので、8~9割の生徒たちが再テストを受けることになりますが、その結果ほとんどの生徒はきちんと学び直し、できるようになるのです。それでもできなかった場合は、また翌週呼んで細かく解説をしていく手法をとっています。
———3週にわたってのフォローアップは手厚いですね
(河野)それは私の経験からこまめなチェックとフォローアップが必要だと学んだからです。前任校でも同じ教科書を使っていたのですが、学力差がすごく出てしまって。当時私は英語科の取りまとめを行っていて長期的なビジョンやレッスンプランは作っていたのですが、実際にテストを作ったり丸つけをするのは別の教員でした。そのため、生徒たちが何ができて何ができていないのか正直わかっていませんでした。
しかし、本校に来て自分ですべて教えるようになって初めて、チェックとフォローアップの重要さに気づきました。単元テストなどで理解度をこまめにチェックした上でのフォローアップが、ついてこられない生徒を作らない方法だと痛感しこのような体制をとっています。
英語嫌いにしないことが大事
———そのような授業をされてきて、実感した成果はありますか
(河野)一番は生徒が生き生きと自主性を持って英語学習に取り組んでくれている点です。先日、モデルランゲージスタジオ※に学校に来てもらい、2日間かけて英語劇をみんなで作り親御さんの前で発表しました。「どうすれば劇が良くなるか」や、「与えられたセリフをただ言うのではなく、今立たされている状況を考えてどのような感情を込めて言えばいいか」ということを自分たちで主体的に考えて劇を作り上げていったんですね。 生徒が積極的に参加し、本当に楽しそうにやっている姿を見て感動しました。
(※編集部注・・・会話のレッスンにドラマ(演劇)の要素を取り入れ、さまざまなシチュエーション(状況)を英語で経験し、「自分ならどうするか」を考え、感じて、英語で表現する指導を行う英会話教室)
また、テストで結果を出せている点は定量的な成果ですね。ベネッセが実施している総合学力調査での4月時点の学力層の結果は、CやD※が大勢いる状況でした。しかし、9月に受けた第二回調査では、C層以降の生徒数が1桁台に減っていました。
(※編集部注・・・児童生徒の学力を自治体内で上位から25%ごとにわけている。上からA層、B層、C層、D層。)
———高度な授業や手厚いフォローアップをして成果も出されている中で、何か気づきはありましたか
(河野)やはり英語嫌いにしないことが大事だと実感しました。嫌いになってしまうと、結局勉強しなくなってしまいますし、苦痛な英語教育を受けさせていることがこちらとしても辛い。英語嫌いにさせないためには、モチベーションを高めていかなくてはいけないと感じます。モチベーションを高めるためには、興味関心を持ち自分もやりたいと思えることが大事ですよね。子どもの心理でそう思えるのは、「謎解き」と「競争性」だと私は思っています。たとえば、リーディングの文章を読むことで謎が解けるのであれば読みたいとなるはずです。競争性で言うと、あの子より点数をとりたい、いい発表をしたいと思うことです。この謎解きと競争性のあるものを授業に折り込んでいくことで、モチベーションは上がると思っています。
「英語で話す」よりも「何を話すか」が重要
———今後の展望を教えてください
(河野)今の段階では英語という言語自体を学んでいる部分が大きいですが、学年が上がるにつれ、英語を通じてさまざまなトピックを学ぶようになります。海外の人とも、英語はコミュニケーションツールとして自分たちが探究した内容を発表し意見交換する場で使ってほしいです。英語を話すことがメインではなく、どのように内容を英語で深めるかという内容と言語の両方を重視したCLILの授業をさらに展開していきたいです。今はAIなどで英訳もすぐにできるので、ただ単純に英語を話せたり正確な英語を使えることよりも、何をどのように伝えるかが重要になってくると思います。しかし、それまでには基礎である言語知識がないと表現できる幅も少なくなってくるので、基礎力はしっかりつけさせたいですね。その上で教科横断の学習を取り入れながら、、リベラル・アーツ※的な発想で教育をしていきたいと思っています。
(※編集部注・・・リベラル・アーツとは、人文学・芸術・自然科学・社会科学などの分野の基礎知識を横断的に学ぶプログラムのこと。)
取材・構成:小泉純/記事作成:大久保さやか