「英語が読めない」の正体とは?文章を読む力が変わる推論発問の実践方法

最終更新日:2024年9月2日

英文読解において、文1つ1つは訳せているのに文章の主旨を理解できていない生徒が多い。そう感じている先生方は多いのではないでしょうか。

英文が「読めない」の正体は何なのか、どうすれば生徒たちが英文を読み解けるようになるのか、海城中学高等学校の渡邊聡大先生にお話を伺いました。

渡邊先生は、英文を「読む」ための方策として「推論発問」を授業に取り入れられています。推論発問の作成や、実践するためのポイントなど、ぜひ参考にしてください。

英語の長文が読めない理由とは?

――英語の長文が読めないのはなぜでしょうか。

「読めない」というのは、たとえ1つ1つの文を文法的に理解できたとしても、文章全体の主旨を把握できない状態だと考えています。なぜなら、単文の和訳はできても、3文、4文と複数になると文全体の言っていることを理解できなくなることがあるからです。

したがって、文単位で解釈させる授業方法を行い続けていても、いわゆる「読む」力は育たないと考えています。「読める」ようになるには、文と文のつながりを理解する必要があります。そのためには、さまざまな工夫を凝らし、文章の論理に生徒の目を向けさせながら読ませることが重要だと思います。

――論理的なつながりに気付かせる指導はどうすればよいのでしょうか?

たとえば、ある文のまとまりがA・B・Cという3つの文で構成されており、AとBには明確な論理的なつながりがあるけれど、BとCをつなげるには行間を埋める必要があるとします。この場合、BとCの行間を答えとする発問を作ることが大切です。発問に答えるには、英文には書かれていない読み手の背景知識が必要になります。そのような発問を推論発問と呼びます。

英文が読めるようになるには「推論発問」をしていくことが重要!

――行間が読めない生徒は多いようです。どのような理由があると思いますか?

単純に、適切な訓練を行っていないからだと思います。答えがあらかじめ見えている発問をしてもやりとりとしては成り立ちます。しかし、英文の主旨を真に理解する、つまり「読める」ようになるという観点では、それだけでは不十分であると考えています。本文の中から答えを探し出す、ある意味、機械的で反復作業のような発問ではなく、文章の内容を深く考えさせる「推論発問」を少しでも扱うことが重要だと思います。

――「推論発問」の特徴を教えてください。

推論発問とは、簡単に言うと文と文の間に存在する行間について問う発問のことです。本文の中の英文や単語を拾い出して答えられるものではなく、文章の行間を読まなければ答えが出ない問いかけです。さらに、文章に書かれている事実に自分の知識を組み合わせて導き出されるものなので、基本的に答えが1つに決まるものです。

ですから、ストーリーの登場人物の心情を自由に想像することは、推論発問にはなりえません。なぜなら、それでは単なる想像を述べるだけになってしまうからです。根拠となる文が存在し、皆の答えが1つの方向に決まることが推論発問ではポイントになります。残念ながら、検定教科書の中で提示されている発問には、推論発問がほぼ入っていないのが現状です。しかし、我々教員側がもう少し推論を意識して発問することで、生徒たちも徐々に深い質問に答えられるようになると思います。

――推論発問の例を教えてください。

中2用検定教科書のReadingパートで扱われた、手塚治虫氏の幼少期のエピソードに関する文章を題材にご説明します。

“Tezuka’s father liked comics a lot. There was a big manga collection in their house. Tezuka often drew comics at school as well as at home. His mother didn’t stop him. She knew that he had a talent for drawing. His teacher praised him. Tezuka’s comics were very popular among his classmates.”

上記の文章では、 “His mother didn’t stop him.”という1文をきっかけに、2つの推論発問が作成できると考えられます。“ Tezuka often drew comics at school as well as at home.”という文と、 “His mother didn’t stop him.”の間の行間を考えさせる問いです。

まず1つ目は、「当時はまだ漫画がそれほど褒められる趣味ではなかったことがわかる1文を書き出しなさい」という発問です。答えは“His mother didn’t stop him.”です。あえて止めないと書くということは、普通なら止めることを含意するのです。こちらは私が2023年7月の『英語教育』に寄稿した「発問こそが読解の鍵」という記事での実践例です。

もう1つが「母親がどのような気持ちだったと思いますか」も考えられます。“His mother didn’t stop him.”から「この子は絶対に立派な絵描きになるはずだ」や、「時代的には褒められるべきことではないけれど、好きなだけやらせたい」など、手塚氏の母親の気持ちを根拠を持って推論できるからです。この発問は、前述の通り、根拠の文があり、答えが決まるので推論発問として機能しています。

このように、本文の英語に当時の歴史的な背景に関する知識、つまり以前は今よりも漫画の社会的評価は低かったという知識を組みわせることで、文章の「行間」を読み取り、英文への深い理解を引き出すのが推論発問です。

――英語を読めるようになるためには、推論発問を使用した訓練が必要なのですね。

そうですね。基本的に高校ではリーディングの授業で行いますが、まず生徒が推論発問に慣れる必要があります。先に述べたように推論は、自分の知識と英文の内容をつなげて答えを導き出す作業です。その過程で必ず英文に立ち戻る、つまり何度も読み込む必要があり、そこがリーディングの授業で推論発問を行う意義にもなると思います。本文に答えの根拠が存在することが、やはり大切なのです。

今はもう、人間が英語から日本語への翻訳作業を行う必要のない時代にさしかかっています。生徒にとっても、単純に和訳だけを行う授業は違和感があるでしょう。これからは従来型ではない授業づくりが必要になります。その際、推論発問が非常に大切になると考えています。

推論発問は訳読にも有機的につながる。校種・学年を問わず使用可能。

―― 実際に授業の中ではどのように推論発問をされているのでしょうか。

口頭で行うことも、発問が書かれた紙に答えさせることもあります。使用言語は、英語・日本語、その都度適した方を使います。中学生の教科書には行間を読む余地のない文章が多く、発問を考えるのは難しいのですが、それでも1レッスンで少なくとも1~2問程度は作るようにしています。

高校では文章が長くなり、抽象度が上がってくるので推論発問が活躍します。推論発問作成にあたっては、「文章の構造を捉える」ことがポイントになります。たとえば、A・B・C・Dという4つの文で構成されている文章で発問を作成する場合、どの文がその発問への解答を導く論拠となるのかを決める必要があります。

その発問でさらに大切なのは、文章の主旨をつかむための発問になっていることです。そのような発問に答えるのに、A・B・C・Dの中でAとBが論拠なら、仮にCとDの意味が完全にはわからなくても推論は可能です。よって、CとDの文を理解するための訳読は、文章の主旨理解には不要であるとも言えるのです。反対に、発問に答えるための論拠となる文章の理解は不可欠です。

上の例でいうと、AとBが理解できなければ推論は導き出せません。正確に意味を理解するためには、知らない単語があれば意味を調べる必要がありますし、ときには日本語に訳すべき文も出てくるのです。ここに訳読の重要性があります。訳すこと=悪とはならないということですね。

こうしたことから、推論発問は訳読とも有機的につながっていると言えますし、この点こそが推論発問の優れた特徴だと考えています。

――推論発問にはメタ的な視点や一定の学力が必要とされるイメージがあります。

たしかに、文章の構造を深く考えさせるには高次のメタ的な視点が必要になりますし、メタ的な視点は学力や元々持っている知識によって左右されます。しかし、学力があまり高くないからといって推論発問に答えることができないというわけではありません。

たとえば、「この車に2リットルのガソリンを入れたら30キロ走りました」という英文があったとします。ここで「燃費はどのくらいですか」と聞くのも推論発問の一種です。生徒は、文章中の情報と、計算という知識を組み合わせて燃費はリッター15キロという答えを導き出せるでしょう。併せて、前述した「口頭で聞くのか」「英語で聞くのか」などで難易度の調整はさらに可能です。

生徒の力に応じた発問を考えて作れば、どんな学校・学年でも実践可能なのです。もっと言えば、「読める」学生を増やすのが英語教師の仕事だとすれば、どんな生徒にも問うべきなのです。

教員自身が優れた読み手になる意識を持つことから始めよう。

――推論発問の評価はどのように行っていますか?

評価の対象となるのは、授業中に行った口頭による解答内容、定期考査、授業中に行うワークシートです。考査問題では、推論発問を違う英文で問うことも容易にできます。

そういう場合は、生徒が新しく目にする英文を使用しています。生徒の理解度を測るには、すでに読み込んだ文章を使っても意味がないからです。また、推論を提示して、その根拠となる文を1つ選ばせる形なども、簡単に推論の評価が可能な例だと思います。

――推論発問に取り組んでからの、生徒さんの変化を教えてください。

本文中に根拠が書かれていると理解できてくるので、推論発問にも臆さずに解答できるようになったと思います。また、解答に至った論拠をきちんと言えるようになったのも、良い変化と言えるのではないでしょうか。

――これから授業で推論発問を実践したい先生に対して、取り組む際のアドバイスをお願いします。

授業に取り入れる上で最も大切なのは、当然ですが教員自身が推論発問の存在を意識することです。教科書に載っている発問を選択して使うのもよいですが、そこには多くの場合、推論発問は存在しないので、1つでも推論発問を作る心がけが非常に重要です。

適切な発問の作成には教師の読む力が必要なので、教員の読み手としてのレベルが試される取り組みとも言えます。とはいえ、まずやってみようと思うことが大切なので、次の教材研究の際に1つでも作ってみてはいかがでしょうか。

 

取材・構成:松山まりな/編集:小林慧子/記事作成:白根理恵

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

国際教育の「今」と「これから」の情報が満載。 教育現場で役立つコンテンツを発信していきます。

英語教材を探す

  • Repeatalk 詳しくはこちら
  • Twitter
  • Facebook

お知らせ

レビュー募集

国際教育ナビでは、教材レビューを投稿したい方を募集しています。お気軽にお申し込みください。編集部員よりオンライン取材させていただきます。