現代社会が求めるスキル習得に絶好!CLIL×TBLT型探究授業実践と入試対策を両立する授業デザイン

最終更新日:2024年8月6日

「CLIL」「TBLT」「5ラウンド」――― どれも従来型授業の課題改善が期待される話題の教育手法ですが、導入校はまだ限定的です。「教材変更は難しい」「文法習得や入試対策との両立が懸念」などのお声も聞こえてきます。

そこで今回ご紹介するのは、検定教科書を5ラウンド形式で用いた、CLIL × TBLT型探究授業です。

実践されている純真高等学校の岡田先生は、元経営者という異色の経歴の持ち主。大手予備校講師のご経験もあり、模擬試験の作問や学習参考書の出版も含めて長年大学入試指導をされてきた先生は、文法指導や入試対策との両立をどのようにデザインされているのでしょうか。また、特殊なご経歴から抱かれた教育理念についてもお話を伺いました。

現在社会が要請しているスキル全てを習得するのに絶好の教授法

――先生はなぜ、CLILのような新たな教授法を実践されているのですか?

(岡田)元々教員に転向したのが、社会にいる若者たちに危機感をおぼえたからでした。英語スクールや出版社の経営をしていた際、業務スキルはあるのに自分で考えて動けない指示待ちにおちいってしまう若手が多かったのです。そこで自らアクションを起こせる人材を育てなければという課題意識がありました。

VUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の時代の中で、実社会では未知の問題に遭遇することがほとんどです。経営者として会社を管理している時に特にそう感じました。従来のパターンに当てはめてもうまくいくとは限りません。ですから学校教育では、実社会を想定し、物事に自分で問いを立てられる人材を育成することが必要です。

課題への対策として、CLILは「協働スキル」「思考力」「多様な価値観の受け入れ」など現在の社会が要請しているスキル全てを習得するのに絶好の教授法だと感じています。また、TBLTもかけ合わせたこの教授法でなら、英語が得意ではない生徒も授業に参加し、グループ/ペア活動が活発にできている点も理由の1つです。

 

CLIL × TBLT型探究授業、5ラウンドとは?

――これからの時代を担う人材に必要な力を育成できるのですね!教授法や先生の実践の概要を伺えますか?

(岡田)CLIL(Content and Language Integrated Learning)とは、「内容言語統合型学習」という教授法の1つです。協働学習や探求要素を使って、英語でその他の教科を学んだり、英語でそのトピックやその概念を深堀りしていきます


(CLILの基本)

私が実践しているCLILは、Soft & Light CLIL です。教科横断的ではなく、授業丸々全てに適用するわけでもないため、本格的なCLILよりは取り入れるハードルが低いでしょう。

「英語コミュニケーション」の授業で、検定教科書『BLUE MARBLE』を主にして実践しています。そのため基本的な着地点として、CLILの「問いを立てる」考え方を、教科書に答えの例が載っている、のように連動させます。でも答えはさまざまあることを常々言うようにしていますね。

TBLT(Task-Based Language Teaching)は、言語学習を実際のタスク(課題)を通じて行う教授法です。1目的 2場面 3状況、の3点を、真実性(authenticty)のある『実社会に遭遇しそうな』内容にして、当事者意識をもたせられるような具体的な課題を設定します。

 

――主体的に学べて、英語の実践力が伸びそうですね!教科書のどのトピックでCLIL × TBLT型探究授業を実施するかは、どのように判断されるのですか?

(岡田)掘り下げられそうな抽象的な概念があるかどうか、実際に実社会で遭遇できそうな場面や状況設定と絡められるかどうか、を判断材料にしています。

 

――5ラウンドとはどのようにかけ合わせるのですか?

(岡田)まず「5ラウンド」とは、教科書を1年間に4~5回繰り返し学習することで内容の定着を図る手法です。各ラウンド異なる方法で学習することで、理解も深まります。1→2→3周目と回を重ねていくうちに、細かく深く学び進めます。

私の授業では、前半の浅いところで、CLIL × TBLTを取り入れることが多いです。そうすることで、教科書を深く読む前に様々な疑問点が生じてくるため、教科書に取り組むことに対する内発的動機づけが高まります。3周目くらいになると、小テストの結果などで生徒たちが知りたかったり、つまずいている文法項目は限定されてきます。文法学習は、こうして炙り出した部分を日本語で解説するかたちで実施します。意味順ボックスの考え方を導入しているため、文法用語はほとんど使いません。ですから、文法解説さえも英語ですることが多いのですが、特に苦手意識の強い部分は日本語を併用した方が理解度が格段に高まっている実感があります。

 

――実践後、生徒さんに変化はございましたか?

(岡田)昨年度は高2の特進クラス20名弱に、今年度は高1の特進・進学合同クラス50名に実践しています。変化としては、発話量が増えたことで速読力が上がり、昨年度は平均WPMが半年で1.4倍になりました。今年度は3か月で1.25倍となっています。英検2級合格率と英検申込率が2倍になり、グループワークやペアワークへの参加も積極的になってきました。

生徒ごとの3か月での伸び率

 

CLIL × TBLT型探究授業の実践例

――授業に落とし込んだ具体的な実践事例を教えていただけますか?

(岡田)はい。まず私の授業の共通事項として、授業の最初に2~4人1組で机を繋げます。基本的にペアかグループ活動で進めるためです。その際「ロイロノート」という学習支援アプリの「共有ノート」でよく作業をしてもらいます。「共有ノート」では、生徒皆が同時に同じ画面を見ながら各自のデバイスで入力できます。授業は、基本的にAll Englishです。

CLIL × TBLT型探究授業は、グループ活動をしながら以下のように進めます。生徒が脱線しないよう脱調べ学習を掲げていて、関連資料は私が事前に探して準備します。

例えば、triggerに関するレッスンに入る前の実践例をご紹介します。

この授業展開で、Lesson全体をリスニングまたは情報検索読みをするため、ラウンド1が終了します。このラウンド1からリテリングをする場合もあります。

*なお、このレッスンの前に、教室の前に入口ではなく出口側への誘導を促す矢印を教室の前に貼り付けていました。
*1回のレッスンの展開は次の通りです(私のロイロノート)

こうした手法により、生徒は自分の身近な問題と世界の問題を関連付け、実践的な解決策を見出せます。また、当事者意識を持つことで学習内容がより身近で重要なものとして理解されることも狙いです。

 

文法習得や入試対策との両立

――文法は5ラウンドとかけ合わせることで対象を絞った解説ができるとのことでしたが、解説すべき文法項目が多過ぎる状況にはなりませんか?

(岡田)なりがちなので、他にも以下のような対策をしています。

1.教科書に準拠。対象が絞られるので、それを中心にします。
2.論理表現の授業とリンク。順番を完全連動させ、同時期に同じ文法表現を扱う仕組みにして、両授業で補い合います。
3.反転学習。本校はDXを推進しており、授業の前か後に日本語による細かい文法解説動画を見て理解してもらいます。

 

――先生は大学入試の表も裏もお詳しそうです。現在はどのような入試対策をされていますか?

(岡田)CLILの考えを使った探究型英語授業がそのまま大学入試に直結するように、授業デザインを工夫しています。探究型授業を実践するか迷われる先生方の一番の不安は、コミュニカティブな授業をしていて受験に対応できるか、に尽きるのではないでしょうか。

そこで、概念理解の活動をする際には、実践例でお示している通り、「複数資料」をたたみかけるように提示し、相違点や共通点の「比較分析」をしてもらっています。そうすることで、共通テストにも対応でき、さらには社会に出てからも、多様な視点で物事を分析し、自らの力で問題解決ができると考えています。

目指していることは、CLILを使った活動型の授業を真剣に受けていたら、気付いたら東大に行けるだけの学力がついていた。これが私の目指す授業像の1つです。

実践してみての印象として、CLILは大学入試指導との親和性が非常に高い、と実感しています

 

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(横浜女学院中学校 高等学校
鯉渕先生のCLIL)

・「英語の実用を見据えて – 相手意識を促しコミュニケーション力を高める授業の実践
(筑波大学附属中学校 高杉先生のTBLT)

取材:小林 慧子/構成・記事作成:松本 亜紀

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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