遊びの中に学びを。進化を止めない原動力とは

最終更新日:2024年9月21日

圧倒的に公立中学校が多い新潟県。そんな同県で、わずか3校しかない私立中学校のひとつが新潟第一中学校・高等学校です。

中高一貫教育39年の実績を誇る同校で英語の教鞭をとる金子 祐太郎先生は、「人生の充実度を上げるひとつが英語学習であってほしい」と言います。

英語を担当する以外にも、校内のICT推進や他校との勉強会を主催し、精力的な活動をされています。

そこで今回は、生徒が楽しいと思える英語学習とは何か、教育者として学びや探究、進化を止めない原動力をうかがいました。

生徒も教員もハッピーになれるのがICT活用

———先生のご経歴と現在の担当を教えてください

(金子)大学院を卒業後すぐに本校に赴任し、現在10年目を迎えました。中学3年生の担任をしており、同学年の英語と英会話の授業を受け持っています。ほかには、ICT教育研修係といった、学校全体のICT施策の取りまとめを行っています。

———新潟県内では数少ない私立校で教えられる魅力を教えてください

(金子)一番は、中高一貫校である点です。12歳から18歳までの、成長が著しく大事な進路選択をする時期に共に過ごし見届けられるのは魅力的でやりがいもあります。

また、中学の授業に高校の授業のエッセンスを組み込めたり、高校入学後は同じセオリーをベースにした中学時代の基礎があったり、授業も非常にやりやすいです。

———ICT教育研修係では、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか

(金子)本校で導入しているMetaMoJi社のMetamoji ClassRoomの取りまとめなどです。コロナ禍でオンライン授業の実施を余儀なくされた際、学びを止めないためのツールをたくさん試し、たどり着いたのがMetamoji ClassRoomでした。

Metamoji ClassRoomは、生徒が問題を解いている様子をリアルタイムで見られたり、教員や生徒が同じドキュメントに同時に書き込んだりできます。オンラインながらも対面で授業を行っているような場を生み出せると思い導入を提案しました

現在は対面の授業に戻っていますが、引き続き使用しています。クラスメイトが作業している様子も見られるので、他者の考えから影響を受けるのも良い点です。たとえば、英作文を書く際、アイディアがなかなか出ない生徒もいます。そんなとき、クラスメイトが書いている内容を見て自分もひらめき、書き出せる生徒もいるんですよ。

教壇からは静かに授業を受けているように見えますが、生徒たちはICTの世界の中で歩き回っているのです。

    

———金子先生はApple Teacherの資格も取得するなどICTを積極的に活用されていますよね。その理由を教えてください

(金子)生徒も教員もハッピーになれると思っているからです。たとえば、過去問を生徒に配布するにも、紙であれば印刷して折って、手渡しで配るなどの作業が発生していました。ICTを使えばPDFを配信するだけです。また、生徒は課題をわざわざ手渡しで提出する必要もなく、何事もスピーディに対応できます。

また、教員が学び続ける姿を生徒に見せられるのも理由のひとつです。ICTは日々アップデートされていきます。その変化に対応するために、私たち教員も日々考えをアップデートし、変わり続けていく必要があります。その姿を生徒に見せることで、新しいものに抵抗感がなくなったり、私の大切にしている「変化は進化」を感じ取ったりしてほしいのです。

「遊びの中に学びを」の授業で生徒の成績アップ

———授業を行う上でのモットーや目標は何ですか

(金子)モットーは「遊びの中に学びを」です。何事もそうですが、楽しそう、おもしろそうと思えるともっと知ろうとする意欲が湧いてきますよね。私の英語の授業も生徒たちにそう思ってほしいのです。SNSの短い動画などにも代表されるように、最初の3秒に魂を込めないと、こちらを向いてくれません。生徒に興味を持ってもらえるよう、3秒で振り向いてくれる内容を日々試行錯誤しています。

目標は、中学もしくは高校を卒業するときに、生徒にとって英語学習が趣味レベルになっている状態にすることです。いわゆる「推し」がいたり、やっていて楽しいと思うことが1つあるだけで、人生の充実度は違うと思うのです。そのための楽しいことのひとつが、英語学習であってほしい。そんな想いから、「英語ってこんなに楽しいんだ!」と思える要素を必ずどこかに入れたいと思っています。

———授業では具体的にどのように実現しているのですか

(金子)授業開始を知らせるチャイムとともにスタートする「チャイム音読チャレンジ」を実施しています。音読するのは中2の教科書なので、中3の生徒たちにとってはサクサク読め、楽しく自信がつく取り組みです。

音読が終わったら、英語の歌を歌います。生徒に歌いたい曲のアンケートを取ることも。最近習った文法が必ず1つは入っている歌を選曲しています。気づいたら口ずさめるようになり自然と学べているのが理想ですね。

また、英語学習は自分たちの日常にあてはめて自分事化できると、身につく速度も速いと思っています。そのため、教科書の本文や題材を生徒のリアルな生活場面に置き換え、演じてもらうことも。ライティングのパフォーマンステストでも、ALT協力のもと作成した「最近日本に来たから、クールな日本語を教えて」と話している動画を撮って生徒に見せます。実際に動画を見ることで問いを現実的なものと受け止め、生徒のやる気が出ると感じるからです。

———授業の成果はいかがでしょうか

(金子)数値として実際に成果を感じています。中学1年時のNRT(標準学力検査)受験結果が偏差値55.2だったのに対し、中学3年時には57.3にまで上がりました。また、中には中学卒業時に英検準1級に合格する生徒もいます。

「教員の自己研鑽」と「結婚」は同義

———教鞭をとる以外にもGMCという団体を立ち上げ活動されていますが、どのようなものですか?

(金子)より良い教育実践を求めて、月に1回公立・私立関係なく教員同士が集まり情報共有を行う場を設けています。たとえばあるとき、テストの設問やワークシートの構成などを見せ合い、お互いに良いところは自分のものにしたり。またある時は、2021年に導入された新学習指導要領に沿った評価方法について議論し合ったり。若い先生に来てもらったときは、中堅に片足を突っ込みつつある我々が若手ならではの悩みに答えたりもしています。

夏と冬には、大きな大会を開催していて、先生方に教育メソッドや授業法などをご紹介いただいています。多いときは150名ほどの参加者が集うんですよ。

発起人である私を含めた教員4人で立ち上げの話をした際に、中華屋さんで全員が五目チャーハン(GMC)を頼んだのがきっかけでこのネーミングになりました(笑)。

———なぜこのような活動をはじめられたのですか

(金子)純粋に学びの場を広げたいと思ったからです。教員のためのさまざまなセミナーや研修はあるものの、自分1人で考えて自分1人で実践しなくてはならず、客観視できないと実感していました。さまざまな人といろいろな意見を交わしながら実践につなげる学びの場を広げたいと思い立ったのです。

———授業を工夫したり、教員の学びの場を設けたりと、先生の精力的な活動のモチベーションはどこから生まれるのですか

(金子)最近いろいろな人に同じ質問をされて自分でもよく考えてみたのですが、やはり純粋に英語の授業が好きなのです。生徒が「英語っておもしろい」と思える瞬間を作り、英語を理解できるようになっていく姿を見たり、その結果が数字として現れたりすることがこの上ないやりがいです。

しかし、ただ単に授業内容がおもしろく知的好奇心を満たすだけでは生徒たちは授業が楽しいと感じないと思うのです。おもしろい授業内容にプラスして、習ったことを理解し成果が出て「できた!」という達成感を味わうことで、「英語学習って楽しい!もっと知りたい、学びたい!」と思ってもらえると実感しています。教員側からしても、生徒がテストなどで結果を出してできるようになっていく姿に喜びを感じます。

また、私は何事も考えることが好きなのです。そのため、生徒に英語学習が楽しいと思ってもらえるようにはどうすればいいかと頭をひねるためにGMCを立ち上げたというのもありますね。

私のモチベーションの源は「人の役に立つ、誰かのためになること」です。そこから考えると、少し突飛かもしれませんが、私にとっては結婚と教員としての自己研鑽とは同義なのです。たとえば結婚では、妻や子どもなど誰かのためになるならいくらでも頑張れますし、その結果、強くなれます。教員の自己研鑽も同じように、生徒のためだったらいくらでも頑張れます。英語の教員ならばそれなりの英語力や指導力が必要です。そのためにスキルアップをすべく勉強会に参加したり情報収集を行っています。

「まず正そうとするな、わかろうとせよ」の精神で

———生徒のために頑張る先生が、日々心がけていることはありますか

(金子)大学院生のとき、心理学の神様と言われるカール・ロジャーズの「まず正そうとするな、わかろうとせよ」という言葉に感銘を受け、涙したのを今でも鮮明に覚えています。生徒と対峙する際はいつも持っていたい心構えです。

メディアではいつものように、生徒の問題行動や不登校が問題だとして取り沙汰されます。そこでは、「教員と生徒の認識にズレがある」と報道されることも度々です。まさにその通りだと思うのです。問題行動を起こしたり、学校に来られなくなったりするのは、絶対に何か理由があるはず。どうしたのかなと理解しようとする姿勢は常に持っています。

繰り返しにはなりますが、授業も同じで、生徒たちは何に興味があるのだろうと理解することが大切だと思っています。

生徒を「正そう」とせず、「わかろう」とする—このモットーを胸に、これからも生徒たちと接し、英語を教えていきたいです。

取材・構成・記事作成:大久保さやか/編集:小林慧子

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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