文面の奥底に沈む「コアメッセージ」を探究! CLIL授業実践で生徒の知的好奇心と探究心を育むには?

最終更新日:2025年2月3日

教科内容と英語学習を統合した学習指導法であるCLIL(Content and Language Integrated Learning)。教科書本文のコンテンツを学習の中心に据え、思考力、判断力、表現力を高め、主体的な学習を促します。本記事では、CLIL型の授業を実践している早稲田大学本庄高等学院の細 喜朗先生にインタビュー。教科書に明示されていない「コアメッセージ」を生徒と共に掘り起こし、多様なアクティビティを通して探究心を深める授業づくりについて伺いました。ハワイ語やチョコレート産業を題材にした実践例を通して、生徒の「なぜ?」を引き出し、深い学びへと導くCLIL授業の奥深さを探ります。ルーブリック評価や他教科とのコラボレーションなど、具体的な指導法も満載です。

CLILとは?重要な要素「4つのC」

―――CLILを授業に採り入れた経緯をお聞かせいただけますか?

大きな転換点となったのは、2014年頃に池田真先生(日本CLIL教育学会会長)の講義を受講する機会に恵まれたことでした。それ以前からコンテンツを深める要素を授業に取り入れてはいましたが、生徒の反応に手ごたえを感じても、その具体的な理由がわからず、常に手探りで試すような状態でした。

池田先生の講義を通してCLILを知り、言語とコンテンツを統合してフレームワーク化された指導方法に感銘を受けました。「これは私が一番取り組みたかったことだ!」と思ったのです。前任校の校長先生の支援をいただきながら、CLILのフレームワークを活用した授業設計や実施の経験を積むことができました。

現任校ではCLILを存分に活用できる恵まれた環境のもと、他教科の先生とのコラボレーションも実現しています。

―――CLILの魅力はどんなところにあるのでしょうか?

CLILは「Communication(言語)」「Content(内容)」「Community(生徒同士の協同)」「Cognition(思考)」の4Csを統合し、さらには文化も学びましょう、というフレームワークになっています。各要素にチェック項目があるので、授業構成がCLILの型に即しているか、抜けている要素はないかを客観的に確認できるのは授業設計で大きな手助けになります。

一方で、コンテンツを深めるための準備や、生徒からどのような質問が来ても対応できるように、テーマに関連した多数の文献を読み込むなど、授業準備には時間も労力必要です。ただ、多様な知識を得る機会にもなるので、私自身の学びにつながるおもしろさも魅力です。

(図: CLIL基本原理の紹介, 池田 真, 上智大学文学部英文学科准教授, 「新しい英語学習法【教科学習と英語の組み合わせ】―CLIL 方法論と実践」, ブリティッシュ・カウンシル, 2011年8月30日, https://www.britishcouncil.jp/programmes/english-education/japan/report/new-english-study-method )

授業の要は「コアメッセージ」

―――授業の概要をお伺いできますか?

2022年度は、高1の英語コミュニケーションⅠ(習熟度混合クラス、1クラス40~42名)で実施しました。教科書は『Enrich Learning Ⅰ』(東京書籍)を使用しました。教科書全体は10ユニットで構成されていまして、そのうち5つのユニットを授業で取り扱いました。

―――1つのユニットの展開はどのようにされたのでしょうか?

1つのユニットに10~12時間程度かけ、前半の6~7時間はインプット、後半8~13時間目はパフォーマンス活動に重点を置いています。インプットではトピックに関連する情報や、語彙・文法、さらにはパフォーマンス活動のための評価方法(ルーブリック評価表を使用)について説明します。

―――授業設計の要は何でしょうか?

私が最も大切にしているのは、各ユニットの「コアメッセージ」です。文面の奥底に沈んでいる、この文章が本当に伝えたいこと。それを生徒に考えてもらうことを大切にしています。

―――「コアメッセージ」とは具体的にどのようなものなのでしょうか?

『Enrich LearningⅠ』Unit 4における“What can we learn from native Hawaiians?”(テーマ・トピック Identities – Language and identity)を例に説明します。本文はハワイ語の歴史について書かれていますが、その核心となるコアメッセージは「国・言語・文化が相互に関連し合っている」という点だと考えました。

そのメッセージを生徒と浮き彫りにしていくために、本ユニットでのゴール(パフォーマンス活動)を下記2点に設定しました。

①言語・文化・思考の関係性について文献レベルで調査し、実態調査型の問題提起をする。
②実態調査型の問題提起した問題に対して、根拠に基づき結論を述べる。

―――率直に難しそうだと感じました。

そうですね。各ユニットで学ぶ内容を生徒の自分事に近づけ、問いを立て、学ぶ内容を明確化することで、生徒が自主的に学ぶ知的好奇心をふくらませることにつながります。Unit4では言語と文化が関係し合っていることを生徒に実感してもらうために、まず教科書を開く前に①~⑨のステップを踏みました。

第一段階:①~④ 生徒に身近な言語を例として挙げる(英語・日本語の対比)

①自然の中に降る雪の写真を見せ、英語で何というか生徒に尋ねる。
②雪の気象状態を表す英単語リストを提示する。
③雪の気象状態を表す日本語の単語を生徒に尋ね、クラス内で共有させる。
④雪を表現する日本語リストを提示し、それぞれを生徒に対比させ、気付いた点を述べさせる(例:重複するもの、重複しないものはあるのか?)

第二段階:⑤~⑦ 生徒にとって身近ではないが、表現に大きな差異のある言語例を挙げる

異言語間で、同じ「雪」という対象でも表現に多様性が発生することを生徒がつかめてきたところで、

⑤北米の北極圏に居住する先住民族のイヌイット語では「雪」の種類に応じて20以上の呼称があることを伝える。
⑥なぜ同じ対象にもかかわらず呼称の数が言語によって異なるのか生徒に意見を出させる。
⑦ ④に対する一つの考えとして「人が生活していく時に、便利だからである。都合がいいのである。(鈴木、1973, p39)」という以下の引用を生徒に紹介し、文化背景と言葉のつながりを示す。

※イヌイットの場合、日々、雪と接する生活を送っているため、多様な雪の状態を端的に表現できる方が、状況に応じた生活や行動を引き出しやすい。その結果、雪の状態を表現する言葉の数が多くなる。

第三段階:⑧~⑨ 本文のテーマ ハワイ語につながる問いを投げかける

⑧風、雨の気象状態を表す単語が100以上ある言語を生徒に推測させる。
⑨答え(ハワイ語)と理由を生徒と共有する。

そして本文を読む前に、生徒に以下のように投げかけました:
「ハワイにおいて、ハワイ語が使用禁止となった場合、文化・思考にどのような影響があるだろうか。」
「Unit4では、ハワイ語やハワイ文化の歴史について学ぶことからはじめる」

さらにここで先にお伝えしたUnit4の最終ゴール(パフォーマンス活動)を伝えます。
①言語・文化・思考の関係性とは何か実態調査し、問題提起をする
②問題提起した内容に対して、根拠に基づき結論を述べる

―――かなり段階を踏みながらアプローチしていくのですね。

そうですね。生徒が考えをより深められるよう、パワーポイントなど視覚的な要素も活用します。それこそ恐竜の化石発掘のように、少しずつ一緒に「国・言語・文化の関係性」というコアメッセージを浮き彫りにしていくのです。その後、各生徒が文献等を調査し、知識を深め、より自分の興味・関心を絞り込んでいきます。それが最終的なパフォーマンス活動のタイトルへとつながっていきます。

他教科との協働授業で自然と思考を深める

―――濃密な内容ですね。先生の授業では社会問題なども扱うと伺いました。そういった複雑なトピックは「自分とは遠い問題」となってはしまいませんか?

教科書に入る前にトピックや特定の社会問題を伝えると、ある生徒はこちらの意図を読み、先回りして考えてしまうこともあります。そうではなく、まずは生徒の持っている経験や知識から思考を始め、徐々に社会問題に近づけていく授業設計にすることで、生徒が社会問題を自分からの延長線上にとらえられるようにしています。

また、他教科とのコラボレーションで生徒の理解を促す取り組みを行ったこともあります。以前、「チョコレート産業(コアメッセージ:児童労働問題)」を扱った際には、家庭科の先生と協働で授業を構築し、カカオ豆からチョコレートを作るプロセスを「追体験」させました。

当たり鉢で大量のカカオ豆を2時間かけて砕き、出来上がったのはダースチョコ一欠片程度の大きさでした。それを「君たちならいくらで売る?」と聞くと、「時給900円くらいは欲しいけど、4人で2時間作業だから…、7,200円?!」「でも僕たちが食べてるのって、板チョコ100円くらいだよね。現地にどれだけお金が行っているんだろう…」などと話し始めていました。

さきほどの「追体験」という言葉ですが、共に実践を行った家庭科の先生が用いた表現です。そして、この「追体験」という表現は、とても的を射た言葉だと感じました。CLILはコンテンツを学ぶことが目的なので、英語の授業で得た知識を実際に手を動かし、仲間と協働し、感情を伴いながら体験することで、生徒は自然に、そして主体的に思考を深めていったと感じています。このように、追体験という考え方はCLILの活動とも調和していると考えます。

CLIL授業のアウトプット方法の選択とは?

―――そうして得られた学びをパフォーマンス活動でアウトプットするのですね。CLILに基づいたパフォーマンス活動はどのような形式なのでしょうか?

プレゼンテーションやライティングなどさまざまな形式があります。選択基準は、やはりどの形式が生徒の学びをより効果的に促進するかによって決まります。。たとえばクラスメートに説明する力の伸長を目的とする場合は、プレゼンテーションを選びます。対して、生徒各自の思考の深化を図ることを目的とする場合は、ライティングを取り入れたりしています。

『Enrich LearningⅠ』掲載の、各ユニットのアウトプット例を活用することもあります。1・2学期は各2ユニット、3学期は1ユニットに取り組むことが多いので、学期中にプレゼンとライティングを1回ずつ行うなどの工夫もしています。

―――パフォーマンス活動の評価はどのようにされていますか?

評価の透明性を重視し、ユニット開始時にパフォーマンス活動のルーブリック評価表を生徒に渡しています。生徒からは「ルーブリックを事前に配ってくれると安心する」という声が非常に多いですし、質問や意見をくれる生徒もいます。

デラウェア大学での研究内容と今後について

―――現在のアメリカのデラウェア大学でのご研究について教えてください。

現在、「学習者エンゲージメント」と「CLIL授業」に関する研究を進め、帰国後も、このテーマについて研究と実践を継続していきたいと考えています。

渡米前に現任校で行っていたCLILの実践では、生徒が主体的に活動に関与する場面にばらつきがあり、これが一つの課題であると感じていました。CLILは、学習者が主体的に学習に取り組むことが重要であり、教師はその主体性を支援する役割を担います。この課題に対処するため、私は「学習者エンゲージメント」に注目しました。学習者エンゲージメントとは、学習者が学校関連の活動や学術的な課題に積極的に参加し、深く関与することを指します(Mercer & Dörnyei, 2020)。この学習者エンゲージメントの視点から、学習者が自立的かつ積極的に学習に取り組む環境をどのように支援できるか、その方法を探求していきたいと考えました。現在、米国において、教師がどのように学習者の主体的な学習への関与を促しているのかを、授業見学やアンケート調査を通して研究を進めております。

取材・構成・編集:小林 慧子/記事作成:松本 亜紀)

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この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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