「小学校英語との接続は難しい」は本当か? 中学校での学びにスムーズ移行させる筑波メソッド

最終更新日:2025年10月24日

音声を中心にしながら、「英語の授業は原則、英語で行う」「言語習得の順番(聞く→話す→読む→書く)を大切にする」という伝統を踏襲する筑波大学附属中学校。伝統は100年を越えて紡がれることから、近年囁かれる「小学校英語から中学校英語への接続の難しさ」に対しても「あまり感じない」。その理由と筑波流の授業法について、中島 真紀子先生に伺いました。

「初期指導」移行後も授業内容はほぼ同じ。起きたのは教員のマインドセット

 ―――小学校間に見られる学習のばらつきなどを一因に、英語において小学校と中学校の接続が難しいという声を聞くことがあります。貴校は受験を通していろいろな地域から生徒が入学します。習熟度の個別差がある中で、どのようにスターティングポイントを決めるのでしょうか?

(中島)まずは「すべてを学んでいるはずだ」という前提に立たないというのがあると思います。小学校で英語が教科化される以前、生徒はみんな中学校でゼロからのスタートでした。その時代と比べ、「指導に難しさを感じませんか?」と聞かれることもありますが、私の考えは「ない」の一言ですね。これはどの中学校でも変わらないだろうと思いますが、圧倒的に音に対して抵抗感を抱かない生徒に教えていることから、ポジティブにいい状況だと思います。

そういった状況を作り出してくださっているのは小学校での英語教育です。だからこそ、小学校へのリスペクトは絶対に必要です。小学校の先生方がすごく頑張ってくださっている結果ですから。そのうえで、当校の英語科教員は、とくに1年生に対しては「これ聞いたことがあるかな?」「小学校でやったかな?」と、常に確認を行うスタンスで向き合っています。

―――小学校での英語教科化以降、授業内容の変更はありますか?

(中島)今も変わらず授業はabcの発音から始めています。しかし、中学校で初めて英語に触れる状況ではないことから、サラリとやるようになりました。授業スピードが速くなったのです。

以前は、中学校入学後の約2か月間で入門期の指導をしていました。当校では「入門期指導」と呼んでいたのですが、その期間は教科書を一切使わず、音声を中心にした授業を行い、アルファベットを書き始めるのはだいぶ時間が経ってからでした。

しかし今は「入門期指導」に含まれる指導事項の多くが小学校で触れられています。そのため名称も「初期指導」に変更しました。ただ授業内容に変化はありません。変わったのは教員側のマインドで、「初めてだよね?」というスタンスから、「小学校でやったよね? 覚えてるかな?」という意識で授業を進めるようになったのです。

「入門期指導」の頃と比べると、かなり早い段階から文字の読み書きに入り、教科書を活用する時期も早めています。ただ英語の授業は英語で行うことや、「聞く」→「話す」→「読む」→「書く」という言語習得の順番を大切にする指導方法は変わらず踏襲しています。

なお、初期の指導プログラム作成で意識しているのは次のような内容です。

①文字の音と、音と綴りの関係を丁寧に指導する。
②書くことを急がせず、音と繋げてアルファベットを書くことから始め、4線上で単語の綴りや文を書くことに繋げ、最終的に1本線上で書くことまで段階的に行う。
③小学校で触れた英語表現を実際に使わせていき、生徒が「小学校でやった!」「わかる!」と実感できる授業展開にする。
④教科書へスムーズに入れるような工夫を行う。

―――速い授業スピードに、小学校で英語に苦手意識を持った生徒も授業についていけるのでしょうか?

(中島)受験を経て入学してくる生徒ですから、学習面での基礎学力は高い傾向があります。そのため、公立中学校の英語教員の方々が直面されている課題と、私たちが経験する課題には違いがあるかもしれません。ただ、かなり丁寧に基礎から段階を踏んで進めるため、授業についてこられない生徒は少ないと思います。

実際に先日、獨協大学英語教育委員会(DUETA)で「英語を書く」ことに関する講演を依頼されたのですが、その際に「これほどまでに丁寧に授業をされているのですね」と、公立中学校の英語教員に声をかけられました。そのことを思うと、丁寧に英語の学びをスタートできているのでしょう。

―――授業の特徴として初回に「英語を学ぶ意義」を伝えられるそうですね。意識づけを行われているのだと思いますが、授業で使うツールなどについても「なぜ使うのか」をしっかり伝えると聞きました。

(中島)説明は尽くします。なぜ『聞く』から始めて『話す』へという流れなのか」も、きちんと話します。背景を説明して、「だから最初は音声が中心なんだよ」と理解を促し、「言えるようになったから書いていこう」という具合で一つひとつステップを踏んでいくのです。

保護者への説明もきちんとしています。一例に、生徒にはNHKラジオの番組「中学生の基礎英語」を毎日聞くよう指示しているのですが、ご家庭の協力も必要になるため、入学説明会のときに「なぜ聞いてもらうのか」を話しています。また授業で使う紙の辞書についても、購入前の保護者会で「なぜ授業で紙の辞書を使うのか」を説明し、ご用意いただいています。

学習の自動化を促す「効率的」な指導

 ―――100年以上も前から「入門期指導」を音声中心に学んできた筑波大附属にはオーラルメソッドの伝統校という印象があります。その姿勢は変わらないのですね。

 (中島)今も最初の6週間は音声だけで進め、復習もロイロノートを使って音声中心に行います。具体的には、その日の授業がプリントの絵を見ながら行ったものであれば、持ち帰ったプリントを見ながら、教員が吹き込んだ音声を参考に発話して復習するという内容です。口だけでなく身体を使って英語を学んでいくイメージですね。

 ただ先ほどもお伝えしたように、最近は文字に関する授業を早めに行うよう組み込んでいます。「自分が発した音を書くんだよ」というところから始め、単語も綴りをそのまま覚えるのではなく、まず自分が音に出し、それに合う綴りを書いていくという流れにしています。

 最初は間違えても大丈夫。英語は例外がいっぱいありますから、間違えたときに正解を学べばいいのです。たとえばCalendarを書くにあたって、最後を “ar” でなく “er” で書く生徒がいれば「間違っていないよ」と伝えます。「音に基づいた書き取り」を指導しているため、生徒の書いた綴りを「間違いだよね」とは言いません。

 ―――とても面白いですね。自分が学習者だった頃を振り返ると、英語とは暗記の科目だと思っていた時期があります。発音がわからずとも綴りさえ書ければテストの点数は取れるので、ローマ字読みで覚えていました。でも英語を使うという視点に立つと、学び方は変わりますね。

 (中島)いろいろな学び方があるので、記憶が得意だという生徒は、その長所を活かして学んでいけば良いと思います。けれど、音と文字を合わせられたほうが圧倒的に効率的です。 「-ション」という音の綴りが“-tion”である、と知っていれば自動化がしやすいですよね。 “patient”を「パティエント」と覚えても他の単語に適用できません。効率の面からも良い暗記の仕方とは言えないのです。

 ―――目指す生徒像を「自立した学習者」と言われていますが、音と文字が結びつき自動化できれば、知らない単語に出会ったときも読めるし、綴りで書くことができる。自分で学んでいくことができますね。

 (中島)はい、そう思います。一つ補足ですが、当校の授業は必ずしもオールイングリッシュではないという点があります。必要な場面では日本語を使うことも厭いません。基本的に授業では英語でコミュニケーションを取るようにしていますが、私たちは第2言語として英語を学んでいて、インプットが圧倒的に少ない日本に住んでいるからこそ、無理はしません。

授業の目的は「すべて英語で行う」ことではありませんよね。生徒が学びを深められることがもっとも重要です。生徒にとって理解が難しい内容を無理に英語だけで進めてしまうと、授業の本質に辿り着くまでに時間がかかってしまう。それであれば、たとえば、教科書の内容や「自動化できるとこのようなメリットがあるよ」といった説明、言語活動を行う際の設定を共有するときなどは絶対的に日本語で説明したほうが効率的です。もちろん「今日の授業はすべて英語でいけるな」という場合もあり、効果的に第1言語を使い分けています。

―――「聞く」「話す」「読む」「書く」と細かくステップしていくと、大きなつまずきなく、「書く」まで進めるものなのですか?

(中島)いけると思います。もちろん、ときには本当に難しいと感じる生徒もいるので、そういうときは手立てが必要になるとは思います。

「算数嫌い」を「数学好き」にしていくように、中学校教員がサポートしていけばよい

―――小学校で英語に強い苦手意識を持つ生徒が生まれるという話があります。中学校入学時、以前なら誰もが英語に対してフラットな姿勢だったのに、今は先入観を持つ生徒がいると。そこから英語を前向きに学んでもらう状況にするのが難しい場合もあるそうです。

(中島)当校でも中学入学組に関しては、受験科目に英語が含まれないこともあり、小学校で十分に英語を学んできたと感じる生徒は少ないかもしれません。ただ、先ほどお伝えした通り、しっかりとステップを踏んで教えていけば、驚くほどに、どんどん吸収していく生徒が多いと感じます。

また、小学校で英語が苦手になる生徒が生まれる、ということに関して、以前、「本当にその通りだな」と感じたお話があります。

もう10年ほど前だったでしょうか。小学校で英語が教科化されるというときに、他教科の教員がおっしゃっていたのです。「どの教科にも、得意な生徒、苦手意識を持つ生徒、いろいろな生徒がいるのは当然のこと。さまざまな意識を持つ1年生に対して、どの教科の教員も工夫して授業を行っているのに、なぜ英語科だけが特別にそのことを問題視しているのか」と。たしかに、と思いました。

小学校で「算数嫌い」だった生徒が、中学校で「数学好き」や「理科好き」になることはよくあることですよね。それはどの教科でもあり得ることで、「英語科だけ特別に課題がある」とするのは一面的かもしれません。苦手意識を持つ生徒がいることに不満を言ったり、それを小学校のせいにしたりするのは、違うのではないでしょうか。

逆に言えば「英語をゼロスタートで始める生徒全員を英語好きにできますか?」ということ。小学校での英語教科化以前にすべての生徒が英語好きだったかと言われれば、そうではないと思います。それであれば、「算数嫌い」を「数学好き」にするように、小学校で英語が苦手だったとしても、中学から英語を好きにさせてあげればいい。それこそ英語科教員の腕の見せどころですよね。

取材・編集:小林慧子/記事作成:小山内隆

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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