自身のペースで学べる環境を大切に、生徒の成長を育む

最終更新日:2026年4月27日

2024年に東京・足立区で開校した教育課程特例校の東京みらい中学校。生徒全員が不登校の経験を持っていることから、一人ひとりの学びに対する学習準備状態には大きな差が存在し、学校は生徒個々のペースを大切にしながら教育支援を展開。今回は多様な学びのニーズに応える授業法について前田美香先生に聞きました。

英語力を、幸福な人生を築くひとつの武器に

――東京みらい中学校は文部科学省指定の「学びの多様化学校」(不登校特例校)で、生徒全員が不登校の経験を持っています。入職した背景を教えてください。

(前田)長年公立校に勤める中で、不登校問題は常に身近にあり、しかも悪化していった問題のひとつだと感じてきました。イメージとしては、教員になったばかりの頃は珍しい事象だったけれど、次第に不登校生徒の存在が当たり前となり、今ではいない方が驚くような状況になった、というものです。

不登校児童生徒数が35万人に達したという報道もありました。不登校とは、今の学校システムに合わない子供たちによるひとつの「意思表示」なのかもしれないと感じてさえいて。そのような思いを強めていたときに、本校が新しく誕生することを知り、東京みらい中学校の目指す理念に共感し、入職を決めました。

――現在の生徒数は130名だそうですね。英語の指導体制はいかがですか?

(前田)そうです。3学年合わせて130名です。2024年の開校時に3学年を一気に募集しました。英語科は3名体制で、私は中学3年生を担当しています。

授業で大切にしているのは、生徒たちみんなが幸せな人生を歩めるお手伝いをする、という意識。子供は可能性の塊でしかないですし、今後、国外に出る機会も多くあるでしょう。そのときに出会う人とは、やはり言葉を介してつながっていきます。日本語と英語、2つの伝える力を身につけることで、より明るい未来を描ける可能性をつかめるのではないかと思うのです。

――英語教育において、多様化学校ならではの特徴はあるのでしょうか? 貴校の生徒には「不登校から通学へ」という、ものすごく大きな一歩を踏み出している印象があります。

(前田)学校に行く・通うことが、生徒にとっても保護者にとっても、一番に叶えたい願いになっているのは確かです。そのため、「勉強は無理のない範囲で」と考える家庭もあれば、本校への転入を機に「新たな気持ちで頑張ろう」と意欲的な生徒もいます。習熟度の差は公立校と同様に顕著かもしれません。

とはいえ、どんな生徒にも共通するのは「学校に行きたい」「学校で学びたい」という気持ちから本校を選んだことです。そのため私たち教員は、生徒が卒業後のステージでつまずかないように、できる限りの力をつけさせてから送り出したいと願い、日々の授業を進めています。

否定しないことを出発点に生徒たちと向き合う

――学習状況がそれこそ十人十色のようなイメージを持ちます。授業はどのように進めていますか?

(前田)授業では教科書の内容を着実に進めることが求められつつも、生徒一人ひとりの状況に配慮し、重点事項を意識して指導するように心がけています。

基本的な授業構成は、50分の授業を前半と後半に分け、前半は英語の歌を歌ったり、英語を話してみる体験を重視。後半は教科書を使った学習に取り組みますが、できるだけ生徒同士が教え合う時間を設けています

というのも、これから基礎を固めていく段階の生徒もいれば、どんどん先に進める生徒もいます。一人ひとりの現在地が異なるからこそ、「教えてあげてね」「一緒に読んでね」「教えることで見えてくるもの、わかるようになることもたくさんあるよ」などと声がけをし、生徒たちで教え合ったり、ペアで学習したりと助け合う状況を大事にしているのです。

――人とのコミュニケーションに恐怖心を抱く生徒もいると思います。生徒同士のペアワークやグループワークは、うまく機能するのでしょうか?

(前田)状況は生徒によって異なります。教室に入ることが難しい生徒もいますので、そのような場合はオンラインで教室の様子を見ながら授業参加できるようにしています。教室の雰囲気に少しずつ慣れ、「これならできそう」と思えたタイミングで戻ってきたり、「このパートだけ参加してみよう」と自主的に選んだりできる環境を整えているのです。そうした生徒自身のペースで選べる状況を認める環境こそ、学びの多様化学校の良さだと感じています。

前提として、本校には不登校の経験を持つ生徒が多く在籍しています。過去に傷ついた経験を持つ子供たちが集まっているのですが、彼らと過ごす毎日の中で感じるのは、生徒たちは互いに優しく接しているということ。楽しい内容のときだけ参加する生徒に対しても、「来られてよかったね」と声をかける様子があって、その温かさにはいつも助けられています。

また、助けを求めることが苦手だったり、間違えることを恐れたりする生徒が多いのも特徴です。だからこそ「間違ってもいい」「困ったら助けを呼んでいい」というメッセージが伝わる授業設計を意識しています。

そのような生徒たちと向き合ううえで、本校の教員やスタッフが大切にしているのが、否定しないことを出発点にする姿勢です。授業中に発言できただけでも十分ですし、声が小さければ近くに行って聞けばいい。生徒たちが“できる範囲でできること”を少しずつ積み重ねていけるよう支えることが、1クラス最大27名という少人数の本校だからこそできる取り組みだと感じます。

自分のペースで学び直せる毎日の「ちょこトレ」

――学習面では、通常の授業とは別に「ちょこトレ」が設けられています。これはどのよう時間なのでしょう?

(前田)毎日の昼食後の15分間×週5回で1コマという構成になっています。生徒が自ら学び直すためのモジュール学習です。教科は国語・数学・英語で、こちらが「今週は国語を学びましょう」と促し、学習内容は生徒たちが自分で決定。また勉強をしていて疑問を抱いたらすぐ聞けるように、教室内には2名のスタッフが常駐しています。

内容は、オンライン教材のeライブラリーを活用するほか、教科担任が独自にプリントを用意することもあります。英語の場合、小学校5年生レベルの教材から用意しており、基礎から復習したい場合はそこから取り組むことができます。たとえば「be動詞の理解があいまい」「一般動詞って何だっけ?」といった状態の生徒もおり、そのような場合でも、自分のペースで学び直しができるのです。

――学習習慣の獲得や成績向上といった手応えはどうですか?

(前田)もちろん爆発的に成績が急上昇した事例はありません。しかし、大きな成長を遂げた生徒はいます。3年生に編入当初、英語の未学習者に近かったのですが、卒業時には教科書を読み、ペアワークで堂々とQ&Aができるようになったのです。こういった生徒の変化や成長を目の当たりにできるのが、この仕事のやりがいを最も感じる瞬間です。

――個々の生徒と向き合われている様子にとても心打たれました。何か課題はあるのでしょうか?

(前田)今も授業参加が難しい生徒がいて、彼らが安心して授業参加できるよう、私たちは試行錯誤を続けています。ひとつの方法として、オンライン学習で学びに慣れてもらう取り組みをしていますが、そう簡単なことでもなくて。いろいろな学校での取り組みから学びたいと、日々思っているところです。

アンケートによれば、多くの生徒が「英語の必要性を感じており、学びたい」という意欲を持っているんです。その半面、さまざまな要因で学べる状態を保ちづらく、苦しさを抱えている生徒もいます。英語は積み重ねが必要なので、be 動詞がひとつわかったからといってすぐに何かができる教科ではなく、教科書の内容も簡単ではありません。そうした状況の中で、学ぼうとしている生徒たちは本当に立派だと感じています。

――今後の展望についても教えてください。

(前田)人と会うこと自体が難しい生徒もいる中で、ECC 協力のもと今年度から初めて ALT(外国語指導助手) を導入し、月に一度、授業に参加してもらっています。昨年度、学内の私たち教員との信頼関係づくりに全力で取り組み、その結果としてのALT導入で、確かなステップを刻めた証になっているのです。

また本校は学校法人三幸学園グループなので、系列校には日本語学校があります。昨年度は1年生が日本語学校の学生との交流の機会を設けました。今後はより多くの国の方々と触れ合えるようにして、生徒たちが「人と会えるようになった」「人と関われるようになった」と実感できる機会を増やしていきたいと考えています。特に日本以外の文化や背景を持つ人々と交流できる場を提供したいと思っていて、今まさにプログラムを検討しているところです。

改めて、本校で学ぶのは、不登校を乗り越え、前を向いて進んでいる子供たちです。一人ひとりの直面している状況が異なるからこそ、私たちは不要に慌てることなく、これからもしっかり生徒たちを見つめて前に進んでいきたいと考えています。

取材・編集:小林慧子/構成・記事作成:小山内 隆

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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