生徒の英語耳を養う4つの言語学的アプローチ

最終更新日:2026年4月28日

「聞く」「話す」「読む」「書く」という4技能のバランスの取れた習得が重視される中、発音指導はすべての技能と結びつき、ひいては総合的なコミュニケーション能力にも直結する重要な要素です。しかし、その指導には多くの教員が難しさを感じているのではないでしょうか。

昭和第一学園高等学校で英語を指導する篠﨑 剛先生は、ご自身が音声学・音韻論で学んだことをもとに、発音指導に力を入れた指導をされています。言語学、音声学という理論や知的探究心をどのように学校での実践的な指導へと結びつけ、生徒たちの英語力向上につなげているのか伺いました。

「音」の世界に魅了されたきっかけと奥深さ

—— 先生が言語、とくに「音」の世界に足を踏み入れたきっかけを教えてください。

(篠﨑) 私が言語の世界に惹かれたのは高校生の頃、英和辞典の発音記号がきっかけでした。日本語(共通語)の「ア」という音は1つしかないのに、英語には「ア」と聞こえる音でも、発音記号が2種類あることに気づいたんです。一つは通常の[ ɑ ]、もう一つは少しくるっと回ったような二重母音で使われる[ a ]ですね。「なぜだろう?」と当時の英語の先生に尋ねたところ、「口の開き方の違いで音が変わる」と教わり、大学で発音について勉強したいと強く思うようになりました。

—— 大学や大学院では、音声学や音韻論といった専門分野をさらに深められたとのことですが、その中でもとくに生徒に伝えたい言語学の領域はどのようなものでしょうか。

(篠﨑) 私は母音の省略について卒論を書きましたが、生徒たちには領域を問わず言語学のさまざまな分野に興味を持ってほしいと考えています。

たとえば、意味論は言語学の中では軽視されがちな領域ですが、身近で親しみやすい領域でもあります。最近はあまり聞かなくなりましたが、昔は「看護婦さん」と言っていましたよね。それが今では「看護師」となり、ジェンダーニュートラルな言葉遣いが重視されるようになりました。言葉は時代の移り変わりや、社会が何を大事にしたいかという意図を反映して変化していく。その変化の背景にある意味を読み解くのが意味論の面白さの一つです。

あるいは、色彩語の研究も興味深いですね。日本では虹は7色と言いますが、欧米では6色とされることが多い。これは、同じ「虹」という現象でも、文化や社会的な文脈によって認識の仕方が異なることを示しています。

さらに、日本語と英語ではオノマトペ(擬音語・擬態語)の構造にも違いがあります。たとえば、「eat」は単に「食べる」という意味ですが、「devour」となると「ガツガツ食べる」といった、より具体的な食べ方や様子が単語自体に含まれているんです。このように、言語の構造や表現方法の違いも、意味論の範疇で探究できます。

「本当はとても身近なもの」言語学の世界の面白さを共有したい

—— 言語によって、同じ事象を表現するにも、これほど違いがあるというのは驚きです。先生は、こうした言語学の諸分野に生徒たちが興味を持つきっかけとして、どのようなことを期待されていますか?

(篠﨑) まず、音声学や音韻論といった「音」に関する分野は、どうしても「発音記号を覚えなければいけない」というイメージが先行し、敬遠されがちです。でも、本当はもっと身近で、面白い側面がたくさんある。言語学は、まだ解明されていないことも多く、研究の余地がたくさんある分野です。生徒たちが何かしらの入口から言語学に興味を持ち、将来的に「なぜ人間は話せるのか」といった根源的な問いにまで探究心を広げてくれたら、それほど嬉しいことはありません。

—— 先生のお話を聞いていると、発音指導というものが、単に「正しい音を出す」という技術習得にとどまらず、言語そのものへの深い理解、そして生徒たちの知的好奇心を刺激する教育活動なのだということが伝わってきます。

(篠﨑) そう言っていただけると嬉しいです。生徒たちには、私自身が言語学の探究で感じているような「面白さ」を、少しでも共有できたらと思っています。

生徒の耳を鍛える! 取り組みと考え方4選

1.聞き比べ

—— 発音指導においては、まず聞き取れる耳を養うことが重要ですよね。先生ご自身の授業では、生徒の耳を鍛えるためにどのような工夫をされているのでしょうか。

(篠﨑) ありきたりかもしれませんが、まずは教科書に付属しているQRコードからネイティブの発音を聞きます。その上で、単語を見ながら自分の発音も繰り返させます。そうすると、生徒は「th ([θ])」と発音したつもりでもそれが日本語の「シ ([ ɕ ])」に聞こえてしまうことがあります。そういうときは「君が今出した音はこういう音だよ」「本当の英語の音はこうだよ」と聞き比べを促します。

—— 先生がおっしゃる「聞き比べ」は、生徒にとってどのようなアクティビティとして提供されているのでしょうか。新出単語の学習と絡めるのか、それとも独立した練習として行われるのか。

(篠﨑) どちらも行います。まず、授業で扱う単語で「これはしっかり押さえておかないと」というものが出てきたときには聞き比べをします。とくに、英語にはあるけれど日本語にはない音、あるいはカタカナ語として定着しているために本来の英語の発音から離れてしまっている単語などは、比較対象として取り上げます。

たとえば、「ディズニーシー(Disney Sea)」という単語。日本人は「Sea」を「シー」と発音してしまいがちですが、本来は「シー」ではなく「スィー」に近い([si:])です。一方でDiの音は、昔は「デ」と発音していたのが、今は「ディ」と、より英語の原音に近い音を聞き取れるようになっています。つまり、音の知覚の過程で、まだ[ s ]の音が定着しきれていないんですね。生徒たちには、「みんながおじいちゃんやおばあちゃんになった時、孫から『なんでそんな発音してるの? ディズニースィーだよ』と言われるかもしれないね」と話しています。

違いを判別する、聞き取れるようになるというのは耳が発達するということですし、発音にも直結します。こういう身近な例を挙げると生徒も前のめりに話を聞いてくれるのでおすすめです。

2.発音記号

—— 発音記号はどの程度指導されるのでしょうか。

(篠﨑) 頻度は高くありませんが、たまに教えます。かつて、ある大学の入試で、長文の中に1単語分の発音記号が書かれていてその単語の綴りを答えさせる、というユニークな問題が出たことがありました。発音記号を一度覚えてしまえば、辞書を引くことで未知の単語でも発音ができるようになる、という汎用性の高さを生徒には伝えたいと思っています。

最近の英語教育ではフォニックスが主流になっているという話も聞きますし、発音記号を覚えることに抵抗がある人もいるかもしれません。ただ、個人的には、発音記号は文字の綴りとは別に、音の情報を正確に捉えるための強力なツールだと考えています。とくに、綴り字と発音が一致しない単語が多い英語においては、その重要性は大きいと感じています。

3.YouTubeなど新たな学習ツールの活用

—— YouTubeなどの学習ツールも活用されていると伺いましたが、最近の生徒は発音に対して敏感になっていると感じられますか?

(篠﨑) そうですね。先日、授業で発音チェックを兼ねて教科書の一部を読んでもらったところ、各クラスに3〜4人、驚くほど正確に発音できる生徒がいました。海外経験があるなど幼少期から英語に触れていた生徒もいましたが、中には「英語を習ったわけでも、海外に行ったわけでもないけれど、小さい頃からYouTubeで英語を聞いていました」という生徒もいたんです。そういう点ではYouTubeは英語を習得する上でかなり有効なツールだと感じています。

生徒たちにはいつも「昔と比べて、今は英語学習のツールはたくさんある。しかも、無料で学べるものも多い。そういう環境をぜひ活用してほしい」と伝えています。もちろん、全員が真に受けて取り組むわけではありませんが、1人か2人でもそういう学び方をしてくれる生徒が出てきてくれれば嬉しいですね。

4.音の繋がりの理論と実践

—— 先生は単語単位の発音だけでなく、文章におけるリンキングや音の省略といった、より実践的な「音」の繋がりにも注目されていますね。

(篠﨑) はい。単語一つ一つの発音も大切ですが、実際の会話では、単語が繋がって音が変化したり、省略されたりすることがよくあります。たとえば、 “far and wide”という表現。生徒たちは「ファー・アンド・ワイド」と発音しがちですが、実際には “far”のRの音と “and”の母音が繋がり、「ファーラン」となります。さらに、 “and”の最後のDが省略されることも多い。そのため、「ファーラン・ワイド」のように聞こえるんです。

高校生くらいであれば、こうした理論的な説明も理解してくれるので、実践と理論を組み合わせた指導を心がけています。実践だけでは、その場限りの知識になってしまうこともありますが、理論を学ぶことで、生徒が自分で「なぜそうなるのか」を理解し、未知の単語や表現にも応用できるようになります。たとえば、 “water”が「ワーラー」と聞こえるように、母音と母音に挟まれたTやDの音が日本語のラ行のように聞こえるという法則を教えることで、リスニングの予測精度も上がります。

—— 理論と実践を組み合わせることで聞こえてくる音に対する予測が立てやすくなり、聞き取りの精度も上がりそうです。

(篠﨑) まさにその通りだと思います。ディクテーションの練習も、音と文字を結びつけるトレーニングとして有効です。単語を正確に聞き取る力、そしてそれを書き取る力は、音の法則性や単語の捉え方を養う上で、非常に重要になります。

※注:本文中では英語の発音を表すためにカタカナを使用していますが、実際の授業でカタカナを使うことはありません。

取材・編集:小林 慧子/構成・記事作成:吉澤 瑠美

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吉澤 瑠美

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