英作文を「好きな活動」に変えた、中1のInstagram活用術 自分の言葉で「自分の存在」を実感するために

最終更新日:2026年6月17日

中学1年生のライティング指導では、既習事項が限られているため、「生徒の自由な表現や書くことに対する意欲を引き出しにくい」と感じる先生方も少なくないのではないでしょうか。

湘南学園中学校高等学校の加藤 由香先生が着目したのは、Instagramのダイレクトメッセージ(DM)。教科書本文の登場人物に宛ててDMを書く活動を通して、ライティングを「授業の課題」から「現実のコミュニケーション」へと転換しました。年度末のアンケートでは、英作文が「とくに好きだった活動」にランクイン。具体的な授業実践に加え、その背景にある「発言しないと、存在がない」と痛感した加藤先生の原体験に迫ります。

#Instagram活用 #ライティング指導 #中学1年生 #自由と型 #集団の教育力

失敗を経て辿り着いた「自由」と「型」のバランス

――湘南学園中学校高等学校に着任されて11年目ですね。最初は苦労されたとか。

(加藤)いやもう、最初は試行錯誤の連続で、思うような授業展開にならないことも多く、辛い日々も経験しました。私はセミナーが好きで、そこで学んだ「生徒主体の自由な活動」を授業に取り入れてみました。本校の自由な校風と合わさり、生徒が持つエネルギーをより発揮できると考えたんです。しかし、いざやってみると、必ずしも意図した活気にはつながりませんでした

――どうしてでしょうか?

(加藤)振り返ってみると、生徒それぞれの個性や習熟度を十分に考慮してタスクを組めていなかったように思います。適切な枠組みがない自由の中で、生徒は何をしたらよいのかわからない状態になってしまったんです。

さらに、ただ自由を与えても、生徒は自分の安全地帯に留まり、挑戦への一歩を踏み出すのに時間を要する傾向も見られました。自分の知っている定型文や単語に頼ることで表現が固定化してしまい、英語力や伝える力など、生徒たちの持つ本来の伸びしろを、十分に引き出せていないと感じました。 

そこで痛感したのは、「崇高な理論があっても、目の前の生徒に合わせなければ意味がない」という事実でした。そこから、「活動をやらなければ」「生徒を楽しませなければ」といった教員側の視点ありきでの活動偏重の状態にならず、生徒の実態に合わせた「自由」と「型」のバランスを模索し始めました。

――行き着いた今の授業スタイルについて教えてください。

(加藤)どの活動も、「アウトプット循環デザイン」を意識して授業を組んでいます。つまり、「自由→型→自由」の流れを大切にしているんです。

まずは制限を設けず、自由に表現させてみる。すると生徒は必ず「伝えたいのに表現できない」という壁にぶつかります。そこで初めて、救いの手として「型(文法や表現)」を渡す。そして最後にもう一度、型を使って「自由」に表現させる。 最初は型がなくて苦しいけれど、だからこそ型を渇望するようになる。この順番が重要なんです。

――授業構成にも工夫があるそうですね。

(加藤)「静」と「動」の活動を、5〜10分程度でパズルのように組み合わせています。ライティングなど「静」の活動が長時間続くと眠くなるので、集中力が切れないタイミングで「動」のペアワークを入れる。逆に「動」ばかりだと学びが定着しづらいので、「静」で吸収する時間も設ける。こうして多様な活動を小刻みにして組み込むことは、生徒を授業に集中させ続けるとともに、多様な個性を持つ生徒一人ひとりが輝ける場面の創出にもつながります。クラスや学年の適性を見極めながら構成しています。

教員の赤ペンより、生徒の「気づく力」を信じる

――具体的な実践例として、Instagramを活用した授業があるそうですね。

(加藤)中学1年生のクラスで行った、車いすバスケットボール選手・網本麻里さんにメッセージを送る活動ですね。 教科書で網本選手の単元を学んだ後、最終ゴールを「網本選手本人に、InstagramのDMで英語メッセージを送る」ことに設定しました。

――なぜInstagramのDMなのですか?

(加藤)多くの生徒にとって身近なツールであり、身構えることなく取り組める。そして、英文レターのように決まった構成がないため、形式にとらわれすぎず、「何を伝えたいのか」というメッセージの中身に集中できると考えたからです。ただ、あくまでもInstagramは手段であり、本質は「リアルな他者への発信」にあります。

――実際に、ご本人に送ったのですか?

(加藤)はい、私のアカウントから送りました。やはり「リアリティ」が重要なんです。 最初に生徒に伝えた時は、みんなピンときていませんでした。でも、「本当に、本物の網本選手に送るよ」と伝えた瞬間、生徒たちの目の色が変わったんです。初めは「書くことなんてないよ」と言っていた生徒が、「え、本当に?」「失礼なことは書けない!」と、教室の空気が「授業の課題」から「現実のコミュニケーション」へと一変しました。

――この活動も「アウトプット循環デザイン」で進めたのでしょうか。

(加藤)はい。授業は3回に分けて帯活動として実施しました。

【1回目:自由】5分間の「もどかしさ」 
教科書を振り返り、網本選手の動画を観てから、細かい指導なしで「メッセージを書いてみて」と告げ、5分間のタイマーをセット。生徒は「感動しましたって言いたいけど、英語でなんて言うの?」と、自分の語彙力の限界にぶつかります。この「伝えたいのに伝えられない」もどかしさこそが狙いです。

【2回目:型→自由】「型」という名の武器を渡す 
もどかしさを抱えた生徒たちは、「先生、これどう書けばいいの?」と必死に聞いてきます。ここで初めて「型」を渡します。教科書の言葉を引用する「引用の型」や、英文をチェックする「校正チェックリスト」です。 「何を書けばいいかわからない」という生徒には、「教科書の言葉を引用して、一言感想を添えるだけでも響くと思うよ」と伝えます。すると生徒は目的を持って教科書を読み直し、筆が進まなかった生徒も「はっ」とした顔で取り組み始めるんです。こうして「型」を経た上で、最後に各自が「自由」に書く時間をとり、メッセージを完成させます。

【3回目:発信】リアルな相手へ届ける 
小グループで最も送りたいメッセージを選び、クラス内で投票を行いました。選ばれた代表メッセージを送信したところ、後日、網本選手ご本人から「読みました」とお返事をいただいたんです。生徒の興奮ぶりといったら大変なものでした。教科書の人物と現実がつながり、英語を使う意味を肌で感じた瞬間でした。

――ライティング指導というと、教員の添削負担が課題になります。40人分を見るのは大変ではありませんか?

(加藤)実は、私は生徒の英作文に「赤ペン」をあまり入れません。真っ赤に直された答案が返ってきたら、誰だってモチベーションが下がりますよね。

教員による赤ペンでの訂正は有効な場合もありますが、すべてを教員が修正するだけでは、生徒の理解や定着につながらない場合もあります*。第二言語習得研究においても、学習者自身の気づきを促すフィードバックの方が、単なる訂正よりも学習効果が高いとされています。

*参考文献の一例:
大関 浩美編著(2015)『フィードバック研究への招待』くろしお出版.
白畑 知彦(2015)『英語指導における効果的な誤り訂正:第二言語習得研究の見地から』大修館書店.

――では、どうやって質を担保するのですか?

(加藤)「校正チェックリスト」を渡し、生徒自身に推敲させます。「文末にピリオドはあるか」「主語と動詞は一致しているか」といった具体的な項目を確認させることで、生徒は「あ、忘れてた!」と自分で気づくことができます。教員が全てを直さなければならない、というマインドを捨て、生徒の「気づく力」を信じて任せる。これが、生徒の自律学習を促し、同時に教員の負担を減らし、注力すべきところに力を注ぐコツです。

「書く」を孤独な作業にしない!英作文を「好きな活動」に変えた集団の力

――成果はいかがでしたか?

(加藤)年度末のアンケートで、「今年度の授業でとくに好きだった活動」を聞いたところ、なんと「英作文」が2位に入ったんです。「まさか上位に来ることはないだろう」と思っていたので、本当に驚きました(笑)。でも、これは「アウトプット循環デザイン」で、生徒が「書きたい」という欲求を持ってから書き方を学び、実際に相手に届くという「手応え」を感じられたからだと思います。

――英作文というと、一般的には苦手とされがちな活動ですよね。かなり工夫されたとか。

(加藤)「ライティング=時間をかけて完璧なものを出す」というマインドの定着が、書くことへの苦手意識につながります。とくに中学におけるライティング活動では、宿題ありきにせず、基本的に授業時間内で取り組ませるようにしているんです。

あえて「5分」という短い時間設定をする。「書き終わらなくてもいいから、とりあえず書いてみよう」とタイマーで区切り、「ピッ」と鳴ったらペアで相談する。生徒が悩み込んだり、飽きたりする隙を与えません。

――あえてペアで相談させるんですね。

(加藤)「集団の教育力」を刺激するんです。英作文を読み合い、良い点にサインやポジティブなコメントを書き込む活動を入れ、生徒同士が関わり合える仕掛けを作る。意欲的に英作文に取り組み始める他の生徒を見て、自分の姿勢を改めるなど、お互いに刺激し合っていたのが印象的です。活動に対する前向きな気持ちが自信につながり、生徒の学習意欲を高める。この好循環を作り出せたのは大きな成果だと感じています。

「発言しないものは、存在しない」——教壇に立ち続ける理由

――現在の授業スタイルを追究する原点は、ご自身の留学体験にあるそうですね。

(加藤)はい。大学時代にアメリカに留学しました。そこでは、発言しない学生は「存在しない」のも同然でした。留学先の授業では、学生たちが自由に発言をすることが当たり前で、その中で発言をしない者は、存在自体がなくなってしまうような感覚を覚えました。

――発言できなかった理由は何だったのでしょうか。

(加藤)伝えたいことはあるのに、うまく言葉にできない。その間にも、議論はどんどん進んでいってしまう。振り返ると、私が受けてきた日本の英語教育では、自分を表現する機会があまりありませんでした。

――その経験が今の教育観につながっているのですね。

(加藤)そうですね。英語は得意じゃなくても、伝えようとする力がすごく大切だと思うんです。教壇に立っていても感じますが、自信がない生徒が本当に多い。そんな彼らが、自分の言葉を持つことで、他者とつながり、自分の存在を感じられるようになってほしい。それが私の原点です。

――「伝えようとする力を育みたい」という想いを実現するために、すごく綿密に計算された授業設計に驚くばかりです。

(加藤)とくに高校生の授業を担当していると、受験指導や膨大な学習事項を前に、「わざわざ頑張ってまで活動を組まなくてもよいのではないか」と魔が差しそうになることがあります。講義形式のほうが授業としては安定しますし、生徒もテスト勉強がしやすいだろうとも思います。準備して実践し、寝落ちしてしまう日があるくらい毎日へとへとです(笑)。

でも、そんな時こそ、アメリカで感じた「発言しないと存在がない」という、あの感覚を思い出すんです。生徒たちには、同じ想いをさせたくない。つたなくても、完璧じゃなくても、自分の言葉で発信すれば、世界とつながることができる。その瞬間の生徒の顔を見るために、私はまた明日も、授業の準備をするんだと思います。

 

取材・編集:小林 慧子/構成・記事作成:早田 愛

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