AIを活用して「内容」にフォーカス!本来の目的を達成するための現代のライティング授業とは

最終更新日:2025年2月4日

英語教育の見直しにより、強調されるようになった「4技能」。主に「読む」力を育てられてきた現役の教員たちにとって、4技能を的確に指導するのは難しいものです。

その中でも、「書く」力を育てるライティングについて、「文法・語法の指導になってしまいがち」と言うのは、ライティング授業の研究を行っている北星学園女子中学高等学校の藤原功生先生です。

今回はそんな藤原先生に、ライティング指導ではどのような目的を掲げるべきなのか、AIを活用したライティング授業とはどのようなものなのかなど、詳しく伺いました。

ライティング授業での先生方の負担を減らしたい

———今回、先生の研究対象であるライティングの授業についてお話しいただきますが、そもそもなぜライティングに注目されたのでしょうか?

(藤原)ライティングは、教育現場だと1番苦労する分野だと思っているからです。ライティングの授業では、生徒の成果物を集め、添削したりコメントしたりして、生徒に力をつけさせる過程が必須です。そのため、教員にとってはかなり労力がかかります。「先生方の負担をなんとか減らしたい」という考えのもと、「より効率的で効果的なフィードバックを考案したい」と思ったのです。

また、ライティングは文法の定着や表現力を高めるという目的で行われることが多いですが、本来のライティングの目的はそうではないと考えています。 英語で自分の意見を述べた成果物を作ることが本来の目的だと思うのです。

———では、英語で自分の意見を述べられる生徒さんを育成されたいと?

(藤原)それに加え、英語で”make a change” ”make a difference”できる生徒を育てたいです。コンテンツに対し、自身の意見を言い、筋の通った議論ができるようになってほしいですね。

授業の流れと4観点

———具体的な授業の流れと内容を教えてください

(藤原)約4~5時間で1タームとし、以下のステップで行います。

ステップ1:ブレインストーミング

教科書(プリズムリーディング/ケンブリッジ出版)を読んで内容を理解する。教科書内容に関連はしているが、答えが載っていない問いを生徒に投げかける。その問いに対しブレインストーミングを行う。

ステップ2:ファーストドラフト作成

教員が設定したテーマについて、ファーストドラフトを作成してもらう。文法や単語のチェックについてはAI(QuillBot)を使用可としている。

ステップ3:ピアフィードバック

生徒同士でドラフトを見せ合い、改善点を指摘し合う。実際の生徒の作品をピックアップし、教員自身がピアフィードバックを行うとしたらこのような部分を指摘するというように例を見せてから行ってもらう。ピックアップする作品は事前に生徒に許可を得る。

ステップ4:セカンドドラフト作成

ピアフィードバックで得た気づきなどを反映させたセカンドドラフトを仕上げてもらう。全体を通して、教員が添削するのはセカンドドラフトのみ。

ステップ5:ファイナルドラフト作成

添削内容を確認した上で、ファイナルドラフトを提出してもらう。教員はあらかじめ生徒に示してある基準にのっとって評価する。

———評価基準としてはどのような項目を設けているのでしょうか

(藤原)本校は「Cambridge English スクール」に認定されていました。そこで、「ケンブリッジ英検ライティングスケール B1レベル」に基づいた下記の4観点で評価を行っています。

1.contents

質問に答えているかを見ます。最近、生徒がアデレードでの短期留学や東京での語学研修プログラムを終えたこともあり、「札幌と東京、あるいは札幌とアデレードを比較して、どちらが大学生活を送るのに適切な場所かを説得しなさい」というテーマを出しました。このテーマでは、「適切な場所はどこか」という質問にきちんと答えているかをチェックします。

2.communicative achievement

想定読者を設定し、その人のバックグラウンドでも理解できるよう説明できているかをチェックします。また、序盤でフックとして読み手に「あなたはオーストラリアに行ったことがありますか?」と問いかけるなどして読み手が興味を失わないような工夫ができているかもチェックします。

3.cohesion

英文エッセイの書き方の基本ができているかをチェックします。ファーストパラグラフで質問などをして興味を惹き、次に「実は私オーストラリアに行ってきたのだけど、札幌とは違うところがたくさんあったし、似ているところもあったんだよ」などとバックグランドインフォメーションを入れているか。

その後のボディパラグラフではメインアイデアを膨らませているか、コンクルーディングパラグラフでは、 ファーストパラグラフで述べたことを別の言葉でさらにパワフルに述べられているかなどを見ていきます。

また、”cohesion”(結合、密着の意)ですから、接続語がきちんと使えているかもチェックします。

4.language

文法・語法が正しいか、語数を満たしているか、ハイレベルな単語やフレーズを使えているかをチェックします。

AIを活用しない手はない

———ドラフト作成時にAIを使用可とした理由を教えてください

(藤原)大抵の場合、ライティングの添削は文法や語法に対してのフィードバックになりがちです。ここにtoがないぞ、三単現はsをつけなさい、なぜ大文字で始めないのか、など…。これらは英語の基礎力や知識を確認して定着させるためのフィードバックであり、ライティングのフィードバックですべきことではないと思っています。ライティングでは、「何を書いているか」というコンテンツの部分をチェックすべきなのです。

AIは私たちより格段に多くの知識を有していますから、数秒で間違いのない文法や語法の答えを出してくれます。添削者である私も日々AIに助けられています。生徒も教員もコンテンツの作成と添削に集中できる、こんなに便利なツールを使わない手はないと思ったのです。

———ピアフィードバックでのポイントはありますか

(藤原)生徒には「ツッコミどころを書きなさい」といつも言っています。一段落について最低1つ、「ここはこうした方がいいのではないか」と、上から目線でも下から目線でもなく、自分の思ったことを書いてと伝えています。

たとえば、先ほどの「札幌と東京、あるいは札幌とアデレードを比較して、どちらが大学生活を送るのに適切な場所かを説得しなさい」というテーマに対し、「人が多い方が多様性があるからいい」と書いた生徒がいたとします。それに対し、「人口比較はしているけれど、 どんな種類の人がいるかは比較していないし、そもそも広さが違うから、人口密度を比較しないと意味がないのではないか」などと指摘できるのが理想です。

また、このピアフィードバックには360度評価の要素も取り入れています。360度評価とは、学校だけでなく一般企業で社員を評価する際などに用いられる考え方で、上司だけでなく同僚や部下、他部署など複数の関係者から評価されることを表します。つまり、社会に出るとさまざまな価値観や意見を持っている人がいて、その人たちから評価されたり意見を言われたりすることがあります。その時に、へこたれるのではなく、考えを変えたり時には意見を押し通したりする必要があるのです。ピアフィードバックを行うことで、その予行演習のようなことをしています。

———先生は添削にどの程度の時間をかけていますか?

(藤原)150語以上あるドラフトを1人あたり5分程度を目標にしてます。もしかしたら「短い」とびっくりされる先生もいらっしゃるかもしれません。ただ、これはやはりAIを活用して文法や語法は直さなくて良いようになっているからできることなのです。AIを使わないと、「この単語こんな使い方あるのかな」などと辞書をひきながら添削して、生徒1人に対して何十分も時間がかかってしまうというのはざらですよね。

———ドラフト作成時の注意点を教えてください

(藤原)冒頭申し上げた通り、私はライティングを通して他者を説得して変化を起こす生徒を育てることが目標です。そのためには、誰が誰に対して、どのようなメッセージを伝えたいのかを意識させます。たとえば、女子高生が誰でも知っている言葉遣いや誰でも知っているアイドルって、私たち大人は知らないことが多いですよね。自分の書いていることを相手が理解できるか考え、わからなければ説明しないと、読み手と書き手のコミュニケーションは成立しません。

コミュニケーションを成立させるためには、想定読者を設定するのが一番です。

ただ、私が設定するテーマは、大抵生徒たちに関わりがあることなので、想定読者は自分と同じような立場の高校生になってしまうんですよね。さらに言うと、他者を説得するというよりは近しい関係にある仲間同士を説得させ気持ちの変化を促すようなものになっています。そのため、「自分がどのような立場にいて、どのような立場にいる読み手に、どのように変わってほしいか/説得したいか」を常に意識し、ライティングテーマを設定することが大切でしょう。

本当の意味での自分の意見創出をできるようになってほしい

———独自のライティングメソッドを実施されてみて、成果はありましたか

(藤原)わかりやすい成果としては、ケンブリッジ英検のスコアを過年度と比較すると、ライティングの向上率が過去1番高かったです。

また、授業内容に関するアンケートをとったのですが、その中では「ピアフィードバックは緊張するけれど、さまざまな人から評価、コメントをもらえることが勉強になって良かった。またやりたい。」と前向きな答えをくれた生徒が多かったです。

さらには、内容をチェックするという添削に対しては「自分の文章を読んでもらえたと実感できるものだった」との声もありました。従来の添削方法で文法やら語法やらをたくさん直されたものよりも、内容面を指摘されたほうが自分たちが書いた「作品」を読んでもらえたと感じるようですね。

———逆に、課題に感じられたことはありましたか

(藤原)想定読者を高校生から離さなくてはいけないと感じました。

先ほども少しお話ししましたが、英語授業におけるライティング作品の読者は、必然的にクラスメイトあるいは教員となります。そうすると、持っている知識などのバックグラウンドがだいたい同じなので、ピアフィードバックの際、必然的にcommunicative achievementが高くなってしまうのです。

それを避けるために、学校関係者あるいは学校外の社会人などに想定読者を広げたいなと思います。

———今後の展望をお聞かせください

(藤原)本当の意味での自分の意見創出を、生徒ができるようにすることです。

本来人間は、宗教や育ってきた環境での価値観形成など、さまざまなバックグラウンドを持っています。そのバックグラウンドによって、何を是として非とするかは変わってきます。

たとえば、社会・経済政策や市民活動、宗教や哲学・芸出に対する価値観、外交や戦争などへの一人ひとりの考え方は違うはずです。

そのようなテーマで作品を書かせたいと思う反面、現在の日本では、学校というソーシャルでオフィシャルな場では限界があるのもまた事実です。

しかし、生徒一人ひとりが自分のバックグラウンドをそのような場で話せる、表現できることが本当の意味での自分の意見創出だと思っています。そのため、安心・安全な環境の中で、そういったコントロバーシャルなトピックについても考えて、意見を論じ合えるような場を作っていきたいと思っています。

 

取材・記事作成/大久保さやか

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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