英語で自分の考えや気持ちを伝え合う力をはぐくむ指導と評価 ~検定教科書を使って思考力・判断力・表現力を育成する言語活動を通じて~

最終更新日:2022年4月20日

今回ご紹介させていただくのは、山形県立鶴岡北高校の1年生を担任されている五十嵐明紀子先生です。

前任校である山形県立鶴岡中央高等学校では、学校設定科目「Speak Out」を利用し、学年をまたいで同じ教科書を2度使う授業方式、山形スピークアウトを実施しました。

検定教科書を使用することで、思考力・判断力・表現力を育成する言語活動を行い、英語により自分の考えや気持ちを伝える力の向上を目指す授業を行っています。

この記事では、令和3年11月19日(金)~20日(土)、「Explore!未来を切り拓く英語教育の推進~自ら学び仲間と高め合う授業の創造~」をコンセプトに開催された全英連山形大会で、五十嵐先生が発表された内容について、お伺いした内容をご紹介します。

1.授業概要:授業の対象者、人数、目的

■対象:高校1年生の普通科3クラス(各クラス40名)120名を対象

生徒の約99%が進学する。北海道教育大学・山形大学・秋田大学など国公立大学を目指す生徒から、短大、専門学校へ進学する生徒までさまざま。

■目的:検定教科書を使って、思考力・判断力・表現力を育成する言語活動を行い、英語で自分の考えや気持ちを伝える力を育むことを目指した。

上記の目標達成のツールとして、「検定教科書を使う」という点に着目した理由:

教科書は、テーマが適切で生徒が興味・関心を持ちやすいものであり、言語材料の難易度が適切である。レッスンが進行するにつれて、既習の語彙、文法などが繰り返し出てきて、自然に復習できるようになっている。とはいえ、教科書で提示されている言語活動はそのままでは使えない場合もあるので、生徒の実態に合わせてアレンジすることが必要。

 

2.課題意識:どのような課題を乗り越えたいと思ったか。また、課題解決のポイントがどこにあると考えたか

中高6年間英語を学習しても、運用力(特に「話すこと(やり取り)」)の技能が身についていないという課題を感じていた。

1年半ほど前に、前任校で実施していた「山形スピークアウト」(※)を、既習レッスンの復習として試してみた。1回目にそのレッスンを学習した時とは違う形で、語彙の復習、リスニングによる内容理解、口頭での要約、プレゼンテーションやスキットといった発表活動を行った。しかし、それは事前に準備した原稿の読み上げであったり、暗記やフォーマットに依存したものであって、実生活での自然なやり取りとは程遠いのではと感じた。そこで、今年度(令和3年度)のはじめに、既存のCan-doリストを見直し、現行カリキュラムではあるが、新指導要領の「話すこと(やり取り)」の目標を取り入れた形で整備した。

※山形スピークアウトとは:山形県立鶴岡中央高校で実践された授業方式。学校設定科目「Speak Out」を利用して、学年をまたいで同じ教科書を2度使い、1年目は主に内容理解に費やし、2年目は発展的復習と理解した内容を用いて英語による発表活動を行う。

 

3.授業設計方法とポイント:学期における構成、必要に応じて学生等からの取得情報や他教員・教科との連携

2020年10月、翌年11月の全英連の発表に向けてテーマを決めるにあたり、ディベートややり取りなど、「意見を伝え合うような言語活動の実践」について取り上げたいと考えていた。そこで、全英連事務局を通して、その分野で経験のある朝日大学の亀谷みゆき先生を紹介してもらった。亀谷先生に、授業をしていて課題に感じることを伝え、全英連の発表テーマとしていくつか案を出した中から、方向性を決めていただいた。「目標として、この単元を学習したら生徒はどの技能のどんな力が身についているかを意識して単元構想をするように」とアドバイスをいただいた。

一つの単元の中で一つの技能だけ扱うわけではないが、達成目標とする主な技能は単元の題材によって決める。「この題材だとこういう活動ができそうだから、ここではこの技能の習得を目標にしよう」という感じ。ある技能の目標を一つの単元だけで達成するのは無理なので、英語表現のこのレッスン、英語コミュニケーションのこのレッスン、と複合的に達成していく。到達目標はCan-doリストで生徒にも共有する。

 

4.授業準備とポイント:準備するテキスト、ITツール等

コミュニケーション英語では、検定教科書「BIG DIPPER」を使用している。各単元で設定した言語活動に応じて、モデルを提示する場合には事前にALTとスクリプトを用意したりする。

暗記したことをただ述べるだけにならないよう、課題を出したら、その場ですぐペアを組んで即興で話させるのがポイント。

 

5.授業実施とポイント:授業の具体的な進め方、授業中の説明や求めたアウトプット

身につけたい技能を習得できるような活動を毎時の授業で継続して行えるよう計画する。

例えば、「話すこと」が課題の単元で、単元の最後にディベートを行わせる場合、そこまでの仕込みとして、毎回の授業の冒頭5分を用いて、ディベートの中で使うスキルを用いた活動を行う。文法ではなく、メッセージが伝わることに重点を置いている。

何かまとまりのある内容(教員とALTで一つのテーマについてそれぞれ意見を言うなど)を聞いて、メモを取り、メモの内容をペアで話し合う活動や、3人1組でのマイクロディベートなど、ディベートで必要な技能活動を取り入れる。

「書くこと」が目標の単元の指導例としては、レッスンの最後にまとまりのある文章を書けるようになるために、レッスンのテーマを細分化した内容で毎時間英文を書かせて、だんだん長く書けるよう指導する。(活動としては、意見や感想を口頭でグループやペアで話をさせて(ブレインストーミング)から、書くこともできる)

 

6.評価とポイント:授業内外での評価方法、フィードバック方法

評価方法については、年間計画の時点で決めておく。「書くこと」が目標なら、読み取り、理解して、説明する力をペーパーテストで測る。「話すこと」なら、パフォーマンステストを実施する。目標をいくつかの単元で達成しようという場合は、テストは必ずしも単元ごとに行わなくても良い。

生徒へのフィードバックは、評価シートに個別にコメントをして返却する。

定期試験のペーパーテストでも、パフォーマンステストでも、テストを準備するにあたって特に心がけていることは、初見の問題を出すこと。教科書と同じ題材だと、教科書で学んだことを暗記しているだけの可能性もある。例えば、教科書の題材が「自転車を利用するメリット・デメリット」について列挙した文章だった場合、試されている力は、列挙されている論点を理解する力。それが身についているかを測るため、同様の構成の別素材の問題を出し、身につけたい技能がしっかり身についているのかを判断する。

 

7.授業を実施した上での成果と課題:想定通りに進んだか。また、得られた成果や判明した課題

生徒たちが自信を持って英語で話すようになった。本校のALTは4年目の勤務なので、これまでの生徒と比較できるが、この取り組みを行った生徒の方が自信をもって話している感覚があると言っている。

模試(総合学力テスト)の結果では、3観点の評価のうち「思考力・判断力・表現力」が、下位層でも平均より上回っている。即興で考える力が付いている。1年生の最初に受けた模試の結果は、過去4年で最低だったが、12月に受けた検定版のGTECでは、模試の成績が最も良かった年度の生徒の平均より30点も上回る結果となった。

普段の授業は内容理解が中心で、発表活動はイベント的にたまにまとめて行っても、なかなか運用力は身につかない。また英語表現の使い方だけを説明してもできるようにはならないので、実際に使う活動をこまめに設ける必要がある。毎時間言語活動を取り入れて、活動の観察を行えば、随時指導が必要な点が分かるので、レベルに応じて微調整ができる。

 

8.授業を参考にする先生へのメッセージ:上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

Can-doリストの卒業時の目標は、指導要領の外国語の目標と同じにしてある。

通常、模試やテストの結果に応じて目標を調整したくなるが、常に「卒業時」の目標を意識して活動内容と評価を計画すれば、ブレることなく指導と評価の一体化が図れる。

その点で、国立教育政策研究所の「「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料」(https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r030820_hig_jouhou.pdf)は役立つ。高等学校編が出たのはつい最近(令和3年8月)だが、それまでの間、中学校編を参考にした。パフォーマンステストも含めて、単元構想が載っている。構成は似ているので、中学校編は高校でも参考になる。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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