相互刺激を通したアウトプットの活性化と「論理・表現」の可能性 ~学校設定科目「表現探究」を通して~

最終更新日:2022年5月23日

1.授業概要

■対象:

2年生文型生徒(「表現探究」が授業として設定されているのは2年生の文型クラスのみ)
1年生全生徒(5月頃から2週間に1回、コミュニケーション英語の中で「表現探究」の内容を前倒しで実施)

■人数:1年生6クラス(240名)、2年生文型(令和3年度は3クラス(120名))

■目的:本校では、高校生による国際会議に参加できる能力をCANDOリストの最上位技能(レベル7)としており、その1つ下のレベル6(4技能としては以下の通り)を3年生終了時までの目標レベルとしている。

※本校の類型(コース)として「理型」・「文型」を使っており、大学の理系学部・文系学部とは区別している。

レベル6:

Speaking(2021年度の学習指導要領のため、まだ「やり取り」と「発表」に分かれていない)

思想や歴史観、科学技術などの複雑な内容に関して、3分程度で自分の意見を論理的に話すことができる。相手の意見を聞きながら、即興で根拠とともに反論・同意を表現できる。

 

Listening

平易な文であれば、関連する資料等を探しながら、または参照しながら聞き取ることができる。

ニュース等の英語を聞きながら疑問点や反論をメモすることができる。

 

Writing

身近な事柄であれば、即興で1パラグラフ程度の作文ができる。

トピックに関連する付加的情報を効果的にアウトラインに盛り込むことができる。(論理性)

思想や歴史観、科学技術などの複雑な内容に関して、自分の意見を表すための合理的な分量と内容を持つ文を書くことができる。

 

Reading

大学入試二次試験レベルの500語程度の英文をアウトラインに書き直すことができる。

与えられた各300語程度の3〜4種類の記事から、適切な記事を選んで各3分程度で必要な情報を取り出すことができる。

 

本授業は口頭による英語の表現力、即応力、判断力、応用力、積極性の育成が目的である。

1年次から少しずつ取り組むようにしている。理由としては、扱う活動が多いため、2年次だけでは扱いきれないことが大きい。さらに、1年次から表現活動を行っていないと、自分の言葉で表現するメンタリティができていないと感じている。2年次になってから始めてはマインド醸成が間に合わない。

 

2.課題意識

■実施の背景(課題)

2016年に本校がSGH対象になり、2017年に初めて、2年生の30人くらいの生徒が海外研修へ行った。

海外研修を行う中で、現地で発表原稿を棒読みする、または暗記したものを話すだけで、質疑応答には対応できない生徒が多かった。間違いを恐れ、完璧な英語でなければ口を開かない生徒たちはWritten Languageには強いが、Spoken Languageには課題が多く、将来ますますグローバル化する時代を生きる彼らにとって致命的な問題であるとの認識を持った。

 

■課題解決のポイント

受験英語にとどまらず、Authenticな内容について言語を運用する場面としての学校設定科目「表現探究」の開設。

 

3.授業設計方法とポイント

■設計:プログラムの設計にあたり、まず、実社会で求められる力を整理した。どのような力が必要か、規模の大きさによってツリー状に構造化し、「これができるためにはこの力がもっと重要」と優先順位を可視化。すると、受験英語は大きなツリーの中でほんの小さな部分だというのがはっきり見えてきた。

言語的難易度と抵抗感を考慮に入れながらアクティビティを準備した。プログラムの前半では「伝わればよい」という姿勢を貫き、いわゆる「受験英語」に慣らされている生徒の価値観(=ミスをすることへの抵抗感)を取り除いた。中盤・後半に向けては、ある程度の正確さが必要とされる活動を盛り込んだ。

 

■対象:2年生文型生徒(令和3年度は3クラス 計120名)

 

■内容:詳細は「5.授業実施とポイント」を参照

※扱う内容が多いため、一部(下記①~⑥)を1年生のコミュニケーション英語Ⅰの中で実施。

 

■生徒アンケートを活用した改善

毎年、授業内容について生徒にアンケートを実施している。楽しい活動が必ずしも役に立つ活動ではない、と生徒は理解している。例えば、以前「夢の学校施設」というテーマで、限られた学校の敷地面積の中に何を入れるか、というアクティビティを行ったことがある。とても楽しく盛り上がったが、自分にとって特に役立つわけではないと感じた生徒が多かった。逆に「苦しかった」けど、「役に立ったので来年の後輩にもやらせた方がいい」というものもある。生徒のアンケート結果を受け、毎年教材や実施内容をReviseしている。

 

4.授業準備とポイント

オリジナル教材(テキスト、音声、動画、図表・写真 <約60時限分>)を作成。

開始前年度の12月~3月までで授業15回分の教材を作り、その後は授業を進めながら、日々の中で足していく。(教材内容は、上記「3.授業設計」を参照)

「表現探究」の授業は英語科の3人の教員で担当するため、必要な機材(PC、スピーカー、HDMIケーブル、音声ケーブル等)を担当教員が手軽に持参できるよう、機材一式を入れた「*ひょうたんバスケット」を準備。授業で必要な動画等は専用PCにすべて入れてある。

*ひょうたん:「表現探究」の愛称

 

5.授業実施とポイント

3人(ALT、2年生担当教員、1年生担当教員)で1クラスを担当。

レッスンごとに指導プランがある。扱う内容が多いため、一部(下記①~⑥)を1年生のコミュニケーション英語Ⅰの中で実施。

 

■内容

①4コマ漫画を説明する

 漫画を1コマずつ4つに分割して4人に配り、それぞれが説明し、順番に並べ替える。1回(50分)の授業で4つくらいの漫画を扱う。

②動画を説明する

 上の活動の動画バージョン。1分間の動画を15秒ずつ4つに区切って4人に配り、それぞれが説明し、順序よく並べ替える

③アウトラインだけでスピーチする

 お題を出して、その場でアウトラインを作らせ、1〜2分間のスピーチ発表まで行わせる。

 例:高校生はアルバイトをするべきか、というテーマに対し、理由(最低2つ)と根拠となるデータを付けて発表する。

 スピーチ時間は徐々に短くする。短くすればするほど単語を吟味するので、効果が高い。

④数値を扱う(比較・グラフ・調査結果等)

 例:動物のLifespanについて、グループ内でそれぞれが持っている情報を交換しながら、その動物の説明を完成させていく。

⑤会話を遮る

 自己主張が苦手な日本人にとって、無理やり相手を遮るくらいのメンタルを鍛える。

 まず、教員が間違った情報が入った英文をひたすら読む。生徒は自分の手元にある正しい情報のメモを見ながら、教員の間違った情報を指摘して、読むのを止めるまで指摘し続け、会話を遮る練習を行う。その後同じ要領で、生徒同士でペアワークを行う。

⑥相手を説得する

 4人1組のグループで、テーマに沿って、自分が持っている情報をもとに、他のメンバーを説得していく。1つのテーマは10分くらいで行い、1回の授業で3つのテーマを扱う。

例:・デザートアイランドに何を持っていくか

  ・会社の社長になったつもりで、誰を雇うか

  ・誰と誰がカップルになるといいか、それぞれが持っている情報をもとにマッチメイキング

⑦社会問題について情報を交換し、共通点を探る(ディスカッション)

 4人グループを作り、1回の授業で2つのトピックを扱う。それを4回(8つのトピック)行う。

 例:ゴミ問題:スカベンジャー、政府、ゴミ処理業者、近隣住民、それぞれの立場での記事を用意し、どういう解決策があるかを話し合う。

⑧ディベートを行う

 ⑦を踏まえて、社会問題について背景知識があるので、それを使ってディベートを行う。

⑨プレゼンテーションを行う

 A 教室の中でインタビュー活動を行う。

 B 少子高齢化について。教員が解決策を4つ提示し、4つの中でどれが一番よいかを4人グループで話し合う。

 C Bの結果を踏まえ、プレゼンテーションを行う。

⑩講義を視聴してメモを取る

 例:TED(https://www.ted.com/talks?language=ja)から、過去に行った内容と関連がありそうな8分程度の動画を5,6本選んで視聴。1本見るたびにメモを突き合わせて情報を足していく。

動画の選定基準は、同じトピックまたは構成のもの(例:トピックはバラバラだが構成がすべてCompare & Contrast)

⑪交渉する(例:Refugeeの受け入れについて)

 A  動画視聴による基本情報の獲得

   Refugeeに関する動画を8本視聴してメモを取り、ディベートの参考資料とする。

 B 読解による追加情報の獲得1

 C ディベート

 D ディスカッション(想定:青森県が3000人のRefugeeを受け入れなければならなくなった。3つの市で何人ずつ受け入れられるか?6人1組(2人で1つの市を代表)で、市としての方策を見つける)

 E ネゴシエーション(3つの市で協議する)

 F 読解による追加情報の獲得2(安易に同意するのを避けるため、追加情報として、受け入れ人数が4500人になったという想定に変更)

 G ネゴシエーション2

 H ポスタープレゼンテーション

 

※⑪は統合型の活動。各活動にかける時間数の目安は下記のとおり:

 Aで1コマ、B~Cで1コマ、D~Eで2コマ、F~Hで2~3コマ

 FGHは時間的余裕がないときは省略することもある。(今年のコロナによる短縮授業等)

 

6.評価とポイント

スピーチ(ディスカッション)、プレゼンテーション、ディベート、ネゴシエーションのルーブリックを利用し、評価している。スピーチに関しては、評価基準を示すReference Videoを作成してある。(前任校が英語力を強化する指導改善の取り組み指定校に指定された際、Benesseがスピーチのレベルを測るためのInstruction Videoを作ってくれたので、それを参考に作成した)

年3回(令和3年度は1学期につき1回)のパフォーマンステストに関しては、項目別(Fluency, Accuracy, Attitudeなど)のスコアを3人の教員が、まずそれぞれスコアリングシートに記入する。各生徒に対する教員ごとの平均点とクラスの平均点を見比べて、最終的なスコアを3人で評価し、生徒に返却しフィードバックとしている。

 

7.授業を実施した上での成果と課題

■効果

以前は医学部を目指す生徒が多い理系の方が模擬試験やGTECでも英語のスコアが高かったが、文型への「表現探究」導入2年目でGTECのスコアが逆転、さらにその2年後には模擬試験でも文型優位の成績となった。

言語学者のStephen Krashen(2013)の研究によると、Grammarに焦点を当てた指導とcomprehensible input を行った生徒の間では、後者の方がIELTSのスコア(Grammarを含め)がよかったという。意味のあるやり取りに焦点を当てている「表現探究」もこれと同じ理論が当てはまるのかもしれない。

 

■課題

通常、2年次の「表現探究」の一部内容を前倒しで1年次に行っている。1年次に導入することで中学校からの延長線上で指導が可能である。それができない場合、文法重視になった生徒の抵抗感を拭い去ることから取り組まなければならない。その意味で1年次から表現活動に取り組む大切さを痛感している。

 

8.授業を参考にする先生へのメッセージ

学習指導要領の「論理・表現」には、「情報や考え・気持ちなど」のやりとりと記されており、パターンプラクティスの場面でも無味乾燥な反復練習ではなく、定型句を用いて自分の考えを伝える活動にする必要はある。

「論理・表現」の教科書の種類によっては文法中心にならざるを得ないものもある。その場合、どうやって意味ある表現活動を盛り込むかがカギとなる。授業の後半で10分程度のアクティビティを入れる、レッスンごとに活動を入れる、長期スパンでプロジェクト型にする等の工夫で、知識伝達とドリルに終始する授業から抜け出すことは可能だと思う。

「論理・表現」の授業を活性化するためには、ある程度の準備(レッスンの予習ではなく、本来の「教材研究」)が求められる。まずは、身につけさせたい態度と能力を確認し、次に、ネタ探しに入る。どのレベルのアウトカムが欲しいかで、与えるネタも変わってくる。できるだけ一貫したトピックで、違う媒体(音声・動画・記事等)の教材を数種類準備する。それをディベート用、メモテイキング用(そのメモを使って次の活動を行う)、アウトライン用等に分ける。トピックに一貫性があることで、生徒は異なる文脈で同じ語彙や表現に触れることになり、定着が進むと同時に視野の拡大も期待できる。異なるトピックでアクティビティを積み重ねると、パターンプラクティスになりがちで、1つのトピックを掘り下げることができなくなるので注意が必要。そうなると、当然アウトカムにも深みは期待できない。「英語を使って何を学ばせるか、何を考えさせるか」という視点を盛り込んだ方が、授業が活性化すると思う。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

国際教育ナビ編集部員による特集記事です。先生方にお寄せいただいたご意見の中からテーマを選出し、当編集部ライターが取材の上記事を作成しています。

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