多読を促すリーディングマラソン+良質な入試英文の活用

最終更新日:2023年2月16日

1.授業概要: 授業の対象者、人数、目的

レベルでクラスを分けており、1クラスは20名~40名台。地方国公立大や私立大を目指す生徒~国立私立最難関大を目指す生徒まで在籍している。

 

2.課題意識: どのような課題を乗り越えたいと思ったか。また、課題解決のポイントがどこにあると考えたか

長文問題集について、優れたものはいろいろあるかと思う。最近は音声も手軽に利用できるものがあり、そうしたものをいろいろと利用させていただいた。だが、私の中で「核」としているものは独自教材である。背景には以下2点の課題意識がある。

・①問題総量について
一般的な長文問題集は、見開き両面くらいで収まる程度の長文を読んで問題を解く、それが15個くらいある、という物がたくさん出回っている。最近の流れで多読と速読をさせたいというコンセプトもあり、速読教材も多く出ている。

小説のようなものを多数導入し、それをたくさん読ませる形で多読をされている学校もある。当校でも中学からOxfordなどのサイドリーダーで多読の授業を取り入れて、年間6冊くらい読んだことがある。それぞれ利点はあるが、サイドリーダーでは受験問題とは文の構造や量など傾向が違うため、受験が近づくと、受験レベルの中でもやや簡単で読みやすいものを大量に読む作業をさせたかった。だが、大量に読ませるには何冊か買わせることになってしまう。

・②内容について
一般的な問題集は、音声がついていたり、利用しやすい解説がついていたりと、教員目線では「使いやすい」。でも、文法項目で深堀りしたい問題を入れるなど、教員目線で加工されていることも多い。

出版社側が編集して実際の入試問題から変えていることが多く、それが必ずしも良いものになっていないことが多いと私は感じる。生徒が素の力で英語を見ることによって見えてくるものが、いろいろなものが付くことで逆に見えなくなってしまう気がするからだ。

大学受験の問題はよく考えられていて、内容的にも興味深く印象深い。編集を加えてしまうと実際の入試問題のライブ感や生々しさが失われてしまうとも長年感じていた。教員目線の加工などが加わっていない新鮮な状態で演習した方が、生徒も本番で同じ力を発揮できる気がする。

また英文のトピック自体も、問題集のものは、やや平板なものが多いように感じていた。例えば、最近は環境問題が話題だから、といった理由で英文が選択されている。「英語」の学習としてはそれで良いのかもしれないが、読んでいてつまらないものも多いように思う(出版社側は、文法項目などに重点を置いて問題を選ぶことが多いため、そういう傾向があるのかなと思う)。
だが英語に限らず、問題として出題したということは、大学側の出題者にはおそらくある程度、「その文書」を伝えたいという思い入れがある。単に受験問題として使うだけではなく、この文章自体を使いたいのだろうと思う。実際の問題の方が内容も面白く優れているものが多いと思う。

そのため私は、一般的な問題集よりも、「実際に出題された大学過去問」を利用して各大学で実際に出された問題をそのままやらせたい。

 

3.授業設計方法とポイント: 学期における構成、必要に応じて学生等からの取得情報や他教員・教科との連携

課題解決のために独自の長文問題集を2種類作成して使用している。

課題①の解決には「リーディングマラソン」。基本的には自宅での自習教材だが、例えば教員が出張など不在で時間がある時に自習教材として、各自が自由にリーディングマラソンを進める時間にすることもある。

課題②の解決には、「大学入試過去問を利用した長文問題集」。生徒が予習として解いてきて、授業内で教員が解説する形で使っている。

 

4.授業準備とポイント: 準備するテキスト、ITツール等

・①「リーディングマラソン」
版権が切れている教材等を利用して、長文問題をB4用紙1枚のプリントにして、大量に集めて問題集にした。「標準編」と「応用編」と2種類作り、それぞれプリントが100枚ずつ、合計200枚。「大量に読ませたい」という視点から、長文問題を100題はできるように準備した。最近は30枚くらいで1冊にまとめていた。

レベル設定は、標準編は高校入試~共通テストレベル、応用編は共通テスト~国立大学入試レベル。標準編がある点が重要。生徒は初めから全員が難関大を目指すレベルではなく、英語が苦手な生徒も半数くらいはいる。多読は辞書を引かず、推測して読んでいくことが重要だが、苦手な生徒たちにとってレベルが高い英文の多読は負荷が高く続かない。一番苦手な生徒でも読めるように、前半50枚は中3が読めるレベルから選んだ。辞書を引かなくても自分でもできた経験をかさねて、英語の苦手感をなくしたい。50枚あたりからは、共通テストレベルになってくる。そこまでは全員が到達できるようにレベルを設定した。

構成は、すべてB4表面1枚で完結させ、基本的に左側に英文、右側に問題。内容はさまざまだが例えば、見開きの左側に300語程度の長文、右側に内容や文法を問う問題を5問程度、全体把握の選択問題が4問程度、のような構成。回答目標時間も記載している。表紙部分のサンプルは以下。

表紙部分のサンプル

・②「大学入試過去問を利用した長文問題集」
長年受験生を指導していると、「この英文は読ませたい」というものが多く蓄積されてくる。高3の指導をしていると、さまざまな大学の問題を、毎年多量に解くことになる。私は、東京大学、東北大学、筑波大学などの問題はほぼ毎年解いており、その他の旧帝大や早慶上智の問題、医学部の問題、AO入試の問題なども、生徒がそこを受験するならば、どれも解く。大量に解いている中で蓄積された、「この英文はぜひ生徒に読ませたい」という問題を集めて、独自教材を作成した。

視点としては、問題形式や内容が優れていることもあるが、何よりも、「文章の内容が優れている・印象的で、生徒に読ませたい文章である」ということ。理系・文系両方の内容をバランス良く含みながら、旧帝大+一橋筑波、および早慶上智のこの10年くらいの問題を利用した。

冊子にまとめる単位は特に決めておらず、1つの問題集が終わる頃合いを見ながら、まとまった時間が取れるタイミングで3〜4カ月分の問題集をまとめて準備している。

 

5.授業実施とポイント: 授業の具体的な進め方、授業中の説明や求めたアウトプット

・①「リーディングマラソン」
高2の冬~高3の夏休み前くらいまでの半年弱の間に取り組ませた。宿題としての自習教材だが、マラソンと名付けたとおりで、こなすペースは指定せず自分がやりたいだけやる。ズルをする生徒がでないよう強制はしないが、50枚までは十分余裕のある期限を設けて義務としてやった。まず30枚を終わらせて、達成したら次は頑張って50枚終わらせる、少なくとも50枚は必ず全員やりましょう、というように。そこから先は自分で好きなだけという形で促している。でも習慣化されていると続けてできて、早い生徒は1日5枚などぐんぐん進めて、100枚やりきった生徒も少なからずいた。応用編まで進んだ生徒も。このように実際にやれる取り組み方も考慮した。

・②「大学入試過去問を利用した長文問題集」
高3の夏前くらいから高3冬まで、国立私立難関校を受験する生徒のクラスにて利用した。
生徒は事前に問題を解いておき、授業では基本的にその答え合わせをするような形で、教員が長文と問題の解説をして進める。最後に解答例を配る

1回の授業で1つの長文が原則だが、終わらなければ1つの長文で授業2回分を使うこともある。リーダーという授業を使って取り組んでおり、その授業が週3回あるので、週3本は、長文を綿密な解説付きで細かく読むことになる。

指導では、英文のみならず、背景解説も含めて、単に「英語」を学習しているのではなくて、アカデミックな内容に関心が行くように心掛けた(最上位大学が求めているものは、そういう内容だと考える)。難関大は教養を求められる問題がほとんどで、単なる英語でなくアカデミックな内容に関心が無いと攻略が難しい。人文社会関係は特にそう感じる。例えば哲学的なトピックを扱う問題が出たり、ある大学の医学部では最新の医学論文(New England Journal of Medicine)からよく出題される、など。そのため英語に限らず知っている範囲で背景知識も交えて、文章が伝えようとしていることを独自プリントを作って教えたりもしている。

 

6.評価とポイント: 授業内外での評価方法、フィードバック方法

・①「リーディングマラソン」
30枚や50枚など一定の区切りが終わったところで提出してもらい、教員がハンコを押して返している。それにより生徒単位で、30番まで終了、50番まで終了、と進度を把握する。50枚まで終わったら評価点として50点のように、他の提出物と同様に、評価にポイント加算している。

・②「大学入試過去問を利用した長文問題集」
高3の後半は特に評価は考えていない。入試に向かってどれだけ力を付けるのかということが全て。高3の秋の定期テストで問題集から出題することはまれにあるが、評価と絡めるつもりはなく、単純に力を付けるための問題集として使っている。

 

7.授業を実施した上での成果と課題: 想定通りに進んだか。また、得られた成果や判明した課題

・①「リーディングマラソン」
標準編は、高校入試問題レベルからのスタートなので、当校で英語が苦手な生徒でも十分に取り組むことができる。生徒にとっては、「100」という数を目指してやることで達成感があり、少なからずの生徒が熱心に取り組んでくれた。数字の目安を作ると、ゲーム感覚で達成したくなるのかもしれない。生徒がムリなくできるレベルから、ゲーム性や少しずつの達成ステップを用意して習慣化と自信につなげると、その後は自主的に進められる生徒が多かった。


50枚〜100枚やった後の模擬試験の結果で、点数が上がった感覚があった。高3の夏前くらいまでにこれをやることで長文力が一定程度にまで上がるので、その後に赤本に取り組むと、スムーズに接続する印象をもった。2011年頃、2013年頃、2019年頃と3学年導入し、どの学年でもある程度手ごたえがあった。たくさん読ませることができたし、生徒をやる気にさせ、何枚までできたという達成感も味わえる。

・②「大学入試過去問を利用した長文問題集」
内容に多少関心を向けさせられたかなという感覚はある。ただ単に「これはこんな構文だからこんなふうに訳す」のような技術的な話以上のことは伝えられたと思う。一辺倒な解説を読むよりは、楽しんで取り組めたのではないか。ある程度アカデミックだったり、少し物語だったり、印象深いものを選んだつもりなので、願望も含めてだが、成功できたのではないかと思う。

・独自教材全般
生徒はその時期その時点において、まるで毎回違う。去年の生徒と今年の生徒、3年前の生徒はそれぞれ、ある一定時点でやらせたいことや達成度が全然違う。教材を自分で作れば、違いに合わせてオーダーメイドにできる。現在の生徒にとって必要なこと、身につけたいこと、すごく読ませたい文章、あるいは要約させたい、難しい英訳をさせたい、英語で大量に書かせたいなど、その時に教えたいことに応じて自由に作れるのがメリット。おおむね想定通りに進められたと思う。

 

8.授業を参考にする先生へのメッセージ: 上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

・①「リーディングマラソン」
「数の達成」が生徒のやる気に非常につながったので、実感としてマラソン形式は効果がある。

・②「大学入試過去問を利用した長文問題集」
実施されている先生もおられると思うが、オリジナルで作ることで、型どおりではなく、自分が本当に教えたいことを実践でき、授業効果も高まる可能性がある。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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