生徒の「つながった!」を引き出す教科横断型授業の実力とは?

最終更新日:2024年2月29日

生徒が能動的に考えて取り組むアクティブラーニングを重視する土屋進一先生は、他教科の教員とコラボレーションするなど、生徒の積極性を引き出す授業に注力されています。しかもその教科横断型授業で生徒は目を輝かせるほどに前のめりになるのだとか。はたして土屋先生はどのように独創的な授業法を考案し、実践しているのか背景をお伺いしました。

自立心を持って学ぶ力を育む教科横断型授業とは?

―――土屋先生は生徒の主体性を引き出すことに注力される授業を展開されています。日々の授業において大切にされていることがあれば教えてください。

(土屋)意識しているのは主体的に学ぶ力を育てていきたい」ということです。教員が教え込むことで、たしかに成績が伸びる可能性はあります。ですが高校の3年間で学びが完結するわけではありません。卒業後も生徒は自ら学習していく必要がありますし、そのためにも自立心を持って学べる力を育てたいと思っているんです。

生徒と向き合う3年間でどうにかしてあげたいという強い気持ちを抱く教員は多いと思います。しかし私はそうは考えていません。もっと気を楽に種まきをすればいい。そう思っているんですね。なぜならば、日々の学びを高校在学中に開花させる生徒がいれば、卒業後に進む大学や社会で花を咲かせる生徒もいるからです。日頃の積み重ねが実を結ぶタイミングは生徒次第。ですから焦らず、やがてくる日のために種まきを行うのが私の仕事だと思っていて、主体的に取り組む姿勢を身に付けてあげられさえすれば、あとは自発的に伸びていくと。そのため授業ではいろいろな体験をさせてあげたいですし、他教科の教員に参加してもらう教科横断型授業もその1なのです。

―――生徒の自立を促す授業は本当に素晴らしいと感じているのですが、そのような授業スタイルを取り入れたきっかけはあるのでしょうか?

(土屋) 授業改革をする中で得た1つの気づきがきっかけになっています。私が本校に着任した21年前はまだ文法訳読の授業が展開されていたのですが、やがてアクティブラーニングが世の中に浸透するようになっていきました。自分も授業を衣替えしようと試行錯誤を繰り返し、その過程で生徒の表情が急に変わった瞬間があったのです。それは教科横断型授業をしていたときのことで、生徒の様子を見て、理想とする授業に近いなと感じました。

以来、同様の授業を続けていくと、生徒が主体的に授業に向き合うような変化が見られました。表情も豊かになって、笑顔を見るとこちらもますますやる気になって。なるほど、教え込むのではなく、生徒の知的好奇心を引き出してあげるのが本当の教育なのではないかと、そのような気づきを得たのです。

―――生徒の知的好奇心なりを刺激するために、従来型の授業を超えて独自のスタイルを構築されたのですね。

(土屋) もちろん日々の授業でも生徒の知的好奇心を刺激する工夫や仕掛けをしようと心掛けています。ただ大きなところで教科横断型授業を1つの学期に1回は行うことを念頭においています。すごく生徒がいい表情をするんですよ。その様子が私はとても嬉しくて。

そもそものきっかけは、授業の準備として生物をテーマとする大学の入試問題を解いていたことにあります。背景知識が足りない分、読解ができないという体験をしまして。わりとよくあることで、往々にして自分で調べるのですが、そのときは生物の先生に聞きにいったんですね。すると、その説明が非常にわかりやすかったのです。そこで私が得た感動を生徒と共有したいと思い、ゲストティーチャーとしてきてもらいました。そうしたら、生徒の目が輝き出したんです。

少しおもしろい仕掛けも施しました。私と英語がそれほど得意ではない先生とでペアワークを行ったんです。そうしますと、英語が話せる私を相手に、その先生は頑張って英語を話すという状況が生まれたのです。生徒たちはその様子が面白かったのか、非常に盛り上がりました。頑張って英語を話している生物の先生が可愛らしく思えたのかもしれません。

先生同士の仲の良さや、先生といっても完璧ではないのだな、というところが垣間見えたりして、生徒との距離が縮まり信頼関係を築けるようにも感じました。結果、学習意欲の喚起につながる印象を受け、以降も数学、国語の古文、世界史、日本史、家庭科など、いろいろな教科の教員に個別に依頼し、コラボ授業を行ってきたんです。

古文とのコラボでは、『源氏物語』の中の「桐壺」において、原文とその英訳を比較し、グループワークを通じて生徒たちが原文と英訳の違いを分析しました。最終的に生徒たちはオリジナルの英訳を作成し、英語と古典の統合的な学びを通して、文化理解と言語能力の向上を試みました。参考映像もあるのでぜひご覧いただければと思います。

*参考映像:「他教科の学習内容を英語で学ぶ授業で、生徒の思考を深め、複眼的な視野を養う」(VIEW next ONLINE)

“つながった”瞬間の生徒の表情が、とても嬉しい

―――教科横断型の授業は、具体的にどのように行っているのですか?

(土屋) 大きく2つありまして、1つが教科書の内容を深掘りしたいときです。以前、教科書に「gultamate(グルタミン酸)」という言葉が記されていたときがありました。その言葉を前にわかることといえば「うまみの成分」であることくらいで、深い知識はないわけです。そこで化学や生物を少し深掘りすれば「グルタミン酸」という言葉がより自分のものになるだろうと思い、生物の先生に教わりにいきました。するとその先生は英語で説明してくれて、コラボ授業もレベルの高い内容にできたのです。それがパターンの1つ。もう1つは、テストの後や試験の範囲を教え終わった後など、幾分余裕があるときに特別授業として行うというパターンです。

生徒の中で化学反応が起きやすいケースは、他教科で同じテーマの授業を行っているときになります。たとえば物理の授業で「速度」を習ったとします。「速度」を表す英単語には「speed」と「velocity」がありますが、英語の授業だけでは両者の違いが今ひとつピンとこない。ですが、物理で方向を伴う速度が「velocity」であり、動作や行動の速さを意味する「speed」とは定義が異なることを学んだタイミングで英語の授業でも扱うと、両方の授業内容がつながり、「速度」に対する理解が深まっていくんです。「あっ!」というような表情を浮かべるので、生徒たちに化学反応が起きている状況は見ていてわかります。この瞬間が、とても嬉しいのです。

―――たしかに両方の教科における理解度が深まりそうですね。しかも忘れなくなりそうです。

(土屋) 理論付けするとですね、慶應義塾大学の今井むつみ先生が提唱するスキーマの理論になります。スキーマとは取り入れた情報を理解し記憶するために大事な役割を果たすもので、持っていることも意識されない「暗黙知の塊」だとされます。私は「背景知識」と理解しているのですが、日本語には日本語の、英語には英語のスキーマがあり、転用するとうまく機能しないことがあるんです。そのため表面的な言語だけを学ぶのではなく、言語に潜む背景知識を一緒に学ぶことによって、言語学習はいっそう効果的になっていくのです。

―――言語の背景知識を理解しているとコミュニケーション力も高まりそうです。

(土屋) おっしゃるとおりですね。それに高校生ですから今は間違えてもいいと思うんです。たとえ間違えても、この表現はこのような場面で使わないんだな、という学びを得られます。なぜダメなのかということも合わせて覚えていくと、きっと忘れることはないですよね。

―――トライして失敗するということが躊躇なくできるのは、本当に中高生ぐらいまで。いい意味で挑戦できて失敗しても大丈夫という環境は重要ですね。

(土屋) そこでしか学べない、経験できないという環境には学校の存在価値も感じます。朝早く起きて、電車賃も払ってなど、いろいろと大変なことを乗り越えながら登校しているけれど、良い経験ができたと思ってもらえると、教員としての存在価値も生まれる。そこは意識して授業を行うようにしています。

伝わる英語で世の中を平和にしたい

―――教科横断授業の特徴が深く理解できました。もし他に留意されている点があれば教えていただけますか?

(土屋) 月並みですけれど声掛けを大切にしています。一例に、プレゼンテーションの授業があるのですが、なかには緊張する生徒がいるんです。きちんと準備をしてきたのに頭の中が真っ白になってしまったり。大人でも経験することですよね。そこでもし失敗をして落ち込んでいる生徒がいたら、次があるよ、先生も似た経験をしているよ、成功させるためには今回以上の準備をする必要があると学べたね、という声を意識的にかけるようにしています。

そのためにも日頃から生徒の表情はよく見るようにしていて、次の機会に前回の失敗を活かして少しでも前進ができていたら全力で褒めます。その成功体験を一緒になって喜び、手放しで賞賛するんです。そうすると動機づけやモチベーションアップにつながり、次の機会に向かう後押しをすることになります。やはり学びに向かう力を全力で応援してあげるということが非常に大事。生徒は達成感や勇気を得られ、成長していくんです。

―――生徒さんとの信頼関係構築を重視されているんですね。最後にもう1つだけお伺いしたいのですが、各地での講演や教員研修などでご自身の授業法を伝える取り組みをされています。これは他校の教員にも生徒が主体的に学ぶ授業を取り入れてほしいという思いからなのでしょうか?

(土屋) はい、そうなんです。さらにいうならば、世の中が平和になってほしいんですね。そして生徒に幸せになってほしいんです。かなり漠然としたことをお話ししていると思いますけれど、こうした平和や幸せを叶えるために、伝わる英語でコミュニケーションできるようになってほしい。そう考えています。

日本語なまりでいいし、ある程度間違っていても構いません。言語の壁を超えていくことができれば、民族や宗教の違いなどを超えて、平和な社会を作れるのではないか。そう思いますし、英語教員はその一端を担っていると思うんです。

半面、私が教えられる生徒数には限りがありますので、少しでも私の授業法を取り入れてくださる教員の方がいらっしゃれば、その方を通じてより多くの生徒に思いを届けられるのかな、と。そのような思いで、研修セミナー等の講師などを引き受けているのです。

写真:H.Shima/取材・構成:小林慧子/記事作成:小山内 隆

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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