【課題内容は生徒次第】主体性を育むためのバカロレア式授業ノウハウ

最終更新日:2024年5月1日

 

埼玉県で初めて国際バカロレアの中等教育プログラム(MYP(※1))認定校となった昌平中学・高等学校。MYP導入を牽引されたメンバーの1人である戸恒先生に、非バカロレア校でも活用できる、生徒の主体性を引き出す授業ノウハウについて伺いました。

※編集部注1 MYP課程とは、11歳から16歳の生徒を対象とした国際バカロレアの教育プログラムのこと。Middle Years Programmeの略。


バカロレア教育「後」への問題意識

―――御校のバカロレア導入の状況を教えてください

(戸恒)本校は、2017年からバカロレアの認定校となりました。IB認定校は、「質の高い、チャレンジに満ちた国際教育に信念を持って取り組む」という理念を共有する学校です。昌平中学・高等学校も、このような教育に取り組むことが、生徒にとって大切であると信じています。最も大きな特徴は各単元の探求テーマに基づき、「知識」に加えて、「概念」や「学習手法」も学ぶという点です。これによって学力だけでなく主体性も育ちます。

中学校では、学校全体がMYP課程ということで、英語以外は母国語でバカロレア形式での授業を行っています。一方で、高校では、バカロレアコース(IBコース)の生徒の授業だけがバカロレアスタイルです。高校のIBコースに入るには、たとえ昌平中学校でバカロレアのMYP課程教育を受けていてもあらためて受験が必要となるため、ほとんどの生徒はバカロレアではない一貫コースに進学します。その場合、高校では従来型の授業が中心になるため、もったいなく感じた時期もありました。

しかし、IBで得た自分の勉強に対しての思考力や実践力は、中学の教育課程でしっかり残してあげられ、そのまま残るとも考えています。ですので、今では「中学卒業時点でバカロレア的な学び方・考え方を身につける」をゴールに教育活動を行っています。

IB科目「以外」もIB形式で

―――先生が行っている授業はどのようなものでしょうか

(戸恒)現在は、高校のIBコースの授業と中学のグラマーの授業を持っているのですが、今回は中学のグラマーでの授業法をお伝えしますね。

実は、中学のグラマーは、IB科目ではないんです。ただ、リーディングがIB科目なので、せっかくだったら全体的に整合性を持たせようとなり、グラマーもIB形式に近いスタイルで教えています。何事も自分で考えて進めていく方法ですね。

一昔前のグラマーの授業スタイルは、教師が説明をして、生徒に問題を解くよう指示してというほぼ受け身状態でした。しかし、受け身だと思考がアクティブな状態にはならないですよね。また、生徒にとって勉強は楽しいとは限りません。受け身の授業からの脱却と、楽しく英語を身につけ成績を上げるという目標をもとに、今の授業法を思いつきました。

まず、授業前の予習として「Research note」を用意させます。たとえば、次の授業までに動詞の使い方を調べるよう指示し、予備知識を「Research note」にまとめさせます。授業のはじめに、生徒がまとめたノートを机の上に置いて、みんなで教室を見て回ってシェア。クラスメイトに自分のノートを見られるという緊張感が動機づけにつながり、きちんとノートを書いてくれる子が多いです。

次に、生徒2~3名にみんなの前で予備知識を発表してもらいます。もちろん、発表内容が正しいとは限りません。理解不足の部分や間違い、他の生徒が疑問に思う点があれば指摘されます。発表者が答えられない場合、他の生徒が回答して助け合う場面もあります。

ここで生徒に伝えたいポイントは、調べてきた内容に間違いがあっても、調べてきた行為自体に価値があるという実感です。簡単に調べられるインターネットから引用してきたとしても、どの情報をノートに載せるかという主体性のある取捨選択をし、発表に臨む姿勢を大事にしています。つまり、人に与えられたものを学ぶのではなく、自分で学ぶものを自分で見つけてきてほしいんです。

その後は、発表者の説明を補足しつつ私から文法を解説します。あくまでも発表者の説明をベースにすることを心がけています。「先生ではなく、自分がクラスに新しい文法事項を説明したんだ」と自信と達成感を味わってもらいたいからです。私の補足説明で理解を深め、一単元終わったら、「Review note」と呼ばれる復習ノートに、友達のResearch noteや発表、授業や演習で知ったポイントをまとめてもらいます。

最後に、自分のノートを見ながら自分でできたこと、できなかったことを振り返り、各自にGoogleスプレッドシートに記載してもらっています。オンラインで行うことで、忙しくても隙間時間でいつでもコメントを返すことができるのです。

―――生徒の自主性をとても大切にされていますね

(戸恒)それがバカロレアのスタイルです。私の授業ではさらに、宿題も選択制にすることが多いです。基本問題だけ、応用問題だけ、どちらも、というようにレベルをいくつか用意し、提出期限も生徒に決めてもらっています。こちらが期限を決めて、押しつけられながら宿題と向き合っても意味がないので。そうすると意外にも、生徒がきちんと自分に合ったものを選んで期限通りにやってくるんですよね。

また、放課後に開催している講習も任意参加にしています。事前に何日には何をやるというように内容を知らせてあるので、自分がやりたいところを選んで参加してもらいます。講習内容によっては学年の60~70%が参加を希望することもあるんですよ。

このように、さまざまな場面で自分に合ったものを選んで学べるように工夫しています。すべては、自分の勉強については自分で考え決めるという主体性を持つようになってほしいという願いからです。

―――授業ではどのような教材を使っているのでしょうか

(戸恒)IB形式に近い教え方をしていますが、日本の教科書であるニュートレジャーの文法問題集を使っています。一つの単元で、Basic, Standard, Step Upのようにレベルが分かれているので、何周かするのに扱いやすいからです。ただし、教科書だけを使うわけではありません。

IB科目であるリーディングの授業では、教科書本体の「Read」のパートを導入の2時間くらいで使い、そのあとは教員が社会と自分たちのことに繋げるようなトピックに広げていきます。たとえばレモネードスタンドのトピック。アメリカでは、夏になると子供たちがレモネードを作りあちこちで売っています。その売上を小児がん治療のために寄付する活動がレモネードスタンドです。そこから「自分が社会に貢献できることは何があるか」を英語でスピーチしてもらったりしています。

このように、教科書にべったり頼るだけでなく、そこから新たなアクティビティの場を創造して日々授業を行っているのです。授業以外にも、定期的に英会話を校内で楽しむイベントなどを考えて生徒に英語に触れる機会を作っています。

学力差には3ラウンド授業を

―――現状の課題や問題意識は何かありますか

(戸恒)学力差に応じた授業をどう行うかという点です。英語が得意な生徒は、ちょっと背中を押せば自分から積極的に授業に参加してくれますが、苦手な生徒の巻き込みについてはもっと工夫できればと思っています。
ひとつの解決案として、来年度に向けてラウンドシステムの導入を検討しています。今は一つの文法について基本、応用、まとめ問題と順番に取り組んでいますが、それを3ラウンドにすると、苦手な生徒は基礎に集中し、得意な生徒は自分のペースで応用に取り組むことができる。ひとつの授業でどのレベルの生徒も対応できる仕組みを作って、生徒には自分のベストを見つけてほしいですね。

主体性を持った人間に成長してほしい

―――生徒さんにこうなってほしいという理想像はありますか?

(戸恒)今までお話してきたように、より主体性を持ってほしいですね。生徒たちはずっと学校の中で生きていくわけではありません。だからこそ、英語学習の先にあるもの、自分の力を自覚してより良くするにはどうすればいいか、自分のことを自分で考えて実行する力を身につけてほしいです。社会に出たときに、勉強はできなくてもそういうことを考える力がある人は仕事をする上で活躍できると思っているからです。そのような人材を育てていきたいです。

取材・構成:小泉純/記事作成:大久保さやか

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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