授業の8割が生徒の発話!アクティブラーニングの実践と効果

最終更新日:2024年10月18日

2019年に設立されたドルトン東京学園中等部・高等部は、世界標準の教育メソッドであるドルトンプランを実践する日本で唯一の中高一貫校です。
本校で英語を教え、副校長も務める布村奈緒子先生は、「失敗してもいいから発話をし、他者の言ったいい点を認め、自分の意見や意思をしっかり伝えられるようになってほしい」と言います。今回は、同校の特徴であるドルトンプランや、長年、言語活動に取り組まれてきた布村先生の授業法、今後の展望などについて伺いました。

選択は「とんがっていていい」

―――ドルトンプランについて教えてください。

(布村)ドルトンプランとは、約100年前に米国の教育家ヘレン・パーカストが、詰め込み型の教育に対する問題意識から提唱した学習者中心の教育メソッドです。現代の子どもたちに求められるのは、『能動的・主体的に課題と向き合い、他者と協働しながら解決する力』。ドルトンプランは、今の時代を生き抜く子どもたちに必要な、積極的に新しい価値を創造する意志をもたらす教育です。具体的には、「アサインメント」と呼ばれる学びの羅針盤を見て、生徒は自分の学習内容の意義や目的を知り、ゴールまでの道のりを見通します。「ラボラトリー」と呼ばれる学びの研究室では学習の目標や進め方を自由に設定して学んだり、自分の好きなことを探求したりすることができます。理系や文系などの型にはまらない選択の幅があるのもドルトンプランの特徴です。

また、本校では、高校2年生からほぼすべての授業が自由選択式となります。生徒自身の責任で、やりたいことを選択します。極端な話ですが、必履修科目である英語コミュニケーション1を高1で履修すれば、高2・高3は英語を選択しなくてもいいのです。卒業条件である74単位を修了していれば、あとは自由。空き時間だらけになる生徒もいますが、先生に話を聞きに行ったり、自分のプロジェクトに集中したりしています。大学と同じような形式なので、大学入学後も自由時間を有効活用できると思っています。

―――ドルトンプランで学んだ生徒はどのような変化を遂げますか?

(布村)教員への質問も「自分はこういう風に考えていますが、どうですか?」など、自立した内容が多いですね。自分の好きなことややりたいことが確立していて、その探究のためにあえて空き時間を作る生徒も多く、自律していると感じます。また、進路の幅も非常に広く、国立の医学部に行く生徒もいれば、美大に進学する生徒もいる。「就職に有利そうだから」という理由で受験科目や進路先を選ぶのではなく、選択は「とんがっていていい」と日ごろから生徒には伝えています。

他者を認め自分の個性を生かし誇り高く生きてほしい

―――先生が育成されたい生徒像はどのようなものですか?

(布村)いち教員としては、それぞれの個性を生かして自分に誇りを持って生きていける人間に育ってもらいたいです。自分のことをよく知りよく話し、他者のことも認められるようになってほしいですね。英語科教員としても、ディベートなどでは他者の発言を批判するよりも、いい点を認めた上で、自分の意見や意思をしっかり伝えられるようになってほしいと思っています。

必然性を持ったやり取りができるように

―――先生の授業について教えていただけますか?

(布村)私は英語コミュニケーションが担当なので、授業時間の8割を生徒が話す場にしています。教科書のテーマから派生した話題を深く考えさせる問いを投げかけ、思考の下地を作るためのリーディングを行います。ペアワークやグループワークなどを通して、生徒がひたすら英語で話し続ける環境を作っています。

―――どのようなテーマを扱っているのでしょうか?

(布村)現実の話題と繋げて、自分事化して考えられるテーマを学期ごとに設定しています。

2023年度前期は「環境」という大テーマの中で、「生物多様性」や「プラスチックごみ問題」を取り上げました。生物多様性では伊豆の修善寺を訪れるホームルーム合宿と繋げてみたり、プラスチックごみ問題では新聞記事を読み、意見交換を行いました。

さらに「自分事化」を深めるために、3つの工夫をしています。まずは、ピンポンディベートの実践です。生徒たちは必ず発言する順番がまわってくるので、必死で情報収集をするようになります。次に、多様な情報のインプットです。新聞記事などで賛成・反対の両方の意見を読むことで、自分の意見の所在がはっきりしてきます。3つ目は、常識に疑問を投げかける問いを立てることです。「プラスチックごみは減らすべきか?」への答えは「減らすべき」が一般的ですよね。しかし、「本当にそうなのか?」という問いを立てることで、生徒は真剣に考えるようになります。

―――授業で目指すゴールは何ですか?

(布村)「必然性を持ったやり取り」ができることをゴールにしています。そのために、スキーマを活性化させることを非常に重要視しています。スキーマとは、自分の頭の中のにまとまって記憶されている既知の情報や知識を指します。このスキーマを新たな話題と関連付け、活性化することがスキーマの活性化です。私の授業では、読解などをしてもらう前に、テーマについて思考を巡らせるブレインストーミングをします。英語だけでなく、他教科で学んだ知識・情報とつながるようなタスクを設定し、生徒同士が情報のキャッチボールすることで、「この問題はこれと関連しているな」「たしかにこれは現実でこうなっているな」といったことに気づきます。このような認識を生み出す時間を大切にしています。

―――まさにアクティブラーニングですね!

(布村)そもそもその意識はなかったのです。私の考えを実現する言語活動の授業を組み立て実践していたら、後から「アクティブラーニング」や「CLIL」と言われるようになりました。

言語活動の効果:人間関係・深い理解・発話への自信

―――言語活動の意義や効果は感じられますか?

(布村)そうですね、大きく3つあります。
1つ目は、ポジティブな人間関係が構築できるようになること。生徒同士が話をする中で、他の生徒の言った内容が面白かったなと捉え、お互いの意見を認め合う関係性が構築できるようにしています。

2つ目は、難しいテーマについて母国語でなく第二言語で話すからこそ、深い理解につながること。社会問題などを日本語でディスカッションすると、ニュースなどで見聞きした専門用語などを使いがちですよね。しかしその言葉の意味を「なんとなく」でしか理解していないケースも珍しくありません。それでは表層的な議論にしかならず、問題の本質や生徒自身の考えを深めるところまで行かない場合が多いように感じます。

その点、第二言語であれば、自分が理解している語彙のみでのアウトプットなので、思考もシンプルになります。また、伝える際は相手が理解できる言葉に落とし込む必要があります。さらに、自分の調べた内容が相手に伝わらなければ言葉をかみ砕き、説明しなければなりません。このような場面をあえて作ることで、生徒自身の理解を促せると考えています。

3つ目は、間違えを恐れずに発話するようになること。英語学習の大きなハードルは、「間違えたらどうしよう」と考えるあまり発話がなくなってしまうことです。しかし、こうなってしまうと、この時点で英語学習は終わってしまいますよね。

英語を学ぶのは、生徒の世界を広げるためです。必要なのは、「無理かも」というメンタルブロックを打破させ、生徒に自信を付けさせることだと考えています。そのためにはaccuracy firstで発話を遮るのではなく、fluency firstとすることが重要なのです。文法の正確性をつき詰めるのは、ある程度自由に英語を話せる状況になってからでいい。英語での発話に自信さえあれば、将来、たとえば仕事でチャンスが来たときに「英語に自信がないからできない」ではなく、「仕事内容がおもしろそうだからやってみる」という選択もできると思います。「できる・できない」ではなく、「やる・やらない」で選べる状況に、一部の優秀な生徒だけじゃなく、私の教えた全員がなってほしいですね。

世界中の人々と会話ができるコミュニティを作りたい

―――今後の展望をお聞かせください。

(布村)さまざまな国の人と、日常的に話ができるコミュニティを作ることが目標です。なかなか世界で起こっている事象に気持ちを入れて見ることは難しいと思うのです。しかし、たとえばガザやウクライナの問題などを、近隣諸国や現地の同世代がどう感じているかを聞けるだけで、当事者意識が芽生えます。そしてどちらか一方が完全に悪いわけではないという見方も学べますよね。世界で社会問題が起きたときに、直にその国の人と話ができるようなコミュニティを作るのが夢です。

取材・構成:小林慧子/記事作成:大久保さやか

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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