幅広い学力層に対応したオールイングリッシュ実践授業! 英語コミュニケーションで、生徒の英語力を育てたい一心で…
最終更新日:2024年6月6日
東京都立駒場高等学校の岩崎 純子先生は、「自分の授業を変えたい!」という強い思いから、教員として働くかたわらテンプル大学(日本校)に通い、授業のアップデートを重ねてきた実践者です。スキャフォールディングで理解のための安全ネットを敷きながら生徒に少し背伸びをさせ、オールイングリッシュの授業で英語力をつけさせる――。どのような授業法が有効なのでしょうか?
オールイングリッシュでの授業実践に取り組み始めて7年目を迎える岩崎先生に、コミュニケーション英語の授業実践状況と、背景にある思いを聞かせていただきました。
学力層に対応したオールイングリッシュ授業
——担当されているクラスを教えてください。
2023年度は高2を担当しています。英語コミュニケーションでは1クラス40名前後で、普通科を2つ、保健体育科というスポーツクラスを1つ受け持っています。普通科であれば3年生で全員英検2級程度、そのうち30名程度が準1級を取得できるレベルです。普通科より英語に苦手意識を感じる生徒が保健体育科には多いですが、わからないと聞き返してくれるなど、反応がとてもよく授業は活発です。
——教科書は何をお使いですか?
『ELEMENT』(啓林館)です。300〜600ワードの英文が多く収録されていて、まさに入試で一度に読む文量に近いです。教科書に加え、自作プリントとPowerPointを使って、授業を行っています。
最初の授業は予習厳禁!第1回目を「実践形式」にする理由とは?
(1レッスンの流れ)
——オールイングリッシュでの授業実践はどのような流れなのでしょうか?
初回は予習なしで参加してもらい、導入でイメージを膨らませてから本文を一気に読むという流れです。
たとえば今回の取材でお伝えする授業の導入では、タイトルの説明をした後、生徒の興味関心を引くために、教科書の内容を生徒の身近な話題に置き換えた質問(PowerPoint➀参照)から始まりました。隣同士で自分だったどうするか考えさせ、その後で、クラス全体で意見を共有します。
(PowerPoint①)
テーマに関心をもたせたところで、教科書の内容に触れていきます。読むときの手掛かりになるように、本文ポイントになる単語やフレーズを紹介します(PowerPoint②参照)。
(PowerPoint②)
ここで1レッスンを全部通して一気に読ませます。300~600語の文量を一度にすべて読むことで、生徒に「今の自分のレベル」を把握させます。
このファーストリーディングの際には、各パラグラフの質問が記載されたプリントNO.1を配付します。これにより、理解を伴って読めているかを確認させます。
(プリントNO.1) ※リンクをクリックするとPDFが表示されます
読解後はペアで答えを確認させることで、理解を深めさせます。その後、私が一気に解答を発表します。初回の授業ではアウトラインがわかれば十分なので、詳しい解説はしません。ひと通り終わったら、わからなかった単語を確認し一緒に発音します。そして最後に、「次回からはちゃんと予習してきてね」と予習プリントを配布します。
——生徒にとっては、初回の授業が「テスト本番」と同じ状況になり、初めての予習にもなるわけですね。予習を前提とする授業だと、予習をしない生徒はその時点で授業についていけなくなるからですか?
そうです。予習をしない生徒も授業で強制的に予習すれば、1回は目を通したことになりますよね。クラス内にはさまざまな習熟度の生徒がいるので、いろいろな形で生徒をフォローしたいと思っています。最近は、プリントにも「何行目にヒント」と示すなど、一斉授業で個別対応は難しくとも、苦手な生徒でも諦めないでやり続けられる工夫をなんとかしたい、というのが私の思いです。
生徒のスムーズな理解を促すために、PowerPointやプリントは細部まで作成
私の授業は全体の大まかな把握から細部への理解に向かっていきます。従って、1回目ファーストリーディングでのぼんやりとしたイメージを、2回目の授業では詳細な内容把握を通して具体化していきます。
この授業では、1レッスンの半分を扱い、➀アウトラインを平易な英語で説明するイントロダクション ⇒ ②クイズ形式で行う語彙チェック ⇒ ③並べ替えリスニング ⇒ ④段落ごとに作成された内容把握問題に解答 ⇒ ⑤本日の復習としてのリテリィング活動 の順番で実施します。
➀最初のイントロダクションでは、イメージを大切にするために絵を多く含むPowerPointを活用し(PowerPoint③)、本文の内容を平易な英語で説明します。
(PowerPoint③)
説明には、重要な語彙やセンテンスを含め、何度もリピートさせて覚えさせる努力をします。実は、このインプット活動は、⑤アウトプット活動であるリテリィングのモデルとしての役割も果たしています。
共有を通して全体像が掴めたら本文に入ります。私の授業方針は、最初に生徒に考えさせる ⇒ 考えたことをペアで確認させる ⇒ PowerPointで解答を提示する、を繰り返します。 ②語彙チェック、③リスニング、④内容把握問題もすべてこの形式に基づいて実施しています。
プレッシャーがかかると頭が回らなくなるので、英語の授業の中でもなるべく精神的な負荷をかけないようにしています。一人の生徒を当てるのではなく、ペアワークで答えさせるようにしているのはそのためです。生徒にも「ペアワークは助け合い運動だから、わからなかったら助け合え」と言っています。
④内容把握問題の解答では、本文を表示したPowerPointで英文をパラフレーズしながら説明します。その後、問題に解答していくことで、理解を深めさせます。また説明を簡潔にするために、青文字が主語、赤文字が動詞、黄緑色の帯はフレーズ、というように一目でわかるようなスライドにしています。
(PowerPoint④)
英語で授業を展開するために、見えないところまでいろいろな仕掛けをしています。このスライドでも、パッと見てすぐにSVがわかるようにしているのは英語を落ち着いて聞いていられるようにするためです。心の準備ができている状態で英語を聞けば、理解がしやすくなると思うので、その点は強く意識しています。
3回目はボトムアップで、文法やフレーズなどを中心に扱います。まずは短文でフレーズの学習をします。辞書学習を目的に、ターゲットフレーズの引用文を調べさています。それを含む課題をペアとクラス全体で確認した後で、「2分間で好きな短文を2つ選んで覚えなさい」と言っています。
文法の学習では、構造を考えさせます。構造をしっかり理解することで、正確な理解を図ります。その際には、下記のように設問を与えて(PowerPoint⑤)、考えさせた後で説明をしています。与えられた解答を写すだけだと記憶に残らないので、一度脳を刺激してから解答を提示しています。また訳の確認は、意味内容ごとに区切って、前から理解することを心がけています。
(PowerPoint⑤)
上記の表で示したように、初回は予習なし、2、3回目は1レッスンの前半、4、5回目はその後半になります。2回目は内容把握中心のトップダウン形式、3回目はフレーズ確認や構文分析のボトムアップ形式になります。最後に本文全体の要約を実施します。
要約活動で注意していることは、ポイントを外さないように書かせることです。そのためにアウトラインに必要な単語を示し、「これを全部使いなさい」と指示します。この活動の目的は、もう一度本文を読み返し、自分の言葉で表現させることです。生徒の読みを受動から活発な読みへと変化させます。また習った語彙を使用させることで、定着を図ります。今までのリテリィング活動もここで活かされます。
同じ範囲を異なる方法で、繰り返し学びます。1個1個の駒を丁寧にはめて、すべての駒が最後に揃うイメージです。各内容がスパイラル形式になっていて、最後に頂点に到達する感じです。
「一行ずつ読んでいる場合じゃない」身をもって学んだ、現代に必要な英語の読み方
——生徒のご反応はいかがですか?
現在教えている学年は、2年生になって初めて担当しました。これまでのやり方と異なるので、生徒に戸惑いがあるのではないかと不安に感じていました。しかし面談で直接尋ねてみると、英語が苦手な生徒からも「英語の説明を理解できている」と回答をもらいました。また「授業が本当に楽しい」、「英文理解に手応えを感じている」と言ったくれた生徒もいます。それぞれのやり方で、なんとかついてきてくれているのかと感じています。
英語は英語のままで把握したほうが処理能力が上がると思います。文章がやや難しいと感じる部分には、戸惑いが少なくなるように日本語を入れることもありますが、簡単なものはどんどん英語で把握したほうがよいと思っています。とくに現代は多量の文章を素早く読むことが求められる時代なので。
2022年度の共通テストで高得点を取った学生に、その秘訣を尋ねたら、「英語を日本語に置き換えずに、英語を英語のまま理解した」と回答が返ってきました。現在の共通テストは本文の内容を言い換えて解答する問題ばかりです。英文を英語でパラフレーズしていく授業形態は、日本語での説明よりも時間はかかるけれども、意義のあることだと自分に言い聞かせて、自分を鼓舞しながら、めげずにやり続けたいと思っています。
——私が学生の頃は、一文一文を訳していく授業が主流でした。でも、全文訳したところで全体の内容を把握できたかと言うと、そういうわけでもない。
私の授業では、読解の手助けになる質問を入れるように工夫しています。たとえば、一文ずつではなく、パラグラフ単位での質問をしたり、全体像を理解できていなければ答えられない質問を出しています。
——先生が出される質問文が、実はその文章を読むヒントになっているのですね。
そのとおりです。
——プリントとスライドを拝見すると、準備がかなり大変なのではないかと思いました。
たしかに大変ですが、これは私の思いです。前任校にいた頃、自分の授業を変えたくて、授業法を学ぶためにテンプル大学に仕事しながら通っていました。そのときに、ALTとして働いている級友から「どんなことを言っても、日本の教育は和訳中心の授業でしょう」と言われたのが大変悔しく、「日本教育の進化を示したい」と思う気持ちが、私のガッツの源です。
私は密かにですが、日本の教育を変えたいと強く思ってます。テンプル大学で大量の課題を読むことになったときに、「一行ずつ丁寧に読んでいたら間に合わない。ともかく読み通して、全体像を把握しなければならない」と痛感しました。これは生徒にも同じことが言えるのでないか。「量に対する保証」と「読む訓練」を与えないと、生徒が社会に出て世界に通用しなくなると思ったのです。
テンプル大学で、英語でエッセイを書いたり、ディスカッションをしたり、英語を使わざるを得ない状況では「どうすれば英語ができるようになるか」なんて言っていられませんでした。ただ無我夢中で大量の課題文を読み、レポートを書いていると、自分の頭の中で文章が構築し始め、次第にそれが発話につながっていったのです。だから、「書いて、発話して」の繰り返しが必要だ、そのためのアウトプット活動は、生徒にも必ず与えるべきだと身をもって感じたのです。
英語にしがみつけ!生徒に求める英語の学び方と教員が整えるべきバックアップ体制
——初見で全文を読む目標時間はどれぐらいに設定されているのでしょうか?
およそ100ワードに1分を目安にしています。今回の文章は本文が650語、設問語数が250語なので、読むだけで10分程度を目安にしてタイマーをセットしました。ただ、読みの遅い生徒にも一通り目を通してもらいたかったので、実際には15分とりました。読みの速い生徒は他の活動に着手しているけど、遅い生徒は時間内に読み終わらない、などやはり差は出ました。
——その場合、どのように対応されるのですか?
授業のペースは落としません。1日の授業進度は授業計画で決まっていますし、私の考えとしても、授業速度を落とすとその速度に慣れた体ができてしまうと考えています。生徒に歩み寄りすぎると、生徒が頑張り続けられなくなってしまうのです。スライド資料は必ずTeamsにアップしてバックアップ体制だけは整えつつ、授業のペースに生徒が慣れることを重視しています。
「どうやったら英語ができるようになりますか」と生徒から質問をよく受けます。「その質問自体が甘いです、英語はトレーニング教科です。だから野球選手が、毎日素振りを何十回もやって、フォームが完成するように、あなたも何度も練習を繰り返し、身体に英語を染み込ませるのです」と回答します。
述べてきたように、英語は慣れで、やり方次第だと思っています。だからよく「『Cutting Edge』(エミル出版)は難しい」と言われますが、上記のように英語に向き合う心構えを説明して、終わった後には「ね、難しくなかったでしょ?」とマインドコントロールをかけています(笑)。生徒自身が難しいと思うと本当に難しくなってしまうので、とにかく頑張らせることが大事だと考えています。
——非常に本質的な考え方ですね。英語コミュニケーションの授業を通して、生徒にどうなってほしいか、何ができるようになってほしいかが伝わってきます。
英語に限らず、「こういうふうに学ぶんだ」というのが高校生の内に身につけば、大人になってからも自分の中で「あれが有効だったかな、これが有効だったかな」と勉強法を選択しながら進めます。だから授業の中でも、方法論だけでなく、各活動の目的や意図も伝えています。
——英語や他言語の学習に限らず、社会人になってからも新しく何かを学ぶ機会は何度もありますよね。そういったときに自分で論理的に考えながら学習していくための、考え方の基礎になりますね。
「選択肢を与えておく」という感覚ですね。大学受験のためだけの授業ではなく、「学ぶとは何か」という本質的な思いは、心の中にあります。
取材・構成:小林慧子/記事作成:吉澤瑠美