教育トーク : 個別最適な学びのためのオンライン英会話活用法
最終更新日:2022年6月6日
プロフィール
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岩手県立大船渡高等学校 鈴木紗季
・岩手県立大船渡高等学校 教務課・英語科 ・英語教育において、子どもたちが、「学んだ英語」を「使える英語」にするための授業を目指して試行錯誤を重ねている。令和2・3年度はEdTech「未来の教室」実証事業やDMM英会話様のご協力をいただき、オンライン英会話を授業に組み込み、より実践的な授業を試みた。趣味はTEDTalksを見ること。
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こども教育宝仙大学・青山学院大学 五十嵐美加
2007年~和歌山信愛中学校・高等学校、2012年~慶應義塾大学社会学研究科修士課程、2014年~東京大学大学院教育学研究科博士課程、2020年~東洋英和女学院大学教職・実習センターを経て、現在、こども教育宝仙大学(実践英語担当)、青山学院大学(心理学応用演習担当)兼任。 修士課程在学中、英国オックスフォード大学への留学経験有り。
新学習指導要領が施行され、学校現場ではこれまで以上に「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させ、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が求められています。
しかし、一斉授業において個別最適な学びをどこまで実現できるのか、コロナ禍でいかに対話的な活動を取り入れていくか、という課題を抱えている先生方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、オンライン英会話を活用した授業を実践していらっしゃる岩手県立大槌高校の鈴木紗季先生に、個別最適な学びと協働的な学びを促すコツをお伺いしました。
従来の授業スタイルとオンラインを導入した授業スタイルをハイブリッド
(五十嵐)今回は、オンラインを活用した英語の授業ということをテーマに取材をお願いさせていただきました。全英連の大会でご発表された内容を最初に簡単に伺えたらと思います。
(鈴木)当日は、なぜオンライン英会話を入れたのかという背景を前提として紹介させてもらいました。日頃の授業における課題感として、文科省から出ている個別最適な学びというのが授業の中でなかなか展開できてないということがありました。それから、子どもたちが自分から学びたいという主体的な姿勢が育てられないということがありました。ここを何とかしてあげたいということ、そして、実際に使える英語を使うという狙いから、オンラインの英会話システムを入れました。
一斉授業とオンライン授業のメリットとデメリットを比較して、効果は大きそうなのでやってみましょうと。やらないでいろいろ考えるよりはやってみて、効果検証しましょうという形で導入しました。従来の授業のスタイルとオンラインを導入した授業のメリット、これからは、この2つをハイブリッド化した授業が求められていくんじゃないかなと考えています。
実際やってみると、いろんなことが見えてきました。ディベートで取り入れたときには、立論や反駁の原稿のネタや根拠を集めるためのインタビューをオンライン英会話でやってもらいました。日本という国と他国と比べて、多角的に1つのトピックについて見ていきましょうという流れです。ここでのポイントは、生徒たちが実際に英語を使いながらヒアリングをする形になるというところです。
生徒のワークシートに関しては、私の方からこれを聞いてほしいという指示をしたわけではありません。これは主体的な学びに関わっていますが、聞きたいことを自分で考えてきて、英語に訳してくるというところまで自分でやってきてねという話をしました。生徒は1対1の会話になるのでもう逃げられない、誰にも助けてもらえないという状況が起こるので、いろんなツールを駆使して聞きたいことや知りたいこと、また自分が欲しい答えをもらうためにはどう質問すればいいかということを考えてきてくれました。
ワークシートは全部生徒が自宅学習で取り組んできました。今まであまりこういうことはなかったので、正直驚きました。こんなにやってくるんだ、というのが正直な感想です。オンライン英会話だけでは1対1で終わってしまうので、その後、必ずグループワークで、聞いたことや学んだことをシェアをするという形をとりました。
もう1つの活動は英字新聞を作ることです。3つのトピックで2人の人に聞くという方法で、6つの記事で英字新聞を作成するという課題です。質疑応答で必要な表現は授業で練習して、次の時間に実際にヒアリングする。これを何回も繰り返して作った英字新聞がこんな形になります(実際の生徒の英字新聞を見せながら)。
(五十嵐)よく作られていますね。
(鈴木)そうなんですよね。得意な子は写真いれていますね。
そして、もう1歩進んで、教科書に書かれていることが真実なのかどうなのかをヒアリングしようということで、教育についての話題を取り上げました。アフリカで教育の制度が整備されてきたけれども、進学をするとなるとアフリカからどんどん人が流出してしまうという点が大槌町と同じ状況ではないか、と。制度が整備されることのメリットがある反面、弊害(進学先から地元へ戻ってこない等)も起こっており、その弊害は抑えられないのか、ということを考えることになりました。教科書に書いてあることを現地にいる人にヒアリングをして、解決策を模索したり、書いてあることの実態を調べたり、という活動をしました。ガーナなどアフリカにある国の方にインタビューする形で進めました。
これも生徒のワークシートなのですが、子どもたちにこれを聞いた方がいいと指示したわけではなくて、教科書に書いてあるのが真実かどうか、そしてそれに関連する情報を引き出してほしいということだけを言いました。実際、生徒は自分で試行錯誤しながらワークシートを作ってきました。
いろんな国の先生から情報収集し、情報共有の動機づけを高める
国に関しても、全員がガーナにつないでしまうと共有することも少なくなるから、いろんな国の人にヒアリング出来るといいよねと言いました。そうすると、生徒が自主的にカメルーンの子に聞いたり、いろんな国の先生にヒアリングすることで、各国の状況がシェアできたというのも、オンラインを通して実社会とつながるメリットだったかなと思っています。
使えるものは全部使うということで、ネイティブスピーカーが言った音声をスマホの音声翻訳機能にかけて日本語にするのもOKだよという話もしました。とにかく1対1の25分を自分でなんとかマネジメントをしてやって欲しいというふうな形でやりました。生徒もそれぞれ工夫をして、教科書を全部読みあげて、Is it true?みたいな形で尋ねて、自分が使える英語、持てる英語力を何とか駆使して頑張っていました。25分をなんとかやり切ろうと、非常に前向きに英語に取り組んだ姿勢が見えたと思っています。そして、そのベースにあるのはやっぱり自宅での予習復習の一生懸命さだったと思います。今まで出していたワークなどの課題はやらされ課題だったのに対して、オンライン英会話のための予習復習は主体的に取り組んできたということがかなり大きな衝撃でした。これも共有ツールを使って、生徒たちが出した課題や次に考えたいものをみんなでシェアするという活動にしました。一過性のもので終わらないように、連続した学びになるように、ということが狙いです。
英語、特に書くとか読むことに苦手意識を持っている生徒が多いけれども、そういう生徒も聞いたり話したりというのは好きなんだということも新たに見えた面でした。チャット機能も使えるので、聞いただけでは分からないけどスペリングをタイプしてもらったり、写真を添付してもらうことで、子どもたちの技能ごとの特性を、オンラインでいろんな方面からサポート出来るのも、個別最適な学びだったと思っています。
話をしていて自分が使ってる英語が通じたというのがすごく嬉しくて、次も自分の英語が通じるためにはどうすればいいかと考えたときに、いわゆる座学みたいなものも必要だよねというところに気付く。それで、今まで授業中、文法は苦手です、書くことが苦手ですと言っていた生徒も、「これ次の会話に使えますか!?」みたいな感じで、結構勉強に前向きになってくれたのが新鮮でした。使う相手がいて、学びがあると子どもたちも自分でどんどん学びのサイクルを回していくというのを実感しました。
個別では先生がその生徒の躓いたところを即座にフィードバックしてくれます。でも、一斉授業ではなかなかそのような展開が出来ない。けれども、オンライン英会話で実現できたという気がします。家庭学習のところでも、オンライン英会話の25分無言にならないようにするために、自分で一生懸命勉強してくるし、言いたいことが分からない場合は、これ何て言えばいいですかと質問をしてくることがありました。あとは、一般的な授業でよくある「日本人同士なのになんで英語を使うの」みたいな不満が解消されるということもあります。
(五十嵐)そう、それなんですよね。日本人同士なのになんで英語、という問題。
(鈴木)私もそこに違和感があって。日本語だったらぱっと通じるのに、何でこれをあえて英語にして、間違ってないかな、合っているかな、と思いながら使わなきゃいけないんだという問題ですよね。それが解消されるというところと、文化圏や背景が異なる人と実際つながって話すことで、当たり前だと思ってたことが当たり前じゃなくなるという、価値観が変わる経験ができたところも大きかったと思います。ディベートのところでもある国では2ヶ月夏休みがあるから、日本も同じように2ヶ月にしたらどうかという話になりました。最初はそれがいいよね遊びたい放題じゃん、みたいなところがあったんですけど、どうやらそうではないらしいという教育制度の違いにも気付くこともありました。その気づきが、コロナ禍のときに9月入学についての議論に結びつくということもありました。
ただうまくいかないこともありました。もちろん英語で話をするので話が続かなくて、最初は挫折しそうな子たちもいました。この生徒の躓きを座学のところでフォローして、言いたいことを言えないときの表現を勉強してみようか、という形でつなげていくサイクルを回していきました。
(五十嵐)非常に素晴らしい実践ですね。
(鈴木)私はどちらかというとあまり計画立てて綿密にやる方ではなく、やりたいと思ったことをやってみて、そこから検証しようというタイプなので、補助金を利用させていただく未来の教室の実証事業にも手をあげて、実際やりながら生徒と一緒に考えていきました。まだ改善していくところや、この後どういうふうにしていくかというところはまだまだ研究していかなきゃいけないと思っています。
探究学習とも親和性が高いオンライン英会話
(五十嵐)非常に勉強になりました。探究学習や教科横断的な学習とかなり親和性が高い授業だという印象を受けました。今、児童や生徒たちに育ませたい、育んであげたい力を育てるには非常に良い授業だな、と。私にも子どもがいますが、鈴木先生みたいな先生にあたったらいいなと思いました。楽しそうで。(笑)
DMM英会話を活用されてたということなんですけど、DMM英会話はいろんな国の先生がいらっしゃるという感じですか。だから、ガーナなどアフリカの国の先生もいるし、フィリピンの先生もいるし、みたいな感じで、いろんな国の先生を選択出来る感じでしょうか。
(鈴木)そうです。130ヶ国以上の先生が登録されています。EdTech補助金で契約させていただいているのは、ノンネイティブの先生方ですが、生徒たちにとってはネイティブと変わらない英語力のある先生方です。かなり多くの国の先生とつながることが出来ます。
英語が好きな子は、1日1回25分毎日使えるので、家にWi-Fi環境がある子は、1ヶ月に何百分も勉強する子もいます。良いところは学習の見える化にもなっていて、DMMの自分のマイページに行くと何分英語の勉強をしましたよというのと、その先生の振り返りレッスンノートを確認できるんです。ノートには先生からの励ましのコメントがあり、25分の会話の中で行われた単語学習やチャットも振り返ることができます。その時はなんとなく雰囲気でこんなこと言ってるのかなと理解したところを、家で辞書を使って調べて、あれで合ってたんだ、と振り返ったり。次の日に、昨日話した先生がこんなこと言ったんだけど、先生知ってる?みたいなことを言って、「知らなかった!」という話をして盛り上がったり。とても面白い取り組みになったと思います。
(五十嵐)日本にずっといると英語を喋る機会がなくて、私自身は、英語で授業をしていますが、私が英語を教えているのは週に1回です。大学生は2ヶ月休みがあるので、学期中ではない期間は授業でも英語を使う機会もなく、全然喋らない期間が続きます。そうすると、途端に「英会話力」が鈍るというか、喋れなくなってしまうので、喋る機会を確保するという意味で、私もオンライン英会話を契約しています。そして、オンライン英会話では確かに、「学習の見える化」がなされていますね。何時間やりましたということが確認できるので、今週はさぼってるとか、今週は毎日できてるとかが明確にわかります。私自身、自分の学習の振り返りに役立つなと思っているので、生徒さんたちもそういうものを活用できているというのは良いですね。
先生の実践と関連すると思うのですが、私の大学院生時代に所属していた研究室のテーマの一つが「教えて考えさせる授業」だったんです。詰め込み教育からの揺れ戻しでゆとり教育になって、そういう教え込む教育の後に全然教えない教育が一部の学校で流行りました。例えば「探究学習」といっても、例えば算数でも公式を教えないで、自分で見つけ出しなさいと。でも、そういう授業だと潜在的な能力が高い子や塾に行っている子はいいんです。でも、学ぶ意欲がないとか知的能力が低いとかではなくて前提となる知識がそこまで定着していない、スキルという意味でレディネスがないという状態の子はどうでしょうか。塾に行ってる子と比べると、そういう授業では途端についていけなくなって、さあ考えましょうと言われたても足場掛けがないから、なに考えていいんだろうとか、さあ探しなさいと言われたても、何テーマにしたらいいのか、どう考えていいのかわからない。「出来る子」だけワイワイ盛り上がって、出来る子だけに先生も注目しちゃって、「ああ出来たね」みたいな感じで終わってしまう。
そういう授業が一部で流行った時期があって、それに異議を唱えるかたちで、「教えて考えさせる授業」が提案されました。しっかりレディネスを整えるために、基礎的な、前提となる知識やスキルはきちんと授業の中で教えて、そのあとで教えたことが理解できているか、理解の確認をするわけです。その知識やスキルを使って、応用的な探究学習をして、最後にメタ認知、つまり、自分がどこまで分かっていて、どこが分からないのか、どこで躓いてしまったか、そういうことをきちんと振り返るように促します。
研究室のメンバーは授業を考案するときにはそういう「教えて考えさせる授業」を意識してやっていました。私自身も理想的な授業だと思っていて、鈴木先生の実践とも親和性が高いと思いました。まず、「さぁ自分でやってみなさい」と言われても難しい子のために、座学で基本的なフレーズや困ったときに使えるフレーズを教えて、その後に発展的な内容を取り上げていますよね。落ちこぼしを作らないというか、みんながついて来られて、出来る子も飽きさせない授業で、すごく良い実践ですね。
accuracyもfluencyも保証する指導を目指したい
(五十嵐)それで、スピーキングに焦点を当てた場合、accuracy(正確さ)かfuency(流暢さ)かという議論になりがちです。その辺のバランスとしては、fluencyの方を優先させることが多かったんでしょうか。
(鈴木)そうですね、8割9割そっち(fluency優先)ですね。もちろんaccuracyは大事にします。でも、普通日本語で会話するときも、これ正しいかなって辞書をひきながら話したりはしませんよね。しかも、聞こえなかったとしてもそれを何回も、もう1回言って、もう1回言って、って聞き返しません。そういうのと同じで、会話が成立してない場合は別ですが、なんとなく分かるのであれば間違ってもいいから、とりあえず喋ってみるのが大事だよね、という指導を心がけました。
ただ、不安を持っている子もいて、どうしても正確な英語を話したい場合には、Just a moment, I will check it.と言って、ちょっと待ってもらって、スマホのGoogle翻訳を使ってそこに出てきた英文を読んでごらんというような指示をしました。そこで問題なのは、結局翻訳ソフトを使うと、未知の単語が出てきて、英文だけでは意味が分からないということが起こってしまいます。そういうときは全員で共有して、こういう例文が出てきたんだけど、この英語の元の日本なんだったか分かる?みたいな感じで確認をします。ここで語彙の習得を意識して、書くという作業に落とし込んだときには、正確性にも気を付けさせます。スパイラルにaccuracyとfluencyの統合を目指してはいきますが、正確に言えたら自分の気持ちが正確に伝わるのはその通りだけど、そればかり気にして会話がつながらなかったらその会話は面白くなくなっちゃうね、という話をしました。
生徒たちがオンライン英会話でインタビューした内容も、考査の内容につながっているので、考査にはaccuracyも大切だよね、ということで、ルーブリックを出します。評価基準を満たして書けるように、事前に考査に出るような内容の英作文を何回か練習します。そして、全体で間違いやすいところを共有して、フィードバックしていく、という方法でaccuracyのフォローをしていました。
(五十嵐)母語においても、私たちが喋ってるときは言い淀みや言い間違いがあっても、文脈で意味が分かるから、普通にスルーして会話って成り立っていくじゃないですか。ある程度のところは目をつぶっていくというか。でも、書くときには、日本語としておかしいところは厳密に直さないといけない。
外国語でも母語でも、話したり聞いたりするときはそのある程度accuracyは棚に上げておいて、伝えたい内容が伝わるかを優先する。けれども、書くときにはしっかり文法的なところも含めてaccuracyを担保するということですよね。
集団授業で1対1のオンライン英会話を導入する意義
(五十嵐)ご発表されたときの聴衆の方からのコメントの中で、オンライン英会話は家庭でも出来る、学校でやる意義とは何なのか、そして、オンライン英会話に予算がつかないような学校はどのようなことが出来るのかという質問があったと思います。それについて、鈴木先生のご意見はありますか?
(鈴木)ご指摘の通り、50分の授業中で25分をそれに使うというのは、確かにどうかなとは思わないことはありません。しかし、全員に家でオンライン英会話をやってきてもらって反転授業で進められるかというと、そうではありません。一生懸命みんなが頑張っている中で自分も頑張ってみようという気持ちが生まれるという意味で、教室の中で一斉につなぐというのは効果的だと思います。オンライン英会話の後の残り25分のところで共有タイムがあるので、そこでヒアリングした内容をシェアするという1人1人の責任が生まれます。つまり、自分自身がインタビューしてネタ集めをしておかないと、残りの25分のところで、なかなか活動がうまく進みません。対面で行われるディスカッションのために個別に最適化された学び(オンライン英会話)があると言えます。オンライン英会話と対面のディスカッションの組み合わせが本校の生徒には合っていたと思います。もし、他の学校さんで反転授業が出来るのであれば、50分全部ディスカッションやディベートに充てることも可能だと思います。学校の実態にもよりますね。
地域柄、家でWi-Fiがない子や通信デバイスがない子もいます。だから、学校のWi-Fiで大きな画面のiPadで出来るのであれば、みんなで学校でやろうと。それに、どうしてもわからないことがあった場合には手挙げてくれれば、先生がフォローしてくれる安心感があるという面もあります。また、インタヴューをして知ったことで、他のみんなが知らないことを「これ知ってた?」と話をするのが楽しいみたいです。今日、この国の先生とつないで、こうだったんだよ、ああだったんだよ、とか、うちの先生も言ってた!とかっていう会話が、授業の中で起こると、次の学びにつながるんですよね。
2つ目の金額面は、本校も他人事ではありません。多分今年は助成がでませんので。ただ、教育委員会に効果を提示して助成が出るようにお願いをしたり、地域に住んでいる外国人の英語話者の方や日本人の方でもネイティブ並みの英語力のある方を定期的に招いて、授業の中に入ってもらったりできないかと思っています。
(五十嵐)まず1点目について、やはり集団授業ならではのダイナミクスが起きるという点が重要だと思います。学校でやることによって、先生がおっしゃったその「共有タイム」が醍醐味ですよね。インタヴューしたことを自分の言葉で説明するときに自分の理解が確認できて、さらに、理解も深まりますね。そこできちんと仲間に対して説明できなかったら、理解が浅いということがわかる。そこで友達にそれってどういうこと?と突っ込まれて、インタヴューのときはわかったつもりだったけれど、ここよく分からないな、なんていう気づきにつながると思いました。そういう気づきが、自分でもうちょっと調べてみようという動機づけになったりするのではないかとも思います。さらに言えば、ペアやグループディスカッションになったときに、単純に×(かける)人数分、ではなく、もっともっと大きな学びとしての広がりを見せるのではないかと。家庭でも出来るじゃないかという批判には、「共有タイムによる学びのダイナミクス」というキーワードで対応できますね。
そして、2点目の予算がつかない問題ですが、地域のゲストを招く形だと、一対全体の授業になってしまいますよね。
(鈴木)去年の夏は、大槌と釜石の先生方に呼びかけてもらって、知り合いの外国人の方に複数来ていただいて、各グループに一人ずつ入ってもらいました。生徒たちが作ってきたプレゼンをその方に聞いてもらって、個別、ではないものの、全体よりは個々に合わせた活動ができるかなと。あとはALTもいるので、例えばALTの故郷の方に協力してもらって、その方とZoomをつなぐということも可能かもしれません。お金をかけないならかけないなりのやりようはあると思います。大事なのは、子どもたちにとって学んでいることが実際に役に立つという実感です。実際に使ってみて、成功することも大切ですし、正しい英文だと思ったけれどうまく伝わらなかったのはなんでだろうと思う失敗体験も大切です。そして、それらはどちらも英語話者を通してやってもらってこそ、実現できるのではないかと思っています。
(五十嵐)コミュニケーションのツールとして、つまり、単純に会話するために必要だというのもありますが、自分の知りたい情報を得るためにどうしても英語でやりとりする力が必要だという自覚も必要ですよね。例えばガーナの先生やフィリピンの先生なら、日本語は通じないわけだから、自分でその国のことを聞きたいのであれば、英語を使う必要がある、というような動機づけです。そういう動機づけの観点から言えば、どうしても必要だから使わざるを得ないという状況は大事ですね。
(鈴木)最後の授業は、それぞれ1つ問いを作ってもらって、10人の方にインタビューをして、アンケート調査をして、グラフにしてもらいました。例えば、映画が好きな人は映画を見るときにサブタイトルをつけて見るのか、吹き替えで見るのかというような質問を作ってアンケートをとって、7:3でしたと報告するわけです。最終的にはTEDみたいなプレゼンに持っていきたいというのが目標としてありました。だから、14人クラスにいたのですが、14通りの問い立てをしてもらって、発表してもらいました。それぞれの気になることや関心はバラバラなので、14通りの学びがあって、最後の発表会は非常に興味深いものになりました。さらに、その中に外国の文化に生きる外国の人の考え方が入っているという点も非常に面白かったと思います。
課題は発信力と傾聴力をバランス良く育むこと
(五十嵐)苦手な子もついて行ける授業のような印象がある、という話をさきほどしたばかりで恐縮ですが、あえてお聞きします。それでもやっぱり、この授業形態ではしんどそうな子はいましたか。
(鈴木)受け持っていた生徒たちは、英検4級から準2級ぐらいまで幅があります。発表する部分はその子の持っている英語力で発表するので、差は出ます。一応、発表原稿のようなひな形も用意はしていて、使う使わないは自由に選択してもらいました。しかし、意外なことに、英語が苦手です、という生徒も、ひな形ではなく、自分の作成した原稿を使って発表しました。やはり、伝えたいことがある時は、自分の文章で言いたいと思っていることにも改めて気づかされました。でも、次の課題としては聞く側の受け手の力、つまり、リスニング力も育てていかなければならないというところです。発表は出来るけれども、他の子が発表しているときに、何を言っているのかわからないということが起こっているのではないか、と。発表してる子は分かっているからどんどんパワーポイントも出していくのですが、言われていることが分からないということが起きているなと思いました。そういう場合、せっかく英語で発表していても、うまく伝わってないというのがわかると、日本語で説明が入ってしまいます。そこがもったいなかったと思っています。一方で、発表の仕方やパラフレーズを工夫して、相手に伝わる英語にしていくというスキルも高めていくということも課題です。
(五十嵐)聞く力や受け手の力も育成しつつ、発信して発表するスキルも育成する必要がある。つまり、伝わりづらいなと思ったらちょっと場の空気を読んで、よりシンプルな英語に変えたり、例を入れたり、説明する力も育成していくことが今後の課題なんですね。
(鈴木)一応子どもたちなりに工夫はして、「この単語は多分伝わりにくい」「私にとっても初めてだったから」とイラストや写真を入れて説明をしていました。でも、やっぱり英語が苦手な子には個別にサポートしていかなければならないなと思う場面もありました。
(五十嵐)聞く力の方って、どういうふうにしたら効果的な指導が出来るんでしょうか。分からないときに、「分かりません、もう1回言ってください」と言うのも1つの方法かもしれません。ただ、途中で遮って質問しづらくて、発表が流れていってしまっているときが問題なのかな、と思いますね。
(鈴木)以前、修学旅行のポスターセッションをやったことがあって、その時は生徒が使うであろう語や生徒の原稿の中に出てくる語の中で、多分これはシェアしておいた方がいいというものはあらかじめ全部シェアしておきました。個別のプレゼンの際には、最後必ず質疑応答の時間を入れておくようにして、質疑の中で私が、さっきのここはこういうことだよね、とパラフレーズをして、こういうことだよねとか、これはこういう例で言うと分かりやすいかなと、サポートしていました。
(五十嵐)英語自体のリスニング力に何か課題があるというよりも、むしろその前提知識が揃ってないところにも問題があるような気がしますね。背景を分かってる子はすんなり聞けるけれども、背景を分かってない子は何の話なのかと気を取られてるうちにどんどん話が進んでしまっているという課題がありそうです。だから、その背景知識を揃えてあげることがまず1つの手だてとしてあり得るということですね。非常に勉強になります。
オンライン英会話を導入したくても予算が付かない場合は?
(五十嵐)それで、今後はおそらく予算がつかないということですが、同じようなツールとか使えないということでしょうか。
(鈴木)ちょっと難しいかなと思っています。
(五十嵐)そこで、さきほどおっしゃっていたような、ALTの先生など人的なリソースも増やすことを想定している感じでしょうか。
(鈴木)大槌町はアメリカのフォートブラッグ市と姉妹都市なので、そこともつながれたらいいと思っています。コロナ前は隔年で夏に2週間の交換留学をやっていました。アメリカとは時差があるので、時間帯によってはZoomでのセッションが難しいですけれども。
(五十嵐)鈴木先生は、意識が高くて、いろんなことに取り組んだり、積極的に新しいことを取り入れてやっていくタイプの先生だということがひしひしと伝わってきます。御校全体でそういう雰囲気なんでしょうか。
(鈴木)本校は3年前から、文科省の地域共同の高校魅力化推進事業に指定されているので、探究活動が盛んです。また、NPO法人カタリバさんからも魅力化推進員として3名、学校に常駐していただいている方がいるので、教員以外の視点でもいい学びについて考える機会が多くあります。そういう背景もありますし、20代、30代の若い先生方も多いので、そういう雰囲気はあります。それに、管理職の先生方も理解を示してくださっていて、オンライン英会話などやってみたいという先生はどんどんやりなさいというふうな方針です。英語だけではなく、いわゆる主要5教科全体で先進的なことをやっています。学校全体が新しいことにチャレンジしていく雰囲気ではありますね。
(五十嵐)そういう校風だと先生方もいろいろ取り入れていきやすいですよね。学校によって、保守的な先生方が多い学校の場合、何か新しいことをやろうと思っても難しい、ということもあるとききますので。鈴木先生の学校は素晴らしいですね。
(鈴木)難しさも確かにあります。ICTだけに頼っていくのは問題ではないか、という議論もあって、確かにICTを盲信してしまって、良さばかりを見てしまうとか。逆に、そういうふうに建設的な批判をしてもらえると改めて授業の方法について検討する良い機会になります。ただ、その批判や議論が学校全体としての学びが止まるほどのものではないので、前向きな議論をしながら、教員同士でいろいろ意見を出しながら前進していける感じかなと。
教科間で連携して、より効果的な指導を
(五十嵐)ありがとうございます。最後に、1点だけ、私自身の研究関心からうかがいたいことがあります。母語の教育、つまり、国語の教育と英語の教育の連携に興味があるのですが、国文法と英文法って枠組みが違いますよね。そこで混乱してしまう児童生徒が一定数います。それに、先生の実践の中でもプレゼンは取り入れられていますが、例えばプレゼンテーションをしましょうと言われても、日本語で説得的なTEDのようなプレゼンテーションが出来ない子は、英語でもきっと出来ないと思うんです。母語のレベルを外国語のレベルが超えることはおそらくないので。母語の下地をしっかり整えるというところは英語を教える上で、意識をしたいなということを常々考えています。
いろんな英語の先生に尋ねているのですが、意識的に国語の先生と話し合うことや、国語の授業で今どんなことやっているのかと聞いてみることなど、そういう連携の機会はありますか。
(鈴木)面白い視点ですね、実際に私が国語の先生と連携した授業はないのですが、国語と家庭科が連携した授業は知っています。古典で昔の歯磨きに相当するものが出てくるのですが、それを家庭科の授業で作ってみようという取り組みをしていました。
(五十嵐)面白そうですね。
(鈴木)ミントやハーブみたいなものを練り合わせたものを口に入れて、鎌倉時代や平安時代の人は口臭を防いでいたようです。実際生徒たちもそれをやってみて、「苦い~」という感想を言っていた授業はありました。今年は、学校としても教科等横断型を意識しましょうという方針なので、今いただいたお話も含めて検討したいと思いました。
私自身は連携自体はしていませんが、ディベートの授業をするときに、英語ディベートの前は何時間もかけて日本語でディベートをちゃんとやります。立論を作るところと、アタックのところと、最後のサマライズのところまで日本語でやります。結局、アタック、反駁、サマライズの内容や構成など、ディベートそのものの作法や仕組みを日本語できちんと理解していないと、英語でやってもただ単純にイエスとかノーになってしまう。それに、ジャッジの判断では、内容よりもむしろ、英語をいっぱい喋った方が良いみたいな方向にも行きがちです。
ただ、そのディベートを国語の授業でやってくださいというのはなかなか難しいです。
(五十嵐)確かに国語でやってくださいとは言えないと思います。私もかつで中高教員のころ、言えませんでしたね。国語の授業について、ここ数年でまたずいぶん変わっているのかもしれませんが、”書く”という活動に関しても、大学受験で小論文がある子は書くけど、国語のライティングの授業ってあんまりないようなイメージがあって。英語だけ4技能4技能と言われるけど国語でまず4技能を意識して指導なさっている先生ってどのくらいいらっしゃるのかな、と。まず国語で4技能をやってほしいな、英語の教員ばかりにあれもこれも求められていないかな、みたいなところはありませんか?
(鈴木)あります、あります。
(五十嵐)だから、そこを英語教員ばかりが抱え込まずに、言語を対象にする言語教育という枠組みは国語と一緒なので、うまく連携して分担した方が絶対相乗効果があるんじゃないかと思うんです。でも、校長先生なんかが旗振りをして、そういう価値観が先生方にも浸透している学校でないと、学年単位や学校単位でやりづらいというのがありますよね。そういう先生が1人だけいてもなかなか、うまくいかないというのが課題だと思っています。どうしたらそこが上手くいくんだろうと考えて10年ぐらいになるんですけど。(苦笑)
(鈴木)それが出来ると、国語にとっても英語にとっても良いですよね。
(五十嵐)プレゼンテーションやディベートで、目線を聴者に向けるとか、何か図表を使って指差してやるとか、それって別に英語に限らないじゃないですか。何語でも同じじゃないですか。大きな声で話す、ということなんかも。
(鈴木)本当におっしゃる通りです。プレゼンを作るにしても、生徒がパワーポイントをさわるのが初めてだと、私は情報の先生だったんじゃないかと思うような事態が発生します。(笑)
(五十嵐)英語の前にやらなきゃいけないことが非常に多いということになりますよね。パワーポイントの作り方にしても、1つのスライドに情報量を詰め込みすぎると、聴者は認知的な負荷がかかりすぎて聞き取りづらいというような話は、別に英語の授業だけで教えなくてもいいんですよ。
(鈴木)おっしゃる通りです。
(五十嵐)ただ、そのプレゼンテーションのような活動が、今の段階では英語で1番やっているから、やらなきゃいけない、旗振りしなきゃいけないみたいなところがあって。今、本当に英語の先生は大変だなと思います。そういう大変な中で、鈴木先生は非常に良い実践をされていて、授業をやるにあたって時間を割いて準備をされていらっしゃるのだと思います。本当に今日は大変勉強になりました。ありがとうございました。