教育トーク : 通常学級でも考えたい!特別支援の工夫 ~すべての子どもが気持ち良く学べる環境づくりとは~
最終更新日:2023年2月24日
プロフィール
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公立特別支援学校教諭 遠山 裕一郎
2010年~東京学芸大学 教育学部 2014年~東京大学大学院 教育学研究科 修士課程 2016年~公立学校教員。 教員生活は小学校の教員としてスタート。通常学級、自閉症・情緒障害特別支援学級、知的障害特別支援学級を担当する中で特別支援教育に興味を持つ。在職中に特別支援学校の教員免許を取得し、現在は知的障害特別支援学校で勤務。 所持する教員免許は、幼稚園、小学校、中学校(英語)、高等学校(英語)、特別支援学校(知的障害、肢体不自由)。
令和4年度の文部科学省の調査によると、小中学校の通常学級に在籍する児童のうち約8.8%は特別な教育的支援を必要とする児童生徒が在籍しているという統計が出ています。医師の診断を受けている児童だけでないことを考えると、現場の先生方の中には、それ以上に多いと感じておられる方もいるでしょう。
児童・生徒たちはどのような支援を求めているのでしょうか。また、教員はどのようなサポートができるのでしょうか。公立の特別支援学校教諭の遠山先生にお話を伺いました。(聞き手:五十嵐 美加)
支援が必要な児童・生徒を補助する「みんながわかりやすい進め方」
(五十嵐)まずは、遠山先生のご経歴をお願いします。
(遠山)現在は公立学校の教員です。採用から5年間は小学校の教員として過ごしたのですが、小学校在籍中に放送大学で特別支援の免許を取りました。通常学級と特別支援学級どちらの担任もしました。それからは特別支援学校で教員をしています。
現在は、1年間研修の機会をいただき、現場から離れています。特別支援学校の学習評価の考え方についての研修をしていますが、来年度は再度現場に戻る予定です。
(五十嵐)特別支援の免許を取ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
(遠山)通常学級の中にも約6.5%(インタビュー時)は特別な支援の必要な児童生徒がいる*1 と言われています。そのほかにも、特別支援学級に在籍する児童生徒もいます。私が初めて持った学年にも、特別支援学級に在籍する児童がおり、私が担任していたクラスで一緒に学習する時間も設定していました。そこで支援学級への関心が高まりました。2年目から支援学級に異動させていただいて、特別支援学校教諭の免許も取得しました。
(五十嵐)いわゆる普通の免許状しかお持ちでない先生は、大学で特別支援教育という授業は履修していても、専門的なレベルまでは修めていない先生がほとんどだと思います。そういった先生は、特別支援の必要な児童が学級にいるとき、彼らへの理解が追いつかなくて、適切な支援ができているか不安に思っている先生方も多いのではないかと思うんです。
そういう先生方に対して、教科指導の面、学級運営の面、友達同士の関わりや集団で生活する際の社会的なつながりの支援など、ご助言いただければと思います。
(遠山)例えば教科指導だと、それぞれ児童の実態に合わせて進めるのが必要かと思いますが、ある程度みんながわかりやすい進め方というものはあると思います。
たとえば、その日の流れを黒板の隅に書いておくことは効果的です。特に支援の必要な児童は、先の見通しが持てないと不安になってしまうことも多いので、「今日の流れはこんな感じ」と最初に説明するだけでも、取り組み方が変わることもあります。口頭だけだと忘れたり、聞き漏らしたりすることがあるので、最初に黒板の隅に書いておいて、1日、1時間の流れの見通しが持てるだけで落ち着ける子は多いと思います。最近はこのような工夫も、取り入れているところが多くなってきていると思います。
また、ADHDの子や学習障害の児童は、特性上、筆算などをまっすぐ書けないこともあります。また、文章を読んでいるときに次の行に移ろうとしてどこまで読んだかわからなくなったり、文字がたくさんあると他の行が気になったりすることもあります。
例えば、算数や数学で筆算が必要な場合は、小学校の低学年が中心になるかと思いまうが、ちゃんと縦に揃えて書けるように、枠を用意しておくなど工夫をしています。国語であれば、教科書の文章を1行ずつ紙で隠していくと今どこを読んでいるかわかりやすくなるので、紙やものさしなどを使って、どこを追えばいいのかわかりやすくするのも一つの方法です。
特別支援学級在籍ではないけれども、通常学級の中で困っているような子には、そういう補助をいくつか用意しておいて、必要だったら使うというのも良いと思います。
(五十嵐)支援が必要な子への工夫は基本的に全員に対して優しいことなので、取り入れた方が全体の学習効果が高まりますよね。
教職課程の学生を見ると、模擬授業や実習前の事前指導で授業の流れを黒板の端に書いてから始めるということを実践しています。普通の生徒でもやることを最初に言っただけでは聞き逃してしまうから、やることを書いておくのはたしかに有効ですし、全国的にもそういう配慮をする先生が増えてきているかもしれません。
苦手を把握し、「代替案」を考えてみる
最近は大学入試などでも、どこを読んでいるかわかりやすいように、補助として定規を持ち込んでも構わないという配慮がなされるようになってきています。遠山先生の頃はこうした特別な配慮はありましたか?
(遠山)自分が受験の時は気にしていなかったのでわかりませんが、基本的に必要のないものは持ち込み禁止だったような気がします。
(五十嵐)現在は、必要な人は事前に申請すれば持ち込んでもよいという形になっているんです。そういう配慮はとても良い動きですよね。
英語で言うと、今はペアワーク、ディスカッション、プレゼンテーションなど、他の教科に比べ他者とのやりとりや人前で話すことをかなり要求される教科になっていますが、そういうのがつらい生徒もいるんじゃないかという気がしています。ペア活動やグループ活動が必須の状況で、配慮もしなければならない場合、両立のために何かアイデアはありますか?
(遠山)確かに人とコミュニケーションを取るのが苦手な子はいますね。とはいえ、通常学級の生徒であれば、その後の進路を考えると、人とのディスカッションや発表の機会を作るということは大切だと思います。
逆に、支援学級に入級している、例えば自閉症で人との関わりが本当に苦手な児童生徒であれば、気を許せる大人が一対一で聞いて発表の代わりにしたり、本人が了承するなら発表しているところを動画に撮ってみんなの前で流したり、そういう方法もあるのかなと思います。
本当に苦手でできない子に対して、発表をさせるべきなのかという点についても議論になるかと思います。最終的にやらせるという結論になったとしても、代替案を考え、できる方法を模索することは重要だと思います。
(五十嵐)いわゆる発達障害や学習障害でなくても、今増えてきているHSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)のように、音などに対して敏感で、友達が泣いていたら自分も同じぐらい悲しくなってしまうような、そういった子も支援の対象になるのでしょうか。
(遠山)HSCは定義上、障害とは別だとされていたはずです。なので、HSCだからすぐに支援学級を検討ということにはならないかと思いますが、学校内でそういう特性のある子がいると理解し、配慮することは必要ですよね。支援学級についていうと、刺激に対して敏感な児童生徒も多くいます。特に音であれば、イヤーマフというヘッドフォンのようなものを装着すると周りの音がかなり小さくなるので、全校で集まる行事や、ざわざわする時間にはそれを装着する児童もいました。
また、化学繊維に敏感で、劇の衣装などで肌がかゆくなってしまう児童もいます。もちろんそれだけで支援学級の対象になるわけではないので、そこは保護者と担任との間でしっかり情報共有をして、どう配慮するか事前に確認しておくのですが、まずは教員側が「この子はこういう傾向がある」と知らないことには始まりません。傾向がわかれば、その敏感な部分を回避するための対応はとれると思うので、まずは情報共有が大事だと思います。
いろんな種類の苦手があることを伝える重要性
(五十嵐)友達付き合いの支援や行事など、教科以外の面での支援はどうでしょうか。今はだいぶ理解が進んで、そういう子もいると理解されていると思いますが、学校や地域によっては「変な子だ」というラベルを貼られて、いじめにもつながりかねないと思います。そういった友達付き合いの支援で心がけていることはありますか?
(遠山)これまでに子どもたちから「○○さんのこういうところが嫌だ」という相談を受けることもありました。子どもたちにとっては、○○さんは障害があるからと差別的な考えになるのではなく、嫌なことをされたから嫌だと感じる、それだけのことかと思います。その子の特性と行動を分けて考えるのが大事ではないでしょうか。おそらくそれが一番基本なのかなと思います。
ただ、「分けて考える」と言っても、その特性があるからこそ出てしまう行動ももちろんあります。子どもたちが「あの子ちょっと変だから嫌だ」とならないように、どう指導すればいいのかとよく考えます。
それぞれ1人1人得意不得意があって、運動が苦手な人もいれば、国語が苦手な人もいる。その一つとして、人付き合いやじっとしていることなど、いろんな種類の苦手があるということを伝えるのは大事かなと思います。伝えたところですぐにぜんぶ理解されるわけではありませんが、周りの人から見ると「なんか変だな」と思う行動でも、本人の意図と関係なくその行動が出てしまうことがあるということを、学校できちんと伝えていくことが大事ですよね。
それを前提に、1人1人が活躍できる場面を作るのが大事だと思います。教員側が「この子は診断が出ているからこれはしなくていい」と取り上げてしまうと「この子はできないんだ」という意識を植え付けてしまうかもしれないので、「みんなのためにこういうことをしてくれている」と伝えたり、「このお仕事は〇〇さんお願いね」とお願いしたり。
例えば、文字を書くのが得意ではない子でも、何もないところに書くのは苦手だけれども、書いてあるものをなぞるのは得意なら、模造紙の下書きは他のみんなでおこない、上からなぞるところはその子にお願いする。仕事の分担の中で全体が効率良く進めば、「この子がいるおかげで早く進んだ」という共通認識が生まれます。どうすれば得意なことを全体の場に活かせるか、うまく引き出すことが大事だと思います。
特別支援学級で実践されている、教科等を合わせた指導
(五十嵐)現在研修されている、特別支援における学習評価についても教えていただけたらと思います。
(遠山)知的障害のある児童生徒への指導方法は、通常学級と異なり、教科を合わせて指導することができます。例えば、国語の手紙を書く学習と、社会の公共施設について学ぶ学習を行うとします。それぞれを別でやるよりも、2つを合わせて、市役所の見学に行って、お礼の手紙を書くという学習にしたほうが、学習が効果的だと考える場合、1つの単元の中に複数の教科を合わせることができます。そういう授業で、どのように学習評価をしていくのかを現在の課題としています。これまで、児童の興味関心に重きを置いてきた学校、教科学習の視点を強く持ってやってきた学校など様々な学校があります。現在は教科の視点が求められているのですが、子どもたちのやる気を引き出すことも大切です。
現在、教科ごとの視点をしっかり取り入れ、単元を組み立てて評価をするための、単元計画シートを作成しています。特別支援学校は複数の教員で生徒を見るので、授業内容の共有は比較的できていると思いますが、どの視点で評価すればいいかがわかりにくいので、ある程度形式を作ることでスムーズな評価につなげられたらと考えています。
(五十嵐)文部科学省が推進している「総合的な学習の時間」や「教科等横断的な指導」とも結びついていて面白いですね。教科を合わせた指導というのは、元々特別支援の中でカリキュラムとして決まっていたのですか?それとも、先生方が現場で工夫してそういう授業を作り上げていったのでしょうか。
(遠山)学校教育法*2 で定められていたはずですが、昭和30年代、知的障害のある児童生徒とを対象とする学習指導要領の制定時には、教科を扱うか、生活に合わせた内容を扱うか議論があったようです。学校教育法の成立過程についてはわかりませんが、知的障害の児童・生徒の実態に合わせた指導をすることもできるという規定になっています。
「することもできる」なので、自治体や学校によって合わせた指導を行っているところも行っていないところもあります。この時間は合わせた指導をするけれども、この時間は教科の学習をするなど併用しているところが多い印象です。
(五十嵐)教科等横断的な指導について、具体的にどんな授業をして、どんな視点を取り入れることができるのか、具体例を教えていただけますか。
(遠山)少し極端な例にはなりますが、例えば料理をする場合を考えます。作りたいもののために、材料を買いに行くとなれば社会の学習として町のことを学ぶ、調理中に材料を量るのは算数の量や重さの学習、レシピを図書室で調べる際に国語の学習を取り入れることもできますよね。一つの活動の中に、いろいろな教科の活動を取り入れることができます。(※注釈あり)
実施する中で「こんな視点もあったんだ」と気付くこともありますが、基本的には事前に教員が、「こういう教科の学習をこの時間にやりたい」というところまで考えて授業を計画します。後付けでこんな教科を行ったというのではなく、この力をつけるためにこんな活動をするという視点が必要です。
(五十嵐)なるほど、とてもクリアになりました。一般的に調理実習は家庭科ですが、家庭科は生活そのもので、生活するための実践的な知識スキルを得るための活動になっているということですよね。「結果的にそういう力も測れた、育めた」ではなく、先生が意図やねらいを持って実施した方が学習に至るまでスムーズですし、脇道に逸れている子がいても誘導しやすくて良いですね。特別支援学校に限らず、先生方のヒントになるようなものがたくさん含まれていると思うので、研究成果を期待して待ちたいと思います。
支援に役立つ手法やツールを知っておくことでサポートの選択肢が増える
(五十嵐)最後に、全国の先生方に共有しておきたい情報はありますでしょうか?
(遠山)支援の必要な子のための教材は世の中に結構出回っているので、そういうものを調べてみるのが良いと思います。
最近もあるのかわかりませんが、100円ショップで立体の三角定規を見つけたことがあります。普通、三角定規は平面ですが、持ちにくくて押さえられない児童もいて、立体なら握って押さえることができるんです。小さい子だと、定規で線を引こうとすると押さえている方の手も動いてしまうので、しっかり握って上から押さえられるように作ってあるものや、定規に滑り止めがついていて、置くと動かしにくくなるものもあります。回しやすいように工夫がされたコンパスなどもあります。
(五十嵐)いろいろな生徒に使いやすいグッズが出ていることは、私も知らなかったので勉強になりました。生徒がどこに困っているかを汲み取る力がないと上手に調べることもできないので、1人1人と向き合うことが大切ですね。表情や雰囲気から察知したりヒアリングしたりして、こういうグッズを提案してあげられるといいなと思います。
(遠山)例えば、コンパスで円を描くことに困っている子がいた場合、下に柔らかいものを敷いて針を刺しやすくするという考えは思いついても、違うコンパスがあるというところまではなかなか考えがいかないと思います。現時点で困っていそうな子どもがいなくても、「こういうものがある」ということをまず知っておくと、子どもたちが困っているときの引き出しになると思います。
(五十嵐)ニーズがあるからこういう商品があるわけですもんね。こういうつまずきがあり得ると知っておくと、「こんなことで困っているんじゃないか」とサポートするのにも役に立つということですね。
本日はどうもありがとうございました。「支援的指導」について理解が深まりました。現在取り組まれている研究の成果が出たら、また取材させていただけると嬉しいです。
注釈)
*1 平成26年度『子ども・若者白書』(内閣府)では小中学校で6.5%(高等学校は調査対象外)とされていたが、R4.12.13に公表された令和4年の結果では、小中学校で8.8%、高等学校では2.2%となりました。ただし、これらの結果は、学級担任等の回答をもとにした調査であり、障害のある児童生徒の割合を医師の診断をもとに割合を推計したものではありません。https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26honpen/pdf_index.html(H26調査)https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1421569_00005.htm(R4調査)
→*2 学校教育法 施行規則 第130条 第2項
特別支援学校の小学部、中学部又は高等部においては、知的障害者である児童若しくは生徒又は複数の種類の障害を併せ有する児童若しくは生徒を教育する場合において特に必要があるときは、各教科、特別の教科である道徳、外国語活動、特別活動及び自立活動の全部又は一部について、合わせて授業を行うことができる。
注)今回は単に関連しそうな教科を例として挙げていますが、実際は各教科等の「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」の3つの観点から授業の中で子どもたちに身につけさせたい力を検討し、さらに、教科別の学習よりも教科等を合わせた方が効果的に学習できるのかまで考える必要があります。