教育トーク : 英語への抵抗を払拭する!オーセンティック教材と多読のススメ

最終更新日:2023年6月27日

プロフィール

  • 横浜商科大学 准教授 林 剛司

    石川県金沢市生まれ。中学時代に小林克也氏のラジオ番組とNHK「基礎英語」のおかげで洋楽と英語にのめり込む。アメリカの高校に1年間留学。大学・大学院でアメリカ文学を専攻。米国音楽誌の翻訳、訳詞家、中学、高校、高専の教員を経て、現在、横浜商科大学准教授、早稲田大学非常勤講師。英語、英米文学、英語科教育法の授業を担当。趣味は音楽(オペラからロックまで)・映画・ミュージカルの鑑賞、旅行、歌うこと。

教育目的に作られたものではない実用的なテキストや音声を教材として取り入れる、いわゆる「オーセンティック教材(Authentic Materials)」への関心が高まっています。『中学英語から始める洋書の世界』(青春出版社)を上梓されている林剛司先生に、英語の多読やオーセンティック教材の取り入れ方についてお話を伺いました。

「英語は読めない」を覆す、多読図書の始め方

(松山)ご著書の『中学英語から始める洋書の世界』を拝見し、非常に実践的で新しい内容だと感じました。レベル分けをして紹介しようと思ったきっかけは何でしょうか。

(林)この本は私が「朝日ウィークリー」という英和新聞で2015年から始めた「放課後ブッククラブ」という連載に加筆修正して1冊にまとめたものです。いきなり洋書を読むのはハードルが高いので、本格的な洋書を読み始めるまでの架け橋になるようなものを紹介していこう、というコンセプトで始まりました。

『中学英語から始める 洋書の世界』

以前私は中学・高校の教員をしていて、「英語が苦手」「勉強法が分からない」という生徒をたくさん見てきました。何か楽しいストーリーから入っていけるような方法はないかなと模索していたところ、ちょうど私が中高の教員から高専の教員になった2006年頃から、全国規模で多読が流行ったんですよ。そこでいろいろな研究会や勉強会に参加し、自分でも多読図書を読み始めました。

いわゆる多読図書には、Graded Readers(GR)とLeveled Readers(LR)があります。LRは、主に英語が母語である子どもたちに向けて書かれた学習絵本です。もちろん英語を母語としない私たちがここから学ぶことも多々あります。GRは、英語が母語でない人たちのために書かれたものです。例えば文学作品だと「リトールド版」という易しい英語で書き直されたものがありますね。

英米で流行っている絵本や面白そうな本を集めて読んでみると、絵本もあるし、イラストも工夫されていて惹き付けられます。「英語の本は読めない」と諦めてしまっている生徒は多いですが、易しいレベルから始めて少しずつ難易度を上げていくと、中学生でも読めるものは十分あるな、という手応えを感じました。

多様なレベル、ジャンルから生徒が読みたい本を選べるように

(林)高専では授業にも取り入れました。90分授業のうち最初の15分間を多読の時間に充てて、一斉に好きな本を選んで読もうということをやっていたんですね。本を積み込んだカートを教室まで引っ張って行く姿は移動図書館のようでしたよ。

(松山)先生は一切口を出さず、生徒が読みたい本を選んで読む、という形ですか。

(林)そうです。基本的に私は黙って、彼らの自主的な読書を見守っています。ただ、自分の英語力に合っていない本を選んでいる生徒や、読もうという気はあるけれど何を選んでいいのか分からない生徒に対しては適切に助言するようにしていました。そしていつでも助言ができるように、全ての図書に目を通していましたね。

持っている英語力は学生各自で違うので、いろいろなレベルの本を用意しておくことが大事です。基本的には自分の今の英語力よりも少し易しいぐらいのレベルから始めることがポイントで、じわじわと難易度を上げていくわけです。

あとは難易度だけでなく、ジャンルにも気を配りました。私が持っている本はフィクションが中心ですが、例えばNBAのバスケットボール選手の活躍ぶりとか、バスケットボールの歴史、そういう本があるとバスケ部に所属している学生が興味を持って読むこともあります。あるいは映画スターや、最近だとK-POP、そういうテーマに興味を示す学生もいるので、どの学生にも対応できるものを揃えておくことを意識していました。

本当は図書館に本が揃っていると一番良いでしょうね。授業のたびに200〜300冊も載せたカートを引くのは大変ですし、本を揃えるお金にも限界があるので。私が勤務していた学校の図書館は蔵書があまり多くなかったので、全国の多読をやっている先生方と貸し借りしてどうにか毎年2〜300冊ぐらいは確保していました。

「最後まで読み通す」という体験が英文への抵抗を減らす

(松山)洋書を取り入れた結果、生徒に変化はありましたか?

(林)一斉授業ではなく個々で自主的な読書を推奨するものだったので、大きな効果検証は難しかったです。これは多くの先生が言っていることですが、多読は少人数から始めたほうが良いと思います。先ほど申し上げたように図書の数や予算の問題もありますし、授業に導入するとモチベーションが高い学生はすぐ飛びついてきますが、学生もさまざまなので。

私が高専にいたとき、放課後に少人数でやってみたことがあります。高専の教員には個人研究室があるので、そこに200〜300冊ほどの本を乱雑にダンボールに入れておいて、研究室を週に1日、例えば1時間開放するから読みたい人は来て読むと英語の力がつくよ、と言うとコンスタントに5人ぐらい来ていました。中には週に1時間では飽き足らず、本を借りていく生徒もいました。そういう意味では、読むことに対する抵抗がかなり薄れたというのが1つ。

高専は5年制で、昔は卒業してすぐ就職というのが定番でしたが、今は4年制大学への編入をする学生が増えています。高専の学生たちはエンジニアリングの専攻なので大学院の入試でも多読で読んだ英文がすぐに役立つわけではありませんが、長時間読むことへの抵抗感がなくなり、知らない言葉が出てきても文脈の中で推測する力がついたので進路の選択肢が広がったということはあるかもしれません。

(松山)なるほど。言語としての英語を活用するのに非常に大事なスキルですよね。

(林)あともう1つ。私は、理系の学生たちは文学作品に興味を示さないだろうと思っていました。でも多読の後に感想を書いてもらうと、「小説を読むのもそんなに嫌いじゃないよ」という学生が割といるんです。LRとかGRで文学作品のリトールド版を読んだのが楽しかった、と書いてくれた学生もいました。

これは高専の学生に限らず大学生でもそうですが、本を英語で読むのは無理だと初めから決めつける生徒や、大学入学までに英語を読んだ体験は入試の長文読解だけという生徒は多いです。もちろん英語だけを勉強しているわけではないので忙しいとは思いますが、「意外と読めるんだ」という気づきや読み通すという経験はなかなか得られないじゃないですか。たとえリトールド版のように簡易化されたものであっても、最初から最後まで筋を追って理解できたとか、感動したとか、そういう経験ができるのは大きいところかなと思います。

4技能全ての成長にも多読が役立つ!

(林)高専の授業では、前述のとおり90分授業のうち最初の15分間を多読の時間に充てていましたが、残りの時間はむしろ「精読」に力を入れ、リトールド版の作品をじっくり読んだことがあります。オー・ヘンリーの「After Twenty Years」と、オスカー・ワイルドの「Happy Prince(幸福な王子)」だったと思います。オー・ヘンリーの作品は最後にちょっとしたオチ、仕掛けがあるんですが、そこをうまく捉えられた学生と、読み取りに失敗した学生がいて、全員読み終わったあたりで「実はこうだったんだよ」と言うと、「俺当たってた」「全然読めてなかった」と悔しがっていました。そういう反応が面白いですよね。

もう1つ、ノーベル賞を受賞しているイギリスのジョン・ゴールズワージーの「The Apple Tree(林檎の樹)」という作品のリトールド版も授業で1年近くかけて読みましたが、すごく楽しんでくれる学生が多かったです。

すぐには数値として現れにくいかもしれませんが、多読を続けていくと読むスピードは上がっていき、続けていくうちにいちいち日本語に訳さなくても理解できるようになっていきます(先述のとおり「現在の自分の英語力より少し易しいレベルから始めるのがポイントですが)。これはリスニングのときにも生きてきます。英語をたくさん読む訓練をしていくことによって、リスニングの力も上がるし、ボキャブラリーも豊富になっていきますよね。語彙を増やしておくと当然リスニングも楽になりますし、たくさん英文を目にするということは、サンプルをいっぱい取り入れることになりますから、書くとき、話すときに使う英語が正しくなっていきます。

(松山)もうメリットがいっぱいですね!4技能全ての成長にもつながりますし、また生徒のモチベーションにもつながりますね。何より生徒が英語を面白がって、身近に感じてくれるという大きなメリットがあると感じました。

ポイントは少人数で自主的に始め、賛同者を増やしていくこと

(松山)中高で授業にオーセンティック教材を取り入れたいとお考えの先生はたくさんいらっしゃいますが、一番お困りになるのは「どういった基準で選んだらいいのか」、また「教科書の進度もある中で授業の中にどのように取り入れればいいのか」というところだと思いますが、林先生はどのようにお考えでしょうか?

(林)実際、オーセンティック教材や多読に関心のある先生は多いと思います。いろいろな実践報告も出ているので、先生方の目にも触れやすくなっているのでしょうね。良い図書も多数出ていますし、最近新しく多読図書を始めた出版社もあります。

ただ、授業で取り入れるのは難しい点が多いですよね。私が中学高校の教員時代を思い出しても、その学年でやるとなると先生方全員の同意が必要でした。懸念や決めるべきルールが山積して、先生方が懐疑的になる気持ちは私もよく分かります。

オーセンティック教材を取り入れるには、とにかく少人数で始め、賛同者を増やしていくことです。もしカリキュラムの中でやるなら選択科目として置くのが理想ですね。選択科目として取れなければ、先ほど言ったように放課後ブッククラブ的な形で始める。補講の枠として希望者を募るという方法もあります。

高専でやってみて分かったんですが、こういう活動は口コミで広がります。今の子たちは面白いものを見つけるとLINEなどですぐに広めますから、無理やり縛りつけなくても、楽しそうにやっていると気になって集まってきます。

もし授業に組み込むのだとしたら、最初の10〜15分を読書の時間に充てるのが良いと思います。成績評価に入れるなら、例えば成績全体の10%とか低い割合にしておくのがポイントです。割合を高くするといろいろとズルをし始める……そういう性悪説に立ってはいけないのかもしれませんが、フェアな評価が難しくなるのは確かです。

語彙の制限や使用する文法事項についてはものすごく練られていますし、ネイティブとしても自然な英語が使われているので、GRを導入していくのは良いことだと思いますね。教科書だけでは英文のサンプルが限られてしまいますが、それがストーリーの中ではどうなるんだろうというサンプルをGRで見ることができると定着も図れると思います。

(松山)時代的にも「使える英語を身につけていこう」という流れがあるので、オーセンティック教材への需要は高まっていると思います。非常に有意義な興味深いお話でした。ありがとうございました。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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