ICTはあくまでツール!教員の明確なビジョンが生徒の学びを深化させる

最終更新日:2024年8月16日

教育現場のICT活用、DX化が推進される昨今。しかし、現場では「ICT活用をしてみたいけれど、何から初めればいいのかわからない」「教室の各設備や生徒1人に1端末などのICT環境は整ったけれど、活用できていない」といった声が上がっています。
そのような声に、日本大学櫻丘高等学校の田中 忠司先生は「先生方がどう使うかよりも、生徒にどう使わせたいかがポイント」だと言います。
今回は、英語教員から情報教員に転身された田中先生に、ICT活用を進める上でのポイントや実際の活用方法を伺いました。

英語教員から情報の教員へ

———先生のご経歴を教えてください

(田中)私は元々、英語科の教員でした。2015年に日本大学高等学校・中学校に異動した際も、英語を教えていました。しかし、赴任後3か月後に教頭先生に呼ばれ、「ICTを使った教育環境の整備を2学期中に行ってほしいと頼まれたのです。私自身、ICTにまったく詳しくなかったので、驚きました。

そこで、

———専門分野でない中どのように推進されたのですか

(田中)2学期が始まった9/1から動き始め、まずは3学期の始業式時点で全教室にiPadとプロジェクタ設置した状態にしました。その後、校内で研究会を発足し、本格的な活動を開始したのです。当時は今あるようなSaasのサービスは世に出回っていなかったので、情報収集に苦労しました。ICT活用を進めている先進的な学校に見学のお願いの電話をして、放課後各学校を回って徐々に情報を集めていきました。その情報収集の結果を踏まえ、校内のICT環境をすべて整備したのが始動し始めてから4か月後のことです。

当時、教員免許は英語のみだったので、2016年には「情報」も取得。その年からの新入生にはiPadを配布するようにしました。2017年からは中学校で英語を教え、高校では情報を教える二刀流を開始。2018年に入るまでに中学・高校全学年にiPadを1人1台導入し、英語だけでなくすべての教科で使ってもらうよう環境整備をしたのです。学校の威信をかけたプロジェクトだったので、ドラスティックに改革していきました。

自由な授業設計で生徒の顔が明るくなった

———情報の授業の教育目標について教えていただけますか

(田中)一番重視しているのは実習です。実習を通じて目の前にある情報について深掘りすることと、情報の使い方を学ぶ場を作ることに注力しています。そして、最終的には問題解決能力の育成が目標です。

問題解決能力というと、大それたことをイメージするかもしれませんが、そうではありません。ここでいう能力とは、生徒の身の回りにあるちょっとした困りごとや、やり方を変えればよくなると思っていることを、どうすれば解決できるか考える力のことを指します。

———具体的にどのような授業内容ですか

(田中)まず、事前学習としてGoogle クラスルーム上でオンライン授業を受講させます。教科書に準拠した内容の、1本3分以内の解説動画を私自身が制作し、それをあらかじめ生徒に渡しているのです。自宅などで観てもらい、確認テストを受ける。この確認テストはGoogleフォームで選択式として、簡単に取り組めるようにしているのがポイントです。

そしていよいよ、実際に顔を合わせられる学校で実習を行います。基本的なタイピングやメールの書き方はもちろん、ほかにもインフォグラフィックやARオブジェクトの制作など、さまざまなICT技術を駆使して自分のアイディアを形にする授業を行っています。

ほかには、グループワークで作品を作り上げてもらっています。たとえば、
①授業の解説動画を作ってもらい、クラウドにアップ
②そのページにとぶ二次元バーコードを作成
③二次元バーコードがついているポスターを作成
といったことです。そして、その作品を鑑賞会と称しクラスメイトの前で披露してもらいます。

以上のような事前学習と実習の組み合わせだと、確認テストを提出しているかどうか、事前学習の内容を理解し実習で活かせているかどうかが明確にわかるのです。そのため、3観点の評価がしやすいですね。

———授業を通して生徒さんの成長や変化はありましたか

(田中)大きく3つあります。

1つ目は、生徒間での教え合いが生まれたことです。40人の生徒に対して私1人しか教員がいないので、一人ひとりの生徒に細かく指導できないのが現実です。しかし、プログラミングが得意な生徒などは自分の課題が終わったら自然と友達のサポートに回ってくれており、嬉しく感じています。

2つ目は、自分の身の回りの情報に今までとは違った気づきがあることです。たとえば、学校内の作業で今まで人力で行っていたことを、テクノロジーを使えば楽になるとひらめくようになっています。

3つ目は、生徒の顔が明るくなったことです。とくに高校3年生は受験を目前に控え根を詰めて勉強する時間が増え、自然と表情も硬くなりますよね。

私は入試で求められる学力と、大学で求められる学力は別物だと思っています。大学では発想力や粘り強く試行錯誤する力が求められると考えているのです。ですので、そのような力を育てるために、私の授業では大枠はこちらで決め、あとはその中で自由に学んでもらうといった大学のゼミのような授業形態を取っています。すると、生徒ものびのび自由に学ぶことができ、表情が明るくなったのです。

ICTを生徒にどのように使わせたいか、どのような力をつけさせたいか

———ICT活用に一歩踏み出せない、踏み出してはいるけれど今一つうまく活用できていないように感じている先生方にアドバイスをお願いします

(田中)一番重要なことは、生徒に「ICTをどのように使わせたいか、どのような力をつけさせたいか」というビジョンを明確に持つことです。先ほどもお伝えした通り、私は生徒に問題解決能力をつけてほしい。そのためにICT技術を「ものづくりのツール」ととらえ、生徒がアイディアを形にする授業設計をしています。

———「教育現場でのICT活用=プレゼン」といった傾向があるように感じていますが、田中先生はどのようにお考えですか

(田中)私が生徒の作品発表をプレゼンではなく、鑑賞会としている理由はまさにそこです。ICTが教育現場に導入されると、まず活用法として使われるのが「プレゼン」です。わかりやすいですし、簡単ですからね。実際、私もICTを使ってプレゼンをしていましたが、「これって本当に意味があるのか?」と、あるとき気づいたのです。

プレゼンを授業のゴールにしてしまうと、結局、生徒は「プレゼンをしたこと」に満足してしまうんですよね。発表前は自分の発表準備に注力し、発表が終われば「早く授業が終わらないかな」とそわそわ。いずれにしても他の生徒の発表を聞いていません。それでは生徒にとって何も実にならないで終わってしまいます。

他の生徒の作品から学びや気付きを得るためには、やはり自分事にするのが大切です。他の生徒と自分の作品を見比べ、なぜ違うのか、どう違うのかを比較し、考えをアウトプットするのが最も早いのではないか。それに2018年頃に気づいて以来、鑑賞会を実施し、生徒に他の生徒の作品についてのコメントを集め、全員に共有する形にしています。

アンケートは単純に感想を求めるだけでは「よかったです」とか「おもしろかったです」といったものになるので、「他の生徒の作品から学んだこと」「自分の作品との違い」を書かせるようにしています。その結果、ただ他の人のプレゼンを聞くだけの状態から学びを深められるようになったと考えています。

 

「ICTがあるから使わなきゃ」と考えてしまっているのは、ICTというモノに踊らされている証拠です。先生方が必ずしもICTに詳しい必要はありません。使うのはあくまでも生徒なので、先生方は「ICTを使って生徒に何を学ばせたいか」という明確なビジョンを持ってさえいればいいのです。

今まで通りの授業を続けるのであれば、正直ICTを活用する必要はないと思います。慣れない機器を操作しながら説明するよりもプリントを配ったほうが早いです。

「授業とは全然関係のない動画やページを見てしまうのが心配だ」と心配される先生がときどきいらっしゃいます。そのような場合は、生徒が授業に興味を持ち、関係のないものを見る暇がないくらいの授業にするよう根本的な授業設計を見直す必要があるでしょう。授業設計をしっかり行っているにもかかわらず、それでも関係のない動画などを見る生徒がいるのであれば、それは一教員の問題でなく、学校側の体制の問題になってきます。そのような場合は、学校側で制限をかけるなどの対策をすれば問題ありません。このように、ICTを進める体制が整っているかという点も重要です。

ICTを取り入れたはいいもののうまくいっていない場合は、問題の所在をはっきり認識できていない場合が多いです。私が考える問題はこれまでお話ししてきたことを踏まえると、下記の3点があると考えます。

・ICT活用における先生の明確なビジョンがない
・ビジョンは明確だが授業設計方法がわからない
・ビジョンも明確、授業の設計方法もわかるが、学校側の体制が整っていない

自分はどれに当てはまるのかをまずは考えてみてください。問題を認識したら、解決するために悩みや不明点を気軽に相談できる場がないか探してみましょう。もし学校内にそのような心理的安全性を感じられる場がないのであれば、ぜひ私の開催する勉強会にいらしてください。

取材・構成:小林慧子/記事作成:大久保さやか

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