後編:ホワイト化を実現するために

最終更新日:2023年10月31日

より個別化された教育内容の実現と、より多様な働き方を許容する現場の実現の両立が求められています。この難しい課題への取り組みの中心にあるのは教務です。そこで教務の役割は何か(前編)、そして学校現場のホワイト化を実現するためにどうすればよいか(後編)、立命館宇治高等学校の原先生、福島先生にお話をお伺いしました。(聞き手:コトバンク株式会社 谷口)。

ホワイト化とはどのような状態か

(原)「やりたい授業ができる」というのは、一種のホワイト化だと思っています。単純なホワイトって、労働時間だけの問題ではなくて、やりがいを持って仕事できるかというのも1つのポイントです。本校では原則全ての教員の時間割内に半日の授業のない時間を確保するようにしています。先生方が自由に使えるまとまった時間を保証しながら、生徒が取りたい授業も全部保証します。

(福島)ここは本当にすごい。千里国際(現 関西学院千里国際中等部・高等部)の授業は高校なのに大学のように運営しています。ブロックが決まっているので、時間割は毎年変わらないんですよ。生徒はこの授業はこのコマだとあらかじめ分かっているので自分で時間割を考えるし、「自分が作った時間割」という意識が持てる。「自分のやりたいことをやっている」ということになるんですよ。

原さんは「これを切る代わりにこれは実現しましょう」もしくは「これを実現するためにこれは諦めてくれ」という考え方ですよね。一方、僕が千里国際でやっていたのは、「こうだから」と割り切ってもらう方法。教室の数や先生の持ち時間的に、これが1番無理のない授業配置なんですよ。

「あっちは教室が足りひん、こっちはガラガラ」とならないように、教務が各講座にうまく教室を調整します。それで各教科に授業担当者を決めてもらう。返ってきたら、国語の授業が何番教室であると決まっているところに先生の名前を入れるだけ。

(原)目指しているものは一緒だと思います。僕らも、働き方改革で勤務時間の管理が厳しくなったから、以前と同じ働き方はできないんですよ。どうやって効率的に物事を回すかっていうところで、考えて考えて。

中学2コースと高校3コースが学校全体として足並みを揃えて動けるようにシステムの整理をしてきました。そうすることで、いろんな物事や個別の課題がクリアになってくるので、結果的に動きやすさが出てきた感じはします。

(福島)つまり、「コースが違っても同じ高校なんだからこの部分だけ揃えてね」みたいな意識合わせをしたということですね。こういう方法もホワイト化だと思います。時間を単純に減らすだけがホワイトじゃなくて、守るべきところは本当に守ってはるというところで。

先生には自分でPDCAを回してもらうしかない

(谷口)「教員に成長してもらう」というのは教務の役割なのでしょうか?その点にはどのように向き合われていますか?

(原)仕掛けだと思っています。教務の仕事って限界があって、先生方には自分でやったことを自分で振り返って、次に改善してもらうしかない。その繰り返しで、先生方にそれぞれブラッシュアップしていただくしかないと思っています。逆に縛ってしまったら教員自身が考えなくなって、成長もなくなる。

(福島)僕はあと2週間で57歳になるんですけど、同じ年代とか僕より少し若い人たちには「もうええやん」って諦めている人も少なくないです。でも僕は、大学を出たばかりの、専任ではなく講師で来ているような人には「こんなんやってみたら?」と声をかけるようにしています。「俺、こんなのやってみたことあるけど、もし興味あったらやってくれてもええし、どれもイマイチだと思ったら自分で考えればいいんじゃない」って。

千里国際だと、同じ時間帯に同じ必修科目が複数並んでいるじゃないですか。A先生は生徒25人来ているけど、B先生の生徒10人しか来ていない、というのが全部貼り出されるんです。授業、改善されましたよ。「人気投票やんか!」と言う同僚がおったから、「そうですよ。同じ時間帯やのに、なんで先生の授業には生徒が少なくて、A先生の授業に集まるんですかね?」って返しました。

千里国際の生徒はよく見ていて、チョロい先生に行く生徒もおるねんけど、厳しくてもちゃんと見てくれる先生に行く生徒もおるねん。それは、先生自身がどうなりたいか考えれば良いと思いますね。生徒はいっぱい来るけどチョロいと思われている自分でええのか、来る生徒は少ないけどハードコアな生徒が必ず集まるというのが良いのか。それは先生の個性ですよね。僕らは給料をもらって教員という仕事をしているから何でもやってええということはないけれど、その範囲内で個性を生かしてもええんちゃうかな。

(谷口)留学をはじめ、普通の学校より授業外活動がかなり多いですよね。それは教務管理にすごく影響を及ぼしそうですが、いかがですか?

(原)結局、行事予定表を僕らのところから切り離しているので。普通の学校では体育祭、文化祭をいつ、何曜日に入れるかとか、たぶん相当やりはると思うんですよ。

(福島)うちらは、降ってくるから「へー」と。

(原)そこは、ちょっと助かるところです。
(谷口)管理することをミニマムにするからこそ、いわゆる柔軟性みたいなものが出てくるということですよね。

(福島)だから「管理してくれ」っていう奴を撃滅することですよね。「責任持ちたくない」とか「考えたくないから指示してくれ」みたいな教員を。

IT導入でホワイト化が実現するわけではない

(谷口)教務的な観点で、実際に先生方の役に立っているICT、あるいは邪魔になるICTってありますか?

(原)教員用ICTの1つに校務システムがありますけど、情報の管理ツールとしてはものすごく有用です。より役に立つようにするためには校務システムにカスタマイズをかけるか、校務システムに合わせて校内の運用を変える。どっちを取るかというところが、たぶん教務部長の判断なんだろうなと思っています。

公立は校務システムに合わせる発想を取っていると思います。ただ、本校は先生方の自由度を担保したかったので、お金をかけてでもカスタマイズしました。

(福島)Excelでこれをこう組んで、みたいな素地があったから、作ってもらいやすかったのもあると思います。

(原)邪魔というかは微妙なところですが、この時期になると教材の営業に各種デジタル教材の売り込みが加わるんですよね。このデジタル教材を、学校を介して申し込めっていうんです。なんでこれだけスマホを持つようになって、各自1人1台でPCやタブレットがある時代に、出版社は学校に「何人分アカウント要りますか?」というやり取りを発生させるのかと。アカウント管理のような雑務は、学校から切り離す発想をもつことでより良くなるのではないかなって思いますね。

出版社によっては「生徒のリストをよこせ」という会社もあります。例えば、英語は習熟度別に展開をしていて「講座ごとに教材が異なります」と言われても、ただでもややこしい上に、編入や転退学のことも考えるとやってられないわけです。教科には「そんな教材やめろ」って言わざるを得ない状況もあります。紙だと永久だけれどもアプリのアカウントは1年限りとかいう教材もありますし、出版社ごとにデジタル教材のための基本ソフトのインストールが必要とか、何か根本の考え方を変えなければ進化は見込めない気がしています。

(福島)「文房具が電子になっただけ」みたいな捉え方をしているICTは、たぶんダメです。違う使い方がある。でもこの学校がすごいのは、「Chat GPT、いいよ使っても。使ったって明記したら」っていうのを全学的に周知しているんです。古いシステムの学校やけど、そういうところは柔軟に対応しているところはあるのかなと思います。

(原)結局今、ICTが乱立していて統合されているものがなかなかないんですよね。教員間のやりとり、生徒とのやりとり、保護者とのやりとり、なんだったら成績処理等々の校務システムも一緒になったものがあればベストなんですけど、良いのがない。一方で、分かれていることで安全性が担保されている面もあるわけです。

学校専用設計品以外を使うと、施設の予約を取るにしても僕らは「何時間目」で押さえたいのに、「何時何分から何時何分ですか」ってなってしまう。学校の仕組みに合わせてできているものってなかなかないんです。業者さん目線でいくと、学校相手は儲からないから作らへんのやろうなという気もします。

(谷口)最後に、今後教務をこうしていきたいというお考えはありますか?

(原)AI化です。時間割にしてもクラス編成にしても、機械でできるはずなんですよね。言ってしまえば、教務は一番教員免許のいらない仕事をしていると思っています。優秀な事務員さんが1〜2人いたら、たぶんそれで回る。だから、究極的には教員の仕事からなくせば良いと思います。

(福島)千里国際の教務って、教員3人と優秀な事務の人が2人なんですよ。以前、僕とずっと一緒に仕事をなさっていた方は元SEの女性でMicrosoft Accessも使えて、「ごめん、こういうのをやってくれる?」と頼むと「1週間ください」と言って作ってくれる人でした。だから、判断は教員がするけれど、業務自体は優秀な事務員さんがいれば十分なんです。

お金をたくさん払わないといかんスキルかもしれないけれど、教員である必要はない。教免がなくても、学校に関わっていきたいという人を入れていくのは、ホワイト化の1つの手段かもしれないですね。

(谷口)それは学校に来ないとできないですよね。

(原)それは各学校がどういう考え方をするかだと思います。成績、個人情報を扱う作業を在宅で認めるか。それはクラウドの信頼性をどこまで信じるかですよね。

(福島)VPNは企業でも使っているから良しとするのか、やっぱり校内だけの有線でやってくれと言うのか。これだけセキュリティに配慮して、なおそれを破る奴は悪意を持って破るんだからミスではないと判断するのか。いろんな働き方があって良いと思いますけどね。

3ヶ月は、すみませんけど来てください。その後は週1でええですわ、というのもできるかもしれないです。

(谷口)福島先生はAI化についてはいかがですか。

(福島)教員になった人がみんな1度は経験できるような部署になるといいと思っているんです。だから、AI化することによって「マニアの虎の穴」だと思われているのを変えたいなと。

時間割を組むためにはこういう条件が必要、こういうパラメーターを入れればいいって分かれば、僕らが普段「うーん」と悩んでいる作業はAIがやってくれます。先生方はみんな大学を出ているから分かるはず。

(原)賢いはずなんです。

(福島)やっぱり教務は全てのリソースとかにアクセスせざるを得ないので。役に立たない人が教務部に来て、教務部全体の実行力が下がってしまってはダメですけど、学校ってこんなことが行われていて、ここでこんな苦労をしているんだ、それをやっている人がいるからつつがなく回っているんだということを、少しでもみんなが実感として持つことができたらなと。要は、「開かれた教務になる」ということかもしれないです。

(原)それはもう100%賛同します。

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