ICTに逆張り?! 生徒の心を掴むためのアナログ使い

最終更新日:2024年1月1日

「個性の育成」「創造性の育成」「国際性の育成」の3つを尊重したICT教育を実践する聖徳学園。ICTを活用したアクティブラーニングを日々実践する一方、英語科の羽鳥眞先生は、コロナ禍を経てアナログ的なアプローチで生徒と向き合うことの大事さを再認識したと言います。生徒たちが羽ばたくころの社会は、きっと今よりデジタル化は進んでいるはず。しかし、どのような仕事に就くにしろ、人と関わり合う機会がなくなるわけではない。そう考える羽鳥先生に、生徒の心を掴むデジタルとアナログの使い分け方について伺いました。

顔を合わせて行なう共同作業がコミュニケーション力の形成に役立つ

―――聖徳学園はICT教育で有名です。具体的な活用例を教えていただけますか?

(羽鳥)まずWEBQUがあります。これは早稲田大学の河村茂雄教授が開発した、生徒の状態を把握できるアンケートツール。生徒にiPadなりで入力してもらうことによって、クラスの状況に満足しているか、誰かからいじめや攻撃に合っていないかという個々の悩みなどもわかるツールになっています。

ただ河村先生は、デジタルツールに多くを委ねるのではなく、やはり学級活動が大切なのだとおっしゃっていて。しかもクラスメイトと一緒に協力しながら何か創造的なことをするのがまず大事だと。そこで秋の文化祭に向けた準備を行なう際に、WEBQUで把握した対人関係が苦手そうな生徒たちや、2学期に入ってどこか暗そうにしている生徒に声をかけました。それだけだと雰囲気が暗いグループになりそうなので、部活動を一生懸命にやっている快活な生徒も呼んだりとか。そうしてみんなで協業作業を行なったのです。

具体的には、感謝の気持ちを手書きのメッセージカードで伝えるサンキューカードを創作するというものでした。作業中の雰囲気は柔らかくしたいと思ったので、飲み物や軽食を用意して、みんなでワイワイと過ごしました。とはいえムードが明るくなったのは徐々に、です。同じ目的に向かって活動し、共通の話題を持つことで、それまで話したことのない生徒同士に会話が生まれていきました。

※編集部注 氏名をぼかしています

完成したサンキューカードは手作り感に溢れるものに。感謝の気持ちを伝えることを目的とするカードならデジタルでもメタ文字を使いながらできるんですけれど、どこか温かさが違うんですよね。

―――人としての温もりがない、みたいなことなのでしょうか?

(羽鳥)そうなのだと思います。中学3年生の担任をしていた去年も印象に残ることがありました。その学年はコロナの影響から、入学式を5月の末に、文化祭はオンラインで実施したという状況で、それ以外の行事はほとんど行えませんでした。1年時にはオンライン授業も多く、個々のつながりを築くことが難しかったせいか、協力して何かを行なう意識が低いと感じることもありました。

ただ、実は私自身、学習への集中度を高めるためにも行事はない方が良いと思っていたタイプでして。何かしらの行事があると、生徒たちはその前後を含めてしばらくそわそわしてしまう。その雰囲気がどうにももどかしく感じていたんです。だからコロナ禍になって学校生活がオンライン中心になったときには、勉強に集中できるではないかと。むしろ良い傾向だと感じていたんですね。

ところがコロナが明けて改めて対面による学校生活が始まると、生徒たちはコミュニケーションの取り方がわからなくなっている。今回の文化祭に向けた準備でもそうですけれど、やはり学校に来て、リアルに顔を合わせて何かを一緒にするという行事は、とても大切なのだなと痛感したんです。

イラスト付きスタンプで答案返却

―――改めて聖徳学園はICTを積極的に活用しています。一方でアナログの良さも痛感された。両者を取り入れている取り組みはあるのでしょうか?

(羽鳥)単語テストを学年統一で行なっているのですが、それはマークシートでやっています。すぐに点数がわかり、集計せずに平均点も出せることにメリットを感じているためです。それに入試は紙に書くことになりますから。テスト自体はデジタルでも行えるのですが、これらの点からアナログで行なっています。

返却時も、これは私個人の遊び心からなのですが、インク式のスタンプを押して返しています(笑)。しかも普通のスタンプではつまらないと思って、私のイラストをお願いして作ってもらって。きちんと見ているよ、というメッセージにもなるのかなと。

―――昭和の時代にはよく見られたのかもしれませんが、令和5年に聞くと意味合いが全く違うように聞こえます。

(羽鳥)もちろんデジタルでもスタンプを押せますが、やはりそこにも温もりを感じられなくて。インクなので少しかすれたりするものの、それも味となるからいいんですよね。

―――1回1回押してくれている感は、すごくありますよね。

(羽鳥)シャチハタではないので、そのつどインクパッドにつけて、ポンポンポン、と。しかもスタンプは、CHECK、BE CAREFUL、GREAT、PERFECTと4種類あって、「全部揃いました!」なんて言ってくれる生徒もいるんです(笑)。

思うに、こうしたアナログの良いところって、情報を伝える以外の何か付加価値が備わるところですよね。逆に情報の伝達だけなら、それこそデジタルで十分。目的に応じて使い分けるのが良いのかな、と。

―――デジタルとアナログの使い分け方をどうするか。この点は学校主導なのでしょうか?

(羽鳥)本校には先生たち自身も比較的自由に教えられる雰囲気があるんです。デジタル採点を取り入れている先生もいますが、活用するか否かは先生の判断次第。英語科など教科の判断ではなく、またICTの積極活用を謳う学校から押し付けられることもありません。生徒の力になることであれば、各先生の意向のもとに行える。実際、赴任初年度に理事長から「費用を要することには承認が必要だけれど、そうでない場合は自由にやったらいい」と言われました。そこは聖徳の良さだろうと感じています。

いつの時代も人とのコミュニケーション力が大切

―――最後に、今後このような教育をしていきたいといった展望があれば教えてください。 

(羽鳥)対面の全日制の普通科校だからできることとは何か、について最近は考えています。それこそ対人スキルを磨くと言ったことは対面での全日制ならでは。そのあたりを明確化できるといいなと思っています。

―――英語という枠組みを超えて何ができるかということですね。

(羽鳥)英語力を磨くことも重要ですが、英語は言葉であり、コミュニケーションのツールなんです。異なる文化を理解する。誰かに共感を覚える。たとえ意見は違っても、その意見を受け入れながら自身の見解を持つ。そういう力を磨くことが重要なのかなと。

やがて生徒たちは聖徳学園を卒業します。そしていつか社会へ羽ばたく。そのとき、デジタル化が進み、AIがより活用されるといった形で今より社会の形が変わっていたとしても、人と関わる仕事には就くでしょうし、人とコミュニケーションを取ることの重要性は変わらないのではないでしょうか。ですから、デジタルツールが使え、アナログの方法にも触れられる教育環境というのは、生徒の未来に役立つものと考えています。

さらに加えて大切だと感じているのは、考える力を養うこと。いつの時代も社会に貢献しながら生きていくためには、「自分は何ができるのか」という思考が必要になりますから。そういう力を学校で養うべきだと思いますし、今後はそのための活動を、より洗練化させていきたいですね。

取材・構成:小泉 純/記事作成:小山内 隆

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