【ハーバード大学発】「GDMを活用した授業作り」セミナーが開催

最終更新日:2024年4月8日

「中学校の授業にGDMを取り入れるメリットはいくつかありますが、そのなかの1つが時制です。そして時制は検定教科書で教えるのが難しい項目の1つです」

 202311月、東京都渋谷区にある国立オリンピック記念青少年センターの一室で開催された「GDMを活用した授業作り」セミナーでのひとこま。このように話し始めた松浦克己先生(愛知文教大学講師、GDM英語教授法研究会)は優しい口調で言葉を紡いでいきました。傾聴するのは英語の教育現場に長く立たれてきたと思われる学校教員や塾の講師など。ときに柔和な笑いが生まれるアットホームな雰囲気のなか、松浦先生は熱い思いを込めて語り、受講者はときに共感を覚えて頷きながら、「学習者が自ら気づく英語教授法を活用した授業作り」をテーマとするセミナーの時間を過ごされていました。

今回、松浦先生が教示したGDMGraded Direct Method―段階的直接教授法)という外国語の教授法は、ハーバード大学で開発されたメソッドです。英語の力が最も自然にのびていくように教材・教え方がきちんと段階を追っていることや、学習者が日本語を介さず直接英語で理解できるようになるところに特徴があります。動作や具体的な物を用いて習熟を狙う言語材料の使用状況を作り出し、生徒には状況・場面と外国語の結びつきから使い分けのルールや意味内容に気づかせ、理解の深化を狙うというものです。

「説明をしない教え方」とも換言できます。しかし説明がないとスローラーナーズにはわかりづらいのでは? そのような問いに松浦先生は、「英語における説明は、ほぼ文法用語を用いた抽象的でとても難しいもの。それこそスローラーナーズには理解しづらい」と自説を展開。「とくに入門期の英語学習はスモールステップとルートセンス(root:根本、語源)の活用が大切」とも言われ、1つの事例として連語をピックアップされました。

「検定教科書では、中学1年生の最初に“Here you are”という連語が出てきます。しかしhereを習っていないので日本語で丸暗記をすることになります。GDMでは最初にhere / thereの使い方を学ぶのでYou are here. の場面にもうひとつ伝えたいことが加わったときにHere you are. と使うことに気づくことができ、丸暗記する必要がなくなります。このようにルートセンスから段階的に学習すれば、考える力を育てながら効率よく学ぶことができます

また冒頭に記した時制の教授法にも、検定教科書とは異なるGDMの特徴が見られると言います。

「検定教科書の場合、最初に習う現在形を軸に、過去形、現在進行形、未来形それぞれの意味を現在形と比べながら教えますが、この3つの使い分けに言及することはあまりありません。GDMでは、ある動作を表す時には『これからする時:未来』『している最中:現在進行形』『すんだこと:過去』の3つの使い分けが必要だということを学習するので、正しい時制の概念を形成することができます。日常の日本語での『過去・現在・未来』という言い方から起こる間違った理解を防ぐことができ、日常での意味と英語の文法用語での意味との間に乖離が生まれづらくなるのです。

たとえば『今晩、夕食のあとは何をしますか?』と聞かれて、未来の話であることへの意識をどれほどの人が持つでしょう? “未来”という言葉は基本的に何年も先のことというイメージで使われることが多いので、今日の夜のことを未来と認識する人は少ない、と想像します。しかし英語ではwillbe going toを使う文で表されることになり、日本語の同じ言葉(未来という語)における日常の意味と文法用語での意味との間に違いが生まれます。時制を理解する際のハードルになってしまうのです。

さらに検定教科書では『3単現』という新しいルールで教えるため、いっそう定着が難しくなってしまいます。しかしGDMではis / am / areの使い分けをもとに、see / sees の使い分けのルールに気づかせるように教えます。つまりisam areの使い分けと同じということに気づけば、新しいルールも『3単現』という文法用語も必要ありません」

 生徒はみずから“気づく”ことができれば楽しさを獲得し、次の課題に意欲的に取り組むようになり、英語を能動的・主体的に学ぶサイクルが生まれるように。そしてあらゆる生徒にこの状況に達してもらうことがGDMの目指すところなのだと、松浦先生は穏やかながらも情熱的にお話しされていました。

 GDMのセミナーは今後も開催予定。メソッドの詳細や各種データ、セミナースケジュール等は以下のサイトをご覧ください。

GDM英語教授法研究会> 

 <登壇者>

松浦克己 (愛知文教大学講師)

愛知県小牧市の公立中学校で2015年まで英語を教える。その後、現職。中学校の英語の授業では、言語材料の導入でGDMを活用して文法説明や日本語訳を用いない授業スタイルを確立し、1990年代から「英語で授業を」の授業作りを実践。愛知県教育員会の10年目研修や小牧市教育委員会夏季研修会で講師を担当。退職後は愛知文教大学の免許状更新講習で「GDM入門講座」を2015年から担当。2010年文部科学大臣優秀教員として表彰される。GDM英語教授法研究会のサマーセミナーの企画・運営を担当している。

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