不登校生徒への対応から学んだ教育者としての自分

最終更新日:2024年12月16日

通信制高校である瑞穂MSC高等学校。同校では、通信制ながらも教員を身近に感じることのできる、生徒の個性に合わせた担任面談を実施。また、「生徒一人ひとりの『個性』を伸ばすこと」を使命とし、「誰一人見捨てない、温かみのあるネット高校」を目指して、2023年4月に開校しました。

そんな同校で教鞭をとる志藤駿太先生は、普通科高校での指導時に複数の不登校生徒と向き合った経験を持たれています。そこで今回は、通信制高校という選択肢の可能性不登校生徒を受け持つ際の心構えなどについてお話しいただきました。

普通高校から通信制高校へ

———今までのご経歴を教えてください
(志藤)大学卒業後、公立高校や私立高校、インターナショナルスクールで合わせて5~6年ほど教えたのち、本校へ来ました。

———なぜ通信制高校を選択されたのでしょうか
(志藤)生徒の本質に向き合えると考えたからです。その理由は大きく2つあります。

1つ目は、生徒を客観的に見られるからです。普通科高校のように生徒と長い間ずっと一緒にいるわけではないので、物理的に常に近い距離感は保てませんが、それがいい作用をもたらしてくれます。たとえば、長く生徒たちと一緒にいて生徒の問題行動が繰り返されると、「また悪いことをするんだろうな…」と期待をしなくなってしまうことがあります。それが、通信制では程よい距離があることで出会った状態のままの印象で対応できる、つまり、「期待を継続できる」のです。先入観を持たずに生徒を客観的に見ることができ、生徒にとってよりよい対策などを考えられると考えています。

2つ目は、風紀面だけで生徒を評価しないからです。普通高校で生徒を評価する際は、風紀面も評価項目の1つとなっていました。大切なことかもしれないのですが、私個人の意見としては、内面をきちんと評価できないのではと感じていました。内面を評価できないということは、生徒一人ひとりの本質に向き合えていないのではと思ったのです。その点、通信制なら時間をかけて生徒の内面、本質に向き合っていけると思っています。

不登校の原因は人間関係の悩みが多い

———先生は普通科高校に在籍されていた際、不登校の生徒さんの担任を複数回持たれた経験があると伺いました。不登校になってしまう生徒さんの原因は何だと思われますか

(志藤)さまざまな理由がありますが、一番多いのは人間関係で悩んでしまうのが原因なようです。中には人間関係のトラブルがストレスとなり、体調不良になってしまう生徒もいます。

———不登校に気づかれるのはどの程度お休みが続いた場合なのでしょうか

(志藤)今まで特に休みが目立たなかった生徒が週に1、2回休み始めると、その段階で「おや?」と思い始めます。あくまでも私の感覚ではありますが。

———そのタイミングで、どのような対応をされるのでしょうか

(志藤)まずは、保護者の方から欠席の連絡が入ったときに、「何かありましたか?」と聞きます。私が聞く前に、保護者の方から「実はこんなことがあって・・・」と自発的に教えてくださることもありましたね。あとは、それとなくクラスメイトに該当の生徒が何か悩みや気になることを言っていたか聞くようにしていました。

———お子さんの様子に気づいていない保護者の方もいらっしゃるのでしょうか

(志藤)いらっしゃいます。その際は、こちらが「何かありましたか?」と聞いた際に「いや、何もないです」と言われた後が勝負だと思っていました。そう言われたら「ちょっとした変化などどんなことでもいいので、もし何かあれば教えていただけるとありがたいです」と言ってこちらの姿勢を示し、保護者の方にも気にかけてもらうようにしていました。

———なかなか家庭だけでは気づけないこともあるかと思うので、先生からそう言ってもらえると「何かあったら伝える相手がいる」と保護者の方が思えるのもいいですね

(志藤)そう言っていただけるとありがたいです。あとは、気づかれていない保護者の方には「何かありましたか?」だけでは唐突すぎるので、学校での様子も合わせて「最近こんな様子でしたがご家庭で何かお話しされたりしましたか?」などと聞くようにしていました。そのほうが、保護者の方もお子さんに話しかけやすいのではと思い、日ごろから生徒の様子はよく見るようにしていました

クラス運営は保護者の協力なくして成り立たない

———自発的に教えてくださる保護者の方もいらっしゃるとのことでしたが、先生と保護者の方の間に信頼関係が築けていないとなかなかそういうことは起こらないなと思いました。何か保護者の方との信頼関係構築で行っていたことはありますか。

(志藤)ありがとうございます。私一人ではクラス運営は成り立たないので、必ず保護者の方にもご協力を仰ぎます。そこで私のとる具体的な行動は3つです。

1つ目は、生徒や保護者に自分の覚悟を示し、協力のお願いをすることです。そのために私は、新しいクラスを受け持った際は必ず生徒にどのようなクラスにしていきたいか所信表明を行います。そして、「このようなクラスにするために全力で取り組むから協力してほしい。もし、やり方を間違えていたら率直に教えてほしい。それでも達成できなかったら謝るつもりでいる」と言い、こちらの本気度と覚悟を伝えていました。この所信表明は最初のホームルームや保護者会の際に行っていましたね。

2つ目は、生徒の将来像を描くことです。たとえば、2年生から担任を受け持つことになったら、1年次の担任から、どのような生徒かを事細かく聞いてメモをとるのです。そのほかにいろいろ書き込める「生徒ノート」を作ります。そこから分析をして、この生徒のいいところはここだからもっと伸ばそうとか、課題の部分をこんなふうにカバーできたらこんな力が発揮できるなとか、なってほしい生徒像を自分の中で組み立てます。それを本人と、場合によっては保護者の方にも共有していました。

3つ目は、保護者の方と雑談をするようにしていました。その中で、なかなかご家庭ではわからないお子さんのできるだけポジティブな出来事や学校での様子をお伝えしていたのです。「お子さん最近こんないいところがありましたよ」「こんなことができるようになりましたよ」などと伝えていました。

私は、繰り返しになりますが自分のクラス運営は保護者の方の協力なくしては絶対に成り立たないと思っていました。そのため、まずは自分の想いを自己開示した上で、生徒の様子を伝え、コミュニケーションをとることに時間をかけていたのです。

「自分は教育者」そのマインドセットが重要

———実際に、不登校になってしまった生徒さん自体への対応はどのようにされていましたか

(志藤)場合によりますが、保護者の方に許可を取り、連絡を取り合うことも。学校が許可しているオフィシャルのアプリを使って、メッセージのやり取りをすることでケアをしていきました。保健室に登校できる生徒とは、直接話をしたりしてコミュニケーションをとっていました。

———コミュニケーションをとる際に気をつけていたことはありますか

(志藤)絶対に「学校に来なさい」と言わないようにしていました。学校に行くことが必ずしも正しいとは思えなくなっていたからです。それこそ私が今いる通信制高校も選択肢としてありますし、本人が生活できないくらい苦しいのであれば、無理矢理登校する必要はないと思ったのです。

ただ、来なさいとは言わずとも、来たらすごく褒めたり、たくさんコミュニケーションをとることはしていました。

そうしていると、急に何事もなかったかのように教室に来られるようになった生徒もいたのです。
非常に嬉しかったですし、クラスメイトも喜んでくれていました。また、本人がそのクラスメイトの反応を見て嬉しそうにしているのを目にしてさらに喜びが大きくなりましたね。

———そのような嬉しい結果になることは非常に喜ばしいことですが、不登校の生徒さんの対応をされているときは先生ご自身も辛いですよね。どのように乗り越えられましたか

(志藤)そうですね、辛い部分はありました。
私は、保護者の方と保健室のカウンセラーの先生にとても助けられたのです。

保護者の方とは、1時間くらい平気で話してしまうことが多々ありました。私にとってはそれが生徒を知れる時間でとても有意義でした。近況を聞いたり、家での変化を聞いたりすると、結構お話ししてくださって。
保護者の方が「ご迷惑をおかけしてすみません」とおっしゃるのですが、私からしたら申し訳ないことではなく、「大変なのは皆さん保護者の方なので気にしないでください。できることがあれば何でも言ってくださいね」と言っていました。そうしてお互い頑張りましょうと励まし合って、私の中ではそれが非常に救われましたね

保健室のカウンセラーの先生には、どのように生徒に対応したらいいかを相談していました。「まずは先生が気に病まないこと」とアドバイスいただいたのは非常にありがたかったです。

———不登校はいつ誰がなってもおかしくない事象です。今後不登校生徒と向き合う先生方や、今現在向き合っておられる先生にメッセージをお願いします。

(志藤)まず、「学校に来られていない生徒がいる = あなただけの責任ではない」ということです。あとは、「自分は生徒たちの人間形成に関わる教育者なのだ」とマインドセットすることが重要だと思います。

不登校の生徒の単位取得や欠席日数について確認をされることが度々あるかと思います。それを責められているように感じてしまう担任の先生は多いのではないでしょうか。ただ、そういった確認は生徒を預かる学校機関として必要なだけであり、担任の先生個人の責任を追及しているわけではありません。そのため、必要な対応をした後は気に病みすぎずうまく流してしまっていいと思っています。

結局、単位や欠席日数など目の前のことに気を取られて、体調が悪い中、無理矢理学校に来させて卒業させても、そのあとまた体調が悪くなったりメンタル面が落ち込んでしまったら何の意味もないと思うのです。自分の管轄する学校を卒業したら「それでおしまい」ではなく、いち教育者として生徒の人間育成と人生を、将来を一緒に自分事として考えることが第一だと考えています。

取材・構成:小林慧子/記事作成:大久保さやか

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