【イベントレポート】都中英研 サマーワークショップ

最終更新日:2024年10月8日

2024年8月26日(月)、東京都中学校英語教育研究会(会長 平岡栄一 葛飾区立常盤中学校長、以下:中英研)が開催する「事業部・サマーワークショップ」が開催されました。テーマは「小・中・高・大 実践事例集とその展望」。オフライン・オンラインでのハイブリット開催で、大盛況のうちに終わりました。

国際教育ナビ編集部は、そんな本ワークショップを取材させていただきました。当日の発表の様子をお伝えします。

当日のプログラム

<授業事例報告>
1.立川市立第七小学校 校長 島村 雄次郎 先生
2.千代田区立九段中等教育学校 主任教諭 黄 俐嘉 先生
3.東京都立豊多摩高等学校 主任教諭 亀田 洋斉 先生
4.順天堂大学国際教養学部教職課程センター 教職課程研究室 客員教授 佐藤 ひろみ 教授

相互乗り入れ授業と指導改善の必要性

登壇者:立川市立第七小学校 校長 島村 雄次郎 先生
    足立区新田学園 足立区立新田小学校 竹田 佐和子先生

発表前半部分では、東京都公立学校教員海外派遣研修の新プログラム「グローバル教育推進プログラム」についての報告がありました。今年からスタートしたこのプログラムでは、50名の教員がシンガポールに1週間派遣されたそう。シンガポールの教育システムや人材育成戦略について学び、あらためて小中高の連携や接続の重要性を感じたという島村先生。

その後、三鷹中央学園での実践事例が紹介されました。三鷹中央学園では、小中の教員が相互に乗り入れ授業を行い、連携を深めているそうです。また、自律した学習者の育成や、小中高の接続を意識した授業づくりに取り組んでいることを発表してくださいました。

発表後半では足立区立新田小学校の竹田先生が、区学力調査の結果分析に基づいた指導改善や、パフォーマンステストの実施、海外交流などの取り組みを発表。とくに、アウトプットの機会を増やし、共同的な学びの場を作ることで、英語力の向上につながったとのことです。

両校とも、SDGsなどグローバルな課題を題材にした授業実践や、オンライン交流を通じた実践的な英語使用の機会創出に力を入れていることがわかりました。これらの取り組みを通じて、小中高の接続を意識しながら、グローバル人材の育成を目指していることが伝わる発表でした。

生徒に身につけさせたい力を考え、段階的な指導を

登壇者:千代田区立九段中等教育学校 主任教諭 黄 俐嘉 先生

発表の冒頭では、参加者に対し「授業で大切にしていることは?」との問いが投げかけられました。「英語を使う機会をどれだけ増やすか」「生徒を楽しませる授業を心がけている」「とにかく話しなさい、伝えたいことを一番に伝えなさいと口酸っぱく言っている」などの答えが出ました。

黄先生ご自身は、「英語の授業を通して社会に貢献できる生徒を育てる」「自分の考え方や生き方、周囲の人たちや社会に関わることのできる経験をさせる(本物の経験をさせる)」「生徒に身につけさせたい力を考えてから授業を組み立てる」ことを大事にしているそうです。

その後、これらの要素を組み込んだ、下記の段階的な指導実践を披露してくれました。

中1:教科書本文で扱う登場人物になりきって演じる。教科書本文の概要説明(リテリング)
中2:教科書本文で扱う登場人物になりきって演じる。
   教科書本文の概要説明(リテリング)(1分)+自身の考え(1〜2文)
中3:教科書本文で扱う登場人物になりきって演じる。
   教科書本文の概要説明(リテリング)(30〜15秒)+自身の考え(1分)
 
<授業を行う上での工夫・実践例>
・単元に絡んだ新聞記事を用いて、情報提供を行い、実社会とのつながりを感じさせる
・大使館を招聘して話を聴くことで、社会とつながる体験をさせた
・オーストラリア中高一貫校とオンライン授業をして、世界とつながった
・社会的な支援がテーマが教科書に出てきた際、
 インクルーシブフードを紹介して実社会とのつながりを持たせた

・読売新聞社を学校に呼び、取材方法のアドバイスを受け、
 記者会見を開き英字新聞を書いた
 

配布された黄先生の授業計画資料

新聞社に協力してもらったり異国の学校とのオンライン授業を行ったりすることで本物の体験をさせつつ、身につけさせたい力をつけさせるための授業展開をしていることがわかりました。

今一度学習指導要領に立ち返る

登壇者:東京都立豊多摩高等学校 主任教諭 亀田 洋斉 先生

「これまで授業実践方法をいろいろ試行錯誤してきたが、『学習指導要領』という基本に立ち返ることが大事だと気づいた」と語る亀田先生。

理由を話す前に、「英語教育界でよく目にするキーワードは?」との問いを投げかける先生。参加者は思い思いに自分のよく目にするキーワードを挙げていきます。「4技能5領域」「アクティブラーニング」「生成AI」「音読は大切」など…

それを聞いた亀田先生は「今挙げてもらった内容を基に授業を組み立てようとすると、授業内容に矛盾が生じたり、生徒の英語力が伸びない場合がある。ひとつの技能にこれだけの要素を入れることに限界を感じた。そこで、基本に忠実であることが大事だとあらためて感じた。」と話します。

先生は、学習指導要領を柱に置きつつ、下記を基本の考えとし、指導計画や授業の組み立てを行っているそう。

・4技能5領域を保証する
・目標と過程の一致を図る(読む実践をさせていたのに、最後に急に発表(話す)をさせないなど)

 

配布された亀田先生の単元指導計画の組み立て方資料

技能ごとの指導実践(同じ題材を技能ごとにどう活用しているか)
・最終ゴールはすべて「即興的な言語活動」→過程がしっかりしていれば即興でできる
・生徒との思考の違いを一致化していく
・最低2単元扱う

また、参加者に英文を読ませ、隣の席の人とペアになり要約を発表し合う実際の授業実践も行われました。伝記や物語など、英文の種類によって組み立て方や要点が違うことを理解させ、具体例を大量に教え込むことを実践しているという先生。そこで、この授業を実際に受けている生徒が登壇し、参加者が行った内容と同じ課題の発表を授業成果として披露してくれました。

参加者が取り組んだ英文

発表最後には、亀田先生が顧問を務める野球部の生徒も登壇。夏の大会でベスト16に入った野球部ですが、1年生が6人しかおらず存続の危機に瀕しています。そんな野球部の魅力を英語で宣伝してくれ、会場は和やかな空気に包まれ亀田先生の講話は終了しました。

中学・高校での学びは大学で活かされる

登壇者:順天堂大学国際教養学部教職課程センター 教職課程研究室 客員教授 佐藤 ひろみ 教授

実践発表の最後は、元々都内の公立校にて英語教員を務め、現在は順天堂国際教養学部にて教員の卵を育てる佐藤ひろみ教授のお話です。

ここ数年の英語教育の多様化やグローバル化により、英語が学生にとって1つのツールとなり、そのツールを使って自分の思考を 広げていく手立てになっていることを実感すると言う佐藤教授。文京区と連携して難民映画祭を企画・運営した際、学生が「考えるための英語」「互いを理解し合うための英語」を使っている場面を目の当たりにし、その考えはより一層深まったそうです。

学生が英語をツールとして使えるようになる下地となっているのが、中学・高校での学びであり、重要性を訴えました。

発表では、佐藤教授の教え子で現役順天堂大生でもある井上さんも登壇。順天堂大学ならではの、「医学と英語を掛け合わせた学び」などを紹介し、「英語を難しいと思わず、自分の強みにしたい」と話しました。

最後に、佐藤教授から参加者に「先生方の実践を大学に発信していってほしい」とのお願いが。その理由は、「さまざまな英語教育の施策が打たれている中で、新任の英語教員でも即戦力として動くことが求められる。教員の卵を育てる大学側が現場を知ることで、教える内容などが変わっていき、大学での学びがより深くなり、学生たちに還元していけるのではないかと思うから。」とのことでした。

ベテラン教員と未来の教員の発表を聞き、参加者はそれぞれ思うところがあったように見受けられました。

中英研とは

東京都中学校英語教育研究会(中英研)は、次の行動目標のもと、東京都の中学校英語教育のなお一層の充実と発展を目指して活動する団体です。

・組織の充実とその活性化を図る 。
・人材の発掘とその育成に努める 。
・英語教育に関わる関係機関や関係団体との連携を強化する 。
・調査・研究の充実を図る。
・英語教育に関わる各種情報の収集・発信を進める 。

引用:<令和6年度>行動目標|中英研

今後もさまざまな研究やワークショップを通し、英語教育のボトムアップを図っていきます。

 

レポート取材・作成:小林慧子/大久保さやか

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