海外に挑戦する高校生のともしびを消さないために。一般社団法人TOASTの活動とは
最終更新日:2026年5月8日
日本の学校教育において、海外大学進学は依然として「マイノリティ」の選択肢です。特に地方の公立高校では、周囲の大人の善意や「正義」が、海外を目指そうとする生徒の可能性にブレーキをかけてしまうこともあります。
「生徒の可能性を広げたい」と願いながらも、学校の方針や現場の制約、ノウハウの不足に悩む先生方は、どのように一歩を踏み出せばよいのでしょうか。
そうした先生方をサポートする活動を続けているのが、ドルトン東京学園中等部・高等部の佐藤貴明先生です。自身も教壇に立ちながら、「一般社団法人TOAST」の代表理事として、教員による海外大学進学支援の輪を広げています。
佐藤先生に、TOAST設立の背景や活動の意義、そして今後の展望について伺いました。
#海外大学進学 #公立高校
「経験していないこと」を教える教員の不安
――海外大学進学をめぐる、現在の学校現場の状況をどう見ていますか。
(佐藤) 首都圏の私立進学校などでは、この10年で海外大学への進学を希望する生徒も増えており、支援についても少しずつ体系化されている学校もあります。一方、地方の公立高校においては、地元の国公立大学への進学を重要視されています。
地方の先生方にとって、生徒たちが地元の国公立大学に進学し、地域を盛り上げる人材になってほしいと願うことは当然だと思います。
――公立高校という枠組みもハードルになっているのでしょうか。
(佐藤)そうですね。公立高校の場合、先生の異動があることもハードルになっていると思います。せっかく数年かけて支援に取り組んでも、先生が異動すると知識やノウハウまで他校へ移ってしまう。こうした状況は、都内の公立校でも起こりうることですから、地方ならなおさら、学校文化として根付きにくい、仕組み上のハードルがあるといえます。
一方で、マイノリティではありますが、地方の公立高校にも、海外大学への進学を志す生徒はいます。そうした生徒の「挑戦したい」という思いを、善意から、大人の正義によって教員が消してしまうケースをしばしば耳にしたんです。同じ教員として、少数派の選択肢が、否定ではなく、応援される教育環境にシフトしていくとよいなと思います。
――そうした思いが、TOAST設立に結びついたのですね。
(佐藤) そうですね。もともと私は、海外進学支援を行うNPO法人の活動に携わっており、その中で、「海外大学進学支援の仕方がよくわからない」という先生方の嘆きにも似た声を耳にすることよくありました。
日本の学校で働く教員のほとんどは、海外大学に直接進学をした経験がありません。自分が未経験の進路を指導することに、不安や戸惑いを感じるのは当然だと思います。
そんな先生方の思いに寄り添い、海外進学支援のともしびを絶やさぬよう、一般社団法人TOASTを設立しました。
地元への愛にリスペクトしながら、生徒の可能性を閉ざさないために
――TOASTでは具体的にどのような活動をされているのですか。
(佐藤) 主に三つの事業を行っています。一つは、二泊三日の合宿型研修です。基本的に、これから海外大学進学支援に関わりたいと考えている先生方が対象で、年に1度、日本一チャレンジする町「埼玉県横瀬町」で実施しています。
二つ目は、一日単発の教員研修です。こちらはニーズに応じて実施しており、海外進学の概要や支援方法についてお伝えしています。
三つ目は、奨学金に関する情報発信です。海外大学への進学では「お金」の問題が大きなハードルとなるため、給付型奨学金を提供する財団をオンラインにて紹介し、より多くの人につなげていければと考えています。

<先生による、先生のための海外進学支援サポート。TOAST>
――どのような先生が参加されているのでしょうか。
(佐藤) 自ら申し込まれる先生もいれば、ご支援いただいている笹川平和財団さんから、支援を必要としている先生を紹介いただくこともあります。また、海外進学を希望する生徒が担任の先生や国際交流担当の先生に紹介し、「生徒が言うことならば!」と参加してくださる先生もいらっしゃったりします。素敵な関係性ですよね。
ただ、外部団体からの情報が入ること自体に慎重な学校もあります。そのため、海外大学進学についての説明会を開催すること自体が難しいケースも少なくありません。
一方で、地方にも、留学経験があり「生徒にも留学を経験してほしい」と願う先生は多くいます。そうした先生方の思いと重なったときに、初めて必要性が見えてきて、ようやく支援の場が実現します。
――そうした状況に、もどかしさを感じることはありますか。
(佐藤)そうですね。ただ、海外進学や留学に対する疑念の根底には、地元を愛する気持ちがあるのだと思います。外の影響から子どもたちを守りたいという善意ですし、それがその地域の人たちにとっての正義でもある。そうした熱い思いは、最大限にリスペクトをしています。
一方で、これまでの活動の中で、高校生の切実な声を直接聞く機会も多くあり、大人の思いだけで彼らの可能性を閉ざしてしまってよいのかという気持ちもあります。
外に出るという経験を通して大きく成長する子もいる。だからこそ、その可能性を最初から閉ざしてしまうのはもったいない。私たちは第三者という立場ではありますが、そうした機会を必要としている人に届ける取り組みは、これからも続けていきたいと思っています。
――地元を大切にしたい先生方と、海外を目指したい生徒。この葛藤をどう乗り越えればよいのでしょうか。
(佐藤)地元に根ざすことも、短期的に見れば大切だと思います。しかし、中長期的に見たとき、本当に地域のためになるのかは考える必要があるのではないでしょうか。そのヒントになるのが、「越境学習」という考え方です。
越境学習とは、自分のホーム(地元)とアウェイ(外の世界)を往還することです。外に出て行きっぱなしになるのは「流出」ですが、アウェイで直面するストレスや孤独、葛藤を乗り越えて得た体験や知見をホームに持ち帰る「越境学習」のフレームで考えれば、地域にとって大きなメリットになります。
生徒たちを「いったん旅に出す」ことに不安を感じる先生も多いと思いますが、その経験が将来、地域に還元される可能性もあります。そうした視点を持ちながら、生徒を送り出す。「可愛い子には旅をさせよ」ですよね。
教員もまたマイノリティ。孤独を感じないためのつながりの大切さ
――海外進学に対する学校や先生方の意識は変化していると感じていますか。
(佐藤)グローバル化や少子高齢化の影響もあり、学校も生き残りをかけて変化を余儀なくされている側面があります。また、昨今、国内大学の入試が総合型選抜へと移行していることも、こうした変化に拍車をかけていると思います。その先駆けとして知られているのが、慶應義塾大学SFCのAO入試です。
小論文や面接、さらには学校の成績や推薦状などを通じて、学力試験では測れない多様な能力を多角的に評価する点は、海外大学の入試とも共通しています。
これまでは海外進学を「別の世界」と捉えていた先生方も、総合型選抜との共通点を知ることで、「そういう進路を選ぶ生徒がいてもよいのではないか」と受け止め方が変わりつつある印象です。

<運営もサポート対象も現場の先生。地方・公立の支援を最優先にしています。>
――海外大学進学への意識は変わりつつあるのですね。ですが、そんな過渡期だからこそ、学校の方針や同僚の方との板挟みとなり、苦しむ先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
(佐藤) まさにその点は大きな課題だと感じています。海外大学進学に関心を持ち、支援したいと考える先生は、まだ学校の中では少数です。生徒だけでなく、教員自身もマイノリティなんですね。
孤独を感じたり、「自分の考えは間違っているのではないか」と悩んだりする先生もいます。だからこそ、学校の垣根を越えて教員同士がつながれる場が必要だと考えています。
TOASTのメンバーも、それぞれ異なる学校に所属する教員です。各自がノウハウを持ち寄り、共有する。それこそが、この団体の大きな価値だと感じています。
草の根の活動で、小さなともしびを守り続ける
――TOASTの活動において大切にしていることは何ですか。
(佐藤) もちろん、具体的な支援方法や情報をお伝えすることも大切です。ただ、それ以上に大事だと思っているのは、生徒との関係性の構築や、その子のために何ができるかをもう一度考え直すことです。
たとえば、推薦状執筆ワークショップでは、即効性の高いフォーマットやテンプレートをシェアさせていただきますが、根本にある思いは、薄れてきている生徒と教員の信頼関係の回復です。海外大学への出願に必要となる推薦状では、その生徒がどのような人物で、どのようにして高校生活という物語を紡いできたのかを教員目線で語ることが求められます。そして、それができるのはやはり先生だけなのです。
同時にそれは、教員にとって、その生徒とどのような関係性を築いてきたのかが問われることでもあります。とはいえ、40人規模のクラスを担任する中で、一人ひとりと丁寧に向き合うことが難しくなっているのも事実です。
それでも、教員という仕事の原点は、生徒との関係性を築くことにあったはずです。TOASTは「海外進学」を切り口に活動をしていますが、実はその本質は、教育における原点回帰なんです。ちょっと大袈裟ですが。
――教壇に立ちながらの活動は、お忙しいと思います。
(佐藤) そうですね。メンバーは皆、学校現場を軸にフルタイムで働いているため、コミュニティを育てることに十分なエネルギーを割けないのが悩みです。私自身も専任教員として働いているので、どうしても時間には限りがあります。
ですが、現場から離れてしまうと、その瞬間に生徒との関係性は薄れ始め、肌感覚が失われ、日々の変化に鈍感になり、やがては気づけなくなってしまいます。それに、私にとってこの活動はライフワーク。もう10年以上関わっていますが、飽きるどころか興味関心、活動の幅は広がる一方です。
周りからは大変だと思われるかもしれませんが、私は「ワーク・アズ・ライフ」タイプの人間なので、楽しんで取り組んでいますし、幸せだと感じています。
――今後の展望について教えてください。
(佐藤) これからも、草の根の活動として続けていきたいです。「海外大学へ進学したい」という、放っておいたら消えてしまうような生徒たちの小さなともしびを、消さずに守り続けていく。それが私たちの存在意義だと考えています。
海外大学進学が国内進学を上回ることは、これから先も絶対にありません。少子化の影響で留学する人の数も減っています。それでも、現場の教員としてこの活動を続けていくことで、日本のグローバル化をほんのわずかでも前に進めていけたらと思っています。
行政や民間による支援も大切ですが、教員同士だからこそ話せること、わかり合えることがある。その「平場」でのつながりを大切にしながら、海外大学進学という選択肢を消すことなく、必要とする生徒に支援が届き続ける未来をつくっていきたいと思います。
一般社団法人TOASTの活動詳細については、以下のHP、SNSをご参照ください。
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TOAST【海外大学進学サポート】|note
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取材:谷口諭 白根理恵/構成・記事作成:白根理恵



