白熱トーク#2「これが観点別評価だ!」~あなたの指導案がクワケンを唸らせる~

最終更新日:2022年10月4日

幼稚園から高等学校まで、全国どこの学校でも授業の基準となっている学習指導要領は、社会のニーズや時代の変化に沿って10年ごとに改定されております。

 

新学習指導要領が2022年度に全面的に実施されております。この新学習指導要領が始まって3ヶ月が過ぎましたが、皆さん、観点別評価を意識した授業は実践できておりますでしょうか?最近では、中間試験が終わった学校も多いと思いますが、材料が多いけど効率よく記録していけないのかな、ABC評価をどうつなげたらいいの、異文化理解を育むまでカバーするの難しい、という声もあるのではないでしょうか?

 

今回は、そのようなお悩み解決のヒントとなるコンテンツをお届けいたします。第1部では、本日のゲストである桑野先生によるご講演を聞いていただき、第2部では指導案をリアル添削していただきます。観点別評価を実践する上でのポイントを学んでいただければと思います。

 

(越智)本日ご登壇いただく先生方のご紹介です。まず1人目は、九州国際大学付属高等学校の桑野先生。同じく九州国際大学付属高等学校の須本先生です。桑野先生は第1部から、須本先生には第2部からご登場いただきます。

 

第1部は桑野先生にご講演いただきます。

 

 

(桑野)私は、福岡英語力向上プロジェクト、チームクワケンというものを主催しておりまして、実は今年が10年目なんです。10年前、私が教員10年目のときに、先生たちを励ますような研究会や勉強会、自分たちが持っているものを活かしていけるような機会はないかと、このようなチームクワケンを作って、翌2013年の3月に第1回目の研究会を開催してます。そのときは作家の木村達也先生の、ユメタンを使ってどうやって英語指導していくかををテーマにして、8名から10名の小さな規模でしたけど、早くも今回が25回目の研究会ということで、全国の先生方に向けてお話ができるぐらいの規模に成長するとは全然思っていませんでした。思いを持ち続けることで、大きなことが達成できることを実感してうれしく思ってます。

 

2部から登場していただく須本先生はまさに私の相棒で、私がこうしたいと言ったことを、須本先生は技術的な面をクリアして、論理的に方法を示してくれています。

 

 

(桑野)それでは本日の流れとして、3つの柱で前回の復習を兼ねて実施していきたいと思ってます。

 

 

(桑野)まず英語力とは、学習指導要領では具体的には定義してないんですけど、“コミュニケーションを図る資質や能力”という言葉を使って表現しております。大きく分けてですね、4つありまして、外国語の音声や語彙、表現、文法、言語の働きに関する知識、目的や場面、状況などに応じて適切に活用できる技能、意図を的確に理解したり、適切に表現したり、伝え合ったりする力、文化への理解を深め、相手に配慮しながら、外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度、こういったコミュニケーションを図る資質や能力を育成するのが英語科です。

 

ただ、私達のこれまでの評価システムでは、単語の知識量が多く、入試にシフトしたような答えが出てしまう部分は否めないのかなと思います。

 

 

(桑野)コミュニケーションを図る資質や能力とはどういうものなのかを具体化するため、私はMichael Byramという方のIntercultural Communicative Competenceというものを使って説明します。

 

大きく分けて4つ、言語能力、社会言語能力、談話能力、相互文化的能力という4つを彼は推奨しています。

言語能力というのは音声、語彙、表現、文法などの知識とそれらを運用できる技能ということで、従来の日本の英語教員という肩書きの人たちは、英語力といえばこの言語能力に焦点を当てることが多いです。

社会言語能力は、場面、目的、状況に応じて、適切に表現したり伝え合ったりする能力です。ここでのポイントは適切さです。例えばOpen the windowと言えば、窓を開けろという意味になってしまうので、相手にして欲しい場合はCould you open the window?と別の表現を使った方がいいというような、その場の適切さを考えることができるかどうかになります。

続いて談話能力です。これは場面、目的、状況に応じて、情報や考えなどの概要・詳細・意図を適切に表現したり伝え合ったりする能力です。論理的に相手にわかってもらうためには、まずトピックセンテンスを書いて、その次に具体例を書くように、共通認識を言葉で伝え合うときに誤解のないように、適切に相手に伝わるように、順序立てて話をしていきます。これは文化的な側面も含んでいまして、自分の文化独特の表現もあるので、それらを克服する部分も少し含んでおります。

言語能力、社会言語能力、談話能力の3つをByramはIntercultural Communicative Competenceと呼んでいるのに対し、最後の一つ、Intercultural Competenceも重要です。つまり、他者や他の文化を尊重し、自律的・主体的にコミュニケーションを図る能力です。私はまさにこれが外国語を学ぶ理由になると思っています。国に特化したものではなくて、同じ日本にいる中でも発生するような、相手の文化、考え方、行動規範などを尊重して、自主的・主体的にコミュニケーションを図っていこうということです。

 

これら全てが私にとってのいわゆる英語力と呼ばれるものです。

 

 

(桑野)先ほどの学習指導要領が示すコミュニケーションを図る資質や能力とByramの能力を関連付けしたものがこちらになります。左側の軸に学習指導要領、右側にByramが示す相互文化的コミュニケーション能力、つまりどういうことかという概要を一番右側にまとめています。1番右側の内容が“これが英語力なんじゃないですか”という私の立場です。これは、新学習指導要領で求められるコミュニケーションを図る資質や能力というところで定義づけをして、教育実践研究を行い、実際に福岡教育大学の紀要論文で、江頭理江教授と一緒に2022年に私の他に前回登壇した上原先生、そして今回の須本先生、そして第3回目の藤下先生で執筆したものになります。

 

 

続いて観点別評価です。

 

 

(桑野)3つのボックスがあります。まずは学習状況の分析、観点別評価とは、学習状況分析的に捉えるものです。

そして場面、方法を工夫します。定期考査の結果だけでなく、単元や題材など、内容や時間のまとまりを見通しながら、工夫していきましょう。

そして学習の過程や成果です。過程や成果を評価し、学習意欲を向上させたり資質能力の育成に生かしていきましょう。

要するに、特に高校の現場では定期考査のテストの結果だけを見て評価をしていましたが、それ以外の場面でも評価をして、生徒の学習をscaffolding的にはしごをかけていきながら、自分たちの学びを最大限有効なものにしていきましょうという意図で作られたものです。決して私たちを苦しめる為のものではないのですが、文科省のメッセージをきちんと受けとめていくにはちょっと時間がかかったり、現場では難しかったりすると思い、まとめさせてもらいました。

 

 

(桑野)学習指導要領が示す資質・能力の3つの柱は、1つ目が知識・技能で、何を理解しているか何ができるかということ、2つ目が思考力・判断力・表現力で、理解してることやできることをどう使うか、3つ目は学びに向かう力・人間性で、どのように社会・世界と関わり、より良い人生を送るかということです。

 

 

(桑野)これを観点別の評価とするとき、それぞれの項目に落とし込み、先ほど私が定義した英語力と連動させると、このようになります。知識・技能分野の評価の柱に関しては、言語能力で、言語を正しく使う能力を測っていきます。

思考力・判断力・表現力は、社会言語能力、談話能力とし、場面における適切さや、相手に伝わるかどうかです。

最後に主体的に学習に取り組む態度は、学びに向かう人間性という柱でしたが、そういった人間性を評価するのはいかがなことかということで、実際に観点別で評価するときには名前が変わりまして、主体的に学習に取り組む態度となってます。ここで新たに出てきたものになりますが、メタ認知能力として、例えば自分自身を客観的に見て、最終的にこういうものを提出しよう、こんなふうに学習していこうと管理していくこと、いわゆる自己管理能力として表現しています。それに加えて、相互文化的能力です。

概要は、知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体的に学習に取り組む態度の項目に対する説明として捉えています。

 

このようにルーブリックを作る前に、恣意的でそれぞれの思いがありますので、集団の中でですね整理をしてから、観点別評価に動いていくことがとても大切になります。3年くらいかかると思うので、観点別評価項目の軸をしっかり立てることを今年度の目標にするぐらいでもいいのかもしれませんね。

 

 

(桑野)最後に、評価に関する情報です。どのようにして評価していますか、タイミングと点数はどうなっていますかという事前質問もいただいておりました。これは正直教務規定によるところが非常に大きいです。ですので、それぞれの学校の教務部ないしその関連部署が、学校方針を立ててから決めるものであって、教科からで吸い上がっていくところではないと思っています。もちろん意見を言うぐらいはいいかもしれません。

 

 

(桑野)こちらが私が勤務する学校で与えられた教務規定にのっとったタイミングと項目別点数になります。例えば1学期の中間考査が終わりましたが、このタイミングでパフォーマンステスト1と2、そしていわゆるペーパーテストである定期考査の3つの評価の場面がありました。PT1のところの点数を最大で25点満点でPT2も同じで定期考査は60点満点です。

これでどのように100点法でつけるかというと、態度は、1学期の最終で追加をします。ですので、1学期中間考査の100点法での点数は、知識・技能、思・判・表の部分の、10点、10点、40点と10点、10点、20点になります。このデータが成績表に載るということです。今まさに1学期末に向かってやっていますけれども、ちょうど今PT4をやっていて、2週間後に考査が行われます。1学期の中間と期末を合計した200点を、2で割って、0.8を掛けたものに、態度の20点分をそのまま素点として足して100点満点にするということです。これが1学期の成績として成績表に載ります。

 

(桑野)観点ごとにそれぞれの満点が違っていて、知識・技能が120点、思・判・表は、80点、態度は20点になります。横軸の観点毎に、80%以上はA、60%以上はBと、計算式を作っているので、それを使って最終的にはABC評価をやっていきます。それが年間で勘案されて、観点別の評価と評定が生徒に通知されることになります。こちらはまだ走り出しで、1学期分の観点のABCもつけていない状態ですので、7月30日に行う予定の第3回で、実際にABCをどのようにつけたか、皆さんにお示しできると思います。

 

(桑野)それぞれのパフォーマンステストはどのように実施しているか、また25点満点の内訳について、例えば、今回のPT4は、2年生のコミュニケーション英語の教科書で杉原千畝の話があって、結果を表す不定詞や強調構文の学習が言語材料としてあったので、その知識技能ではこれを意識して使わせることがポイントかと思います。ライティングは、杉原千畝の教科書の要約と、それに対する個人の見解を2段落構成で述べるというライティングになります。その中の知識・技能は不定詞や強調構文、正確さは語彙・文法・語法を、5点、3点、1点で評価をしていきます。

 

要約は、さあどうぞと言っても、学習者はなかなか書きにくいです。どのようにして学習してほしいかというこちらの狙いがあるので、全部をいろいろ聞くのではなくて、ポイントを絞ってあげることがポイントかと思います。例えば杉原千畝とリトアニアがパート1、パート2の内容、帰国後の杉原千畝がパート3、パート4になるので、それぞれの評価をつけます。語数も100語から120語を意識してやりましょうと示します。もちろんこの要約の書き方もPost-Reading Activityで学習者たちには示して、モデルを示しています。

 

個人の意見の段落では、語数制限なしで、読み手が情報を補うことなく論理的に書かれていることなどをポイントとして5点、3点、1点で評価します。こちらも意見の書き方の指導をしてから行います。

 

(桑野)最後に態度です。例えば期限に関しては定期考査前に提出してほしいので、定期考査前の週に期限を設けています。批判的文化意識は先ほどのByram理論の中にありますが、Critical Cultural Awarenessのところで、その中から移民政策についての評価的分析、要するに当時はこういう基準があったから仕方がなかったんじゃないか、しかし現在ではという自分の評価基準を示した上で、自分の意見を書いていく態度を見ていきます。もちろんこちらもしっかり指導した後にWriting Taskを課します。

 

 

(桑野)今回使用した参考文献です。

 

 

(桑野)資料請求質問などは、こちらのメールアドレスまでお寄せください。

 

(須本)九州国際大学付属高等学校の須本雅美と申します。

 

 

(須本)桑野先生から先ほどお示しいただいたティーチングガイドを使ってどういう授業をやったのかを共有させていただきます。

 

 

(須本)まずは概要です。高校1年生で、コミュニケーション英語Ⅰの検定教科書を使っています。題材はスポーツです。世界のいろいろなスポーツはイギリスに起源があるという内容です。授業は3部構成にしています。Pre-Reading Activity、本文を読む前の活動と、While-Reading Activity、これは教科書の本文に付属のクエスチョンに答えるというシンプルなものです。Post-Reading Activity、これが教科書本文を読んだ後に行う活動です。

 

タスク1、2、3をPre-Reading Activity、読んだ後にタスク4、5の5つを作りました。このタスク5、これが観点別評価を入れた内容になります。授業を作成したときに重点項目として、批判的文化意識のかん養を重視しました。これが先ほどお示しいただいたティーチングガイドの態度項目に当てはまる部分になります。

 

 

(須本)こちらは外国語教育の目標です。この辺りは桑野先生のお話と重複しますので割愛します。

 

 

(須本)こちらが関連図です。態度項目の批判的文化意識はここにあります。

 

 

(須本)批判的文化意識は、言語能力、社会言語能力、談話能力、相互文化的能力、この4つの能力がある中で、(1)自分自身の文化や他の文化の文書や事象にある明示的、もしくは、暗に示された価値観を見極め、解釈する。(2)明示的観点や基準について言及する文書や事象に関して、評価的分析を行う。(3)知識・技術、そして態度を用いることによって、必要な場合、ある一定の相互文化的変化を受け入れることを取り決めながら、明示的な基準に従って、相互文化的やり取りの中で、関わり合いを持ち、仲裁する。と難しいことが書いてありますがこれを意図して作ったプランです。

 

 

(須本)タスク1では、スポーツの話題ですので、人気のランキングを作ってもらいました。これは個人でやってもらって、話し合いや調べるのは駄目と指示をしています。生徒たちにはこんなハンドアウトを配りました。中にはクリケットを知らない子もいて、どうしたらいいんだという生徒もいましたが、「直感で決めて」とどんどん進めました。ここで意図していたのは、批判的文化意識の(1)です。自分の文化、文書や事象の価値観を見極め解釈することです。自分はどれが人気だと思うのか、外部情報がなく自分の情報だけで決めなければいけないなかで、決められた子もなんとなくそこを考えると思いますし、決められなかった子も、自分には決めるだけの情報や知識がまだないという気付きになれば、メタ認知的な学びにもなると思っています。

 

 

(須本)次に、さっき作ってもらったランキングをお互いに伝え合う活動を設定しました。形式はペアワークです。英語でやって欲しかったので、Useful Languagesを提示してます。やりとりをするときにこういう場面ではこんな表現があるといいよというものを示して、取り組みやすくしました。

 

ここでは言語能力として外国語の音声、語彙、表現、文法、そしてこれをそのまま言うだけではコミュニケーションは取れないので、今まで勉強したことも目の前の状況に合わせて使わないといけないという点での社会言語能力を意図しています。また、相手のライティングを記録して自分と比べる形にしてるので、批判的文化意識(1)の他の文化として、最初は自分だけの世界で判断していたものに、ペアの相手の世界が入ってくるということになると思ってます。

 

 

(須本)タスク2では、実際のランキングに関する英語の記事を読んで検証するというタスクを課しました。これは個人で読んでもらってその後ペアワークで情報を確認するというものです。載っているスポーツはタスク1と同じです。もともとはこれをやりたかったのですが、目標に照らし合わせてティーチングガイドをうまく活用するにはどうしたらいいか、効果的にやるにはどうしたらいいかを考えたときに、最初は自分でやってもらおうと思ってタスク1が後から生まれたという経緯があります。

 

生徒たちには、表を渡してどんな情報を読んだらいいのか事前に確認しています。今回であれば、スポーツの名前とファンの数、どんな地域で人気かを拾っていったらいいよと言ってあげて、苦手な生徒でも頑張れるようにしています。

 

(須本)その後、記事が示すポピュラーの定義を考えてもらいました。この記事はNumber of fansの数が多いことをポピュラーと言っています。他にも例えば競技をやっている人が多いことをもってポピュラーとするのか、見てる人が多いこと視聴率をもってポピュラーとするのか、あるいはチケットが売れてお金が発生するレベニュージェネレーティングの視点でポピュラーというのか、いろいろ視点があると思うので、今回であればNumber of fansがポピュラーの定義ということを考えてもらいました。ここで意図したのは、談話能力の意図を的確に理解するというところと批判的文化意識の(2)の明示的基準について言及する文書や事象に関して評価的分析を行うことです。そもそもこの記事が、どういう基準定義で話をしているのか、どういう立場で話をしてるのかを考えることが大事だと思ってこういう設定にしています。

 

その後、タスク1で自分たちが作ったランキングはどんな定義でポピュラーとしていたか考えてもらいました。批判的文化意識(1)を再度確認しました。

 

 

(須本)タスク3では、10種のスポーツから3つを選んで合意に至るというものです。ちょうどクラスマッチの時期だったので現実に近いシチュエーションということでこんなタスクにしています。形式はピラミッドディスカッションです。最初はペアワークで話をして3つを決める。その後違うペアと合流をして、4人で話し合いをして合意する。今度は別の4人グループと合流して8人で話し合いをして合意、そこから16人、32人と増えて、最終的にクラス全体で3つ決めます。もちろん載っているスポーツはタスク1、2と同じ10個になります。Useful Languagesはもちろん出していますが、今回は定義づけをしなさいという話をしました。EnjoyやInteresting、fun、Dangerousなどを具体化するためにClues for thinkingとして観点を提示して、そのすり合わせをしてくださいと、結構難しいことを言いました。

 

ここで意図したのは言語能力、社会言語能力、談話能力です。談話能力は適切な表現や伝え合う部分です。そして批判的文化意識(3)の相互文化的変化を受け入れることと、明示的な基準に従って関わり合いを持って仲裁することです。この活動はこの(3)にはまると思っています。

 

(須本)3クラスやって、どこもクラス全体での合意にまでは到達しませんでした。どこが難しかったか聞くと、自分たちの考えの基準を明らかにすること、相手の言っている基準を理解すること、さらにそこからすり合わせをして合意に至ることが難しいと言っていました。総合文化的能力と言うと外国の方と話をするとか、英語を使ってどうにかする外向きの話になりがちですが、同じ日本語を使っている同級生の間でも、価値観の違いに目を向けると、意外と違っていて難しいし、それが面白いと思ってます。

 

ここまでで前半の活動が終わりました。ここで扱ったスポーツには共通点があるらしいよと言いながら教科書の本文、While-Reading Activityにつなげていきます。教科書の本文が終わった後にPost-Reading Activityのタスク4、5に入っていきます。

 

(須本)タスク4は、スポーツのメリットデメリットを考えるというものにしました。形式はペアワークで、各主張のポイントを整理するというものです。ハンドアウトを渡して、いろいろな意見がポジティブなのかネガティブなのか、この人は何について話をしてるのかというメインポイントをキーワードで抜き出してもらいました。実は先ほどのタスク3で話し合いをするときに出したClues for thinkingのポイントは、タスク4で出てきた意見のポイントです。タスク3でうまく言えなかったところが、タスク4を読むことで、材料的にヒントになることを狙っています。

 

 

(須本)次がタスク5の観点別評価です。言語能力、社会言語能力、談話能力、相互文化的能力の4つの中の、言語能力、社会言語能力を、知識・技能、社会言語能力、談話能力を、思考力・判断力・表現力、相互文化的能力を態度と考えました。このくくりに従って作ったタスクが観点別評価で、スポーツとの付き合い方を言語化するというものです。

 

 

(須本)形式はライティングです。本校では生徒1人に対し1台タブレットを持っておりまして、支援ソフトとしてMicrosoftのTeamsというものを入れています。プリントを配って回収するというようなものをパソコン上でできるソフトです。生徒たちにはハンドライティングするのではなくて、Wordファイルにタイピングをして提出してもらいます。

 

(須本)採点基準、ひとつめは、知識・技能として正確さ、2段落もしくは3段落構成を狙っていますので、フォーマット、タイトルやインデントで、この部分で10点です。基準②は、思考判断表現では、スポーツに対する意見、肯定的意見と否定的意見、加えてスポーツとの付き合い方として自分はどうするかの、2段落もしくは3段落で設定しました。この肯定的意見否定的意見はタスク4を使っても良いとしています。タスク3でうまく言えなかったり、言語化できなかったりしたところをリベンジしていただく意図もあります。基準③は、主体的に学習に取り組む態度です。これは自己管理能力、期限までに計画立てて進めていくことと、重複があるとは思うんですが、肯定的意見、否定的意見、いろいろな価値観を踏まえて、自分はこうしようと思うというステップが踏めている時点で、スポーツに対する評価的分析はできているとみなして設定しています。

 

これで全ての授業が一通り終わって、だいたい8時間から長くても10時間ぐらいで1レッスンが終わります。以上で私の授業実践を終わりたいと思います。ありがとうございます。

 

 

(桑野)まず私が唸ってしまったポイントです。学習者としては、無意識のうちに自分の中に基準や価値観が形成されていることに気付いて、スポーツ大会の競技決めという身近な話題でも合意に至らないことがあるんだなという学びは、とても良かったと思っています。このような授業を設計しようとしたきっかけはありますか。

 

(須本)ティーチングガイドをお示しいただいて、Byram理論に触れたことですね。自分と他者の関係性、自分だけの世界ではなくて他者が存在するということ、それぞれの物の見方や価値観、プロスペクティブがあることに気付いて、コミュニケーションをとること、そしてそれを英語で学習することが面白いなって思いました。

 

(桑野)まさに最初の英語力とはという質問の答えが、コミュニケーション力ということがよく出ていると思います。

 

指導者としてはUseful Languagesを提示して英語で授業が進むようにしっかりサポートされていたと思います。なかなか生徒が英語で話してくれない、活動してくれないというお悩みの方も多くいらっしゃると思いますが、どんな準備をしていたらうまくいきますか。

 

(須本)生徒になったつもりで考えると、これを英語で言おうと思ったらなかなか言えないと気付くところがあると思うんです。単純な一言でも、英語で言えなくて困ることもあると思います。その困り感をできるだけ解消するように考えています。活動している最中も日本語が聞こえてきたら、「あれ!?」と反応して、「今の英語かな!?」と話を振ります。英語だとこういうふうに言ったらいいんじゃないかと日本語使って教えてもいいと思います。言ってあげたら「OK!YEAH!」とノリよく答えてくれるので。ノリが大事かもしれないです。

 

(桑野)Useful Languagesは時間をかけて練習するんですか。

 

(須本)します。提示しただけで意味がわからないとどうしようもないので、こういうときにはこんな言い方をしたらいいというのを日本語できちんと説明します。発音やイントネーションはリピートで練習してから活動に入ってもらってます。

 

(桑野)測りにくいのが態度の項目です。今までの定期考査一発勝負ではどうしても測れなかったんですよね。須本先生はそこをしっかりパフォーマンステストを使って評価していました。前回のセミナーをやって思ったのは、中学校の現場の方からどのようにしてフィードバックをしたらいいですか、点数の配置はどうすればよいか、学校がまとまってないんですというご意見やご感想をいただいたんです。ですので、中学校の先生にも需要のある部分かと思いますが、どうやって生徒にそれをフィードバックしていくか、まさに今、中間考査が終わってどのようにフィードバックしたのか、ぜひ教えていただきたいです。

 

 

(須本)どのようにして生徒にフィードバックをしていくかについてお話します。

 

先ほど作った観点別評価の課題についてですが、まず、1人1台タブレットを持っている環境なので、Teamsというソフトを活用しています。ZOOMみたいにミーティングもできますし、オンライン授業にも使えますし、プリントを配って書いてもらって回収するということをパソコン上でできるソフトです。

 

 

(須本)これに採点基準をルーブリックの形にして計算する機能があります。ルーブリックとして基準とその点数を入れておいて、生徒から出てきた課題を読んで添削、判断をして、ボタンをポチポチとクリックしていくと自動的に点数が出る仕組みになっています。もちろん紙ベースでも大丈夫だと思います。

 

 

(須本)また、せっかく頑張って提出してくれているのでコメントを入れるようにしています。ライティングの場合は、Correction Codesというものを提示しています。生徒たちには事前にコード表で、こんな間違いがあったときはこの記号を書くと教えます。直接その子の間違いを訂正してあげるのではなくて、例えば時制の間違いがあるよとだけ伝えます。本当はどうしないといけないのかは頑張って考えてもらうようにしています。

 

Word自体にコメントする機能があるので、生徒が出した文章で間違いがあるところを選んで、例えばここは小文字にしようとか、wwはWrong Wordsです。結構な確率でwwって何ですかと聞かれるので、“表現”と入れてあげています。他にも、代名詞にするときはTheをつけようというコメントも入れていますね。

 

右側がTeamsの画面になっていて、Teamsにもコメントができるようになってます。ここにもGreat Workと一言入れています。10、10、5と書かれているのは、知識・技能、思考力・判断力・表現力、態度の3項目であなたは10点、10点、5点ですということがわかるように書いています。

 

 

(須本)スピーキングではプレゼンをやってもらう場合もあります。スピーキングではWordで文字に残すことが難しいので、Teams自体のコメント機能を使っています。この場合は間違いを具体的に言ってあげています。スピーキングのフィードバックの1-1が、発音、アクセント、イントネーションに関するところ、1-2が文法や語法、使い方に関するところです。明らかに変なところだけ指摘します。全部言うと心が折れますので、明らかに誤解が生じるような間違いだけ書いて伝えるようにしています。そして、何点の評価かを示してあげてます。結構時間がかかります。

 

 

(須本)ABC評価の算出について、Excelでツールを作ってみました。先ほど桑野先生にお示しいただいた評価の年間スケジュールに合わせて各生徒のテストの得点を入れていくと、全体の合計点と、これらを割って本校の場合0.8掛けをして態度を足した評定点が自動的に出て、そこからABCの観点別評価が出るという仕組みです。

 

ABCに関しては、5段階評価の基準を使っています。これは割合で決まっていますので、例えば満点が120点で8割以上であれば5段階のうちの5の評価をつけるとすれば、96点以上だったら5になって、5の評価をつけるんであればA評価とするように作っています。当然配点が変わることもありますので、120を変えると割が全部変わりますし、また、5段階の5と4になるものはAに、3をBにしよう、2か1だったらCにしようという表記も変えられるようにしています。

 

 

(須本)個人別フィードバックは、Teamsを使ってそれぞれのライティングやスピーキングに1人1人コメントを載せてはいるんですが、実際ABC評価になったとき、それをどのように生徒たちに伝えるかというと、これもExcelでツールを作っています。先ほどの点数を入力したらABCが出るというシステムを利用して、通知表を作りました。満点が違いますのでパーセンテージでどれだけ達成できているかを可視化して、学期ごとに3観点でどのくらいか、学年ではどうだったか表示します。点数は実際の点数が何点か、観点別評価はどうだったかが記載されています。

 

これをテストごとに配布しています。今回は1学期中間考査が終わった段階ですので、その段階までが記載されていて、ABCはまだ空欄のものが配られます。自分の状況がぱっと見てわかれば、モチベーションにつながると思っています。

 

(桑野)評価するだけではやはり意味がなくて、それが生徒と共有されて初めてこの観点別評価が生きてきます。今まではICTがここまで教育に入っていませんでしたが、今、個別フィードバックがここまで簡単になると、もうICTを使わない理由は考えられなくなってきたと思っています。

 

 

(桑野)私達が目指す最終的なゴールは、まさに世界平和です。いろいろな文化、価値観の中で生きている子どもたちの中に、世界市民としての土台を作りたいと考えています。そしてこれから先、次の世代になったときも、持続可能な世界ができたらいいなというところを目標にしています。

 

もちろん目の前の生徒たちをハッピーにするという思いはありますが、今のハッピーを作るだけではなく、その生徒たちのさらに先の世界でハッピーになれるように、次の世代に彼らがメッセージを届けられるようにしていくところを重視しているので、先の先まで見据えた願いがあって、それを持って外国語教育をしています。

 

中央教育審議会答申の中でも、入試の結果や雇用状況だけを、子どもたちの成果を測る指標として使うのは不十分ではないかとあります。子どもたちには、入試で失敗しても成功しても、その先があって、最前線にいる教員が目先だけを一喜一憂して良かった悪かったっていうとことは間違っているんじゃないかという思いがあります。

 

(桑野)Pashbyは、世界市民とは自分の姿勢に関して批判的でありながら、他者と責任を持ってやりとりをし、理解する人、閉塞的で静的なアイデンティティの観念よりむしろ、対話的で複合的な理解を常に持つ人であると言っています。ですので、一方的な教育で終わらせるのではなく、須本先生の教育実践にあったように、やりとりを通して学びを深めていくことを重視しています。

 

Byramは、目的としての理由と教育的理由の両方の理由によって、言語教育は言語能力と文化的能力の両方を指導することを含んでいなければいけないと言ってます。英語の言語能力だけをピンポイントで指導する、もしくはIntercultural Communicative Competenceだけを指導するだけでは真の意味で、言語を使えるようになるとは言えないんじゃないかという思いがあります。

 

これが今現在の世界的な基準になりつつあって、論文でも相互文化的能力をピックアップしたようなものも多く出てきております。ぜひそちらもご覧いただけたらと思います。

 

 

参考文献リストです。

 

 

(桑野)福岡英語力向上プロジェクトチームクワケンや今日のセミナーに関して、ご興味のある方はぜひご連絡ください。福岡県在住ではないんですけどプロジェクトに入れるんですか、という問い合わせがありましたが、ウェルカムでございます。ICTがあるので私達はどこにいてもつながることができます。実際にこのセミナーを通してですね、4名の先生方がプロジェクトに入っていただいています。本当に感謝申し上げます。

 

 

 

早速質疑応答の時間に入ります。中間テストで今回は素点のみをつけて返却しましたが、観点別評価つけて成績を返却すべきですか。という質問です。

 

学校としては、おっしゃる通り素点しか生徒に返却をしていません。私たちは観点別評価を2年生と3年生でやっているんです。1年生になったときに困らないでいいように事前に2、3年生対象に、パフォーマンステストを入れて評価の機会を増やしているんです。そこで独自に今さっき須本先生に示していただいた、表を生徒に渡しています。ですので、成績表自体に観点別のABCはまだ中間なのでつかないですが、それ以外のフィードバックができていれば、今の段階では問題ないと思います。

 

(須本)観点別の評価をつけるには、基準が必要になるので、それが明らかで物理的に処理が可能なのであれば、学期単位でいいと思ってます。ABCの評価を中間のときでも付けるべきかというと、可能といえば可能だと思います。先ほど共有したシステムを使った仕組みであれば可能ではありますが、それが学期の評価をするときにどう影響するかを考えないといけないと思います。

 

(桑野)システムの問題もありますね。教務システムが学校ごとにあると思うので、そのまま反映するのは少し難しいかなとは思いますね。

 

続いて、定期考査はどうやっていますかという質問があります。

 

 

(桑野)これが2年生で実施した中間テストです。まず、本校が単語帳を1冊使っているので、それに該当するマッチングです。大問2が教科書の問題になります。授業中にやったWhile-Reading Activityの英問英答をしたり、正しいものを選ばせたり、英英辞典を使わせて英語の定義についてしっかり考えてもらいたいと思っているのでワードハントをさせています。ここまでが知識・技能で、授業でやったことの定着度を測るテストになります。

 

 

(桑野)こちらが思考力・判断力・表現力を問う問題になっていて、今回学んだ要約や、個別の意見の言い方について、それぞれのリーディングスキルに応じて読解をしていただきます。これは生徒にとっては初見になります。

 

 

(桑野)大問4が、表現力の中のライティングです。今回使ったライティングの技術を使ってやってもらいます。

 

 

(桑野)こちらが解答用紙です。1点×10点です、知識・技能です、と明示的にしてあげるといいかもしれないですね。採点基準もしっかりと明示しています。該当生徒が多いので、たくさんの先生が採点をしますので、ずれが生じないように特に厳しくやっています。

 

 

(桑野)大問4はどうやって採点しているかというと、例えば意見があるなしで0、4、特定の理由があるなしで0、1、2といった感じです。“不満はあるが”の不満というのは、例えば1文のみの情報で具体性に欠ける場合を指します。“ない”というのは書いているけれどもオピニオンとは全然関係ない内容を含んでる場合です。英語を書いていても0点にすることもあります。加えて、語数です。語数の指定があります。誤りの数についても、たくさんの先生方で採点しますし、ベテランもいれば新人もいて、英語力も様々ですので、幅を持たせています。誤りの数が0〜1個だったら減点なし、2個〜3個は減点2、4個以上あったら減点3としています。正確さだけをはかるのではなくて、社会言語能力や談話能力までバランスよく測って採点をしています。生徒たちは、知識・技能は何点で、思考力・判断力・表現力は何点で、トータルスコアがこれぐらいというのがわかって、先ほどの表につながっていきます。

 

(須本)生徒には素点のみ提示しているけれども、ABCの基準は公表しているかというご質問です。ABCの基準自体は公表していません。どうなったらAになる、どうなったらBになるかは公表してはいないです。観点別評価の基準は示しているので、今のところそういう質問はないです。どうして自分がBなんだとか、まだABC評価自体出してないので、わからないですが、今のところないです。

 

(越智)須本先生のマインドの部分についてお伺いしたいです。フィードバックの仕方も生徒の心が折れないぐらいのフィードバックをされていたりとか、何か生徒になったつもりで伝わるかどうかを考えていたり、生徒だったらどこにぶつかるかなと考えていたり、須本先生はスチューデントファーストの姿勢を大事にされているのかなと感じたのですが、いかがですか。

 

(須本)英語はなくても生きていけると感じてしまうんです。それなのにわざわざ英語を勉強するのはなぜかとなったとき、相互文化的能力や他人の価値観を理解する部分に、理由が出てくると思うんです。英語ができないことと、そこの学びができないということは、別だと思っていて、やりとりを通した学びをたまたま英語で行っているだけなので、単語がわからないだけで全部を判断することはしたくないと思っています。

 

(桑野)ありがたいですね。こういう教員が増えてくれるとうれしいなと思っています。

 

(越智)チームクワケンの思いとして、目先のことだけではなくその先にあるものを大事にされているのが伝わってきて、それは日々大事にされてらっしゃるんですか。

 

(桑野)そうですね。もう彼らもわかっているんです。この前クラスTシャツを作ったんですが“メタ認知”って書いていました。伝わっていると思います。

 

授業の計画は示されているかという質問があります。

 

年間の指導計画を事前に教員で作成をして、年度初めに全部示します。年度初めにテストの範囲や単語帳のレベルも教科書のパートも全て明示しています。英語を測る軸もお伝えしています。

 

(須本)本日貴重な機会を賜りまして本当にありがとうございました。アンケートに書いていただいた内容を拝見してるんですけども、ここまでできなければいけないのか、それは厳しいという、正直な感想がありました。これは僕が変なのでたまたまできているだけです。できなくても全然いいと思います。僕みたいな変なやつが作ったシステムを上手く使って楽しく授業してもらった方がよっぽどいいと思います。全部自分でできないと駄目なんだというのではなくて、得意不得意があるので、エクセルが苦手な方だったら別に苦手でいいと思うので、この仕組みめっちゃ便利だよって言ってもらった方が僕はうれしいです。なので今自分がこれができないからとかいうことをあんまり気にすることなく、楽しくやれたらいいと思います。僕がそこで役に立つことがあるんだったら協力しますので声をかけてください。

 

(桑野)連続して参加されてる方も、今回初めてご参加された方も、6月のこの忙しい時期に、いらしていただいて本当にありがとうございます感謝申し上げます。参加者たちのご厚意でここまで私達もできてると思います。少しでも、私達が学んでいることが、共有できたらという思いでやっておりますのでぜひこれからもよろしくお願いいたします。

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