いよいよ新年度、「授業開き」どうする?
最終更新日:2022年10月28日
(小泉)皆さん、こんにちは。コトバンク株式会社の小泉と申します。
本日のスケジュールをご説明したいと思います。このセミナーは16時半から開始しております。簡単な概要の説明が終わった後すぐに、今回のセミナーご登壇者の伊藤先生より、新学習指導要領について説明します。4月からということなのですが。改めてその目標やポイントがどこなのかといったところを説明させていただきます。またその学習指導要領で求められる要件・要求を、どのように具体的に授業に落とし込んでいくのか。そういったところをご説明いただきます。第2部。今度は2名の先生方に、新学習指導要領に即して、学校ごと、先生ごとにどのような目標を立てているのか。また、その目標から逆算して初日をどのように設計するのか。そういった授業開きのお話をしていただきます。
皆さん。今日ご登壇いただく先生方には、かなりインタラクティブにいっぱい質問していただいて。皆さんといっぱい議論ができれば、というお言葉をいただいておりますので。ぜひたくさん、特に後半の方ですね、ご質問をお寄せいただければと思っております。
改めまして、登壇者のご紹介をさせていただきます。本日、第1部でメインのスピーカーとしてご説明いただきますのが、大同大学大同高等学校の伊藤先生でございます。そして第2部では、森村学園中等部高等部の松本先生、そして市川中学校・市川高等学校の山本先生をお招きし、それぞれ授業開きについて具体的に語っていただくことになっております。
◆第1部◆伊藤先生のご講演
- 授業づくりにおける目標設定や観点別評価のポイントなど
(小泉)それでは伊藤先生にご登壇いただきます。伊藤先生、新学習指導要領の目標、目指すべきポイントに関して教えてください。よろしくお願いいたします。
(伊藤先生)改めまして、皆さん、こんにちは。大同大学大同高等学校の伊藤佳貴と申します。本日は年度末の大変お忙しい中、オンラインセミナーに参加いただきましてありがとうございます。
最初に自己紹介をします。私は大同大学大同高等学校教諭の伊藤佳貴と申します。大同高校での勤務は23年目に入り、現在は学習指導部長を務めています。本校は普通科と工業科を持つ学校なのですが、現在、私は工業科の授業を専門に担当しております。
勤務校での仕事に加えて、学会や研修会などの活動にも積極的に参加しています。落ち着きがなくじっとしていられない性格なので(笑)、色々なところに顔を出しては、全国各地の先生方と交流しています。
それから「私たちはだあれ?」ということですが、今回のスピーカーである松本先生、山本先生、そして私(伊藤)は、文部科学省の英語教育推進リーダー事業(通称LEEP)で出会った仲間です。2015年度から指導員となり、日本私学教育研究所主催の研修会を中心に、全国各地を巡って英語授業の指導を行ってきました。その後、そのメンバーで「外国語教育推進ネットワーク」という団体を設立しました。「目の前の生徒をハッピーに」を合言葉に、英語教育の研修会を中心に活動しております。機会があれば、皆さんの地域や学校にも訪問して、みなさんと繋がり、このネットワークを広げていきたいと思っています。
さて、本日のセミナーですが、初めに私から新年度を迎えるこの時期に、英語授業についての「準備」や「心構え」について話をします。その後、新学期最初の授業となる「授業開き」について、松本先生からお話しいただきます。そして、その後の授業における「学習活動」について、山本先生からお話しいただきます。
では早速、本題に入ります。おそらくみなさんの中には、事前に配信されていたメルマガのスライドを見て「最初の授業までにやっておく『5つのこと』ことって何だろう」と疑問に思った方も多くいるのではないでしょうか。
新年度を迎えるにあたり、英語教師がやっておかなければいけない5つのこととは何か。実は、この問いかけをしている私自身も、正解を持っているわけではありません(笑)。やらなければいけないことは、実はもっとたくさんあるかもしれません。今回は、その中でも特に大切なことを5つにまとめて、以下に解説します。
まず、新年度の準備で大切なこと、その一つ目は、「教科書各単元のレッスンゴールを順番に確認する」です。現在の検定教科書には、各レッスンの扉部分にその単元の「レッスンゴール」が明確に書かれています。それは子どもたちが読んでわかるレベルの言葉で書かれています。さらに、各単元の後半部分、つまり本文の後に続くページには、いくつものアクティビティが用意されていて、それに従って学習することでレッスンゴールにたどり着くように設計されています。
私自身も経験あることなのですが、過去の時代においては、「教科書の本文を理解させることが大切だ」ということに意識を置いてしまい、巻末の活動ページをやることなく、本文が終わるとすぐに次の単元へと進んでいたという授業スタイルが散見されました。しかし、大切なことは、教科書を教えることではなく、学習活動を通じて生徒が英語を使って何ができるようになったかであります。
二つ目に大切なことは、「1年後のゴールを具体的に描く」です。本校が採用している教科書にはこのようなレッスンが並べられています。その始まりは、好きな食べ物や好きな動物など、いわゆる自分や身の回りがテーマになっています。そしてレッスンが進むにつれて、自分のことから少しずつ教室、学校、そして社会へと、その輪は少しずつ広がっていきます。新年度を前に、これら一つ一つのレッスンゴールを順番に見ていきながら、1年間で子どもたちの英語力がどのように育っていくのかを具体的にイメージすることが大切です。
わかりやすく言うと、修学旅行では必ず教員が下見に行きますよね。特に新しい場所に行く前は、しっかりと下準備をします。英語授業も同じことで、やはり子どもたちを安心安全の中で、しかも可能性を出して「こんなこともできる」「あんなことができる」というところに導いていくには、しっかりと1年後のゴールまで描きながらやっていくことが大切だと思っています。これを二つ目に書きました。
その次(三つ目)にすることは、「中間試験までの範囲を決めて問題を作る」です。今回の私の場合は、1学期の中間試験の範囲をLesson1からLesson 2までとしました。授業が始まる前に学習目標と評価方法を決めてしまうというのが重要なポイントで、これは「逆向き設計」と呼ばれるアプローチです。学習目標と評価方法を先に決め、そこから逆向きに辿っていき、日々の学習活動の設計まで落とし込む。そうすることで、迷うことなく生徒たちをゴールへと導くことができるようになります。とても重要な点なので、本当はもっと時間をかけて話したいのですが、今回はざっくりと流れだけを紹介しました。
試験問題を作る上のポイントも確認しておきましょう。全部で5つあります。
まず1つ目は、「レッスンゴールに対応した内容であるか」です。レッスンゴールを掲げながら、実際に授業でスピーキング活動やライティング活動をする。しかし、定期テストは従来通りの長文読解や文法問題が中心だった。しかも、長文は教科書の文章と同じ内容であった。これでは、新しい時代の英語教育とは言えません。
2つ目。1つ目の要点とも大きく関わりますが、「4技能5領域をバランスよく評価しているか」も重要なポイントです。定期試験は紙ベースが基本だと思われますが、評価はペーパーテストだけでは測れません。ライティング活動の成果物や対面でのスピーキング試験など、評価に含まれる項目は多岐に渡ります。定期試験の得点だけでなく、様々な観点から4技能5領域をバランスよく評価することが大切です。
3つ目は「観点別評価に対応した設問になっているか」です。この「観点別評価」という言葉、高等学校にとっては2022年度の新しいワードとなります。観点別評価については後ほど本校の事例を紹介しながら、解説させていただきます。
そして4つ目は、「ペーパーテスト以外に評価対象とするタスクはあるか」です。これは2つ目の「4技能5領域をバランスよく評価しているか」とほぼ同じ意味となります。定期試験以外の学習成果、例えばパフォーマンス評価や日頃の授業で行った学習活動の成果物を評価の一部に加えるなど、多面的に評価することが大切だということです。
最後の5つ目。これは最も大切なことです。「同じ科目の担当者と協力して作っているか」です。教育実践は1人ではできません。教員同士がお互いに関わり合い、力を合わせて授業準備をする。そして、試験を作り、評価をする。この姿勢が大事です。ぜひ新学期に、新しくペアになった方と、試験問題やワークシートの作成、授業の進め方や評価の仕方など、いろいろなことを話し合いながら進めていってほしいという思いで、5つ目の項目に書きました。
では、次に「観点別評価」の話をします。まずは、観点別評価の形式について、一般的な事例を紹介します。定期試験では一般的に「観点1」と「観点2」が評価対象となりますが、基本的にはそれぞれ同じ比重になるように評価します。例えば100点満点の定期試験であれば、観点1が50点、観点2が50点という配点です。観点2の評価が難しいという話を聞きますが、最大でも60点:40点までの差に留めることが理想です。また、スピーキングテストなど定期試験以外の時間帯に行った試験についても、定期試験の素点の一部として盛り込むといいでしょう。「観点3」については、生徒の主体的に取り組む姿勢を評価します。授業における生徒一人ひとりの学習姿勢や、授業内で行われる「ふりかえり活動」の記録などを蓄積しながら、ABCで評価します。
ちなみに私が4月から担当する工業科1年生では、毎回の定期試験で4技能5領域を測定しております。もちろん、試験にはライティングとスピーキングも含まれます。ライティングについて1学期中間試験では、センテンス(単文)を書く試験から始めるのですが、1学期の期末から、パラグラフによるライティングテストを課しています。スピーキングも”May I come in?”で始まる対面型でのスピーキングテストを毎回行っております。現在のところは、100点中10点という配点に留めていますが、それでも必ず毎回実施しております。
これをやると時間がかかります。私の学校は、1学年で500名を超える生徒が在籍していますので、大勢の生徒を対象にスピーキングの試験を実施するのは、実際大変なことです。その業務負担を軽減するため、定期試験のうち、語彙・表現、リーディング、リスニングの部分はマークシートで処理しています。
これが実際の定期試験後に配付する成績個票です(個人情報は消してあります)。技能別にレーダーグラフで表示して、成果の「見える化」をしています。また、得点率に応じたアドバイスをすることで、子どもたちが次の頑張りに繋げられるような促しをします。答案の返却時に個票のグラスを示しながら、次の試験に向けた具体的なアドバイスをしております。
そして、これが学期末における観点別評価の成績を付けるイメージ図です。「観点1」「観点2」に「A1」「B3」などと数字が付与されていますが、この学校では、A1からC3までの9段階評価とすることで、観点別評価から5段階評定を割り振る際に、より正確な成績処理ができるように工夫がされています。
では、次に観点別評価の中身の部分について話をします。私たちが使う検定教科書には、このような観点別評価に関する資料が付いていますよね。ここに記されている単元ごとのCAN-DOリストが、定期試験や学習活動を作る際の参考になります。私自身、いろいろな場面で常にこうした資料を参考にしています。
CAN-DOとなると、もう一つ課題となってくるのがCEFR指標との対応です。CEFRというのは、ご存じの通り、A1からC2までの6段階に分かれていますが、先生方、テストを作りながら「これはA2レベルの問題だな。」などと実感されていますでしょうか。実際には、自分の作成した学習活動や試験問題をCEFRの指標と照合させるのは大変だと思います。
また、こういう印象を感じられている方もいるかと思います。A1からA2まではテンポよく学習が進んでいくが、A2からB1まで上がるのに、とても時間がかかってしまう。さらにB1からB2はさらに時間を要してしまう。これは、6段階のCEFR指標が均等に区分されていないところに原因があるのですが、そんな時に役立つのがGSE(Global Scale of English)という指標です。具体的にその一例を紹介します。
GSEを見ると、スピーキングでは例えば「自分の誕生日が言えるということはA1の23レベル」というように、CEFRがより細かく、そして均等なレベル分けがされています。ちなみに、この23というのは、数字が上がれば上がるほど、レベルが上がっていくということです。GSEを初めて耳にされる方は、ぜひ検索してみてください。
GSEについて、もう少し見ていきます。リスニングでは、「clap、stamp、jump、walkといったアクションについて理解できる」というCAN-DOがあります。これは、A1の15レベルです。つまり、よく知られた「Simon Says」のゲームはA1レベルであるということが分かります。
リーディングでは、「ボードゲームのインストラクションが理解できる」がA2の31レベルとなっています。実際の英語で書かれたゲームの説明書を探してきて、授業で活用するのも面白いでしょう。
そしてライティングにおいても、「andやbutを使った表現ができる」というのが、A2の31から34あたりに相当するんだなということが分かります。このGSEの表はとても有用で、私も時折この表を参照しながら、学習活動を作る際の参考にしています。
さて、これまではCAN-DOをベースとした観点別評価の「観点1」「観点2」の話をしてきたのですが、「観点3」についてはどうしたらよいでしょうか。私自身、試行錯誤の段階ではありますが、観点3については、授業における「振り返り活動」を行いながら、生徒の主体性や学習へ向かう意欲を観察しております。
振り返り活動について説明します。本校では、学校全体として授業の流れをこのような形にしております。この内容の詳細は大修館「英語教育」の2022年3月号に記事として掲載されておりますので、見ていただければ幸いです。この授業スタイルの要点は次の通りです。授業の初めに目標を示す。教師の解説は少なく、生徒の活動を中心に行う。そして、授業の最後に振り返りをする。
毎回の授業で振り返りを行うことで、生徒たちの中に「今日は何を学ぶのか」「どのように取り組むのか」といった意識が芽生えます。それを毎回記録しながら学習を進めることで、生徒たちを自律的な学習者へと促していく効果があります。また、授業に対する意見や感想を書くことも大事です。今の生徒たちはしっかりと感想を書いてくれます。また、そうした振り返りの記録は教師の授業評価にもつながります。生徒からのコメントを読むことで、次の授業での改善点なども見つかります。
振り返りの記録をご覧ください。先月の授業でやったものをコピペしたのですが、最初の生徒は「読み方がわかってふりがなが無くても読める」と書いています。恐らくは、読めない単語に以前はカタカナを振っていたのでしょう。それが書かなくても読めるようになったと。素晴らしい進歩だと思います。「思ったよりスピーチに集中できた」というコメントもあります。これはマララさんのスピーチをした時の感想です。他にも、「分からない単語は調べたりできた。」「周りの子に教えることができた。」というように、生徒たちが授業の中で、「何ができるようになったか」という具体的な成果を見出すことができる。やはり、これは授業の中で教師がCAN-DOを意識しながら指導することから生まれてくる教育的な成果であること、少しずつですが感じています。
このように振り返りの記録の観察を通して、「いい言葉があったな」という場面では、その生徒にフィードバックをしてあげる。「少し疲れてるかな」「学習姿勢ができていないかな」という生徒が出てきたら、やはりその生徒に声をかける。振り返りから見えてきたことから、さらに一歩、子どもたちに歩み寄っていく。私は、ただ観察を記録するだけではなく、やはり子供たちを引き上げていくところが教育として大事だと思います。これからも観察と対話を大切にしながら、観点3に関する研究を進めたいと思います。
これに関して、実は先週行われた科会で本校の教科主任が、「観点3は、小テストなどの数値的な記録は外した方がいいと思う」と発言されました。これはとても素晴らしい意見だと思いました。今までの、いわゆる「平常点」としての扱いと、今回の「観点3」の扱いは確実に異なります。今、本校の科会でもこのような議論が始まっていますが、多くの学校でも話題となってくればいいなと思って、話をさせていただきました。
最初の話題に戻しますと、「最初の授業までにやっておくこと」について、脱線をしながら話をしました。各単元のゴールを確認して、1年後の姿を具体的に描く。そして、中間試験の問題を作る。そして、そこまで準備できれば、次には「授業設計」や「学習活動」が待っています。
ここから先は、次の方にバトンタッチしていきます。私からは、新学期に向けた準備について、ざっと話しました。またこの続きは後のセッションでしたいと思います。
この後は、こういった新学期の準備をした上で、初めてのクラス、初めての授業で子どもたちに会う、という場面について、森村学園の松本先生からお話をして頂きます。松本さんにバトンタッチしますのでよろしくお願いいたします。
◆第2部(前半)◆「授業開きに向けた授業の在り方」プレゼン
- 最初の授業(授業開き)|松本先生
(松本先生)
皆さんこんにちは。森村学園の松本です。画面共有をさせていただきます。
改めましてよろしくお願いします。森村学園の松本と申します。私は森村学園という、横浜にある学校なのですが、そこで英語科の教員として。また国際交流多言語教育センターのセンター長として、仕事をさせていただいています。
森村学園はこういう学校です。創立112周年。食器のノリタケや、あと我々が毎日お世話になっているTOTOやINAX、あるいは日本ガイシ。そういうのをつくった、日米貿易の先駆者、森村市左衛門という人がつくった学校です。今は幼稚園から高校までの一大学園となってるのですが、中高は完全一貫教育で男女共学です。この情報は後で授業開きのときに重要になってきますので紹介させていただきます。
中等部は、併設の初等部から半分の100人が入ってきて、初等部以外の小学校から別の100人が入ってきて。間口が200人で5クラス6学年ぶち抜きで、という。高校からの募集はしてない学校です。そういう学校での授業開きというのが、今日の私のテーマになると思います。
授業開きに入る前に、今伊藤先生からいただいたお話に引き付けて、もう一つ。英語の学力観について少し話をさせてください。というのは英語学習のゴールについて。伊藤先生のお話では、1年後のゴールやこの単元のゴール、という内容でしたが。「学力観、英語学習のゴールを、我々教員はどこに置くべきなのか」というのを考えたいと思います。4技能化と言われて、それこそAll Englishがどうした、English Richがどうした、という話を盛んにされると、やはり話せるようにしてあげなきゃいけないというのがどうしても目先にちらつくわけです。しかし英語を話せることが、英語教育の最終的なゴールなのか、というのが一つ、ポイントになってくると思います。というのは、日々の活動の中で、話せることを目標にした活動というのはたくさんあると思いますが。例えば先生方のお勤めの学校で、帰国子女の子は入ってきませんか。もしそういう子がいたら、その子たちはある程度話せる状態で入ってくるでしょう。そういう子たちにとって、英語の授業は不必要なものでしょうか。そうではないはずです。では、話せること以外に何をやっていくのが英語の教育なのか。学校教育において、という意味ですが。というと、ある程度話せることを前提として、どういうふうに思考の深まりというのをつくり出していくのか、というのが授業の内容になってくるのだと思います。よく新人の先生に「英語の授業で最終的に何を目標にしますか」と言うと、「英語を話せるようにしてあげたいです」という答えが返ってきます。それ自体はもちろん素晴らしいことだと思うのですが、話せることは恐らくゴールではないです。話しながら深めていくというのが、本当の意味でのゴールに近づいていくことになると思います。
これまでの学力観だと、例えば単語を勉強し、文法を勉強し、読解作文で聞いたり話したりしていれば英語ができるようになる。そういうのが、昔ながらのものでしたが。今は恐らく、単語や文法という知識を身につけたら、それを活用して読んだり。またその読んだことを活用して考えたり、考えたことを作文にしてみたり。活用しながらどんどんスパイラルで上がっていく感じで。このように、英語を使って何かを作り出したり考えたりする力というのが、英語ができるということの意味なのではないかと私は考えています。
どの段階でもやはり英語を話すことは必要です。単語レベルで話すところから始めて、自分の感想を述べたり、意見文を書いたり。あるいは反論したり、説得したり。そういう高次のレベルに引き上げていくときに、常に、英語を話すことは横には寄り添っているべきものだろうと思います。つまり、話しながら深めるというのが必要になってくると思います。この流れを、単元で、あるいは中高が本校のように6年間繋がってる場合は6年間の中でどうつけていくのか。中学校と高校がわかれている場合は3年間でどうやっていくのか。あるいは、今このウェビナーのテーマである授業開きですが、我々がこの4月から迎える1年間の中でどういう力をつけてあげるのか。そういうことを微分して当て込んでいくのが、重要な一番のポイントなんだろうと思っています。
授業開きに当たって、もう一つ考えておきたいことがあります。授業開きという今回のテーマをいただいたときに、いろいろ考えたわけです。色々なケースがあるではないですか。先生と生徒の相互関係、例えば先生が初めて担当する生徒のクラスなのか、それとも持ち上がりなのかによってもやることは変わってきます。それから、生徒同士も全く新しい集団なのか、それとも持ち上がりなのか。クラス替えがなかったりしてお互いによく知っている状態なのか。先生のことをよく知らないと質問もやはりしにくくなりますし、生徒同士が知らないとグループワークやペアワークがやりにくくなります。当然、お互いを知ることが重要なポイントになってくると思いますので、これをマトリクスにしてみました。
こんな感じになると思います。縦軸が生徒同士です。新規というのが新しく知り合ったもの、継続というのはお互いに知っている状態。横軸が先生と生徒の関係です。そうすると、1番は先生と生徒も新規、生徒同士も新規。だから新入生みたいな感じです。新しいクラス、新しい友達、新しい先生。ところが右側、先生と生徒は継続、生徒同士は新規。これは少し珍しいかもしれませんが、例えば去年1年生のときにA組からE組まで全員私が教えていた。だから生徒と先生はそれぞれ知っているが、A組の生徒とB組の生徒はお互いに知らない。クラス替えをして同じクラスになった、というのはこの2番のケースです。3番だと、生徒と生徒同士は継続。クラス替えがなかったり、あるいはよく知った仲間と同じクラスになったりするところに、新しい先生が入ってくるパターン。新任の先生であったり、新しくその学年に入るケースは3番に当たると思います。4番は、先生も生徒もよく知った間柄。これは持ち上がりです。去年と同じクラス、同じ生徒、それから同じ先生。こういうマトリクスによって、それぞれやることは変わってきます。業界の人だったら、体験的にあるいは経験上、それを分けて考えることができるのですが。あまり、こうやって分けて、実際に表にしてみることは少ないかもしれませんので。特に新人の先生を指導する立場の先生方は、「あなたは今度こういう感じなんだから、こういうふうに考えたらいいよ」というように整理して伝えることができるかもしれません。後でまた表を使って考えますので、ご自分が来年度どういうケースで授業を持たれるのか。1、2、3、4、ひょっとしたら当たらないケースもあるかもしれませんが、覚えておいてください。
さて。関係性ごとに変わる最初の目標ということで、授業開きのポイントもそれぞれによってたくさん分かれてくると思います。英語を好きにさせること、英語嫌いにさせないこと、これは割と初期の段階で出てくるものです。それから、少し嫌いになってしまっている子の英語嫌いを少し和らげることや、あるいは強みに感じている生徒にもう少し負荷をかけること。あるいは伸び悩んでいる生徒たちのやる気にもう1回火を付け直すことや、あるいは高校2年生くらいになってくると「もうお前たち、いつまでも英語から逃げられないんだからな」と言って最後に追い込むこと。こんなのもポイントになってくると思います。
あとは、これは一般的なことですが。授業開きでしておくべきことで、成績の付け方やシラバス情報に関してやはり伝えなければいけないですし、教材がこういうものでこういう使い方をするよという説明も出てきます。それから授業のルール・心構えの共有などなどありますが、これは一般的な話です。
これからの授業開きについてのお話をさせていただこうと思うのですが。50分の授業開きのものをこんな感じでやります、とそのままお伝えするよりは、先生方にとってヒントになるようなものがあればいいなと思っているので。部品というのでしょうか、「こういうのをこんな感じでやったらいいんじゃないですか」というアイディアを紹介させていただこうと思います。
ということで、また最初の画面に戻ってきました。綺麗な学校でしょう、森村学園。いいところです。ここの授業開きなのですが。私のケースです。これはまだ年度が変わってないので言えないのですが、来年度は今まで関わりのなかった学年を担当することになっています。片がついたところがあったので。全く関わりのなかった学年というと。先ほどの4分類でいくと、生徒と先生が全くお互いに知らない1のケースか、もしくは生徒同士は知っているが先生が新しいという3のケースに私は当たりますね。ここの場合だと、お互いを知り、これまでの目標や達成を確認する、それから今年度の新しい目標を確認する。というのが授業開きのときの重要なポイントになってくるかと思います。とはいえ、隣のクラス、一緒に授業を展開しているクラスの先生は持ち上がりで上がってらっしゃる先生なので、これまでの流れというのを無視するわけにはいかないので。そこを引き受けつつ、また新たな刺激、カンフル剤として違いを出していくというところも重要になってくるかもしれません。
授業開きなのですが、まず私のことを知ってもらわなければいけませんので、時間をかけずに自己紹介のようなものをしたいと思っています。ただ、自己紹介だけでは面白くありませんので、英語の学びに引き込む仕掛けをしたいと思っています。それから、生徒同士も知らない友達に新しく会うということですので。私を知らせる、みんなを知る。相互理解ということで情報を伝えるという活動もやはり入れていきたいと思っています。これは、きちんとやっておくとペアワークやグループワークに引き込む仕掛けになります。そして「自分の目標や現在地を理解する」、これを可視化してあげたい。自分に強みがあるのか弱みがあるのか。好きなのか嫌いなのかも含めて、今年は少し頑張ろうかな、という。いずれのステージにしても、「得意だと思っていたけれどもう少しここを頑張れるな」「苦手だと思っていたけれど俺意外といけるな」と思わせるような仕掛けを作ってあげられたらいいなと思っています。
また、さっき出てきたようなシラバス情報やルール確認、ありがたいお話。こういうものは情報として、少しやる気にさせた後でも間に合うのかなと思っていますので、このようなデザインで考えています。
さて、ここからは私の授業みたいな感じになってしまうのですが。ご覧になっている先生方も一緒に考えてみてください。ひょっとしたらLEEPの仲間も、にやっとするかもしれませんが。
いい男ですね(笑)。英語で授業をやりますので、どんなふうにしたらいいかというと。「Who is this gentleman?」と聞いたら、最初のうちは、生徒は返事をしないかもしれません。まあ、気の利いた生徒がミスター松本とか言ってくれるかもしれません。「Is he handsome?」、大体「No」です。いいんです。「Is he tall?」などいろいろと聞いてみて。「Do you know anything about him?」、「No」となりますよね、初めて会うわけですから。「Now, he introduces himself!」と言って、この後に自己紹介を始めます。よくあるパターンとして、これから私が自己紹介をするので私の言った情報を紙に書いてまとめて、友達と話して整合性をとりなさい、というのはあります。場合によっては、穴埋め問題でもいいかもしれません。私がどこに住んでいるか、あるいはどういうことをやってきたか、そういう情報をリスニングとしてやってもいいかもしれませんが。でも今回、私は少し違うやり方をしようと思います。
このようなものです。「Mr Matsumono’s Answers」。今、もう答えが出ています。「Tokyo」「Onigiri」「Japan, Australia, and the UK」「Chuo-rinkan」。中央林間は知っていますか。駅の名前です。「Japanese, English, and French」「About half an hour by train」「Traveling by motorcycle, camping, reading, and listening to music」。これを先に見せます。
「What are the questions?」。何を聞いたんでしょう。「Tokyo」とは、何を聞かれて東京と答えたのでしょう。何でしょう、私の住んでいるところでしょうか。「Onigiri」、私のあだ名でしょうか。何でしょう。「Traveling by motorcycle」、これは少しわかりやすいのではないですか。恐らく、趣味でしょう。そういうふうに生徒に質問を考えさせる。「What are the questions?」、7つクエスチョンがありますから、友達と「Talk with your partners.」などと言ってもいいし、グループワークをさせてもいいし。最初の段階だったら日本語で話してごらん、でもいい。「これ質問なんだろう、住んでるとこかな?」あるいは「これ出身地じゃない?」だったり。そういう話を友達同士でワチャワチャさせる。知らない友達同士ですから。いろいろ答えが出てくるわけです。「Tokyo」、これのクエスチョンは何でしょうか。英語でも日本語でも聞いてみて、誰かが手を挙げてくれたら、「じゃあ君」と。「Where do you live?」と言ったら、「No. That’s not the right question.」と言って。「じゃあ他には?」「Where are you from?」「Yes, that’s right! I’m from Tokyo. Very good!」というやりとりをすれば、「あ、この人は東京出身なんだ」となります。あるいは、「Onigiri」は「What’s your favorite food?」「No.」、「What did you eat for breakfast?」「Yes, That’s right!」というふうにすれば、「朝ご飯に何を食べたかを聞いたんだ」というクエスチョンができます。これで7つ質問ができるわけです。なるほどね、とわかったところで、「Now, ask and answer these questions with your partner.」。あなたのパートナーに同じ質問をしてみましょう、とやれば、ペアワークやグループワークへのブリッジングができます。最初の段階で日本語で話しているので。ただの自己紹介を、先生を知って友達と話して友達に質問をする、というアクティビティにすることができます。このような感じで、最初の段階でいわゆるアイスブレイクをすることができるという、一つのサンプルとして示させていただいています。先生の自己紹介というのは無味乾燥で、先生方も「どうせ私のことなんか興味ないんでしょ」と思いながらさらっと済ませてしまうことが多いのですが。実際こうしてフックとして使うと、ただの自己紹介だったものが、生徒のインタラクションを生み出すようなものになっていくと考えています。
さて、次です。もう1個あります。自己紹介だけじゃもちませんので、最初の段階でもう一つフックを作りました。これが何だか、皆さんはわかりますか。これ、前歯です。これとこれが前歯。この絵は口です。ここにある通り、これは発音記号です。ʌという音です。わかりますか。わからないのではないかと思って。口を大きく開けたときに「ʌ」というと、こういう感じです。皆さん発音してください。「ʌ」と言ったとき、舌はどこにありますか。赤丸の、この辺りにありませんか。「ʌ」という音を出すとき、口の開け方とか舌の位置とかは決まっています。試しに舌を上に上げて「ʌ」と言ってみてください。言えないでしょう。言えないです。舌の位置と口の開き方で音が決まるので、ʌのときには舌は絶対ここにあります。
そういうことをまず生徒に理解をさせたうえで。これは先生向けです。International Phonetic Alphabetという、IPAと検索すると出てくるのですが。口の中のどこで音が作られるかというものです。「Phonetics & Phonology」というピーター・ローチの本がありますので、興味のある方は見てみてください。この舌の位置を確認した後で。このスライドの一番右側に、今の「ʌ」があります。その「ʌ」をもう1回言いながら、舌を上げたらどんな音になりますか。舌を上に引っ張り上げていくんです。それをかっこよく言うと「r」になりませんか。そういうふうにすると生徒が一緒にやってくれます。皆さんも今しているでしょう、恐らく。こういう単純な作業は、生徒は一緒に楽しくやるんです。初めての子でも。舌を動かしてごらんと言うと、きちんとやるんです。「ほら、今アールの音出たじゃん。それアールの音だよ、綺麗だろ」と。「アールの音って日本人がすごく出しにくい音として有名なんだけど、今綺麗に出たよね。できるよね」と言うと「本当だ、俺できた」となります。「それじゃあ、アールの音とよく一緒に混ざっちゃって大変だって言われている音がもう1個あるんだけど。エルの音。これはみんな出せる?」と言ったら、「やり方がわからない」と言う。だから一番左の絵、これです。「上の前歯の付け根の辺りを舌の先を軽く触ってごらん。それでウって言ってごらん」と。「l」、あまり強く押しすぎると出ません。軽く触るだけ。その前に短く「エ」と言うと「L」。エルの音になります。これが「l」です。
この触っている段階がホームポジション、「l」というのがエルの音、それから舌を上げた状態の「r」がアールの音。そういうふうに言うと、生徒は変な音出し始めます。ふざけ始めたり。それはそれでいいです。ではこのアールとエルの音を使って、一緒に発音してみましょう、と。よくあるものですよね。ライトとライト。最初に「light / right」と言っても、生徒は「ん?」という顔をします。「じゃあ、ちょっと練習してみよう。Rだから、短くウって言いながら、ウright。できるよね。right。さっきの上の前歯の裏側に舌の先をつけて発音するとエルの音だから、light。lightだよね。じゃあ、私がこれからどっちか言うから当ててごらん。right」「あ、アールだ」「light」「あ、それエルだ」「ほら、わかるでしょ。自分で発音できた音は聞けるんだよ。だから発音練習をしっかりやりなさいよ」という話をすると、「俺、意外とできるかも」となります。「そうやって調子に乗るやつがいるから、じゃあ次のやつ行こう。はいこれはできますか。realですね。really。短くウって巻きながらアールをやるんだよ」みたいな感じでやると、大抵やりますよ。すかしてる子でも大体やります、これは。「really。じゃあ、本当?って感じで言ってみようか。Really?」と言うと、もう教室中reallyです。「じゃあわかった。今、皆ができるようになったのはわかった。じゃあこれから私がrとlが入った単語を言うから書いてごらん。ゆっくりいくよ?Literature」こういうふうになってくると、書けるようになるわけです。こうして楽しんで勉強する。「Reason to study!」とLEEPでは言っていますが。そのようなことをやっていくと、生徒たちが割と「あれ?俺今年いけるかもしれない」っていう気になってくれるかもしれません。
ということで、あと少しです。生徒にとって、4月は新たなチャレンジに踏み出すチャンスですし、先生方にとっても大きなチャンスであると思います。これまでAll EnglishとかEnglish Richになかなか踏み出せなかった先生方も、学習指導要領が変わるこのタイミングですから、ぜひ最大のチャンスを生かしてほしいと思っています。
ところで、「学習と評価の一体化」というのが、観点別評価の導入のもともとの趣旨でした。学習と評価の一体化、特に4技能5領域。先ほど伊藤先生のお話でもありましたが。これは知識・技能のところに入れるか、あるいは思考・表現・判断に入れるかというのは、それぞれの成熟度合いで変わってくると思います。発展的な軸を据えて、授業開きというものを考えていけばいいのかなと思っています。伊藤先生のお話とは少々ずれるかもしれませんが、私はこんなふうに考えています。知識・技能というのはあくまで自分の中のものですよね。つまり自分軸で物事を考えるときは、知識・技能のところで判断していいのではないか。また、思考・表現・判断というのは、それを使って相手に対してどうアプローチするかということなので、他人軸でものを考えるとき。そして主体的に学習に取り組む態度というのは、問題集を出したから主体的、などそういう問題ではなくて。自分が学んだことを主体的に、社会にどう還元していくのか、貢献していくのかということだと思うので。社会軸でものを考えるということだと思っています。よって、思考コードなどがこれに当たるのではないかと思うのですが。自分軸でABC、他人軸で物事を考える点でABC。そして最後に社会の軸、社会に対する貢献という軸で物事を考えられるかどうかというのが社会軸、と考えています。
さて、少し駆け足になってしまいましたが、私からは以上とさせていただきます。次は山本先生から、もう少しLEEPの話を続けていただきたいと思います。ありがとうございます。
- その後の授業(学習活動)|山本先生
(山本先生)
ではバトンタッチで、バトンを受け継ぎます。よろしくお願いします。市川中学校高等学校の山本永年と申します。まず先ほど松本先生からLEEPという言葉ありましたが、私たちのことと思ってください。この名称自体は、プロジェクトのことを指しているのですが、文部科学省認証の英語教育推進リーダーを指すこともあります。私立学校のリーダーが集まっているグループが外国語教育推進ネットワークです。
小中高という10年間のことをやはり考えたいと思っています。私は公立中学校育ちなので、学習の時間はあまりたくさんあったわけではないですが、やはり語学は授業そのものに加えて本人たちにいかに学ばせるかということが大事かなと。そのためのエピソードとしてここに入れました。私自身は学校の授業ももちろんですが、NHK語学講座マニアでして。色々な語学講座を暗唱するのが趣味です。そのときに思ったことなのですが、外国語を学ぶのは難しい。これは当たり前のことなのかもしれませんが、意外と慣れてくると忘れる。話を戻しますが、私たち3人は講演者ではあるのですが。同じ立場の教員だという目線で聞いていただけたら、今日登壇した意味があると思っております。ですから、先生方あるいはこれから先生になる方、ベテランの方。いろいろいらっしゃると聞いています。ご自身のこととして聞いていただければ幸いです。そして、新年度までにどうされるかということをお考えください。繰り返しになりますが、生徒のために何を準備するか、そこも念頭に置いていただきたいことです。
2015年に、今日一緒に登壇している伊藤先生、松本先生らと出会うことができました。現在、市川中学校・高等学校で指導しながら、各種の学会で発表したり、教科書等々関わらせていただいております。その意味では、私たち3人、非常に責任の重い場面をいただいたと思っています。ここまで相当な時間をかけて打ち合わせもしてきましたので、責任あるコメントができると思いますが、同じ立場の一教員と思ってください。
さて、市川中学校・高等学校は、英語に限らず、教科主任を中心として6ヶ年を見通した指導を確立してきました。学習指導要領が新学習指導要領になっても、それを基にしてどう改善できるかということを常に考えています。これは各学校も同じではないでしょうか。
先ほど松本先生のお話にありましたシチュエーション。私の場合は、男女共学の中学校、高等学校です。2020年度に中1の担任をし、2021年度中2の担任。順当にいけば中3の担任になっていくだろうという場面でのお話です。中1を2年前に担任してきたという点では、この中にも中学校の先生として、この4月から働かれる方がいらっしゃるように聞いています。細かいことなのですが、ぜひお願いしたいことがあります。多くの方には釈迦に説法と思われるかもしれませんが、文字についてです。子どもたちが認識するために、少しお気遣いいただきたい。Word等々の文書作成ソフトには色々なフォントがあります。かっこよく作りたいお気持ちはわかるのですが、かっこよく作ることが目的ではないので。子どもたちが英語という言語を認識できる、分かるということなので、生徒が読める文字で。特に小学校から繋がってきていますから。小学校の教科書を見ていただくと分かる通り、子どもたちが目にしている文字は、基本的にはこういった類の文字だということをご理解いただきたいです。
2年前に中1を担任した時にこのフォントで統一しましょう、と学年で話をしました。私自身も振り返ると「a」や「g」という文字を、これ一体なんだろう、どう書くんだろうというのがあったのです。結果、子どもたちに見せる文字が書く文字に極めて近いフォントであったために、この年はこの文字を真似て書いてくる生徒が1人もいませんでした。これはとても重要なことではないかと思って、今日この場面でお話をさせていただいております。それは教科書の変化であり、教科書だけでなく先生方が使われるハンドアウトにもお気遣いいただきたいですし、学校の教員を養成するところでも、こういった話は昨今されていると聞いています。
さて、授業開きということですが、英語を英語で学ぶ体験をさせたいなと常々思っています。そして、伊藤先生からもありましたが、English Richな環境を提供したい。授業は先生方のためのものではなく生徒のためのものなので「生徒ができるようになっているのか、生徒が50分間何をしているのか。小学校だと40分かもしれませんが、その時間何をしているのか。そこをやはり大事にする。」というメッセージを与える授業開きにしていきたいと思います。そして私たち3名が受けた研修の中で様々な活動があるのですが、その中で今日は2つだけご紹介したいと思います。他にもいろいろあるのでご興味ある方はご連絡ください。
まずは、Authentic Materialsです。教科書はとてもよくできていると思っています。比較的最近の情報も取り入れていますが、昨日の事柄は取り入れていません。そういったものを私たちが拾って、子どもたちに投げかける。そういった素材を使っていくのが、子どもたちからしてみると身近なもの、よりリアルなものになっていくかと思います。ですから、社会問題をはじめとして色々なことをテーマにできるかと思います。
2番目はPersonalization。自分事にするということで、自己紹介から始まるものもあれば、Authentic Materialsに対して「その問題に対してあなたはどうしますか。」「どう思いますか。」「具体的に何ができますか。」「誰とどういう協力ができますか。」という内容もあります。結局こういった活動は、知識・技能、思考・判断・表現、主体的に学習に取り組む態度。これらすべてを求めているということです。皆さんが今度担当される学年は中学1年生かもしれません。高校3年生かもしれません。使う素材は違うと思います。読めるものや、理解できる、いわゆる高次の思考ができる幅は、それぞれだと思います。それを判断できるのは、現場の先生方です。ぜひ4月に出会う子どもたちに、何を提供しようか、そしてどうPersonalizationさせようかということをお考えいただけたらいいのではないでしょうか。
おわりになりますが、小学校3年生の外国語活動から始まり高等学校まで、「私は中学の先生だから」「私は高校の先生だから」ではなくて。小学校からこういう状態で来ています、中学から高校にこうバトンタッチします、高校から大学にこうバトンタッチします。こういったことを認識する必要があります。それから、英語はコミュニケーション重視、というのはよくわかりますが、だからといって、先ほど松本先生からもありましたが、話すことだけを全ての技能と捉えるのではなく、バランスのよい基礎的な学力を育てることに変わりはないだろうと考えています。このコロナ禍、色々なことがありますが、オンラインでできること、対面でできること、それぞれ役割があります。授業内でできること、授業外でできる生徒の個々の学び、その評価。いろいろあると思います。ですが、おそらくこの4月から対面で接するのは、目の前で今お話を聞いていただいている先生だと思います。先生方ご自身が健康で、私たちが元気でなければ子どもたちに元気を与えることはできませんので。ぜひお互いに健康に気をつけて、何を提供するかを一緒に考えていきませんか。ありがとうございました。では、小泉さんにお返します。
(小泉)
ありがとうございました。第2部、授業開きに向けた授業のあり方に関して、2名の先生にお伺いして参りました。
これはTwitterで授業開きと検索してみた結果なのですが、結構やはり皆さん、どうしたらいいんだというようなつぶやきをたくさんされていて。今お伺いすると、やはり「一年の計は元旦にあり」ではないですが、1年間の計画を立てて。評価を考えて逆算して、最初の授業をどうするかということを考えると、皆さん今本当に大切な準備のときなのではないかと思います。そういったときにこのようにお時間取っていただいて。皆さん、3名の先生方、本当にありがとうございました。
◆第2部(後半)◆トークセッション
(小泉)ここからはもうフリースタイルで、それぞれどうなの、というお話を3名の先生方にしていただければと思っているのですが。先ほど打ち合わせで出たところでいうと、伊藤先生の授業を開きは具体的にどうするの。というところを、松本先生からいっぱい突っ込んでみたいというコメントを伺いまして。ちょっとその方向で松本先生から伊藤先生にいろいろ深堀していただいてもよろしいでしょうか。
(松本先生)伊藤先生には最初の難しい話をお願いしてしまったので。普段お話をしているときはこういう感じではなく、もう少しくだけた感じなのですが。実際のところを伊藤先生にもちょっとお話をしていただければなと思うのでお願いします。
(伊藤先生)ありがとうございます。いつもオンラインでも顔が見えている状態で話をすることはあるのですが、見えていないときに向こうに100人以上いるということが想像つかなくて。変な話しぶりになってしまって、失礼しました。早速今から画面共有しますね。
では、話をします。私が先ほど言った工業科、正確には機械科・電子情報デザイン科なのですが、現状では英語が苦手な子がたくさんいます。そういう中での授業開きの例、ここ最近やっているネタを紹介します。
まず、「中学のときに英語が苦手だった人?」と聞くと、気持ちよく「はーい!」とみんなが手を挙げます。そして「英語のテストであまり点が取れなかった人?」と聞くと、「はーい!」と挙げてくれるんです。もちろん中には英語が好きな子もいます。ちらほらですが。でも、ほとんどがみんなが苦手だと手を挙げます。
ここからがポイントです。さらに、いろいろ聞いてみます。「中学校のときに、書いたんだけどピリオドとかスペルミスで×もらって、なんかやる気が削がれちゃってって、そんな人いる?」と言ったら「はーい!」と、みんな挙げてくれます。もう最後に、駄目押しです。「英語はちんぷんかんぷんだっていう人?」「はーい!」と。もう聞いていて気持ちいいくらいです(笑)。ここまでで大体仕込みの一つ目が終了です。
それで2つ目のステップとして、「じゃあちょっと今から動画を見せるので聞いてくださいね」と言って、ある動画を見せます。その動画には、見たことのない外国語が映し出され、知らない言語で誰かが話をしています。生徒は、当然ながら全く理解できないので、ボケーッとしながら眺めています。動画は30秒程度ですぐに終わります。
次に、「もう1つ流すね」と言って、別の動画を流します。ここでもさっきとは違う外国語が映し出され、しらない言語で話をしています。生徒たちは「何、何これ。えー」と言いながらも、やはり見たこともない、聞いたことない言葉に、面白がって興味を示しています。そして、さらにもう1つ、さらに異なる外国語の動画を流します。合計で3つの外国語の動画を見せました。そこまでの指示は日本語でやります。
そして、「じゃあ行くよ」ということで紙を配ります。そこからは私が英語で話し始めます。英語による私の自己紹介です。インストラクションから英語で行います。「鉛筆を持って、書いて。日本語でも書いてもいいよ。英語で書いてもいいよ。とにかく書いたら。文でもいいし、メモでもいいし」と英語で指示してから、自己紹介をしていきます。ゆっくりゆっくり話をしていきます。生徒たちを見ると、話を聞きながら、メモを取り始めます。みんなきちんと書きます。
自己紹介が終わったら、改めて日本語で話しかけます。「皆、私が話してわかりましたか。」それに対して、生徒は一斉に「はーい」と答えます。「やはりそうだよね。みんな書けてるしね。」と言って。「話していた内容は何だった?」と言うと、きちんと「伊藤先生の自己紹介です」と。そこでもう1回、私は確認します。「英語の指示で鉛筆も持てたし。英語で聞きながら英語で書き取ることができた。日本語で書いたっていう人は、英語から日本語に変換もできてたということだよね。」と。
そこでもう大体の生徒は気づくんです。最初に流れた3つの動画も全部、伊藤先生の自己紹介だったんだなと。Googleを使えば、色々な外国語の自己紹介を作ることができます。それを活用してこのような動画を準備しました。
そして、子どもたちに改めて尋ねます。「英語はそれでも分かりませんか?」と。そこでは、誰も手を挙げません。生徒たちは、初めて「英語ができる」という事実に気づくのです。そこからさらに話を続けます。「もしかすると、中学校の時は、【できたこと】じゃなくて【できなかったこと】に焦点を当てていたのかもね。テストが30点だった人は、取れなかった70点ばかりに目が行ってしまい、【自分はできない】と思い込んでいたのかも、でも、実際には30点の成長があったんだよ」と。そして、授業の最後に「大同高校では、できることを積み重ねていく授業をやっていきます。まずは安心して、楽しく授業を受けましょう!」と言うと、聞いている生徒たちの顔は、どれもキラキラ輝いています。「僕だってできるじゃないか」という感じで。こういう授業開きをしています。
この授業開きの話には、続きがあります。それぞれの学期が終わる頃に、このような話をします。「この学期を振り返ってみよう。みんな、どんなことができるようになったかな?自己紹介はできようになった。道案内もできるようになった。英語で好きな季節とその理由が書けるようになった。海外の友だちにメールが書けるようになった。」ここで挙げられる例は全て、その学期の学習活動で行ったことです。それらを一つ一つ、繰り返し繰り返し生徒に伝えることで、生徒一人ひとりが英語学習の足跡を振り返りながら、「英語ができるようになってきた」と、感じてもらえるように刷り込みます。
(小泉)ご説明ありがとうございます。最初、共感から入るというのが。最初の授業で緊張したり、どうするのかなと思っている生徒さんには、非常に安心できる授業なのかなと思いました。松本先生、今お話を伺っていかがでしょうか。
(松本先生)さっきも僕、同じ自己紹介のことで、裏返しのものをやりましたが。英語って、生徒が、自分はできないと思い込みやすい教科だと思います。やっていくうちに苦手なところばかり積み重なって、「できないできない」となって諦めちゃう。それを「いや、できるじゃん」とプラスのところを見せてあげるのは、非常に最初の入りとしては大事だと思います。伊藤先生のようなやり方もあれば、また別のやり方もきっとあると。
(伊藤先生)やり方は本当にたくさんあると思います。だからそれはそれぞれでいいと思うし、やはり刺激与えることは大事なので。そのレベル、その場面ごとでの刺激が大事だと思います。さあ、山本先生いかがですか。
(山本先生)はい。今ちょうど英語専科で小学校に行かれる先生がいらっしゃるということで質問をいただいたので。私は小学校の教員免許とJ-SHINEの資格を持っており、小学生に英語教えたことが少しだけあるので、申し上げておくますと、それらに関連する動画があるのでそれらをチェックしていただきたい。それを見ておいて、「小学校ってこんなふうに授業をしているのだな」というイメージを持っておいていただくといいのかなと。ここで全ての説明をするのは無理なのですが、そういうできる範囲での準備がありますかね。実際、こういう先生はこれからも多くなるのではないかなと思います。英語専科の先生方は本当にご苦労だと思いますが、ぜひ中学校に繋げる重要な役割を担っていますので、頑張っていただければと思います。質問があったので回答させていただきました。
(小泉)ありがとうございます。
(伊藤先生)ついでながら、質問があったのを少し簡単にフォローしたいのですが、いいですか。私のところの質問で恐縮なのですが、試験後フィードバックをするときにっていうのは、いわゆる得点に何かコメントを書いて返しているので。「どういうふうに。一人一人書いているんですか」というお声に対しては、200人以上が相手なので自動化しています。そこはやはり自動化しない方がいいと思いながら、現状複数の弾頭でやっているので。今のところは得点率に応じたコメントにしてあります。でも、成績個票を返すときには、コメントに書かれていない内容をメッセージとして伝えています。
(山本先生)伊藤先生のお話の中で、今回のテーマの一つが評価だったと思うのですが。個々に生徒のために、生徒を見ながら手で入力するという部分があったと思います。とても大事なことだと思いまして。要は、評価することが目的じゃないというか。評価をすることで、子どもたちが「じゃあ次に、私はこういうことを頑張って、このところを伸ばしていこう」となってもらいたい。そのためのものであることを念頭に置いて、評価に当たっていくことが大事なのかなと。伊藤先生の話を伺って、私自身も登壇しておきながらなのですが、なるほどなと思わされたところです。
(伊藤先生)ありがとうございます。その通りです。うちもずっと自動化されたプログラムがあって、それに任せていた時代が、実はありました。ですが、そうなると結局、教員が評価に対して関心がなくなってくる。数字がそのまま、5、4、3、2、1と振り分けられて。言ってみると、誰が5で誰が4で誰が3か、把握もしていない状況。やはり授業というのは、提供しながらも、フィードバックをどれだけ次に反映させるか。基本的には対話の授業と言いながらも、教員側が一方通行になる仕組みを作ってしまっています。だから時間かけてでもきちんと評価する。そのためにうちの学校は1日学校を休みにして、ということをしています。ぜひもし働き方改革で考えてる学校があったら、大同ではこういうことをやっている、と言っていただければと思います。
(小泉)ありがとうございます。こちらで一旦、第2部の後半のセッションを終了とさせていただきます。伊藤先生がさっきおっしゃっていた外国語教育推進ネットワーク。これってグループとしては今具体的にはどんな頻度でどのような活動をされているんでしょうか。
(伊藤先生)現状としてはコロナで対面型がもうほぼなくなってしまいましたので、頻度としては少ないのですが、基本的には学園や学校です。都道府県の学校単位だったり、私学の場合だと私学協会など、そういったところからの依頼を受けて研修会などの企画をするのですが。一番動きやすいのでしたら、「学校に1日来てもらって、ちょっと見てくれませんか」とか「一緒に授業の作り方考えませんか」とか。別に私たちも全て答えを持っているわけではないんですが、色々な授業を見させていただいたり、テストを見させていただいたり、一緒にうなるのが好きなメンバーがいっぱいいますので。結局、違いは何かというと、じっとしてないだけです。そういう意味ではいつでも行きます。メールアドレスをここで出しても大丈夫ですか。チャット欄に書けばいいですか。
(小泉)皆様宛にご共有いただければ。ちなみに、それというのは皆さんへの、要は授業の無料コンサルティングみたいなものでしょうか。
(伊藤先生)そういうことです。
(小泉)それは学校単位で皆さんに何かご依頼するものですか。先生単位でしょうか。
(伊藤先生)基本的にはその教科に行って、そこの学校の英語科の先生を対象に、学校単位で行くことが多いです。メールアドレスを今出しました。学校単位というのは、その学校の英語科で、ということです。
(小泉)そうすると、例えば皆さん、伊藤先生も松本先生も山本先生もこのグループに入っていらっしゃって。色々な先生が知恵を出して。
(伊藤先生)そうですね。状況によって複数で行くこともあれば、全国に散らばっていますので、その近くの先生で、ということも。あとは、こういう規模で、と。それこそ私たちが文科省で受けた研修をそのままやってほしいという依頼。実際に山口県の学校や、愛知県の中でもありました。色々なところに出向いていって、研修会を提供する。提供するというか、一緒に私たちが授業をやります。先生たちが生徒になって受けてみて、「あ、なるほど」と実感してもらうような。その後トークセッション、それこそ「ここやあそこはどうする」と言って。実際の授業の教科書を見ながら。あと学校によってやはりアウトプットが違います。その学校や生徒の事情、どういうところに引き上げたいなど、そういうものもあるので。そうなってくると、私たちメンバーからそういった近い成果を上げている人に応援を求めたり。そういうような諸々の活動です。
(小泉)本当にすごいです。NPOではないですが、先生方の勉強会ネットワークのような。
(伊藤先生)今日は登壇しておりませんが、留学に関する専門家もいますので。そういったことは手広くやっております。法人格も何も持っておりませんが、一応そういうような動きをしております。
(小泉)ありがとうございます。今チャット欄の方に、伊藤先生山本先生のアドレスを記載していただきました。私立の、とおっしゃっていましたが。
(伊藤先生)全然関係ないです。
(小泉)わかりました。こちらにぜひ、ご相談していただければと思います。
「いよいよ新年度。授業開き、どう準備する?」というテーマで、3人の先生をお招きして、お話を伺ってまいりました。本当に皆さん、ありがとうございました。