【前編】来年からすぐ実践・先生がペラペラ話さなくても大丈夫!オールイングリッシュ授業攻略ワークショップ
最終更新日:2023年4月26日
新学習指導要領では、英語の授業を実際のコミュニケーションの場とするため、授業は英語で行うことを基本とすると定められています。みなさんの授業では実践できていましたでしょうか。「やり方がわからずできなかった」という方も多いかもしれません。
そんな先生方へ朗報です。オールイングリッシュ授業と言っても、先生方が英語で喋り続けて生徒に英語のシャワーを浴びせる必要はありません。生徒に発語を促す授業の組み立て方と問いかけ方の2点さえ攻略すれば、オールイングリッシュ授業は意外と簡単にできてしまいます。
今回はその秘訣を、オールイングリッシュ授業の達人たちとともに学んでいきます。登壇者は近畿大学附属高等学校の大川稔和先生、古川英明先生です。
もくじ
【第1部】近大附属の取り組み
【第2部】「授業が変わる」4つの取り組み
【第3部】コミュニカティブなReading授業を可能にするStagingとQuestions
【第4部】教員のマインドセット
Q&A
【第1部】近大附属の取り組み
(大川先生)まずは近大附属の激動の5年間を簡単にご紹介させていただきます。
2017年、私が近大附属に赴任して1年目に古川先生と出会い、全てが始まりました。同時に私はケンブリッジが提供するCELT-Sという英語教師資格を取得しました。2018年大川、古川が英語特化コースの担任となりました。ケンブリッジの教材を授業で使い始め、既に実践している全国の学校を訪問して授業のイメージを膨らませていきました。
2019年、古川先生はこの年、なんと生徒に「授業が面白くない」と言われてしまいます。そのことをきっかけに、本格的にコミュニカティブな授業方法、略してCLT(Communitive Language Teaching)を実践するため、同じくCELT-Sという資格を取得しました。同時に、学外からトレーナーを招いたり、私たち2人でワークショップを行ったり、校内研修を積極的に行った年でもあります。
2020年、コミュニケーション中心の授業を実践して3年目を迎えました。コロナの影響でオンライン授業になりましたけれども、コミュニケーション中心の授業は簡単に行うことができました。それはCLTの基礎と、本日皆さんと共有する授業の組み立て方が身についていたからです。また何よりも、生徒たちが自分たちで学べる、インディペンデントラーナーになっていたことに私たちはすごく驚きましたし、同時に喜びも感じました。一方向の授業をしていなかった、つまり生徒主体の授業になっていたことの成果だと考えております。
(古川先生)そして2021年、ケンブリッジユニバーシティプレスから、ベターラーニングパートナーとしての正式な認定を受けました。英語特化コースのたった2クラスでスタートしたCLTは2022年現在、3学年50クラスに拡大しました。教員のほうもケンブリッジ大学英語検定機構が認定する英語教授資格CELT-Sを29名、CELTAを2名とTrain the Trainarを1名が取得し、セミナー、授業公開といったイベントの実施や他校見学など、様々なチャレンジを行っています。
生徒の顕著な成果として、私たちが3年間担当した昨年卒業の英語特化コース生77名のTOEICL&Rは入学時の平均が350点でしたが、最終的には平均が662点になりました。英検1級に2名、準一級に15名が合格しました。
結果的に世界大学ランキングTOP200にランクインしている海外大学への3名の進学をはじめ、国際教養大学含む国公立大が2名、近畿大学60名という進学実績を残しました。近畿大学では、約8割の生徒が入学金・授業料全額免除となる特待生として進学しました。
左下は本校のマジョリティーである進学コース生のデータで、明らかにボトムアップが成功している証です。
そして右下は、現在私が担任をしている高校2年の英語特化コースの生徒約35名がこの夏に受験したケンブリッジ英語検定の平均点です。結果は4技能の中でスピーキングが最も高得点となりました。どのコースでも試験対策を全く行わず、コミュニカティブな授業展開を徹底したことが、資格試験の結果に繋がっているところがポイントです。
(松山)すごいですね。結果を見るとぐうの音も出ませんが、古川先生が生徒から「授業が面白くない」と言われたときは、そういった授業はまだ実践していなかったのでしょうか。
(古川先生)はい。受験指導ゴリゴリの一方通行の授業をしていました。
(松山)そこからどう授業を変えていったのか、その取り組みについてご紹介いただきたいと思います。
【第2部】「授業が変わる」4つの取り組み
(大川先生)先ほど古川が示した結果を見て、「難しすぎる、自分たちには無理」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。当初は私たち2人も難関国公立大学の受験指導をして、完全に一方通行の授業をしておりました。しかし今からお伝えする4つのポイントに取り組むことによって、どなたでも授業に変化をもたらすことができると思います。
まず1つ目は、English Only、English Richな授業です。授業中に英語を話すことは当たり前、というマインドセットを作りました。English Onlyが難しい場合はEnglish Richな授業を心がけるといいと思います。English Onlyというのは「英語だけ喋りなさい」ということですが、English Richというのは、母国語を使ってもよくて、日本語も混ぜて授業をすることです。英語だけにこだわらず、よく思考する必要がある部分については日本語を使っても構いませんが、ただしメインは英語です。
All English、English Richな授業で勘違いされがちなのが、「教師が英語を話す」ということです。しかしそれは効果的な授業ではないと思います。生徒たちが英語を使ってコミュニケーションできる環境を作りましょう。
2つ目はReduce TTTです。TTTとはTeacher talk timeのことです。つまり先生は説明せず、生徒から引き出すことが重要です。このような意識を持つことで、授業準備も、説明の仕方や英文解釈ではなく、質問の仕方や質問の質、アクティビティのバリエーションへと変化していくはずです。
3つ目の否定しないというのは、Good! Excellent! など、ポジティブな言葉をたくさん投げかけて生徒に自信を持たせ、そして成長できると信じ込ませることです。
4つ目は評価の抜本的見直しです。定期考査までの課題を、4技能でバランスよく育成できるように体系的に組み直しました。評価内容についても、ルーブリックを生徒たちに公表して、この課題に取り組めばどのような力がつくのかを明確にしていきました。
【第3部】コミュニカティブなReading授業を可能にするStagingとQuestions
(古川先生)本日はリーディングの授業を扱います。リーディングは大学入試に向けて必要不可欠なため、多くの学校で最も時間が割かれています。リーディングの授業でコミュニカティブな授業は可能なのか。可能ならどのように行えばいいのかという声をよくお伺いするため、一緒に考えていきましょう。
Lead-in
(大川先生)授業が始まって最初のステージのことをLead-inと言います。その目的は、Building the context of the lesson!です。生徒の興味を引き出し、もっと知りたいという興味関心を引き出すことがLead-inの大切なところです。生徒たちには、今日はこういうことを学習するんだと間接的に気付かせ、興味と関心を引き出します。これがLead-inと呼ばれるところの大切な役割です。
Pre-reading
Lead-inの次のステージ、Pre-readingに移ります。Lead-inでWhat words can you imagine from the word, ‘Recycling’? という質問を提示した場合、この次に先生方ならどのような授業の流れを作りますか。例えば、このような8つのことができます。
まず、リサイクルから連想する単語を引き出しました。その次に3人グループでディスカッションをします。そこで出た生徒たちの意見を引き出して全体で共有します。そして使うトピックを伝えて、本文のタイトルに着目させ、その内容を推測させます。次にタイトルからテキストタイプを推測させて、本文に出てくる語彙を教え、最後に英文に目を向けさせます。広いところから、テキストという狭いところに目を向けさせていくイメージです。
ボキャブラリーの指導をする際は、MFP、Meaning、Form、Pronunciationの観点を意識する必要があります。Meaningは必ず問いますが、FormとPronunciationは必要に応じて加えていきます。先ほどの例でいうとFormはスペルです。Pronunciationは、warの発音確認やLandscapeのシラブルやストレスの確認が挙げられます。
アクティビティの内容に関して、生徒がこれから何をすべきかわかっているか、これを問う質問のことをICQs(Instruction Checking Questions)と呼びます。一方で、 生徒が学習すべき内容やその概念を理解しているかを問う質問のことをCCQs(Concept Checking Questions)と呼びます。
また、”Do you understand?”という質問は禁句です。わかった?と聞いたら、生徒はわかっていなくても「わかりました」と答えたり、うなずいてみせたりしますが、実は全然わかってないということがよくあります。ICQとCCQはこれを解決します。やるべきことや学習内容をしっかり理解しているからこそ答えられる質問をあらかじめ準備しておきます。この質問をタイミングよく使って生徒とやり取りをすることで、教員は生徒の理解度がわかり、生徒も理解を深めていけます。
ICQもCCQもTeacher talk、TTの一種です。私たちはTT should be SSCと教わってきました。SSCとはSimple、Short、Conciseです。つまり、Teacher talkは易しく短く簡潔にする必要があります。
While-reading activities
While-readingステージの最もポピュラーな活動は、おそらく皆さんもご存知の通り、SkimmingとScanningではないでしょうか。実はもう1つ、Reading for detailという活動があります。それぞれの内容は、スライドでお示ししているように、Skimmingは概要を掴む、Scanningは全体を見て知りたい情報をキャッチする、Reading for detailはより細かなポイントを理解していきます。
オープンクエスチョンにしてしまうと、レベルが高くて、フルセンテンスで答えづらい生徒たちもたくさんいると思うんです。その際には、生徒のレベルに応じた先生方のサポートが必要になります。
例えば、①のように空所補充にしたり、②のようにMultiple Choiceにしたり、あるいは③のようにTrue or Falseだけではなくて、No informationや、Not givenという選択肢も出てきます。生徒たちがレベルに応じて徐々にフルセンテンスで回答できるようにサポートする、これを教育用語でScaffoldingと言うんですけども、そういったScaffoldingが必要になっていきます。このアクティビティは、試験対策にも有効ですので従来の教育との親和性も高いのではないかと思います。
(松山)SkimmingとScanningの違いがよくわからないのですが、教えていただいてもいいですか。
(大川先生)Skimmingはテキストの全体を掴むことで、例えばあるチラシがあったとして、それが広告だということを理解するのがSkimmingです。そこから自分の必要な情報である、何時からコンサート始まるかという情報だけをキャッチするのがScanningです。じっくりと読んでいかないといけない情報を見つけてくるのであれば、Reading for detailに入ってくると思います。
大切なことは、この3つの観点からアクティビティを考えて、生徒たちにコミュニケーション活動をさせるということです。
While-readingのステージをまとめていきたいと思います。このステージの目的は、生徒がどれくらい理解をして読めているかを確認することと、Active Readersを育成することです。Active Readersとは、誰かに読まされるのではなくて、自発的に読む学習者のことです。例えば、今から音読してくださいという指示を出して読ませるのであれば、それは明確な目標はないですよね。ですので、常に明確な目標を持たせて読むことを意識させましょう。
Post-reading activities
今ご覧いただいているのは、これからの教育において改めて重要視している、1956年に発表されたBLOOMのTAXONOMYです。授業の中で左側のLOTSから右側のHOTSへ動きを起こすことが理想だとされます。左側のRemembering、記憶から右側のCreating、創造性へ、英語教育学の観点でいうと、Accuracy、正確さから、Fluency、流暢さへとも言い換えられます。Post-reading activityでは、いかにCreating、Fluencyへ持っていけるかが鍵となります。
例えば、1番のWhat is the Earthship?という問いには、当然英語で答えてもらいますが、テキストを見ずに自分なりの英語で表現してみようという、Fluencyを重視した活動に繋げていけそうです。2番目は、What would your ideal Earthship look like?というとても楽しい問いです。クリエイティビティをくすぐる質問で美術部の生徒なんかが活躍してくれそうですね。もし実際にゴミや廃材を使って何かをクリエイトするような活動になれば、教科横断的な学びにも繋がっていきそうです。問い作りがいかに授業を左右するかがわかります。
反応が十人十色のものであったり、様々な意見が述べられているようなテキストであれば、ディスカッションが向いています。一方で、データに基づく数字が多いようなテキストだったら、サマリーや表、グラフを作る活動も考えられます。ここが生徒の興味やニーズにカチッとはまると、授業が楽しく充実していると生徒は感じてくれるはずです。
最後に、Post-reading activityとして必ずFluencyを重視したアウトプット活動を入れます。アウトプットを通してより深くテキストを理解し、もう一度テキストを読み返す機会を与えるだけでなく、テキストを自分ごとにする時間を与えることになります。
まとめ
(大川先生)リーディングの授業のStagingをまとめます。まずはLead-inで生徒の興味を引き出します。次にPre-readingで本文に関連するトピックに興味を持たせて、本文を読みやすくするための背景的知識や経験を引き出し、本文がどのような内容なのかを推測させます。While-readingでは、生徒がどのくらい理解しているかを確認して、アクティブリーダーに育成します。最後にPost-readingではアウトプットを通してより深くテキストを理解し、テキストを読み返す機会を与えて自分ごとにしていきます。
実は、もう一つ重要なことがあります。それはフィードバックを与えるということです。このフィードバックとは教師が解説するということではありません。生徒たちが活動している間に生徒たちの使っている英語をよく観察して、素晴らしい点と改善するべき点を全体に共有することです。このフィードバックを挟むことで、生徒たちの”学んだ感”が一気に高まります。
(古川先生)そしてTeacher Talkと問いの重要性をお伝えしました。問いの力を高めるための第一歩は、自分の授業を自分で客観視することです。まずは授業を録画し、ご覧になられることをおすすめします。
Reduce TTTは重要なモットーです。Teacher Talk Timeを減らすだけで十分ではなく、それに加えてSETT(Self-Evaluation of Teacher Talk)、つまり自分で点検することで、よりTeacher Talkが洗練されます。
自分の授業のビデオからTeacher Talkを書き起こして分析をすることや、他の教員と授業を見学して評価し合ったり、Teacher Talkにフォーカスした研修を行うなど授業を見直し振り返ること、そしてそれが繰り返されることが重要です。CELTAでは徹底してこのプロセスが踏まれますので、実用的な英語教授資格をお考えの先生方にはぜひおすすめします。