生徒世代の心をわし掴み!TikTok研究から見えた英語系ショート動画の授業活用術

最終更新日:2023年6月29日

生徒1人1台のタブレット端末が当たり前になった昨今、デジタルというだけで生徒の興味を喚起できる時代は既に終わりつつあります。とはいえ、効果的な教材アクティビティを一から作るのは大変ですよね。

そこで作る労力の要らない無料教材として活用できるのが、SNSの英語系ショート動画です。1分以内の短さなので簡単に授業の中に組み込むことができ、生徒たちに作ってもらうアウトプット活動にも応用することができます。ぜひショート動画を活用して、生徒が積極的に参加する授業を実現しませんか。

今回は、授業に役立つ知恵の宝庫でもあるショート動画の効果的な活用方法について学んでいきます。登壇者は、英語教員の傍らTikTokerとしても活躍している、麹町学園女子中学校・高等学校の野田優輝先生です。

もくじ

・ 登壇者自己紹介

生徒世代が求めていることと性質

・ 英語教育への活用

・ 最後にメッセージ

登壇者自己紹介

(野田先生)今は教員2年目で、中1の担任をしながら、中1と中2、高2の英語を教えております。教員になる前は、スロバキアに留学してみたり、小学校で2年生の担任をやってみたり、オリンピック放送機構で働いてみたりしていました。

ー 実は高校時代は英語の成績が悪かったという野田先生。いろいろな人とコミュニケーションを取りたいと思い自分なりに研究した「英語が話せるようになる方法」を、教員として生徒にはもちろん、より多くの人に提案したいと考え情報発信を始めたそうです。現在はInstagramとTikTokにて動画配信をされています。

TikTokは15秒から1分ほどの短い動画を作成/投稿できる、若者に人気の短尺動画プラットフォームで、時事問題や英語でのインタビューなど様々な動画があります。中高生世代だけでなく様々な年代で、今や日本の人口の約10%に使われています。50%以上の人が2秒で離脱するためその2秒でいかに面白いと思ってもらうか=2秒が勝負と言われています。

そのTikTokでどうやったら多くの人に見てもらえるか、フォロワー数約8000人・総再生回数140万件以上の野田先生が約70本の動画作成を通して半年間研究し、さらにTikTokの運用代行を通して再現性も出てきた成果から見えてきたことがあります。

それは「Z世代、つまり生徒世代がどんなことを求めているのか」ということ。生徒世代の特徴と、それを授業にどう反映しているのかをお話しいただきました。

生徒世代が求めていることと性質

(野田先生)Z世代、生徒世代が求めていることは4つあります。

①共感

今に限られたことではなく昔も、見たアニメの話をするなどで共感は求められていたと思います。ただ、昔は話についていけなくても学校で完結したのに対し、今はLINEのグループトークなどSNSで話についていくためにアニメやドラマを見ておかなければいけないという人も多いです。昔より共感を強制されていると思います。

「話についていくためだから、そのドラマ自体を楽しむのではなくて、誰が何をしてどうなったかさえ分かればOK」だという話を聞いたときは衝撃でした。ドラマを鑑賞していたところから、消費、つまり事実だけをピックアップするように変わってきていると思っています。

②アイデンティティ

昔は「ドラゴンボール」や「遊戯王」など、爆発的にヒットしたTVアニメがあって、それさえ見ていれば話についていける感覚がありました。今はNetflixやAmazonなど動画コンテンツの配信サービスが増え、莫大な量のアニメからそれぞれが好きなものを見ていて、メジャーが消えたように感じます。

「世界に一つだけの花」が流行った時期ぐらいから、特別にならなければいけないという気持ちが強くなってきたような気がします。競わずに自分らしさを求めようという元々のメッセージが、今の生徒世代にとっては、私はどうならなければいけないのか、アイデンティティを求めることに繋がっているように感じるのです。

私自身も就職の時にいろいろな情報が流れてきて、何をしたら良いのか分からなくなりました。選択肢が増えてきたからこそ、「自分って何なんだろう」「アイデンティティって何なんだろう」と揺れ動くのだろうと思います。

それがよく表れていると感じるのが、生徒世代がよく使う「推し」という言葉です。好きなものを追求することで自分のアイデンティティを表現したいのだと思います。オタクというマイナスイメージの言葉の代わりに、「推し」という言葉で私はこの人の専門家だと名乗るのです。

今とても残念に思うのは、何かに挑戦しようとしても必ず上位互換がいることです。例えば歌手になりたいとき、昔はTVの音楽番組に出ているプロを目指していたでしょうが、今は同じ世代でフォロワーがたくさんいる歌手がSNSに既にいるでしょう。何かをやりたいと思っても同じような分野で既に成果を得ている先駆者が見られることも、アイデンティティを求めるところに繋がると思っています。

当然歌手になろうとしたら、専門的な学びや競い合いはいずれ経験しますが、ファーストステップとして上位互換がたくさんいることによって、挑戦の機会が奪われてしまうようなことも、少しはあるんじゃないかなと感じています。

③失敗しないこと

TikTokやInstagramのドッキリ動画は、最初に驚いているシーンを見せてからネタばらしの流れでないと見てもらえないそうです。面白いかどうかを最初に知りたいからです。昔は、次はどうなるんだろうと楽しんでいたのが、今は、この反応は面白いからどんなドッキリだったのかと考えるように、思考が変わっています。

映画の感想も捉え方が合っているかネットで確認してから投稿したり、サプライズも準備できていないとSNSにあげられないからとトラブルになったりします。無駄な時間を過ごしたくないし、未経験より追体験したいという気持ちが強いです。

④タイパ

タイパ(タイムパフォーマンス。短い時間で最大の利益を入れられる)が強く求められていると感じます。

ある研究によると、TikTokでは1分以上の動画はストレスに感じるという答えがとても多く、映画を2倍速で見たことがあると回答した人の割合からも、倍速で見ることが今は日常化していることが分かります。

昔と今のヒット曲のミュージックビデオ比較からも違いが分かります。歌い出しまでの時間が今は0秒なのは、見られる主流がSNSで、見てもらえるかどうかが2秒で決まるからです。昔は主流がコンサートで、前奏はミュージシャンの登場時間にもなっていたのでしょう。飽きさせない工夫、最後まで観てもらう工夫は、今や音楽界にも訪れています。

英語教育への活用

では、生徒世代に英語教育をどうやっていけばいいのか、生徒世代の性質を取り入れた活用法を3つご紹介いたします。授業での工夫を1年間検証し、生徒の授業への興味が増してきた感覚が出てきた内容です。

なりきりTikToker

自己紹介や、教科書の文を紙芝居形式にして、生徒に動画の撮影と編集をやらせてみました。将来的には文法を英語で説明する動画を作って発表してみるところまでやっていきたいなと思っています。

芝国際中学校・高校 英語科教員の萩原夏子先生は、静岡と東京の生徒がお互いの良いところを動画で紹介し合う取り組みをされたそうです。生徒たちは、普段から動画を見て慣れ親しんでいる分、動画編集を覚えるのが早く、指導しなくても編集までこなしたとおっしゃっていました。

※TikTokerになりきる活動の注意点

・SNSにアップする場合は保護者の同意や学校のルールを守る
・授業で動画を作る目的は生徒の理解を深めること(外部公開メリットは市場の反応が分かることだが主目的は別。内部共有でもモチベーションに繋がる)
・外部公開する場合は各SNSのガイドラインを理解し、著作権トラブル回避のためフリー画像利用が安心

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(野田先生)生徒が英語を話すとき、「間違いを気にしないで」と言ってもどうしても気にしてしまうので、ゴールを「伝わるか/伝わらないか」にしたアクティビティを作りました。

ペアワークで、生徒Aが1枚の写真について説明し、生徒Bが似た写真4枚の中からそれを当てます。ここでの間違いは「何も話さないで情報がないこと」、正解は「間違っても良いからとにかく情報を多く伝えること」です。何回もやると生徒は情報量を多く伝えようとします。教員は似た写真を用意するのが楽しいです。失敗したくない生徒世代に合わせて、話したいと思える環境を作りました。

ショート動画

タイパについては、ショート動画をどんどん使っていこうと思っています。ショート動画に嫌悪感を抱く先生もいますが、私は両方経験してみて、動画クリエイターと英語の先生は良いコンビだと感じます。動画クリエイターは多くの人に見てもらう動画を作るプロで、英語の先生は教えることのプロです。動画をどのように授業に落とし込むか、どのように生徒にモチベートをするかは私たち教員のプロフェッショナルな分野です。ショート動画を授業に取り入れることで、対立ではなく連携してより良い授業を作れると信じています。

最後にメッセージ

TikTokを研究して見えてきた生徒世代の性質に合わせることも大事ですが、それを理解した上で教員として何ができるか考えることもとても大事です。「生徒たちが求めていること」は「何もしなくてもやること」とも言えます。生徒たちに機会や刺激を与えて、失敗することや深く考えることを経験させたいです。教員として伝えたいメッセージや経験を生徒に伝えていくことが大事だと思います。教員歴は浅いですが、皆さんと一緒に日本の英語教育を盛り上げていきたいですし、学ばせていただきたいと思っています。

 

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