日本語力を問う?! 難関大学入試問題の傾向を読み解く!
最終更新日:2023年6月30日
2020年度、「英語教育改革」として学習指導要領の見直しが行われました。教育現場では「読む」「書く」の2技能中心から、「話す」「聞く」「読む」「書く」の4技能を総合的に伸ばす教育へのシフトチェンジが求められています。一方、近年の大学入試、特に難関と言われる大学では、英文和訳や要約、日本語英訳といった問題に比重が置かれる傾向があるようです。
「大学入試に合格するための英語」と「教育指導要領が求める英語」。
その両輪を両立させるため、多くの先生方が試行錯誤をしながら取り組まれていることと思います。そこで国際教育ナビ編集部では、大学受験予備校の先生方が近年の難関大学入試問題をどのように見ているのかを取材しました。
日本語力が問われる入試英語
大学受験における受験生の予備校利用率は、およそ6割と言われています。さらに難関大学ともなると7割を超えるというデータもあります。大手大学受験予備校が発表する合格者数と大学入学者数を照らし合わせて算出されたデータなので、実態は明らかではありません。しかし、大学受験において予備校や塾が無視できない存在であることは確かです。
伝統的に東京大学や京都大学の英語では、和訳・英訳ともに受験生の日本語力を土台とした表現力や思考力を問う問題を出題してきました。例えば、東京大学では例年、400語程度の英文全体を70字から80字程度で要約する問題が出題されるなど、英語の発信力・受信力・批判的な思考力を試す問題が出題されています。また、京都大学の2023年度の入試では「インターネットによる情報があふれる時代について」や「意識」など、複雑な構造をした抽象的でありながら社会的な文章を正確に読み解き、日本語でのアウトプットが求められる問題が出題されました。つまり、難関大学では英文和訳、日本語英訳、日本語での文章要約といった、決して小手先の受験英語スキルでは対応できない力を問うています。
そして近年は英語のみならず、理科・地歴公民といった入試問題全体において知識の細かさや量といった暗記力よりも、膨大な情報から必要な情報を抽出する力、論述や課題解決法を問う問題を通して知識や日本語の運用力・表現力を測る問題が増加しているようです。
その理由を、大手大学受験予備校で教べんを取られてきた西きょうじ先生は「学問の基礎は日本語であれ英語であれ、言語力と思考力である、という大学からのメッセージではないか」と分析します。「東京大学でも京都大学でも、基本的な文法や構文を暗記してアウトプットするだけでは対応できない問題が出題される傾向にあります。例えば社会問題について、前後の文脈や出題されている英文全体の要旨をつかむ。そして得た情報を基に、自分の頭で考え、自分の意見を構築し、表現する力を難関大学は問うているのではないかと考えています」。
Z世代のコスパ・タイパへの危機感
その理由のひとつとして考えられるのが、現在、受験生および在学生の中心であるZ世代と呼ばれる10代前半から20代中盤までの若者の存在です。Z世代と言えば、「コストパフォーマンス(コスパ)・タイムパフォーマンス(タイパ)を重視をする傾向がある」とよく表現されます。さらにデジタルネイティブ・SNSネイティブであることも特徴のひとつ。新聞・雑誌といった紙媒体やテレビなどの従来型のメディアではなく、TwitterやInstagramなどのSNS、YouTubeやTikTokといった動画共有サービスを使い分けて情報を収集しているようです。購買行動なども、SNSでつながりを持った友人やインフルエンサーなどの個人の影響が強いと分析されていることから、さまざまな媒体から断片的に集めた情報を統合し、考え方や行動に反映している可能性は高いと言えます。
一方、学びの本質はコスパ・タイパの真逆に位置すると言っても過言ではないかもしれません。事象に対して「なぜか」を考え、掘り下げる。研究の原点となる100年以上前に執筆された論文から最新の研究まで、数多くの論文や論説を読む。そして、一見、無駄に見えるような情報に向き合い、自分の頭をフル活用して時間をかけて探究し続けていく。
2023年現在、大学は、新しい特性を持った受験生や学生への教育機関として、そして学問を探究する学術研究機関としてのはざまに位置している状況と言えます。受験生に学ぶ本質を問うような入試問題の出題傾向は、大学の危機感を表している可能性が確かにありそうです。
文法学習が難関大学入試を制す?!
では、原点回帰した難関大学の入試問題に対応するにはどうすればいいのでしょうか。
近年、多くの先生方が指摘するように、文法学習が鍵になりそうです。前出の西先生も、「難関大学の入試問題を乗り越えていくためには、考えるため、自己表現ができるようになるための土台を文法習得を通して作ることがまず大切です。その上で、日本語・英語問わず、自分の考えを作り、述べていく力を養うことが大切だと考えています」と指摘します。
中学校は2021年度から、高校では2022年度からオールイングリッシュの英語授業がスタートしました。その中で、いかに文法学習を充実化していくかは現場の先生方にとって課題のひとつです。さらに、多くの先生方はクラスの中に幅広い学力差のある生徒を抱えているため、授業デザインが難しいのが現実です。
国際教育ナビでは、今後も多くの先生方の授業づくりのヒントになるような記事やウェビナーを開催していく予定です。少しでもお役に立てれば幸いです。