たった30分でもスペルミス削減!?生徒の語彙習得を支えるフォニックス導入術

最終更新日:2023年10月12日

単語学習に困っている生徒に対し、どのように指導したらよいか悩んでいる先生も多いのではないでしょうか。フォニックスは、音と文字の関係を理解することで、語彙習得のスピードや正確性がアップし、リスニング力も向上する学習メソッド。語彙を習得できるだけでなく、英語学習に自信を持てるようになるという結果も得られています。1コマの授業につき1つのコツを教えるだけで、生徒に大きな変化が期待できるといわれているなど、授業へも導入しやすいのがメリットです。今回は、帝京大学先端総合研究機構の特任助教・木澤利英子先生に、フォニックスの導入術についてお話していただきます。

登壇者プロフィール

木澤利英子
帝京大学先端総合研究機構 次世代教育研究部門 特任助教

フォニックスは、語彙の習得を下支えするためのサブスキル

日本語は、1つのひらがなに対して1つの音しかないというのが、一般的な考え方です。ところが、例えば「ん」の音にしても、「りんご」「ぎんなん」「さんま」などの言葉の中で発せられる「ん」の音は、実は舌の位置・口の形・歯や唇の状態・空気の通り方などが微妙に異なります。そして英語ではこれらを別の「ん」の音として使い分けるため、当然それぞれの音をn, m, ngと異なる綴りで表すことになります。

母語と外国語の違いを理解することは、言語学習にとって非常に重要です。例えば、英語と日本語では、以下のような違いがあります。

母音や子音などの音素の数
ひらがな・カタカナ・漢字・アルファベットなどの文字の種類
拍(モーラ)や音節など音の単位

日本語が、モーラと呼ばれる特有の音節単位を基本とする一方、英語では、1つの音節が「オンセット/ライム」や「音素」などの単位にさらに細分化されます。日本人は、この細分化されたレベルでの音韻認識が未発達だといわれているため、英語学習においては、まずは英語特有の音の種類や、音の単位、そして音と文字の対応について学ぶことが有効です。

また、日本人はアルファベットをローマ字として使っているので、英語の発音や書き取りでも、ローマ字規則と混同する誤りが少なくありません。そのため、日本語の音をアルファベットで表したローマ字と、英語の違いについて明確にしておくことも必要です。

日本の英語教育では、かなり初期の段階から語彙(単語)レベルでの読み書きが始まります。しかし、リテラシー発達(読み書きの能力)を順調に促していくためには、以下の3つのサブスキルを育てておく必要があります。

音韻認識:音の単位を理解し操作する力
文字認識:アルファベットを見て文字を認識する力
フォニックス:文字と音の対応規則

フォニックスを学ぶことで、新しい語彙も自力で読む力がつきます。また、フォニックスの効果は読み書きにとどまらず、発音やリスニングにも及ぶことがわかっています。さらに、「英語が読める」という効力感が向上することで、「英語をもっと読みたい」と動機づけられるなど、情意面でも肯定的な影響が認められています。もっといえば、単語を学習する際の方略にも変化が見られ、習得が促されることにも期待ができます。

幼稚園児から小学生までは、基本的な「音-文字対応」を指導

私は、幼稚園児から小学校4年生ぐらいまでの子どもを指導する際に、イギリスの公立小学校で教科書として使われている「ジョリーフォニックス」を活用しています。ジョリーフォニックスは、絵やストーリーを通して、音と文字の対応を無理なく学ぶことができる教材です。英語の基本的な42の音を、一番多く使われる音から順に学んでいきます。

また、単語はすべて、使用頻度が高い小文字を使って表記されているのも特徴的です。それぞれの音にアクションがついていることで、目や耳だけでなく、体も使って学ぶため、子どもたちの記憶に残りやすいのがメリットです。実際に私は、4~5歳の子どもたちに対して指導を行っているのですが、42の音と文字の対応はほとんど全ての幼児が難なく習得していきます(1回15〜20分、年間30回強)。

例えば、「s」の発音について教えるユニットでは、snakeやSam、sunなど「s」が含まれている単語が多く登場するストーリーを使い、sの音と文字、そしてそれらが対応していることを学びます。そして、単語をいくつも聴覚提示し、それぞれどこにsの音があるかを認識させます。このように、聞こえた単語を個々の音に分解する力が、読み書きのベースとして非常に大切です。

個々のパーツとして音を覚えて文字と結びついたら、次は、ひとつひとつの音が合成されて言葉ができているという感覚を身に付けさせることが大切です。例えば、「s」と「i」と「t」という音を学んだ時点で、3つの音を合成すると「sit」と読めるということを理解させる必要があります。音を合成させる「blending」と、先生が読んだ単語を個々の音に分解させる「segmenting」を双方向に往還するようなアクティビティを同時に取り入れていきましょう。

できれば、フォニックスに入る前に、英語の音を認識する力を文字抜きで育てておいてあげるのが理想です。幼稚園児や小学校低学年の時期に、できるだけ耳を使って、様々な単位で音を捉える音遊びのアクティビティを豊富に取り入れてください。その後でフォニックスに入っていけば、よりスムーズに文字との対応が習得できます。

もちろん学年に合った教材や進め方はありますが、音と文字をしっかり対応づけた上で、ひとつひとつの音をつなげて言葉を読んだり、言葉をひとつひとつの音に分解してそれぞれの音を文字と対応づけることで綴ったりする練習は、どの学年から導入する場合にも共通して有効です。

単語を10個丸暗記すれば、子どもはその10個の単語を読むことはできます。一方、音を10個学べば、それらをつなげることで、理論的には350個の3音単語や、4320個の4音単語が読めることになるといわれています。丸暗記に頼った語彙の習得には限界がありますが、ひとつひとつの音を学ぶことで、より多くの単語を自力で読めることになるのです。

ローマ字の学習や外来語は弊害になるのか?

小学校の指導要領が新しくなってから、ほぼすべての検定教科書で音と文字の対応が扱われています。ところが、実際はほとんど指導されていないという現状に加え、実は今、小学校で子どもたちがどのようにアルファベットを使うかということに関して、非常に難しい状況にあります。

まず、小学3年生になると、国語の授業でローマ字に触れます。初めて書いたアルファベットがローマ字だったという子どもも少なくありません。また、日常生活で数多くの英語を目にするのと同時に、英語とは似て非なる外来語(カタカナ語)もたくさん溢れています。さらに、PCの文字入力では、ローマ字とも異なる独特の表記ルールが存在します。

ローマ字は英語学習の弊害になるから教えない方がよいという極論もあります。しかし、現実にはそう簡単になくせるものではありません。また、ローマ字や外来語には英語と混同するという困った点もありますが、綴りや発音、意味が推測できるといったのよい影響もあるのです。

さまざまな課題がある中で、子どもたちに語彙力を身に付けさせるには、ローマ字や外来語によるネガティブな影響を極力抑え、ポジティブな面を生かして指導できるのが理想的です。

中学英語入門期には、日本語の知識を生かした指導を

日本語による負の干渉を避けるため、フォニックスの導入に先立ち日英語の違いを整理することが有効です。ここで、中学1年生のクラスを指導したときのケースを紹介します。このクラスの生徒たちは、ローマ字と英語の違いはもとより、ヘボン式ローマ字と訓令式ローマ字の違いについても曖昧な状態でした。中には、ローマ字は英語であると誤解している生徒も見られました。私は、母語である日本語の音と、それらの音をアルファベットと対応づけたローマ字を利用して「音素」に対する理解を促し、それを英語のフォニックスにつなげる方法を考えました。

まず、ヘボン式と訓令式のローマ字が作られた経緯に触れ、前者が「外国人が日本語らしい音で読むため」のものである一方、後者は表記法として日本人にも分かりやすいシンプルな仕組みになっていることを説明しました。そして、日本語の音が子音と母音の組み合わせでできていることを改めて確認した上で、普段はそれ単体で意識することのない「子音」の存在に注意を向けさせます。ヘボン式と訓令式は、いくつかの音において子音の綴りが異なるわけですが(例:siとshi)、実際に外国人がchikatetsuとtikatetuをそれぞれどのように発音するのか聞かせてみせました。

すると生徒たちは、「chi」と「ti」、「tsu」と「tu」が異なる発音で読まれること、ヘボン式の方が日本語に近い音で読まれたことに気がつきます。そしてこの違いを生み出しているのが、「ch」と「t」、「ts」と「t」という子音の部分であり、日本語では同じタ行にありながら、英語では異なる音として使い分けられている3つの音の存在を認識したのです。この気づきをもとに、日本語と英語ではそもそも音のバリエーションが異なること、そしてそれぞれの言語において、アルファベットを用いて音を表す際のルールが異なることを確認しました(日本語=ローマ字、英語=フォニックス)。

さらに、「chip」と「tip」のように音素が1つ違うだけで意味が変わる「ミニマルペア」や、「チーム」と「team」など外来語と原語の発音の違いについても解説しながら、英語特有の音や綴り規則を知ることの重要性を理解させ、その後に始まるフォニックス学習への橋渡しとしました。指導後には、ヘボン式ローマ字と訓令式ローマ字の違い、ローマ字と英語の違いが整理できたとの声が多く聞かれたのに加え、「英語に特有の音をもっと知りたい」など意欲が高まる様子も見られ、知識面、情意面ともに、フォニックスに入る前の準備が整ったのではないかと思います。

語彙力がついてきたらより大きな音の単位を意識しよう

語彙力がついてきてからフォニックスを学ぶ場合、より効率的な学習が可能になります。おすすめしたい1つ目の方法は、体制化です。体制化とは、「整理すること」です。例えば、フォニックスのルールに「サイレントe」がありますが、自分が既に知っている単語の中から、このルールに当てはまる単語を探し、グルーピングさせます。ルールを教えるだけでなく、既有知識と積極的に結びつけていくことで、記憶の効率が上がり、ルール自体の習得だけでなく、語彙の習得速度も格段に上がります。

2つ目はライム(rhyme)の活用です。ライムとは「韻」のことで、catという単語でいうとatの部分にあたります。英語には、ライムを共有している単語が多く存在します(cat, rat, bat, sat, mat, chat, flat)。ひとつひとつの音素ではなく、ライムのように少し大きな塊で文字と音の対応が分かるようになると、単語の習得速度だけでなく、見たり聞いたりした時の処理速度も上がっていきます。

接頭辞や接尾辞にも同じことが言えます。これらは、ライムよりさらに大きな音の塊、つまり音節にあたります。comやsemiといった接頭辞、mentやtionといった接尾辞の単位で瞬時に処理ができるようになると、語彙認識や語彙習得がさらに促進されるだけでなく、「enrichment」などの長い単語もパーツに分解して覚えられるようになるでしょう。1音1文字対応から始まるフォニックス学習ですが、学習者の知識状態に応じて適切な学習法を紹介していくことで、効果の増大が見込めます。

1回5分のフォニックス授業で、語彙習得を下支えするスキルを身に付けさせよう

フォニックスは多くのルールを覚えなければならず教える方も教わる方も大変そう、というイメージを持たれがちです。しかし、全てのルールを網羅しなければ!と気負いすぎる必要はありません。たとえ初歩的な1音1文字の対応ルールしか扱えないとしても、「単語を分解する意識・力」を養うには十分です。

単語を丸ごと、丸暗記するしか術を持たない状態から、分かるパーツに分解して自力で読もうとする姿勢を得るに至った学習者を多く見てきました。単語の見え方、音の聞こえ方が変わることで促されるスキルの獲得に加え、自力で読める経験から得られる効力感、そして英語学習に対する動機づけの向上等、副次的な効果にも大いに期待ができます。1回の授業のうち5~10分でもよいので、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。

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