【前編】受け身の生徒も、思わず答えちゃう!「スキャフォールディング」で自信をつけさせる スピーキングのための“発問”ノウハウ
最終更新日:2023年11月15日
1学期を振り返り、2学期の授業について考え始める7月末は、生徒の英語スピーキング力にも差がついてくる時期でもあります。積極的で話すのが得意な生徒はどんどん話すけれど、消極的でスピーキングに苦手意識がある生徒はなかなか口を開けない。このような生徒にも英語を話してもらいたいとお悩みの先生方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、明治大学付属中野中学・高等学校の田中周作先生に、生徒が思わず話したくなり、話しているうちに上達してしまうスピーキング授業の実践方法についてお話いただきました。ぜひこのノウハウを学んで、英語のやりとりが豊富な授業を作りませんか。
※ 本記事は、2023年7月8日に開催されたオンラインセミナー「受け身の生徒も、思わず答えちゃう!「スキャフォールディング」で自信をつけさせる スピーキングのための“発問”ノウハウ」の内容を要約したものです。
もくじ
スキャフォールディングとは
スピーキングの上達に必要な道のり
1.発音
2.話す経験
3.豊富なインプット
4.ディスカッション/ディベート
スキャフォールディングとは
本日のテーマ「スキャフォールディング」は、教育用語では「親や教師などが子どもや学習者に対して行う支援」と定義されています。足場づくりのようなものです。
スピーキング活動においてはたとえば、以下のような声掛けをしてもなかなか望ましい反応が得られないことはありませんか?
そうだとしたら、教員側のアプローチの見直しが必要です。「自由では逆に難しいからトピックを絞る」「間違いをただ寛容するのではなく、無駄に間違わせない方法を考える」などの工夫で、生徒の反応は変わります。
そうした工夫がスキャフォールディングであり、以下の3通りあると思っています。
※資料内の「す」スタンプ:本日のテーマ「スキャフォールディング」になっている部分
スピーキングの上達に必要な道のり
スピーキング活動を紹介する前に、私が考えるスピーキング上達の相関図を示します。
スピーキング活動の学校の中でのゴールは、スピーチ/プレゼンテーション/ディスカッション/ディベートができるようになることだと考えています。そのためにはフォニックス・発音・イントネーションなどの、相手に伝わる基礎となる音声部分の土台が重要です。その後、語彙・文法・表現を増やし、経験を積むことでスピーキングスキルが向上し、ディスカッションやディベートなどの活動に進めます。
ただ、スピーキング活動は、必ずしも土台が整ってから行う必要はありません。文法や表現が一定程度身についたら、ディスカッションやディベートを試みる。その後、発音に戻り新たな情報も取り入れてまた試す。そのように途中で行ったり来たりを繰り返してスキルを高めていくプロセスが理想的だと思っています。
本日は相関図内の以下4つの要素を取り上げて、それぞれの活動例を紹介します。
1.発音
2.話す経験
3.豊富なインプット
4.ディスカッション/ディベート
1.発音
ではまず発音部分の活動です。発音の一環であるリエゾン(音のつながり)やリダクション(音の抜け落ち)は非常に重要だと考えています。授業内で発音や音読を練習する機会は豊富にあるでしょうが、音のつながりや抜け落ちに焦点を当てる機会は少ないのが現状ではないでしょうか。そのため、生徒が聞き取れないかうまく発音できないというのは、発音そのものが問題ではなく、発音の知識や練習の不足に起因する可能性があると考えています。音が変化していることに気付く、普段の音読に取り入れる、そういった練習が大事だと思います。
上記のような音声変化の知識を伝えていくと、一段上の発音指導ができますよね。ただ、授業で1回紹介するだけでは学ばないので、繰り返しや体系化して導入する方法として、まず1つ目はテキストでの導入をおすすめします。
私はエミール出版の『Focus on Listening』というテキストが好きで、とくに第1問目の発音に注力されている点が気に入っています。たとえば以下では、曖昧母音の発音や口の開け方などが詳しく説明され、単語やフレーズの中でどこが曖昧母音に該当するか丸をつけさせる構成です。
以下の例文には、リエゾン・リダクション・フラッピングがすべて入っています。このような教材を使って繰り返し意識づけさせることが1つの教え方です。
教材を使わず、歌で練習することもできます。どの歌を選ぶかは難しいので、中学生前後に導入する場合はディズニーの歌を選んでおけば間違いないでしょう。モアナの “How Far I’ll Go” の授業例でご紹介しますね。まず歌詞に出てくる単語を抜き出して、発音の注意点を説明しながら一緒に発音練習します。
その後は、私は歌わせるところまで持っていきたいので、1行ずつ歌ってリピートまでしています。
このように歌を通して、リエゾン・リダクション・フラッピングを練習する方法も1つです。洋楽が好きなのに歌えない生徒はこれらができておらず、克服できれば急に歌えるようになることがあるので、ぜひ授業で扱ってみてください。
2.話す経験
(1)3minite conversation
次に、ディスカッションやディベートにつなげるためには、発音を意識しながら話す経験を重ねることが重要です。そのために、アルクの教材『即興スピーキング!』を参考にして取り組んできたスピーキング活動をご紹介します。『3-minute conversation』と名付けた当活動は、ペアで質問(以下シートの左側:赤枠)と回答(右側:青枠)を交互に行い、回答は2文以上で答えるルールです。最後の3分間で、答えられた質問数を下に書きます。
『3-minute conversation』は、以下4点が良いと思っています。
・質問が15問あり、Yes / Noで終わらないので、スピーキング活動で避けたい「沈黙する」状態にならない
・回答例が提供されているため、いろいろなレベルの生徒が、スキャフォーディングを受けながらスピーキングスキルを向上できる
・短文なので中身としては薄いかもしれないが、3分間話し続ける経験を重ねられる
・質問が自己紹介に関連しており、スピーキング活動の後に自己紹介スピーチへつなげやすい構造になっている
自己紹介スピーチは、中学でも高校でも取り組む機会が多いでしょうから、前述のようなシートで活動した後に「今話したことを元に作ってごらん」と促すとスムーズにできると思います。
(2)Fillers, Reaction, Repetition, Question
会話をより自然な方向に持っていくために教えていることが、(2)の4つのコツです。
・Fillers:プレゼンテーションでは通常好ましくありませんが、会話の中では何か考えているときなどに普通に使われるので、沈黙を避ける工夫として役立ちます。
・Reaction:通常のQA活動では、質問者と回答者は交互に話して、相手が話す間は黙って聞くものですが、会話なのでリアクションされた方が自然です。上記Training2では、生徒Aが5つの文章を読み、聞いている生徒Bが一言リアクションする練習をします。
・Repetition:日常の会話で相手の言葉を繰り返すことはよくあり、英語でも同じです。Training3の⓷に、 “Oh, you went to Australia last month?” と繰り返すような会話を、今後活用してみようと教えています。
・Question:相手の話した内容に対して質問する練習をします。
(3)中身を深めるブレスト、質問
生徒がスピーキング活動に慣れてきて、いろいろなコツも知ったものの、話す内容が薄いことはありませんか?たとえば以下の文は、文法は合っていて文量も十分あるものの内容が乱雑で、紫吹き出しのような疑問が残ります。
せっかくなら中身のある話ができるようにしたいですよね。そのための工夫の1つは、ブレストの方向を変えることです。
通常のブレインストーミングでは、中心のトピックから網目状に広がった関連事項をまとめて話すことがあります(左図)。でも内容が浅くなりがちです。代わりに、パッと思いついた数個に絞って、梯子状に関連項目をブレストしていくと(右図)、より深い中身の話が可能になると思います。生徒のスピーチが表面的にとどまった場合は、教員からの質問を通じて深める方法も有効です。
たとえば娘の話を質問で掘り下げたところ、好きな映画のジャンルから最も印象的なシーン、さらにその先へと徐々に中身の濃い話になりました。
>【後編】受け身の生徒も、思わず答えちゃう!「スキャフォールディング」で自信をつけさせる スピーキングのための“発問”ノウハウ