授業でもディベートはできる!簡単なスピーキング練習からスタートできるテキスト
最終更新日:2023年5月2日
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田中 周作 / 明治大学付属中野中学・高等学校
英語ディベート練習ハンドブック [即興型] 初めての英語ディベート
Corpus of Contemporary American English
- おすすめのポイント
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おすすめのポイント
話すこと「やりとり」の取り組みの1つとして、「英語ディベート」が挙げられます。中学3年生になると検定教科書にも英語ディベートが登場します。高校になると論理・表現の教科書には当然のようにディベート活動が紹介されています。
しかし現状では、授業でどのようにディベートに取り組んでよいかわからなかったり、あるいはディベートに対して敷居が高いように感じてしまったりする先生も少なくないのではないでしょうか。実際、私もその1人でした。そもそも日本語でのディベート経験もなかったので、英語ディベートと聞くとなおさら高度な活動のように思えました。
そんな時に出会ったのが、「英語ディベート練習ハンドブック〔即興型〕初めての英語ディベート」です。ここに紹介されている活動やワークシートは本当に秀逸です。そのまま授業で扱えるワークシートが何種類も用意されており、また生徒が楽しくディベートを学んでいける仕掛けが満載です。ディベートをまだ授業で扱ったことがないという先生がいれば、是非この本をオススメしたいと思います。
ディベートを通して得られる力は無限です。様々な議題を扱う中で、幅広い教養を身につけることができ、また他者と意見を交わす中で多角的な視点も身に付きます。また表現する際には、自分の意見を相手に的確に伝えなければいけないため、論理的思考力(logical thinking)や批判的思考力(critical thinking)が必要になってきます。英語力を磨く過程で多くの生きる力が身につくと言えます。生徒にとってはもちろんですが、教員にとっても様々な学びのある1冊になっています。
Q. 対象としたクラスの特徴(学年、人数、授業目標等)
本書に出会い使用していたのは、前任校の都立武蔵高校附属中学校(中高一貫校)に勤務していた時です。そのため、以降のレビューは前任校での使用例になることをあらかじめご了承いただきたいと思います。
当時(前任校にて)本書を採用したのは中学校3年生。習熟度別クラスの中・上位の生徒が在籍する20人×3クラスで使用していました。英語の授業は週に4コマあり、基本的には検定教科書を使用していました。本書は教科書の内容が終わった中学校3年生の3学期に使用しました。
私が担当していたクラスは中学1年生の時から持ち上がりだったので、スピーチやプレゼンテーションなどのスピーキング活動には比較的慣れている生徒が多かったように思います。
Q. 課題意識、導入の経緯
中高一貫校で高校入試もなかったので、今まで培ってきた英語力を用いて、最後に何かチャレンジングな活動ができないかと考え、クラス全員でディベートに取り組むことにしました。また、毎年中学3年生がPDA東京都公立中高一貫校中学校即興型英語ディベート交流大会と全国大会に出場していたので、それもやってみようというモチベーションになりました。
新学習指導要領においては、4技能5領域となり「話すこと」が「発表」と「やりとり」の2つに細分化されています。プレゼンテーションやスピーチが「発表」、即興でのディスカッションやディベートが「やりとり」にあたります。この「やりとり」をどう授業で扱っていくか、どうこの「やりとり」の力を伸ばしていくかということに課題を感じている先生はまだまだ多いと思います。私もその1人です。特に即興性が求められるものには難しさを感じていました。日本語でのディベート経験もない自分がどう指導していけばよいのか。型があるならそれを学びたい。そこで本書を用いてディベートに挑戦してみることにしました。
Q. 実際の使い方
本書は110数ページほどあるので、さすがに1学期間で全てを扱うことはできないと思い、いくつかの活動をピックアップして実践しました。1年間通しての利用であれば、本書の内容を網羅できるかと思います。
最初に取り組んだのが理由を述べる練習です。ディスカッションにせよ、ディベートにせよ、理由を述べることはとても大切です。なぜあなたはそう考えるのか?を常に伝える必要があります。授業の中で生徒とやりとりをしていると、“Why?”という質問の後に、言葉を詰まらせてしまう生徒をよく見かけます。これは多くの英語教師が出会ったことのある場面ではないでしょうか。ここを乗り越える練習方法として効果的だったのが、次のようなグループワークでした。
4〜5人1組の小グループを作り、制限時間3分の中で1つの議題に対し、バトンとなる人形をグループ内で回しながら理由を出し続けるというゲームです。
例えば、“Our school should keep penguins in the swimming pool.(私たちの学校はプールでペンギンを飼うべきである)”という議題に対して、順番に肯定派の理由を述べていきます。
生徒A:Our school should keep penguins in the swimming because we can learn how to swim from them.(ペンギンから泳ぎ方を学ぶことができるので飼うべきである。)
生徒B:Our school should keep penguins in the swimming because we can feel relaxed when we see them.(ペンギンを見ると癒されるので飼うべきである。)
生徒C:Our school should keep penguins in the swimming because we we can learn penguins’ life.(ペンギンの生態を学ぶことができるので飼うべきである。)
生徒D:Our school should keep penguins in the swimming because we can cook and eat them in an emergency.(非常時にペンギンを食糧にできるので飼うべきである。)
このように、次々に理由を述べていきます。当然同じ理由を述べてはいけません。
制限時間がきた時に、人形を持っている生徒がみんなの前で理由を1つ発表するというルールなので、30秒前ともなると生徒は大慌てです。人形を時限爆弾であるかのように、放り投げることもあります。ゲームならではの面白い光景です。
このグループワークを通じて、あらゆる角度から意見を考える練習をします。楽しみながら、物事を多角的に考えるトレーニングを積んでいきます。その後、同じ議題で否定派の理由を述べていきます。そこでまた違う立場からの見方を考えることができます。
続いて、ディベートに必要な立論スピーチの作り方を指導していきました。
立論スピーチには型があるので、まずは例とともに紹介します。ここで紹介した立論スピーチの議題は“We should ban firework festivals.(花火大会を禁止すべきだ)”でした。余談ですが、本書の面白いところは、このように普段考えたことのないテーマがずらりと並んでいるところです。クスッと笑っちゃうようなお題に関して真剣に理由を考え、立論スピーチを作っていくのです。立論スピーチの構成はざっくり言うと、「現状の問題」→「問題解決の仕組み」→「問題解決の重要性」という流れになります。先ほどの議題を例に挙げると、「花火がうるさくて眠れない(現状の問題)」→「花火大会がなくなれば静かな夜を過ごせる(問題解決の仕組み)」→「誰もが静かな夜と快眠を享受する権利がある(問題解決の重要性)」という構成になります。この例をもとに、様々な議題に対して立論スピーチを書く練習をしていきます(この構成は英検などの資格試験のライティング指導にもそのまま生きてきます)。
最後に、ディベートには欠かせない反論のフォーマットを指導しました。
反論には主に5種類の基本フォーマットがあります。
- Not true.「正しくありません」
- Not always true.「いつも正しいとは限りません」
- Not important.「重要ではありません」
- Not relevant.「関係ありません」
- The opposite.「逆です」
この5つのフォーマットに基づき、ペア活動で反論練習をさせます。
反論練習には、「書いてディベート」という活動が面白く、また効果的でした。
これも本書にワークシートがあるので、そのまま使用しました。まずは全員が同じ議題について、簡潔に立論(理由)を書きます。その後ペアでシートを交換します。今度は相手の立論に対して反論を書きます。書き終わったら相手にそのシートを返します。最後に戻ってきたシートに書かれた反論に対して、再構築した意見を書きます。
この「書いてディベート」の良いところは、即興で話す練習よりも若干多めにシンキングタイムを取ることができることです。そうすることで、どのレベルの生徒にも取り組みやすい活動になっています。
以上のように、少しずつディベートに必要な知識・技能を身につけていき、最後は全員で試合を実施しました。20人を4人×4チームと、4人のジャッジに役割分担をしました(教室を2会場に分け、各会場に2人ずつジャッジが入ります)。
意外と難しいのがジャッジで、進行は定型文を読むだけでいいのですが、同時に両チームのディベートの記録をジャッジペーパーに記入していかなければなりません。
肯定側立論1→否定側反論・立論1→肯定側反論・立論2→否定側反論・立論2→否定側まとめ→肯定側反論・まとめ
の順にディベートの試合は流れていきます。
これをジャッジペーパーに書き留めていき、それをもとに「ここの反論は成立していた、このチームは立論が弱かった、効果的に反論できていなかった」などと全体的にどちらが優勢かをジャッジしていきます。これが非常に難しかったと生徒からの声がよく上がっていました。
最終的には、希望者を募って、公式のディベート大会に出場。4人×2チームの出場枠があったので8人を立候補順に選定しました。「チャンスは自分でつかみにいってほしい」という考えから、英語力よりも、やる気と行動力(スピード)を重視して選定しました。全体連絡をしたその日の昼休みまでには定員が埋まるほどの勢いでした。
Q. 印象に残っている授業シーン
立論スピーチの練習で印象に残っているのは、「クリスマスを廃止すべきだ」という議題を扱ったときのことです。型に沿って各々が書いた立論スピーチをグループでシェアする活動を行っていました。その後、各グループから代表を一人選び立論スピーチをさらにクラス全体でシェアしてもらいました。
以下、その当時の生徒が発表したスピーチを紹介したいと思います。
生徒A : Christmas should be banned. I have one reason to support my opinion. The reason is “inequality.” Let me explain. We have a problem. Children born in December 24th/25th get only one present, while children whose birthdays are in other months can get two presents a year. Since my birthday is December 25th, my parents give only one present as a birthday present and Christmas present. It’s unfair! Then, if we introduce this plan, we can solve this problem. If Christmas is banned, every child should equally receive a present only once a year.
生徒B : Christmas should be banned. I have one reason to support my opinion. The reason is “Santa’s health.” Let me explain. We have a problem. Santa Claus is overworked. Santa Claus is an elderly man over 60 or 70 years old. He has to deliver presents to billions of children around the world in one night. He will get sick if he has to do this every year. It is unethical to make this old man overwork. Then, if we introduce this plan, we can solve this problem as follows. The old Santa Claus can retire and he can finally relax. Therefore, Christmas should be banned.
生徒C : Christmas should be banned. I have one reason to support my opinion. The reason is “Children’s happiness.” Let me explain. We have a problem. Many young couples are excited on Christmas. Some couples even decide to get married on that day. Will the children born from such marriages become happy? Some couples will get divorced soon because they decided their marriages without thinking twice. If parents get divorced, children will feel unhappy. By banning Christmas, we can avoid such terrible situation.
少し極論にも思えるのですが、学生らしい柔軟性のある意見が多々あり、とても盛り上がったことを覚えています。理由を考えて、型を覚えるための練習であるので、このような意見が出てきても全く問題はありません。
「こんなにいろんな切り口がある?」「それすごい面白い!」と、聞いてて周りの生徒たちが楽しんでるいのが伝わってきました。意外な意見に笑い楽しみながらも、真剣に耳を傾けていました。
Q. 実施した結果
中学校1年生からスピーチやプレゼンテーションに加えて、授業の中でも多くスピーキング活動に取り組んできたことは、間違いなく生きていると感じました。早い段階から発話に慣れておくというのが大事だと思いました。
このディベート活動を通して、生徒たちの英語力と表現力がまた一段と高まったのではないかと感じています。スピーチをする際に、相手だけでなくジャッジにも自分たちの意見を的確に伝えなければなりません。どうすれば納得してもらえるか、どうすれば説得力のあるスピーチになるか。表現選びから構成まで、生徒はあれこれ頭を悩ますことになります。それなりのプレッシャーを感じながら話していた生徒も少なくなかったと思います。中には上手く表現できずに涙した生徒もいました。しかし、そういう緊張感や真剣さを伴った体験が、後々生徒の力をさらに伸ばしてくれると信じています。
また、相手の意見に対して正面から反論するという経験は普段生活しているとなかなかあることではありません。しかし、対立意見があることで、思考が深まったり、議論が活性化されたり、物事がより良くなったりするというのもよくあることです。
一昨年(2021年度)は、PDA東京都公立中高一貫校中学校即興型英語ディベート交流大会では、2チーム出場し、2チームとも全勝。惜しくもポイント差で優勝を逃すも、2位、3位を受賞することができました。また続く、PDA全国中学校即興型英語ディベート全国大会では堂々の全国5位に入賞(都立武蔵高校附属中学校)することができました。
Q. 今後に向けて
ディベートは英語力だけでなく、いわゆる「思考・判断・表現」の力を伸ばす上で最適な活動だと感じています。特に高校での「論理・表現」の授業などで積極的に扱われるべきだと思います。
現任校の明治大学付属中野中学・高等学校では、昨年度中学3年生の講習で数回ディベート講座を開きました。今後は少しずつ講座を拡大し、ディベート大会に挑戦する生徒を増やすことができればと思っています。高校生の英語ディベート大会にはまだ参加したことがないので、まずはそこへの参加を1つの目標にしたいと思います。
- 田中 周作
- 明治大学付属中野中学・高等学校
プロフィール
明治大学付属中野中学・高等学校 英語科 教諭 北海道函館市出身。 東京学芸大学大学院教育研究科修了。 2014年に東京都教育研究員、2015年-2016年に東京都教師道場助言者として活動。2018年に英検主催英語教員海外研修に参加。趣味は武道(合気道、剣道)…