生徒たちの日本語訳に違和感を感じたらこれ!自然な和訳に仕立てるトレーニングに最適な和訳問題集
最終更新日:2023年7月13日
- おすすめしたプロフェッショナル
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横内敦 / 神奈川大附属中・高等学校
英文読解 FOCUS 和訳編
Z会
- おすすめのポイント
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生徒たちに和訳させると、違和感のあるものになることが多く、自然な日本語に仕立てるためのトレーニングが必要だった。本書を宿題やペアワークで使用し、和訳の経験を積むことで、生徒たちはより良い訳を追い求めるようになってきた。
Q. 対象としたクラスの特徴(学年、人数、授業目標等)
学年と人数:
高2、1クラス34~35人(理系の3クラス、レベル分けはされていない)
英語能力のレベル感、動機付けの強さ:
おおむね英検2級レベル、準1級取得者もちらほら
Q. 課題意識、導入の経緯
昨年(2022年)に1つ上の学年で使っていたことがきっかけで、今年度(2023年度)から高2にも全クラスで導入した。
理由は、和訳問題を出しても生徒が違和感のある日本語を書いてくることが多く、対策が必要だと思ったため。日本語がカクカクした直訳になってしまいがちなので、角を取ってよりナチュラルな日本語に仕立てるトレーニングが必要だった。本書は、生徒にとって少し難しい英文もあるが、その部分も含めて直訳にならず、誰が読んでも分かるような自然な日本語にできることを目指して取り組んでいる。
また、半数強の生徒は国公立大学を目指すため、国立の2次試験対策の面も大きい。英作文もそうだが英文和訳で引っかからないように、早めに対策を始め、高3の時には英語の先生の助け無しに自力で受験対策を進められるくらいにしておきたい。
他の類似書籍との比較は特にしていない。どの教材を使ってもアレンジは自由にできるし、受験を見据えた時期の教材は4技能重視への変更も不要なので、上の学年で一度吟味して選んだものに間違いはないと思い、そのまま選択した。本書は完全に受験対策のために取り組んでいるところが大きく、薄くてやることが明確なので使いやすい。
TOEFL や IELTS では絶対に必要のない和訳だが、日本国内では必要。和訳をさせる良さはやはり、正確に英文を読むことにつながるという点が挙げられる。なんとなく、英文の全体像を掴むことができる時期があるが、細部までの理解には至っていないケースがある。その結果、長文問題を解いてもなかなか正しく答えが選べなくなり、スランプを迎える。そのスランプを乗り越えるためには、やはり正確に英文を読めるようになることが必須だ。その点で、和訳トレーニングができる本書は和訳という面だけでなく、正確な文章理解にもつながる。
Q. 実際の使い方
授業における展開:
週に5単位ある英語の授業の中で他の2教材(『Cutting Edge』とリスニング教材)と並行して使用しており、本教材の使用時間は50分授業の30分程度。
本書は文法項目別に25の章で構成されており、各章は4ページ。最初の見開きの左側には1行だけの短い例文の和訳問題が3~4つ、その後1ページに1題ずつ、5行前後の英文があり、下線部を和訳する問題が3題掲載されている。
最初の見開き1ページを宿題にしており、その後の2問は授業中にペアワークで取り組む。各自で訳した後、隣の人と見比べてみて、2人で協力して角の取れた良い訳を作って確認する。ペアワークの時間は1問につき10分くらい。その間に机間巡視をして、生徒が引っかかりそうなところをどう対処しているかを確認。方向がずれていたら修正、良い訳があれば後で紹介するためにメモする。そうして生徒たちの状況を把握しておき、ペアワーク後に教卓の前でオススメの和訳を提示し軽く解説をして次へ、という流れ。
シラバス上は、2学期の終わりくらいには1冊が終わる予定。他の2教材の進み具合により調整もあるが、おおむね1~2週間で1章が終わるペースで進めている。
Q.工夫したポイント
ナチュラルに読んで日本語では理解しにくい部分や言語化しづらいところを中心に補足説明している。
例えば、”We are causing the first episode of mass extinction on the planet in 65 million years.”という文がある。ここでのポイントは”first~in…”「…ぶりの~」となるのだが、これを知らない場合にはあらぬ方向に訳がいってしまう。そこで大切なのが背景知識。「6,500万年前に何が起きたのか」。つまり、「ユカタン半島に巨大隕石が落ち、恐竜をはじめ地球上の生物の75%が死んだとされているのが6,500万年前。そこが起点で、そこから6,500万年たち、first episodeを私たちが引き起こしたのだから、「~ぶり」という訳はしっくりくるはず。このように、「ストレートの訳ではうまくいかないところや引っかかりがちなところ」を特に抽出して、生徒たちがクリアできるようにヒントを与えている。複雑な部分を「最近は男性・女性とは言わずに“humankind”が増えてきたね」と整理したり、「“human beings”って何だろうね」と質問して考えさせることもある。どこかで役に立つと思っているので、一見無駄な知識をたくさん入れることも好き。大統領専用機「エアフォースワン」はナイキのスニーカー人気モデルの名前と同じと言うと「あ、そうなんだ」と印象に残りやすくなる。「どの数が一番多いか」という話題では「コンビニより意外と美容院が多いんだよ。なんでだろうね」と考えさせる。生徒たちが常識だと持っている知識は意外と実際は違うんだなということを常々データを挙げて話をして、身近な話題から興味関心を広げてほしいと考えている。
高2・高3になると学習は受験対策になってきて楽しさが徐々に減ってしまうので、どうにか英語は息抜きの時間だと思ってもらいたい気持ちもある。
Q. 実施した結果
生徒の成績の変化等:
まだ本教材を使った授業は5回目ではあるが、その中でも生徒が提出する日本語訳を見ている限りすでに成長が見えている。今まではとりあえず日本語訳を書いてみて、生徒自身が読んでみておかしいと気付いてもそのまま採点者任せにしてしまうことが多かった。最近はその他力本願なところがなくなってきたように感じる。より良い訳を追い求めるようになってきた。受験という目標と、本書でのトレーニングの結果だと思う。
また、本書に取り組むなかで生徒から模範解答より角が取れて良い訳が出てくることもあり、新たな面白さを感じている。
Q. 今後に向けて
今後余裕が出てきたら、ライティングにつなげてパラフレーズ(別の言葉で言い換える)をやりたい。和訳して出てきた日本語から自分で英文を考えると、絶対に原文と同じにはならないと思う。使う単語や解釈が変わってどんな表現の違いが生まれるのか、生徒たちの言語レベルに合わせて発見できたら良い。その後に原文と比べると「この単語の方が絶対に格好いいよね」とワードチョイスの必要性も体感できる。
- 横内敦
- 神奈川大附属中・高等学校
プロフィール
山梨県出身。高校時代に1年間のポートランド留学を経験し、その後明治学院大学へ進学。大学で出会った恩師に影響を受け、英語教員の道に進むことを決めた。大学卒業後、前任校の私立高校にて15年間勤務しグローバルクラスの立ち上げに携わった。2007~2011年にコロンビ…