英語の授業における探究的学びの促進 ~外部との連携を通して~ ①外部連携を通じた主体的・対話的・深い学び

最終更新日:2022年2月28日

探究学習とは、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習活動のことです。探究学習では、生徒の思考力や判断力、表現力などの育成を目的としています。小学校や中学校では「総合的な学習の時間」の科目、高等学校では「総合的な探究の時間」などの科目において、探究学習を導入した授業が行われています。

1.授業概要: 授業の対象者、人数、目的 

探究科の生徒、2クラス(約80名)を対象に、外部連携の授業を2020年と2021年に2例実施した。

英語の授業の中で、外部連携を通して探究的な授業の促進を図る。特に注力した点は、一つのイベントとしての外部連携ではなく、普段の授業として取り入れることは可能か、という点である。そのために、普段の教材をどう使い、それをどう連携先(企業や研究機関)と結び付けていくのかという点に取り組んだ。

 

2.課題意識: どのような課題を乗り越えたいと思ったか。また、課題解決のポイントがどこにあると考えたか

私が本校に赴任した2013年度、少子化が進んでいく中で定員割れが続くと、学力レベルの低下にもつながるため、それを避けるべく何か発信する動きが必要、ということになった。そこで、学校改革の一つとして、探究授業の先進校である京都の高校へ視察に赴いた。都市部ということで外部連携の機会が整っていた。例えば、授業にアドバイザーとして近隣の大学院生が来たり、高校生側が放課後に近隣の研究機関を訪問したりできる環境だった。それに対して、本校は地理的に外部連携の機会が少ないと感じた。

それからいろいろ計画を立て、2015年度に初めて「課題研究英語発表会」を行った。準備を重ねて実行してみたが、発表内容は薄いものだった。普段の英語の授業でやっていないことを「探究」という授業で無理やり行わせても、ギャップが大きいのは当然だと感じた。

本校の教育方針として「グローバルな学びをする」とうたっている以上、英語の授業もそれに合わせていかないといけないと痛感した。

課題研究英語発表が年々改良されていく一方で、英語の授業もアップデートを図っていった。外部連携は一つのキーワードだった。

2020年11月末に、他の教科の教員と共に、外部連携教育研修に参加した際、福島県のロボット研究フィールドにも出向き、連携企業先と直接交渉した。英語の教科書はさまざまなジャンルの話題を扱っているので、授業に落とし込めるような連携先の選定がしやすいと思う。

 

3.授業設計方法とポイント: 学期における構成、必要に応じて生徒等からの取得情報や他教員・教科との連携

コロナ禍でオンライン環境が発達し、Zoomも普及したので、地理的なハンデを考えずに外部連携を行うことができるチャンスだと思った。しかし、さまざまなオンライン授業を見るうちに、ただ外部とつながるだけになってはならないとも考えた。英語の授業で外部連携をするにあたり、下記の点を念頭に置いて計画した。

  • 特別な行事としてではなく、授業の一部にすること
  • 連携先には、連携授業の最初と最後の2回に関わってもらうこと
  • 教科書の興味・関心や理解が深まること
  • 探究的な学びに資すること
  • 外部連携先の講師とのやり取り(対話)が起きること

普段の授業の一部とするために、教科書の題材に関連した連携先を選び、連携授業を行う単元を扱う際は、その範囲の始めと終わりを、外部連携で挟む形にした。

【通常時】〔導入部〕〔各課の学習〕〔まとめ活動〕

【連携時】〔企業講義〕〔各課の学習〕〔成果発表〕

企業講義の目的は「教科書の学習内容と企業との関連性を示し、課題提示を行うこと」と設定し、1回の授業を使って、企業がどのような事業を行い、生徒にどのような課題を行ってもらうかを説明してもらう授業とした。

成果発表の目的は「提示された課題に対して生徒がアプローチの仕方を提案すること」と設定し、1回の授業を使って、生徒が企業の講師を相手に、オンラインで課題解決のためのプレゼンを行う授業とした。

企業講義の後、成果発表があることを踏まえ、各課の学習では、課題解決の視点を持って本文を読むよう指導した。また、通常の授業に加え、一度プレゼンの仮の案が出来上がったら、グループ同士でそのアイディアを交換し合う「やり取り」のセッションを組み入れた。相手の案を理解し、賛同する点や不足すると思われる点を伝え合った。

 

4.授業準備とポイント: 準備するテキスト、ITツール等

授業準備においては、連携先との目線合わせがとても重要だと感じている。ご協力いただいた企業との連携方法については、後編にて紹介させていただく。

 

5.授業実施とポイント: 授業の具体的な進め方、授業中の説明や求めたアウトプット

〔企業講義〕

まず1回目の連携授業の際に、企業側の講師から、企業について、またどういうテーマで発表会を準備するかについて課題説明を、1時間すべて英語で講義してもらう。適宜、質疑応答を挟んで、生徒が考えて発言する時間を取るようにしている。

「こういう社会課題があって、君たちはどう考えますか?どういう解決策を出しますか?」と、企業から課題を出していただき、生徒側がアプローチを考える。そういう視点を持って教科書を読んでいこう、ということで、その後1〜2週間は教科書を使って通常の授業を行う。

発表会の準備は、Microsoft Teams上でも生徒同士で積極的に作業させることにより、授業内での準備時間を最低限にするよう心がけている。

〔成果発表〕

2回目の連携授業の際は、講師とオンラインでつなぎ、生徒から講師に向けてプレゼンを行う。プレゼン終了後、講師からの感想や質問をクラス全体に向けて話しかけてもらうことで、発表者だけでなく、すべての生徒が話し合いに加われるようにしている。

この形式での授業は2020年と2021年に2例行った。試行錯誤を繰り返す中で気づいたポイントをご紹介したい。

ポイント1:発言しやすい環境づくり

オンライン講演会は英語に限らずさまざまな場面で行われるようになったが、講師からの一方通行の印象が強く、質疑のタイミングでもなかなか生徒からの発言はなかった。ただし、英語については、授業の雰囲気に加え、生徒の英語レベルも影響をしていると感じた。そこであえて、企業側の質問の英語レベルを下げてもらうよう工夫した。それに加え、普段から授業の中で発言できる環境(ロールプレイやペアで質問し合う等)を作り出すようにしたところ、連携授業の際にも発言が増え、講師にとっても分かりやすい流れを作ることができた。

ポイント2:ICT活用支援

1グループ4人で5分間のプレゼンを準備したが、発表スライド作成を一部の生徒のみが担当するなど、作業量に偏りが見られた。そこでまず授業時間中にグループ内で直接情報をやり取りできる準備時間を設けた。その上で、Microsoft Teamsでも準備をするように指示することで、生徒全員が積極的に作業をするようになった。

 

6.評価とポイント: 授業内外での評価方法、フィードバック方法

時間の関係で、成果発表当日のプレゼンは選抜の6つのグループが行った。その他のグループの発表は事前に動画を送り講師に見てもらうということも行った。当日は、前半・後半に分け、3グループ終了ごとに講師より生徒に直接感想を述べてもらった。

評価においては教員と企業の講師が同じルーブリックを共有して行った。評価のルーブリックの基準は下記のとおり。

【本校の判断基準:「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体性」】+【講師の基準:「ユニークさ」「プレゼンスキル」】

ルーブリックに基づき、講師からグループごとにメールでABC評価をしていただき、最優秀グループを選出・表彰した。

講師の評価はあくまで参考というレベルで、もちろん学校成績上では本校側の基準(本校の3観点)を優先した。ただし結果的には、講師と教員の評価は似たものになったと言える。

 

7.授業を実施した上での成果と課題: 想定通りに進んだか。また、得られた成果や判明した課題

上記「3.授業設計方法」で挙げた、外部連携をするにあたって念頭に置いた点を達成できたと思う。

主な外部連携の成果は下記の点である。

  1. 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組むことができた。
  2. 生徒同士の協働や講師との対話を通して、自己の考えを広げ、深めることができた。
  3. 問題を見いだして、解決策を創造的に考えることができた。

 

連携授業後の生徒のアンケートからは、以下のような成果が見られた。

・講義により教科書の内容理解が深まった。 

・教科書を読み返す機会が増えた。読み返す動機づけが、テスト勉強ではなく、プレゼン準備のための「参照」というものになった。

・教科書以外の情報もよく探し、探究的な学習に結び付いた。

・最先端に触れることの楽しさを感じた。

外部連携による研究発表会は、主体的・対話的・深い学びへつながった。

 

8.授業を参考にする先生へのメッセージ: 上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

外部連携の敷居は高く感じるかもしれないが、他の学校でもトライしていただけると、協力連携先のネットワークが増え、横のつながりが広がっていく。そうすれば、生徒のレベルに応じた連携授業をもっと気軽に実施できるようになる。外部連携を通して、生徒がさまざまな分野に興味を持てば、研究機関、企業にとっても良い人材の獲得につながり、プラスになる。ただ教科書を読んで理解させるだけではなく、外部連携を通した探究授業にぜひ一緒に取り組んでいきましょう!

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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