2022年4月からスタート!改めて知っておきたい「金融教育」のキホン

最終更新日:2022年6月24日

 学習指導要領の改訂により、金融商品による資産形成という視点が学校教育に導入されました。すでに導入が始まっている小学校、中学校に続き、2022年4月からは高等学校の家庭科や公民科に「資産形成・資産運用」の視点が取り入れられることになります。

 今回の改訂によって、生徒たちはどのような学びを得られるようになるのでしょうか。また、教員・教育関係者はどのような授業を提供すればよいのでしょうか。

 

① なぜ今「金融教育」が導入されたのか

 

 金融広報中央委員会が公表している「金融リテラシー調査 2019年」によると、金融知識に関する共通の正誤問題を、OECD(経済協力開発機構)加盟国であるイギリス、ドイツ、フランス、日本でそれぞれ行った結果、5問の平均正答率は日本が60%となり、4か国で最も低い結果となりました。また、アメリカと日本との間で共通の正誤問題(6問)を行ったケースにおいても、日本の平均正答率が47%であるのに対してアメリカは53%で、日本がアメリカの平均正答率を下回りました。

 金融商品や金融サービス、税制、教育制度等は各国で事情が異なるため、一概には言えない部分もありますが、世界における日本人の金融リテラシーについては危機感を持って見る必要があると言えるでしょう。

「金融リテラシー調査 2019年」の結果|知るぽると:金融広報中央委員会

 

 2019年6月に金融庁が公表した金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」を発端に、老後2000万円問題が話題になったことも記憶に新しいところ。超低金利が続く銀行預金だけでは老後への備えは期待できません。加えて、企業の終身雇用が崩壊し退職金も見込めない状況が拡大する今、個人単位での資産形成はこれまで以上に重要です。

 昨今は、スマホの普及でインターネットが身近なインフラになったことから特殊詐欺の手口が多様化しています。また、2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳でも親の同意なしにクレジットカードを作ったりローンを組んだりできるようになりました。親権者による取消権もなくなり、新成人や若年層の金融トラブルが増加する懸念が高まっています。

 さまざまな要因から、金融教育に対する課題意識が年々高まった結果、新学習指導要領では金融教育の推進が求められ、2022年度からは高校家庭科を中心に授業への本格導入がスタートしたというわけです。

 

②教育の現場では今何が求められているのか

 

生命保険文化センターが2021年7月に実施した「高校生の消費生活と生活設計に関するアンケート調査」によれば、全体の9割台後半にも及ぶ生徒が携帯電話・スマホを所持している一方で、「契約の知識」に関する正誤問題において契約の基本に関する項目の正答率は2~3割弱。成年年齢が18歳に引き下げとなった今、消費者トラブルの深刻化を懸念として挙げざるを得ません。

高校生の消費生活と生活設計に関するアンケート調査|学校教育活動|公益財団法人 生命保険文化センター

 

日本トレンドリサーチ(運営会社:株式会社NEXER)が2022年1月に実施した「高校での『金融教育』必修化」に関するアンケートでは、高校での金融教育の導入について、全体の92.4%が賛成と回答。自身の苦労した経験や将来の社会不安などを理由に挙げる声も多く聞かれました。

その一方で、「金融教育の授業をどの科目の先生が担当するべきか」という質問に対して全体の55.9%が「外部の講師」が担当したほうがよいと回答し、現実的に担当する可能性の高い「家庭科の先生」が担当すべきと回答したのは3.4%に留まりました。教科書に準ずる内容以上に、専門家による実践的な知識が求められていることの表れと言えるのではないでしょうか。

出典:高校で必修となる「金融教育」 55.9%が授業は「外部の講師」が担当したほうがよい|日本トレンドリサーチ

 

③わたしたち教育者はどのようなアクションをすべきか

 

日本証券業協会では主に中学校の社会科、高等学校の公民科・家庭科を担当する先生方を対象に、教員向けのオンラインセミナーを毎年開催しています。こちらも2022年度のセミナーは現在準備中とのことですが、2021年度の講演録が公開されています。2021年度は金融教育導入の背景や、授業の導入や問題提起に活かせそうな社会問題の例についても言及がありました。2022年度は実践を踏まえ、より具体的な話題にも触れることになるのではないでしょうか。

教員向けセミナー | 日本証券業協会

 

全国銀行協会では、金融教育活動に特に力を入れている学校を「金融経済教育研究指定校」として毎年選定し、教材の提供や講師派遣、銀行見学など多角的に授業を支援しています。2021年度の指定校となった山梨県立甲府東高等学校での授業について、指導計画から5時間の授業レポート、先生・生徒の感想まで事細かに公開されており、参考にできる部分も多そうです。

山梨県立甲府東高等学校活動実績一般社団法人全国銀行協会

 

金融広報中央委員会では、中学・高校の教員の方々によるオンラインの実践報告会、意見交換会を開催しています。キャッシュレス、SDGs、資産形成、地域貢献など、今の時代に即したテーマを取り上げた授業の実践事例が生の声として聞ける貴重な機会です。2021年度の報告会は終了してしまいましたが、需要が高まっている2022年度にも開催される可能性が高いので、引き続きチェックしておくとよいと思います。

2021年度 先生のための金融教育セミナー|知るぽると:金融広報中央委員会

 

なお、金融広報中央委員会はお金の情報サイト「知るぽると」を運営しています。教育関係者向けの情報も豊富なので、ぜひ活用して授業に取り入れられそうな素材やノウハウを手に入れてください。

教育関係の方へ|知るぽると:金融広報中央委員会

 

④授業に活用できるさまざまな外部サービス

 

日本証券業協会では、教員・教育関係者のために授業で取り入れられる教材を配布しています。たとえば、日本証券業協会と東京証券取引所の共催で提供されている「株式学習ゲーム」は、米国の学校教育現場で実績のあるStock Market Gameをモデルに作られたシミュレーション教材。1,000万円の仮想所持金をもとに、実際の株価に基づいた模擬売買を体験することができます。

小学校・中学校・高校向け無料講師派遣 | 日本証券業協会

株式学習ゲーム|日本証券業協会/東京証券取引所

 

金融業に携わる多くの企業や団体では、講師を派遣しての出張講座を実施しています。中でも、一般社団法人全国銀行協会の公式サイトでは、出張講座の実施例が掲載されています。テーマ設定とプログラム、時間配分も公開されているので、派遣依頼時の参考になりそうですね。

講師派遣【どこでも出張講座】|一般社団法人全国銀行協会 

 

日本証券業協会と全国の証券取引所、投資信託協会が参加している「証券知識普及プロジェクト」では、先生向け金融経済教育支援サイト「金融経済ナビ」を運営しています。授業に活用できる動画教材、また新学習指導要領に対応した公共・家庭基礎の学習指導案も公開しているので、授業計画を立てる際に利用してみてはいかがでしょうか。

金融経済ナビ|日本証券業協会

 

[まとめ]

 2022年4月の学習指導要領改訂が後押しとなり、文科省や金融機関による金融教育支援はこれまで以上に活性化するのではないでしょうか。その一方で、現場で参考にできる事例やノウハウはまだ多くは共有されておらず、各校とも模索しながら取り組む状況が当面は続きそうです。

 先進的な取り組みを共有している学校や先生と連携しながら、オンラインで入手できる情報やツールを活用し、ベストウェイを見出していきたいですね。国際教育ナビでも、引き続き金融教育に関する情報やアイデアを共有してまいりますのでどうぞご期待ください。「こんな情報が欲しい」「こんなことに困っている」など、皆様からのご意見もお待ちしております。

 

[参考記事]

高校で金融教育がスタート! 「投資は難しくてわからない」では置いていかれるかも? | EL BORDE(エル・ボルデ) by Nomura – ビジネスもプライベートも妥協しないミライを築くためのWEBマガジン

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