「シリーズ 英検活用 あの学校はどうしてる?!」 あえて通常授業に組み込まない 1800人のエネルギーを英検に集中させる手法とは
最終更新日:2023年12月14日
いま、英語外部検定(外検)利用入試が盛んになっています。一般受験では外検の級やスコアが英語試験の得点に換算されたり、学校推薦型選抜と総合型選抜では出願資格に指定されていたりと、今後ますます重要になっていくことが予想されています。ケンブリッジ英検、GTEC、TEAP、TOEFL、TOEICなど数ある外検のなかで、もっとも採用されている英検(実用英語技能検定)。そこで国際教育ナビでは「シリーズ 英検活用 あの学校はどうしてる?!」と題し、積極的に英検に取り組んでいる学校や先生方にご取材を実施。学校内での位置づけや生徒への取り組ませ方、授業との関連づけや教員の関わり方など、各校の具体的なアプローチに迫ります!
#1の今回は、国学院高等学校。英検の年間合格者が全国の高等学校で最多であったことが評価され、2017・2018年度に2年連続して「文部科学大臣賞」を受賞されました。系列の国学院大學のほか、難関私立や国公立大学への進学実績も多い同校では毎年の英検受験を全学年で必須としています。2020年度の卒業生の9割近くが2級以上を取得した同校の特徴は、都内では珍しい高校単独の私立高校で、生徒数約1800人のいわゆるマンモス校。全員受験はかなり大きな教員の負担になりそうな印象です。どのように実現されているのか、英語科主任の青木大輔先生にお話を伺いました。
(国学院高等学校サイトより)
「これからは英語の時代だ!」英検講習の始まり
―――英検全員受験は、いつ頃からどのような経緯で導入されたのですか?
ちょうど私が本校に着任した約10年前に、当時の津田校長が「今後は英語だ!」と英語力強化にかじを切りました。「本校卒業後、文系・理系にかかわらずどんな学部に進んだとしても、5年後10年後に社会へ出たときに自分のスキルや経験を生かしてグローバル社会で活躍できる人材になってほしい」。そんな理念があったと聞いています。グローバル人材になる出発点として英語は欠かせないということで、2014年に英検講習が始まりました。大学入試への英検活用も増加の一途をたどり、英検の大切さが世間に認められるようになった頃です。当時は全員必修ではなく希望制でした。
英検全員受験、マンモス校での取り組み方
―――全員受験をされている現在、具体的にどのような取り組みをされているのですか?
(青木)全員が卒業までに英検2級取得を目標に、1・2年生は年3回、3年生は1回の受験を必修としています。そのための英検対策講習を、春休み・夏休み・冬休みの各長期休暇中に実施します。それぞれ約1週間の短期集中講習で、1・2年生の生徒は、年5回実施するなかの3回が必修です。受験する級によって準1級・2級・準2級の3つのレベルに学年別でクラス分けをしているので、規模は巨大です。例えば前回の実施時は、1年生で約17クラス、2年生で19クラスでした。
講習で使う教材は、英検の過去問題集がメインです。英検学習には外せないスキルアップツールですので、生徒全員が使っています。プラスで使う副教材もあります。英検対策講習は基本的に外部の語学スクール2社にお願いをしていて、講師派遣も副教材作成も委ねるという運営方法です。英検対策を開始するにあたり、教員だけでは実施が難しかったため外部の力を借りることにしました。
―――英検対策を平常の授業中や放課後にされる学校もあるかと思いますが、「長期休暇期間中の講習」という形にしたのはなぜでしょうか?
(青木)本校のクラス編成や学習・進路指導方式には、その方が合っていたからです。都内の私立校は、中高一貫の6年間教育で、進路により細分化されたコース制、授業も少人数といった学校も多いですよね。一方、本校は高校単独であり、1学年600名程度のマンモス校。生徒の習熟度もほぼ同程度です。「学びの中心は授業であること」を教員も生徒も大切にしており、教科は習熟度別クラスにはせず、1・2年次は全員が5教科7科目をまんべんなく学びます。だからこそ、年間の平常授業数をしっかり確保するために、資格試験対策のようなレベル別に分かれる講座は短期集中にして、平常授業の余白を埋める形で活用しているのです。例えば英検は10~11月の定期試験終了後、冬休み直前の試験休み期間に対策講習を設置し、希望者は追加で受講できるようにしています。
毎日の授業で5教科7科目に取り組む上に、部活動やさまざまな課外活動など生徒たちの生活は本当にめまぐるしいものです。そんな忙しい毎日に「英検対策の勉強も追加する」のは現実的ではありませんでした。そこで、学期中は平常授業に集中して、終わったら資格試験に集中する、という形にしたのです。「メリハリがついて良い」と、生徒も保護者も私たち教員も、手ごたえを感じています。
それに加え、平常授業がない時期に講習を実施すると、外部講師だけでは足りない部分に本校の教員が参加して補えるのも良い点だと感じています。毎回、2~3割の教員が参加していますが、平常授業と違った英検モードの視点で教えることができ、教員の勉強としてもとても有意義な時間になっています。
全員受験で学校にみなぎるエネルギー
―――希望制から全員受験に変更されて、どのようなメリットや変化がございましたか?
(青木)導入当初の希望制での実施にも良い面はありました。やる気のある生徒だけが集まると、パワーは衰えず増強されます。ただ学校全体で考えると、生徒全体の規模が大きいだけに希望者がマイノリティになってしまう。「特別教室でやる気のある生徒だけがやっている」と映ってしまうこともありました。
全員受験の今は、全員が「今週は対策講習だ。来週は英検本番だ」と口をそろえ、スローガンのように学校全体で共通目標が持てます。全学年計1800人ものパワーが校内にみなぎります。
生徒同士の切磋琢磨も増えました。一緒に講習を受けた同レベルの生徒たちが合格し、自分はギリギリで不合格となれば悔しさ倍増です。「次こそは合格したい、あの生徒の勉強法を真似てみよう」という向上心にもつながります。
―――生徒にモチベーションの差ができそうですが、実際はいかがでしたか?
(青木)正直、講習でも受験でも、モチベーションの差はあります。ただ、今は「どうせやるならちゃんとやろう」という生徒の方が多いように感じますね。生徒のアンケート結果でも特に悪い評価はなく、保護者を含めて英検対策に共通認識が持てているだろうことも大きいです。
生徒の様子や声を詳しく見ていると、モチベーションだけでなく、危機感みたいなものもハイブリッドであるようです。講習は受験級別なので、最初は大勢の生徒がいた準2級対策クラスに、高1の最後の方には1~2桁の人数しか残らないという現実があります。「置いて行かれたくない」「最後に取り残されたくない」という危機感も影響しているでしょう。
英検対策成功の決め手
―――英検対策成功の決め手は何でしょうか?
(青木)大きくは以下の3点だと思います。
1.英検を年間行事の1つとして組み込んだこと
英検受験日と対策講習期間を明確にし、年間行事化することで、生徒も教員も、「やって当たり前」な通過儀礼として覚悟を持って取り組めます。英検受験は受験後の学年集会までをセットとして設定し、合格者数や同学年の何割が合格したかなどの振り返りを生徒と共有しています。
英検受験も、「英語力の1つの指標として取得が望ましいものだ」という認識も、今では学校全体として根付いているように感じます。環境づくりがとても大切で、各時代の管理職や英語科の教員たちが積み上げてきたものが10年を経て形になり、結果にもつながっているのだと思います。
2.業者任せにしない
英検講習は外部業者に委ねていますが、都度すり合わせをしています。使用している副教材は業者に作成いただいたオリジナルです。毎日の語彙学習のために、どの過去問題集のどの部分を使ってどのような語句にフォーカスさせてトレーニングするか、ライティングの型はどうするかなど、教材研究からお願いしました。生徒からの具体的な要望を反映できるように、毎回の講習後の全生徒アンケート結果も共有しています。
3.教員に負担をかけすぎない
どうしてもその時期が来ると、大変に感じる部分もある程度はあります。担任は受験票を配るような事務作業の協力、英語科教員はクラス分けの確認や生徒への提示、微調整で少し忙しくなりますので。
そのため、なるべく教員の負担が大きくならないように、講習の時期や業務量を調整しながら適正値を探っています。団体受験申込は生徒自身で行い、クラス分けの際のアンケートはネット上のツールを利用し教員負担はあまりありません。生徒の負担も増えすぎないよう、宿題のボリューム調整も話し合います。
―――英検の重要性が高まっているものの、対策講座や全員受験は教員負担が気になるというお声は多いですよね。御校の方法であれば、メリハリがあり、先生方のご負担はあるものの、大き過ぎず無理がないように思います。長年継続され、結果が伴っている秘密や実践の具体的なお話、とても参考になりました。
(青木)正直、大変な面もありますが、意義の実感がとても大きいです。英検への取り組みは日頃の生徒たちの学習に少しエッセンスを加え、刺激を与えることができます。同時に、積み重ねていくことで大学入試合格に確実につながっていると、教員のみならず、生徒や保護者が口をそろえておっしゃってくださるので、継続していくカリキュラムの1つだと考えています。
取材・構成:小林慧子/記事作成:松本亜紀
「シリーズ英検活用 あの学校はどうしてる?!」
#01:あえて通常授業に組み込まない 1800人のエネルギーを英検に集中させる手法とは
#02:英検の全員受験で英語力を強化!学校一丸となって取り組む『英検まつり』の仕組みとは?
#03:“英検全員受験”という環境が生徒と家庭をワンチームとし、生徒の英語力を高めていく。
#04:国公立志望でも英検は有用! / 和歌山信愛中学校・高等学校
#05:張り巡らされた戦略が切り拓く英検合格への道