音読のその先へ~ 即興力と自己表現力を培うスピーキング活動

最終更新日:2024年10月30日

長年音声指導研究に携わり、ご自身の授業の中にも音声指導のためのパフォーマンステストを多く取り入れておられる、東京学芸大学附属竹早中学校の松津英恵先生

昨年ご紹介いただいた音声指導のための授業での実践でのスキットやリテリングをさらに発展させた、即興力と自己表現力を追求する今年度のお取り組みについてお話を伺いました。

昨年度の手応えと新たな課題

――― 昨年度(2023年度)のお取り組みへの手応えはいかがですか?

(松津)昨年担当した中学2年生に実施したスキットのおかげで、生徒たちもジェスチャーを付けた表現にだいぶ慣れてきたように思います。正確に発音しないとパフォーマンステストで最終的にクリアできないことも理解しているので、発音やイントネーションにもしっかり注意を払うようになりました。しかし、即興力や自分らしい表現を使って言い表す力はまだまだ足りないと感じていました。そこで今年度は特にこの「即興力」と「自己表現力」の向上を意識し、スキットとリテリング活動に新たな要素を加えました。

――― 新たなお取り組みの対象は3年生ということですね。

(松津)昨年の取材でお話しした当時の2年生を引き続き指導しています。35人学級での実施です。

狙いは「即興力」と「自己表現力」の向上

スキット活動

――― 今年度の具体的な指導法を教えてください。

(松津)スキットに関しては、基本的な実施方法は昨年と同様です。教科書の指定範囲をAとBにパートで分け、2人1組で練習し、ペアごとに私の前で発表してもらいます。2年生まではある程度まとまった5-6行の文量で実施していました。3年生になり本文の量も増えてきたので、より重要なKey sentenceだけに絞り、3-4行程度の範囲にしています。

――― 即興力や自己表現力の向上の点でとくに意識した指導はありますか。

(松津)昨年から継続して、発表の際に必ずジェスチャーを付けるよう指示しています。表現力も増しますし、ジェスチャーが言葉を引き出す手がかりにもなると思います。

3年生は12月までに教科書の範囲を終了することが最優先事項なので、スキットの実施頻度は2年生の時より減り、1学期は1回のみの実施でした。2学期は中間考査直前(9月~10月前半)まで実習生の授業のため、2学期後半に1回、3学期の入試後に実施できればと思っています。

――― 1学期を終えた現段階で、昨年度との違いは感じられますか。

表現できる世界は広がっていますし、英語で話すこと自体に慣れてきた実感があります。今後はさらに「自分たちのことを伝えるとき、どう表現する?」というクリエイティブな活動も入れたいと考えています。

具体的には、以前から多くの先生方が取り組まれているPlus-one Dialogue(スキットの最後の部分に一言加えるなど、オリジナルの一言をスキットに取り込むなどの活動)のスキットでの実践を考えています。これまでは、教科書の重要表現部分が中心でした。今後はこれとは別に、登場人物同士のやり取り部分のスキットを行い、最後に生徒自身が考えた一言を付け加える活動を検討しています。

その他、重要表現のパターンプラクティス終盤に、「この表現を使って自分の言いたいことを言ってみよう」や「自分を主語にしたら、どんな英文になるかな?」といった活動ももっと頻繁に行いたいですね。

リテリング

――― リテリングに関してはいかがでしょうか。

(松津)昨年は「穴あき音読シート」からKey wordと挿絵付きの「リテリングシート」を利用していましたが、2年の3学期頃から変更しました。Key wordがあると生徒の表現に縛りが発生するからです。リテリングの活動に慣れてきて、生徒たちが今まで身に付けてきた表現を使ってどれだけ自分の言葉で話せるかを重点的に見たいと思ったため、口頭で本文の内容に即したお題( “Why are the wheelchairs of Mr. Ishii’s company special?” など)を伝え、それについて話してもらう形式で実施しています。

実施頻度はスキットより高く、まとまった文量を学習するたびに実施しています。基本的な流れは下記のように、3回の授業にまたがって実施します。

●1回目:音読の課題
授業中と家庭学習それぞれでしっかりと行います。

まず授業中は、読み方を変えながら10回程度音読します。具体的には私の後にリピートして一斉音読、CDのモデル音声を聞きながらのパラレル・リーディング、生徒が自力で読む個人音読、ボランティアまたは指名された代表の生徒がクラス全員の前で読む、などさまざまです。

授業中の活動を踏まえ、次の授業までの宿題として家庭学習を行います。回数は次の授業までの間隔次第ではありますが、1回目の授業の翌日が2回目の授業であれば15回程度、期間が空く場合は50回程度、などです。家庭学習状況の確認は、音読1回ごとに教科書に☆を記載させたりと、何かしらの痕跡を残す形で行っています。

☆の数だけ本当に音読しているかの確認は難しいのですが、実際に読ませてみれば、生徒が取り組んだか否かは一目瞭然です。やはりリテリングができる生徒はきちんと音読に取り組んだ生徒ですし、音読への取り組みが浅いと、その後のリテリング活動が難しくなります。

家庭学習で十分に音読を行わなかった生徒を叱ることはしません。ただ、「この部分は大切だからちゃんと練習してこようね」「こういうところもきちんと読めるといいよね」といった形で、具体的にアドバイスしながら、新出語などの発音や各センテンスのリズムやイントネーションなどのリテリング活動に必要なことを伝えるようにしています。

●2回目:クラス全体でリテリング
ホワイトボードに貼られたピクチャーカードの関連情報を生徒がどんどん英語で発言する取り組みです。発言できる生徒が声を出し、アウトプットされたセンテンスをクラス全体でリピートさせ、発言していない生徒が聞いているだけにならないように、全員で練習の機会を共有するようにします。こちらも多くの先生方が実践されているピクチャーディスクライビングの要素も含んでいます。慣れていないと“The boy is wearing a green sweater.”のように教科書本文に関係のない視覚情報のみの発言となる傾向がありますが、ピクチャーディスクライビングには1年生の頃からゲーム性(全員を立たせて、正しい英語で言えた生徒から着席できる形式で実施)を持たせつつ取り組んできました。

ストーリーの流れに沿う形でピクチャーカードを張り出しつつ、「このイラストに描かれている情報を何でも言おう!」と伝えると、あまり関係のない情報は入ってこないですね。ここで教科書で学んだ表現を使ったり、情報を引っ張ってきたりすることで、生徒の即興力や表現力を鍛えていきます。 

●3回目:ペアでの練習からリテリングへ

【流れ】
全員で教科書を音読
 ↓
私自身がデモを見せる
※教科書の暗記ではなく、知っている表現を自由に使ってよいことを強調
 ↓
1分間の黙読を行い、頭の中を整理
 ↓
2人1組になり、パートナーにお題に則した形で本文の内容をもとに英語で話す練習を実施(1分程度)
 ↓
生徒による全体への発表
※時間の許す範囲内で3~4人程度

ホワイトボードには2回目のクラス全体でのリテリングで使用したピクチャーカードを貼っておきます。ペアでの練習では、そのカードを見ながら話すことに注力してもらいます。発表は自主的に手を挙げた生徒が行いますが、ランダムで指名することもあります。その日の日付に関連した出席番号の生徒や、それこそ目が合った生徒を当てたり。全力で目線を逸らされることもあります(笑)。

――― 即興力や自己表現力の向上という点で、リテリングでの指導は何を意識していますか。

(松津)これまで学んだ表現すべてをフル活用した発信を促すことです。パートナーとの練習でリテリングする前に、黙読し頭を整理する時間を取っているのはそのためです。また、2年生の時から過去の学習内容を含んだ小テストをほぼ毎回の授業で実施しています。本文を読み、復習してテストを受けるという積み上げにより、過去の教材を見直す習慣づけをするようにしています。

――― 成果はいかがでしょうか。

自分で身に付けた表現を使い発信しようとする姿勢は育ってきています。リテリングでは、かなり以前に学習した表現を自分の表現として使っている生徒も見受けられます。スピーキングでの評価は、クラス全員に伝わるよう大きな声で発信しているか、こちらがカバーしてほしい内容がしっかり含まれているかを重視します。

最終的にはライティングに繋げることを狙っています。文章にすると文法的な正誤が顕著にわかるので、ユニットごとに「ふり返りシート」を使い、自分の発信内容を書かせています。エラーを完全になくすことはできませんが、自分や他の生徒が書いたものを見返した時に、生徒たち自身の気付きに変わっていきます。

今後の抱負

スピーキング活動については、Accuracyも大切ですが、Fluencyを高めたいと思っています。試験の場面で正確さが求められるのは事実です。しかしエラーを気にせず発信する力を高め、周りの意見も聞ける広い度量を身に付けてほしいですね。

そのためには、教材に取り上げられている題材の背景を学んでいく必要があると思います。

伝えたいメッセージを持つためには、背景知識や内容理解が、そして、伝えるためには英語の運用力が必要です。国を越えて自分のメッセージを発信する力を養うには、背景知識への理解とFluencyの両方が必要なのです。

教科書で出会う情報は、非常に多岐にわたります。たとえば、Sports for everybodyというユニットでは、車いすテニスで選手を支える千葉県の車いすメーカーのこと、スポーツ用車いすが各アスリートに合わせて、細かい構造まで詳細にデザインされていることなどを学びました。俳句について扱ったユニットでは、俳句という日本文化を例に、日本人と外国人の価値観や感覚の違いなどが説明されています。

このような言語学習に含まれない背景知識は、将来、国際舞台で活躍したり、他国の人々と接する上でとても大切です。そのために必要なのは、まずは知ることです。教材を通して英語の表現力や運用能力を高めると同時に、題材への興味関心を高め、背景を学ぶ機会を作っていきたいと考えています。

また、前回お話ししたELEC同友会の「音声指導研究部会」を築いた島岡丘先生が今年ご逝去されました。それを機に、部会メンバーでも島岡先生のご指導法をどのように実践し続けていくかを検討しているところです。

個人的にはとくに、「島岡式カナ表記」、発音イメージのカタカナによる表現システムの実践に注力したいと思っています。たとえば、“Japan”は以下のように表記します。

カタカナであることで、ストンと入っていく生徒もいますし、逆に抵抗感を抱く生徒もいます。発音記号の方がわかりやすいという生徒もいるでしょう。

発音記号も「島岡式カナ表記」も、発音を文字や記号で表すための手段のひとつで、生徒それぞれが使いやすいものを選べばいいと考えています。その選択肢を増やす、というイメージでしょうか。ただ、島岡式カナ表記は、ある程度まで英語の音に慣れている生徒(おおよそ中学1年後半~2年生程度)でないと、使用されているカナ表記から音をイメージすることが難しいところがあります。中学生にそのまま提示してもつかめないものもあるので、中学レベルにどのように落とし込んでいけるかが今後の課題です。

(取材・構成・執筆:渡邉由佳理/編集:小林慧子)

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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