音声指導は英語学習の初期が要 ~効果的な授業法から評価方法まで具体例を紹介~

最終更新日:2024年2月1日

今回は、東京学芸大学附属竹早中学校の松津英恵先生にお話を伺いました。
松津先生は、長年にわたりELEC同友会などいくつかの研究会で音声指導研究に携わり、より自然な英語を目指して音声指導に注力しておられます。評価が難しい音声指導をどのように授業で実践しておられるかご紹介いただきました。

音声指導研究との出会い

―――ELEC同友会「音声指導研究部会」での発表を拝見しました。ELEC同友会に入られたきっかけや、先生が音声指導にとくに注力されるようになったいきさつをお伺いできますか。

(松津)二十数年前まだ初任校にいた頃、年に数回は英語研究の大きな大会等には参加していましたが、もう少し定期的に勉強会を行えるところに所属したいと思っていました。
英語教員として授業で英語を使わない訳にはいきません。付け焼き刃では対応できない、やらなければうまくならないと感じていました。英語教育についても学びたいと思い、学校外の勉強会に頻繁に参加し始めた折、たまたまELEC同友会とご縁があり、1999年に入会しました。

音声指導研究部会が2001年にスタートした当初は、島岡 丘(しまおかたかし)先生(筑波大学名誉教授・元NHKラジオ英語会話講師)が部長で指導してくださっていました。当時は発音指導のコツをつかめない部分があり、あらためて音声学を学び直したいと思っていたので「音声指導研究部会」に入り、今に至ります。今では、個人的な休止期間も含みますが、「音声指導研究部会」では私が一番長いメンバーになりました。他には「ビデオによる授業研究部会」にも入っています。

授業での実践

―――実際の授業でも、音声指導に注力しておられるのですか?

(松津)音声指導にはこだわっています。
高校、大学へと進むにつれ、授業で扱う情報量や題材が深まっていき、発音よりも内容の方が重視されていきます。それで、中学生(または小学生)の学習歴が浅いうちにしっかり音声指導を行い、正しい発音を聞かせる、できれば身に付けさせることが重要だと感じます。

生徒によっては音声を意識していますが、なんとなく発音している生徒も多く見受けられます。現在私が受け持っている中学2年生のクラスでも、やはり常に意識させないとカタカナ英語に引っ張られてしまう生徒もいます。中学生なので、音声学的な理論や難しい知識を提示しても理解できないことが多いため、まずは中学生が習得しやすいリズムやイントネーションなどから指導するのが効果的です。
中学1年生の最初に、小学校での学習内容も確認しながら、アルファベットの名前と各文字が示す音(フォニックス)をある程度集中的に扱います。その後は、教科書本文を音読させたり全員でリピートさせたりするときに、きちんと発音できていないなと感じるときなど、必要に応じて授業の中に組み入れていく形です。
たとえば、語末の母音挿入(例:getの「t」を日本語の「ト」の音で発音してしまう)をしてしまったりするので、より英語の音に近い音声を意識して発音・音読させることを心掛けています。


―――具体的な授業の中での実践方法を教えて頂けますか?

(松津)勤務校では検定教科書は「New Horizon」を使用しています。
正しい音を聞いて発音してほしいので、導入はオーラルイントロダクションをした後、教科書付属のCDをまず聞きます。本文は丁寧に一文ずつ説明するのではなく、大体の内容が理解できていれば、発音指導やパフォーマンスに多くの時間を取り分けるようにしています。ただし、全訳を知りたいという生徒もいるので、1つのユニットがすべて終わったら、テスト前には対訳例を配ります。各セクションが終わってすぐに訳を配らないのは、訳がないとすっきりしないという感覚を持たせないためです。
その後で音読活動に移り、全体でリピートさせるときは、やり直しをするたびにCDを止めることが煩雑なので、私が読んだ後に続けて読ませています。

―――音声指導の評価はパフォーマンステストで行うのですか?

(松津)はい、評価のためのアクティビティをいくつか設定しています。

<年に数回>
※可能であればユニットごと

■スキット
本文のダイアログの指定した箇所(5~6行程度)を、ペアでジェスチャ―も付けて演じさせます。活動の最初に生徒に伝えて、ペアで練習を開始し、Aパート・Bパートのどちらもきちんとできるようにしてから、私のところに来てペアごとに演じてもらう形です。正しい発音やイントネーションでアウトプットされていない、ジェスチャーをしていないなど、何か1つでもできていないときは、提示した基準に達してパスできるまで何回でもやり直しはOKとしています。
これは、パフォーマンスの提出物扱いで評価に含めています。

■リテリング
穴あき音読のシートを配布し、一度練習させますその後、絵とキーワードを載せたリテリングシートを作って配布し、リテリング活動をさせます。リテリングでは、内容やスピーキングを重視しているので発音の細かい指導は減りますが、音声が崩れているときには指摘するようにしています。(※音読シート・リテリングシート サンプル)

<セクションごと>

■音読課題
スキット、リテリング活動の基礎練習として、自宅課題で、教科書のその日扱った本文をまとまった回数(たとえば30回)音読するよう指示しています。提出はさせませんが、5回読んだら星1つを教科書の隅に書き込ませています。
実施した回数を細かくチェックはしませんが、確実に取り組んだ生徒の方が授業での穴あき音読やリテリング活動がスムーズにでき、家庭学習の成果が授業での活動にも繋がっていきます。それを生徒が意識できるよう、意図して組み込んでいます。

<学期に1回>

■スピーキングテスト
スピーチ形式、またはALTとのインタビュー形式で実技テストを行います。
スピーチ形式のときは、クラスメイトの前で順番に発表する準備として、まずペアを組んで発表し合い、パートナーがコメントやアドバイスをします。本番でのスピーチは漠然と聞いているのではなく、他の生徒の発表から学ぶために、アイコンタクトがしっかりできていた、内容が面白かったなど、評価すべきポイントの項目を記した用紙に評価を記入して提出してもらいます。
インタビュー形式テストでは、1・2年生の時は「自己紹介」や「夏休みの話」、「最近あった出来事」などのテーマで、ほぼフリートーク形式で行います。3年生では「日本文化紹介」のテーマでやり取りを行います。授業中に練習したものから、中学生が知っているけれど授業では扱っていないものまで、日本の文化や習慣が書かれた色別のカードがあり、それを1枚取って英語で説明する形式です。色によって計上されるポイント数が異なります。授業中や家庭学習の中で生徒たちが練習したことと、それらを応用して即興で表現できる力を測るため、このような形で実施しています。3年生の「日本文化紹介」では、1・2年のテストに比べ、発音よりも話す内容が重視されますが、やはり英語らしい発音をスピーキングの中で心がけるよう、指導をしています。各学年とも、授業時間を使って、2~3回に分けてテストを実施するので、開始前に5分程度の練習時間を設け、その後順番にALTにインタビューします。評価はALTの先生が行います。<その他不定期>

■音読テスト
発音が崩れてきたなと感じるときに実施します。教科書に基づき、パッセージを読ませます。目安は、前回の音読テストからしばらく間が空いてきたころ、また生徒に発音やリズムを意識させた方がよいかなと気になったときなど、そろそろやった方がいいかなと感じるタイミングです。
2週間ほど前に「再来週のこの時間にやるよ」と告知をします。ただ、早めに範囲を知らせると、テスト範囲だけを練習すればよいと思う生徒もいるため、「範囲は考え中だから後で発表します」と言って1週間ほど範囲の発表を間延びさせます。そうすると、どこが出るかわからないので常に発音に意識して取り組みます。「日頃から意識することが大事だよ」とマメに訴えかけ、刺激するようにしています。
音読テストはロイロノートに吹き込んで提出する形です。より英語らしい発音でアウトプットできるように指導したいという思いが強いので、音読をさせるときにはどこに重点を置くか、採点基準をしっかり示すようにしています。「BとV」「LとR」の使い分けなど音素に注目して、英語らしく、私が指導した通りに読めているかを評価します。

※これらの実践方法やワークシートは、英語基本指導技術研究会(北研)に参加して、北原延晃先生(元赤坂中・現上智大学)の実践から学ばせていただいた内容を参考にしました。北原先生のご著書「英語授業の「幹」をつくる本」のシリーズ(ベネッセコーポレーション)でも掲載されています。

自然な”英語らしい英語”をめざして

―――バラエティに富んだアクティビティに取り組んでおられますね。先生ご自身、また生徒さんたちはどのような手応えを感じておられますか?

学年によっては小学校のときに英語に苦労してあまり好きではない場合もありますが、今の学年は英語嫌いの生徒は多くはないので取り組みやすいと感じています。
フォニックスの指導のおかげで、未知の単語に遭遇したときにもとりあえず読めるようになりました。
スキットについては、生徒が手応えを感じています。授業のアンケートで、スキットに出ている表現が自然に使えるようになったと感じている生徒も多くいました。
リテリングのピクチャーディスクライビングは、英検のイラストの情報を英語で説明するところにも活かされています。

目指すところは自然な英語です。中学生に対してどこまで求めるかの線引きは必要ですが、先生が聞いてやり直させた方がいいなと感じたら、躊躇せずやり直しをさせることが必要だと思います。ただ、同じことばかり言うと生徒も飽きてしまうので、毎回指摘するポイントを小分けにして指導するのが効果的です。

大切な点として、自分は下手なんだという印象を植え付けてしまわないように、不完全な箇所を指摘するだけではなく、小さい事でもできた点や改善された点をほめることが重要です。とにかく話すようにしないとFluencyは伸びません。そして使うことを通して言葉を習得していくものなので、完璧じゃなければ話せないという意識は払拭させ、言語活動に取り組ませたいと考えています。練習しながらうまくなっていくという前向きな気持ちを持たせて、音声指導に取り組んでいきたいと思います。

(取材・構成・記事作成:渡邉由佳理)

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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