自発的な学習院女子たちを羽ばたかせる!自由度の高い授業法の秘訣とは
最終更新日:2024年12月4日
都内屈指の伝統校として知られる学習院女子中・高等科。華族女学校を前身とし、「知性と品性を兼ね備えた淑女育成のプロフェッショナル」。そんな印象から、統制を重んじた画一的な授業を行っているのでは…というイメージをお持ちの先生方もおられるかもしれません。ところが、今回お話を伺った関谷裕美先生が授業で大切にしているのは「自由」「主体性」「発信力」。同校で長年英語教育に携わり、自由度の高い課題設定で生徒の自発性を促し、生徒同士が個性を磨き合う指導法を伺いました。
個性を活かし、自分の考えを伝えられる生徒を育てたい
———先生の育成したい生徒像を教えてください
(関谷) 私は、「英語が話せること」は、単に文法や単語の知識を持っているだけではないと考えています。もちろん、基礎力も大切ですが、本当に大切なのは、「自分の考えていることを、自分の言葉で相手に伝えることができること」で、それができる生徒を育てたいと思っています。
また、「個性や自分の得意なことを活かす力」も伸ばしたいです。英語は得意ではないけれど、映像を作るのが得意だったり、ダンスを踊るのが得意だったり、得意なことは誰しも必ずあります。得意ではない部分を友達と協力して補いつつ、個性を活かすことを学んでほしいです。
———そのような生徒さんを育成するために、具体的にどのようなことをされているのでしょうか?
(関谷)授業では、とにかく「生徒に考えさせること」「発言させること」を大切にしています。受け身ではなく、主体的に授業に参加することで、思考力や表現力が育まれていくと考えているからです。
私の授業では、「挙手のポイント制」を取り入れています。授業中に挙手をして発言するとポイントが加算され、それが授業態度評価に反映されるものです。 最初は恥ずかしがっていた生徒たちも、ポイント制を導入することで、積極的に挙手するようになりました。中には、手をくるくる回したり、立ち上がったりしてアピールする生徒もいるんですよ(笑)
ほかには、「ボーナス課題」も、生徒の自主性を育む取り組みの一つです。長期休暇中などに、英語の歌を調べてロイロノートにまとめたり、教科書の内容についてさらに深く調べてみたりと、意欲的な生徒が自主的に取り組む仕組みです。ポイントは、「やらなくてもよい」ということ。強制されてやるものではなく、あくまでも「やってみたい!」という気持ちを引き出すことが大切だと考えています。もちろん、成績のために取り組む生徒も多いのですが、興味のある分野を深く掘り下げることで、学習意欲の向上にもつながると感じています。
あとは、ことわざや名言を授業で積極的に取り入れて「自分の考えていることを、自分の言葉で相手に伝える」引き出しを多くしています。生徒たちには定期テストごとに10個ずつ、新しいことわざや名言を暗記してもらいます。ことわざや名言には、その国の文化や価値観が凝縮されています。たとえば、日本は「三人寄れば文殊の知恵」「三本の矢」など「三」が好きだけれど、英語は“Two heads are better than one.”のように、複数形であれば良いので三ではなく二を使うのです。このような知識も知ることで、英語表現の幅が広がるだけでなく、異文化理解にもつながると考えています。ことわざや名言を覚えさせた結果、これでもかとプレゼン発表で使ったり、ボーナス課題でより多くのことわざや名言を調べて提出したりする生徒が増え、嬉しく思います。
———プレゼンテーションにも力を入れていると伺っていますが、どのような授業ですか
(関谷)発表する生徒が緊張してしまわないよう、クラス全体で、発表を盛り上げる雰囲気づくりを大切にしています。「面白いと思ったら、どうリアクションする?」「いいこと言ってるなと思ったらもっと反応して!拍手拍手!」と、生徒たちに問いかけ、呼びかけながら、リアクションの練習をします。聞き手が大げさなくらいリアクションすることで、発表者は「何を言ってもいいんだ」という心理的安全性を感じることができ、伸び伸びと発表することができるのです。
生徒の発想力は想像をはるかに超えてくる
———ほかに大切にされている授業の要素はありますか
(関谷)私のほうで縛りすぎず、フレームだけは与えて、その中で工夫ができるような課題を与えるなど、「自由度の高さ」を担保するようにしています。
———具体的にはどのような授業をされていますか
(関谷)たとえば以前、グループワークの発表の中で、「言語を学ぶ意義を、英語ではない第二言語を用いて説明しなさい」と出題しました。あるグループは、人気テレビ番組「イッテQ」をモチーフにした動画を作成してきたのです。「関谷先生の愛犬の名前を当てる」をミッションとして、さまざまな先生に協力してもらい、「言葉が通じたら無事ミッションをクリアできるんだ!」というメッセージが込められた、おもしろい作品でした。ほかにも、飛行機に乗ったら隣の席がイケメン韓国人だったという設定で、「韓国語が話せればイケメンと話せる!」と発表したグループもいました(笑)。
このように、生徒たちの発想力は私の想像をはるかに超えてきます。自由にさせることでさまざまなアイディアが出てきて、他の生徒の発想が刺激になるのです。その刺激がさらに新たな発想力を育てると思っています。
より深い思考、自ら問いを立てる授業設計を
———今後の英語教育について展望をお聞かせください
(関谷)今後は、生徒たちがより深く思考し、自ら問いを立てることができるような授業を展開していきたいと考えています。教科書に載っているテーマを「私は関係ない」と思わずに、「私だったら何ができるかな?」と問いを立て、深く考えて自分なりの答えを出してほしいのです。
また、これからの時代に必要な力として私が重視しているのが、「傾聴力」と「読み取る力」です。情報があふれる現代社会において、必要な情報を取捨選択し、正確に読み解く力は、今後ますます重要になってきます。SNSや教育の方針もあり、今の生徒たちは発信する力が身についています。昔は読解の授業が多かったのですが、今一度基本に戻り、生徒たちの「傾聴力」や「読み取る力」も、意識的に育んでいきたいと考えています。
<編集後記>
肌寒さも感じるようになった10月下旬。小雨が降るなか、重要文化財でもある朱色の正門から伸びる道を進むと見えてくるのが学習院女子中・高等科です。
校内に入るとどんよりとした曇り空から一変、木目を基調とした校内はとても明るく、広々とした空間が広がっています。そこで笑顔で迎えてくださったのが、今回ご取材させていただいた関谷 裕美先生です。
授業のお取り組みの取材はオンラインだったので、対面でお会いするのは今回が初めて。第一印象は「なんて上品な先生だろう」でした。
生徒のみなさんもまた、気品が溢れ、同校の挨拶である「ごきげんよう」を発する姿をイメージするのは想像に難くありません。初回のご取材で伺った「韓国語が話せればイケメンと話せる!」といった発表を行うことが、ちょっと信じられない気持ちになりました。
今回は高校1年生の英語コミュニケーションⅠの授業を見学させていただきました。授業参加人数は約20名で、1クラスを習熟度別に2つに分けているとのこと。
この日は「NEW TREASURE(Z会)」のレッスン12、「ヴェニスの商人」を扱った授業の第4回目。前回までにすべての内容把握を終わらせ、今回は教科書本文5パート分の振り返りを行います。2学期の集大成として、ヴェニスの商人の劇をグループごとに発表するために、セリフの言い方や内容を何度も音読することで記憶に根付かせます。習熟度の違う生徒が同じグループになり練習し、なんと衣装や小物、音楽や映像までも用意するそう。
「グループ発表は、英語が得意な生徒はもちろんのこと、英語が苦手な生徒にとってもモチベーションアップにつながります。普段授業ではそこまで積極的ではないけれど、評価の対象となることもあり、この発表だけはとにかく一生懸命練習する生徒もいるんですよ。」とどこか嬉しそうに関谷先生は教えてくれました。
“Hello, everyone.” “Hello, Ms. Sekiya.” の挨拶から授業がスタート。
まずはシェイクスピアの生没年や四大悲劇、彼が創り出し現在も使われている単語など、「ヴェニスの商人」にまつわる背景知識が次々とモニターに映し出され、生徒はテンポよく回答していきます。
「教科書の内容だけでなく、一般教養としての知識も身につけてほしい」という先生の願いから、毎回教科書の内容に+αして関連知識を教えているそうです。
次に、生徒たちはモニターに映し出されたスライドを見ながら、手元の教科書やプリントを見ることなく、教科書本文を音読します。
「もっと感情をこめて読んで!」「ここは落胆している様子がわかるように話してみて!」関谷先生の声に応えるように、生徒たちも声に抑揚をつけたり、表情や手振りを加えたり、授業にどんどん集中していきます。
授業後のインタビューで理由を尋ねると、「ヴェニスの商人は劇ですからね。この後、このレッスンの集大成としてグループごとに劇を発表してもらうのです。今回の授業はそのための練習でもあります。」と答える関谷先生。
全体での音読が終わると、3~4人1グループに分かれ、登場人物の役を割り振り改めて音読を行います。グループでの音読前に登場人物の状況や感情を生徒にリマインドすることを忘れない関谷先生。生徒が情感たっぷりに音読できるよう、できるだけ声掛けをします。練習中は各グループを回り、アドバイスをしたり“Very good!”などと声をかけたりして、生徒のやる気を出します。
このステップをセクションごとに繰り返し行い、最後は提出された課題の回答を共有。「慈悲とは何か?ポーシャのセリフを読み、あなたの考えを日本語で書きなさい。」“Why do you think “The Merchant of Venice” is considered one of the most controversial plays Shakespeare wrote? Answer in English.”などの問いに、生徒はそれぞれの考えをロイロノートにまとめていました。中には、「慈悲とは、受ける側にとっては恵みの雨のようなものだが、同時に被害を受ける人間をも作るもの」「慈悲とは何かに強制されて生まれるものではなく、無償で人が人に持つ寛大な心の現れ」などと高校生とは思えない下記のような思慮深い回答も。
50分の授業の中で、生徒が発話しない時間はごくわずか。思春期を少し過ぎた高校生だと、なかなか登場人物になり切ってみんなの前で発表をするのはハードルが高いのではと思っていましたが、生徒たちは恥ずかしがることなく伸び伸びと発表していたのです。その姿に、「品格を保つべき場では品行方正に振る舞う、はじける時は思い切りはじける」という関谷先生のお言葉を思い出し、学習院女子ならではの良さを感じました。
今回の授業では、関谷裕美先生が授業で大切にされている「自由」「主体性」「発信力」を存分に堪能できたと共に、生徒さんの活き活きしたお顔を見ることができました。
取材・構成・記事作成:大久保さやか/編集:小林 慧子