ライティング中心の授業で4技能5領域をバランス良く学習!TESOLの実践的な指導方法を生かした授業方法とは
最終更新日:2024年12月9日
東葉高等学校で英語教員を務めていらっしゃる菅原直弥先生は、高校の英語教師として授業を持ちながら、ご自身も大学院でTESOLプログラムを受講し、見事修士課程を修了されました。
フルタイムで働きながらの修士号取得は、「めちゃくちゃ大変でした」と語る菅原先生。英語教育に対する思いやTESOLでの学び、4つの要素(Four Strands)に基づいたライティング中心の授業デザインとは?
実践的な英語の教授法を学ぶために、授業を持ちながらTESOLを受講
――そもそも、TESOLを受講しようと思った理由を教えてください。
新卒で本校に着任して以来、教職員と生徒が一緒にさまざまなチャレンジをしながら学校改革を行ってきました。英語が楽しいと言ってくれる生徒も増えてきた中で、授業法や教員教育も含め、英語教育の場をもっと盛り上げたいという気持ちを持つようになったためです。
また、私自身も将来的には大学で教職課程の学生を指導したり、世界中を巡って英語教育について考えを深めたりしたいという野望もあり、そのためにも修士取得は不可欠な通過点だと思いました。
神田外語大学大学院のMA TESOLプログラムを受講しようと決めた理由は、実践的な英語の教授法を学べる場所だったからです。TESOLプログラムを提供している各大学の教育方針の中で私自身が最も必要としていた教授法を学べる点が決め手となりました。
――TESOLのプログラムではどのようなカリキュラムが組まれているのでしょうか。
理論系の必修科目のほかに、スピーキング・リスニング・ライティング・リーディングなどの選択科目があります。さらに、TBLT(タスク型授業)やCLIL(内容言語統合型学習)などの教授法についても学びました。
カリキュラムの最後には、自分の教育現場において感じている課題や、これから成し遂げたい目標をレポートにまとめるファイナルプロジェクトがあります。私はライティングに興味を持っていたので、実際に研究した結果や、授業に落とし込むためのアクションプランなどをまとめました。
――英語教員として教壇に立ちながらの受講はかなり大変だったと思います。どのようにタイムマネジメントしていたのでしょうか。
できる限り平日の通勤時間や休憩時間、土日などをうまく使うようにしていました。たしかにめちゃくちゃ大変でしたが、頑張って続けられたのは、プログラムで学んだことを授業で実践したときの生徒の反応が原動力となっていたからです。
ライティングの力を身に付けることで4技能向上を目指す
――なぜ4技能の中でもとくにライティングに興味を持たれていたのでしょうか?
ライティングがある程度しっかりできていないと、スピーキングにおいても単調な表現になる傾向が見受けられます。生徒たちも英語を話しながら「本当にこれでいいのかな?」と不安になっているように感じましたし、私も指導しながらどこかモヤモヤした気持ちを持っていました。
ライティングの指導を確立するには、そのための理論や教授法をしっかり学び、授業に落とし込む必要があるのではないかと思ったのです。
――4技能融合の重要性にもつながるお話かと思います。やはり技能融合に関して課題意識をお持ちですか?
そうですね。言語統合型の指導が大切だと思います。スピーキングしたことをライティングすると目に見える形で残るので、復習に使ったり次の課題の参考にしたりと、さまざまな形で活用することが可能です。
そういう活動を繰り返していくことで、生徒の英語力が向上していく様子を可視化できますし、実際に英検などの試験でもライティングが得意になった生徒もいました。生徒たちが納得して取り組みながら、力をつけていける方法なのではないかと考えています。
「4つの要素」をバランス良く取り入れて授業をデザイン
――TESOLで学ばれた内容は、どのように授業の指導に生かしているのでしょうか。
2023年度は、英語コミュニケーションの授業に取り入れました。2024年度は、論理表現で基礎となる文法を交えながら、4技能5領域を統合した授業を行っています。Monoxer(解いて覚える記憶アプリ)やロイロノート(授業支援ツール)、Xreading(オンライン多読教材)などのICT教材なども活用しながら、生徒の頭が100%アクティブに働くように、グループワークやペアワークを取り入れています。学校文脈に応じた指導法を実践的に学ぶ神田TESOLで得た指導方法を生かし、フィードバックをする際は、生徒のタイプや性格、習熟度に応じてやり方を変えるように意識しています。
――授業を組み立てる際に意識しているポイントを教えてください。
4技能5領域をバランス良く配分して組み立てるようにしています。そのため、1つの授業や単元全体に「4つの要素(Four Strands)」と呼ばれる活動を25%ずつ取り入れるように意識し、どれか1つに偏っていないか考えながら授業を組み立てています。
また、グループやペアでのワークを取り入れて、生徒一人ひとりに「自分も授業に参加している」という主体性を持たせるようにしています。さらに、グループやペアワークでアクティブにインプット・アウトプットする「動」の活動だけでなく、得た情報を自分の中で咀嚼する「静」の時間を設けることも大事です。
――具体的には、どのような授業設計をしているのでしょうか。
基本的に、授業設計のベースとしているのはライティングです。とはいえ、いきなり書かせるのではなく、“Pre-Writing” “Main-Writing” “Post-Writing”の3つの段階に分けています。
“Pre-Writing”では、まず情報をインプットします。この段階での主な活動は、教員から与えられたトピックに関するグループ(ペア)ディスカッションです。途中でグループやペアを変えることで、バリエーションに富んだアイデアを生む工夫もしています。
次の“Main-Writing”では、1人で書く“Individual Writing”や、グループやペアで協働して書く“Collaborative Writing”によって、自分の意見を書いていきます。
最後の“Post-Writing”は、フィードバックです。生徒同士がペアになってチェックするほか、教員がフィードバックすることもあります。
この3つの段階の活動において、先ほどの4つの要素を意識することが重要です。たとえば“Fluency Development”を指標とした活動をするなら、流暢性を重視し、文法的な指導は最小限にしよう、と指導ポイントを変えることが必要になります。
――実際の授業の例を教えてください。
論理表現の授業でいうと、まず単元内の会話の音声を聞き、部分的にディクテーションをしたり、会話の内容を考えたりすることから始めます。さらに、インフォメーションギャップ活動やディスカッション、グループに分かれてストーリー作成などを行います。
<ロイロノート画面より:Collaborative Writingイメージ>
「防災」をテーマにした単元では、外国人在留者向けのポスターの内容を考えて、一人ひとりに書いてもらいました。また、助動詞を学ぶ単元では、グループごとに割り当てた助動詞を使って会話文を作成し、発表してもらいました。
――先生の授業では、英語コミュニケーションでも論理表現でも、最終的なアウトプットはライティングになるのでしょうか。
今は、スピーキングのパフォーマンスも見るようにしています。たとえば、プレゼンのためのスライドを作らせたり、デジタルリテラシーやスピーチ方法を高めるための活動も入れたりしています。
――生徒さんたちにはどのような変化がありましたか?
英検のCSEスコアも向上してきており、一貫して4技能のスコアが上がってきていると感じます。英検2級の取得者数を見ても、昨年は48名ほどだったのが、今年(2024年)の春は86名に増えました。大学入試の結果も、前年と比較して高くなっている傾向があり、年々記録を更新していく見込みです。
ライティングをするとスピーキング力が向上しますし、ライティング力を高めるにはリーディングやリスニングの学習が必要です。やはり、総合的な英語力の向上という点を見ても、ライティングも4技能のうちの重要な要素だと思います。
――英語学習への姿勢やモチベーションの変化など、生徒さん自身の反応はいかがですか?
生徒たちが卒業した後も英語を使って活躍し、多くの人とつながってハッピーになってほしいというのが私のモットーなので、英語が好きになったという声が増えたのが何よりもうれしかったです。
「最初は緊張したけれど、いろいろな人とコミュニケーションを取れるのは授業でしかできないことだった」「英語ができるようになり、国公立の入試を最後まで頑張れた」と言ってくれた生徒もいました。
英語を教えるために英語教師になったのはもちろんですが、生徒と一緒に人として成長していきたくて教員という仕事を選んだので、これからも生徒の言葉を原動力に頑張っていきたいと思っています。
取材・編集:小林慧子/記事作成:白根理恵