生徒が主役のCLIL授業 英語ニュースを扱った「シンブリオバトル」とは

最終更新日:2025年5月30日

CLILの枠組みの1つであるContent(科目内容)。教科書本文を題材としたり、他教科の知識を活用したり、さまざまに工夫しながら設定されている先生も多いのではないでしょうか。学習院女子中・高等科の河野 容介先生は、ニュース記事をContentとしたCLIL授業「シンブリオバトル」を実践しています。しかし、このContentを選ぶのは教員ではなく生徒!?

授業の形式は同じでも、毎回出てくる題材が違って、新しい気づきがあって、生徒が先生になって引っ張ってくれている感じがあります――。

そう語る河野先生に、生徒の自主性を最大限に引き出す工夫や、授業を通して伝えたい生徒への想いについてお話を伺いました。

問いを立てることの究極は「思いやり」

――授業で大切にしていることを教えてください。

(河野)答えのない問題に対して考え、自分なりの意見を伝えられること意見を共有するなかで、多様な考えを受け入れられることこういった環境を、いかに授業のなかで作るかを軸としています。

海外と比較して日本人はアウトプット力が乏しいと言われます。その原因は英語力の問題だけではなく、授業での経験が影響していると考えています。意見を問われることよりも、効率的に覚えることが求められてきたと思うからです。

本校で留学した生徒が、現地生の興味・関心の幅広さに驚いたと話してくれたことがあります。休み時間の話題が日本では好きなアイドルのことだったのに、留学先では大統領選挙の話を当たり前にしていたと。こういった社会的な話題を普段から仲のよい、気心が知れたメンバーだけでなく、それ以外の人とも共有し、考えの幅を広げていくことが今の日本人に求められていると感じています。授業を通して、そのような場面を積極的に作るようにしています。

――「シンブリオバトル」の実践経緯や内容について教えてください。

(河野)2019年に担当した「現代英語」という高3対象の選択授業がきっかけです。どのような授業にしようかとさまざま調べるなかで、東京新聞による新聞版ビブリオバトルを見つけ、英語でやったらおもしろそうだなと導入しました。その後、全員の生徒に経験してほしいと考え、現在は英語コミュニケーションの授業で行っています。

実施は、定期試験後などの時間的な余裕がある時期に取り入れています。これまでは高2で1回、高3で2回といったペースでした。本校の英語授業はクラスを半分に分けた1クラス20名程度の少人数制で、1回の授業で4~5名の生徒がプレゼンターとなります。

授業は、まず、プレゼンターの生徒が各自で選んだニュース記事について、口頭のみで4分間のプレゼンテーションをします。その後、プレゼンターがオーディエンスの生徒たちにDiscussion Questionを投げかけ、6名程度のグループでディスカッションを実施。プレゼンターを替えて繰り返し、最終的に投票でChampion Articleを決めるという流れです。

――Discussion Questionは先生が作られるのですか。

(河野)生徒が、各自選んだニュース記事に合うベストな問いを考えてきます。以下は実際に生徒が提案したものです。

【生徒が設問したDiscussion Question】
 ・As consumers, what improvement do you want to make to Seven-Eleven’s fake bottom problem?
 ・How do you think we can improve the quality of childcare?
 ・Should social networking sites be restricted for children under 16?
 ・What song changed your life?

Discussion Questionは、実際のニュース記事をもとに作成するので、普段からニュースをクリティカルに読んだり聞いたりする姿勢が鍛えられます。情報を鵜呑みにするのではなく、自分なりに考え、疑問を持つことで、社会に対する興味・関心の幅を広げていく。そういった生き方みたいなものを、問いを考えることを通して伸ばしてほしいと思っています。

――問いの立て方はどのように指導していますか。

(河野)具体的なノウハウを教えなくても、生徒たちは、普段の授業から自然と吸収してくれているようです。授業では、教科書の内容をベースにさまざまな思考を深めるQuestionsを投げかけ、ディスカッションをしたり、ペアで話し合ったりする機会を多く設けています。

ただ生徒には、対話する価値があり、聞き手が議論したいと思える設問を意識してほしいと伝えています。究極を言うと「思いやり」ですよね。聞き手の立場になり、話したくなるような問いかけや、多様性を前提にした発言を通して、他者意識の大切さを感じ取ってくれたら嬉しいです。

教員も学び手のひとり

――ディスカッションで発言しやすくする環境作りという観点での工夫を教えてください。

(河野)大切なのは生徒のマインドセットです。生徒には「学びのコミュニティ」を自分たちで作っていく意識を持ち、コミュニティにおける知の高まりに貢献してほしいと伝えています。1人1人の積極的な姿勢や主体的な参画が、クラスメイトにとって価値があることを理解してもらうのです。

そのため、具体的な活動では発言への心理的ハードルを下げる工夫をしています。たとえば、拙著『実践例に学ぶ!CLILで広がる英語授業』(大修館書店)でも紹介している“Magical Word”は授業でも実践しています。要は単語当てゲームでして、ペアを組み、片方がお題となる単語の説明をし、もう片方が推理します。速さを競う体裁にしているので、一番に答えがわかった生徒は達成感がありますし、ワイワイと取り組むことで発話しやすい雰囲気作りにつながるのです。また、最初に正解したペアには、どのように単語を説明したのかをクラス全体にシェアしてもらいます。そうすることで、同じ単語の説明にもさまざまな捉え方や表現方法があること、わかりやすく伝える工夫などを知ることができます。

シンブリオバトルでのディスカッションでは、発言の促進と意見のさらなる質向上のために、日本語の使用を禁止していないのも工夫のひとつです。生徒には“Translanguaging(複数の言語を柔軟に使用すること)”について伝えています。授業内の日本語での生徒の意見を教員が英語で言い換えることで、レディメイドの英語とは違った学びが生まれる効果もあります。こういった体験を繰り返すうちに、英語での発話に挑戦できたり、生徒同士で教え合ったり、生徒の主体的な参画につながっていくと思います。

さらに、教員側の心構えとして、生徒1人1人を引き立たせることを意識しています。私は芸人になりたかったほどのお笑い好きでして、お笑いの「フリ」のように、それぞれの生徒が輝ける瞬間を、授業を通して何回も作れるよう心がけているのです。たとえば、話したそうな表情をしている生徒にすかさず声をかけたり、トピックによって活躍できそうな生徒に積極的に話題を振ったり。生徒に、「意見には絶対に間違いはない」「どんな意見でもみんなを利せる」と伝え続けることで、私の「フリ」に躊躇なく返してくれる生徒が増えたように思います。

――一方的な知識伝達型の授業と比べると、教員の役割にも変化がありそうですね。

(河野)始めた当初は恐怖心がありました。「教員は何でも知っている」と生徒からはきっと見られていて、私の知らないニュース記事を持ってきたらどうしようかと。けれど、その考え方から脱しなければならないと思ったのです。

今では、私も生徒たちのコミュニティの学び手であって、興味・関心が広がる喜びを生徒と体感することを大切にしています。教員が決して何でも知っている存在ではないことを示し、一緒に学ぶ姿を見せることで、生徒たちはより自信を持って話してくれていると感じます。

「伝えたい!」が学びの原動力

――「シンブリオバトル」での生徒の様子や変化はいかがですか。

(河野)自律的に楽しんでくれています。トピック自体も真っ白な状態から生徒が提案するので、受動的な授業とは違い、すごく主体性があるのですよね。

回数を重ねることで、プレゼンターの生徒は、いかに議論が盛り上がるDiscussion Questionを立てられるか、試行錯誤するようになります。クラスメイトの反応がそのままフィードバックになるので、工夫した手応えを感じると嬉しいみたいです。

生徒が使用する英語も、難しい単語を並べたものではなく、聞き手にとってのわかりやすさを追究できるようになってきています。ディスカッションの様子を見ていると、考え方の違いを受け入れる雰囲気が徐々にできてきて、考えを共有する喜びや楽しさを実感してくれている気がします。

――考えを受け入れてもらえることや工夫が実を結ぶことの「楽しさ」は、生徒の内面的な成長に大きく影響しそうですね。

(河野)「その人がそこに存在する意義」を、授業を通して感じさせてあげたいと思います。生徒にとって、「自分の内側をさらけ出しても大丈夫」と思えるクラスメイトの存在を実感する体験が大切です。安心できる環境で対話を深めることで、みんなでよい社会を創っていくんだよと伝えられたらいいなと思っています。

――同じ教室で、馴染みのクラスメイトと先生がいる学校教育現場だからこその「教育」だと思いました。最後に、学校教育に対する想いをお聞かせください。

(河野)CLILを実践していて思うのは、文法を丁寧に順番通りに教えることに対して、疑問を持ってもいいのかなと。わかりやすい文法解説は、検索すれば出てくる時代になり、授業で行う意義が薄れてくると思うからです。いつ使うかわからない文法への学習意欲は低くなりがちですし、日本のように、日常生活で英語を使う場面が限られていてはなおさらです。生徒は、文法が必要になったら、自ら学びたいと思いますよね。CLILでは、Focus on Formの考え方を活かしたReactiveな文法指導の重要性が高まってくるはずです。

だからこそ、授業では「伝えたい」と思う場面の創出が重要だと思っています。その意味で、「シンブリオバトル」のように、生徒が主役の授業が増えていけばいいですよね。効率的に覚えることよりも、意見がある人やそれを伝えたいと思っている人が評価されるようになれば、学びはさらに進んでいくと思っています。授業を通して、生徒同士・生徒と教員が教え合い、築き合うことにかける価値を創造していきたいです。

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(取材・編集:小林慧子/構成・記事作成:早田愛)

この記事を書いた人

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