Teaching

単なる「検索機」にさせないChatGPT活用術 情報の主導権を握り続け、自分の表現への責任感を育むために

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英作文指導に生成AIを導入しても、生徒が「コピペ」してしまうのではないか――。

そのような懸念から、授業での活用に慎重になる先生もいらっしゃるかもしれません。

サレジオ工業高等専門学校の瀬戸 千尋先生は、AIが単なる「検索機」として使われている現状に違和感を抱きました。そこで、学生が複数のチャットに指示を出し、情報を統合する「指揮者」として振る舞う手法を実践しています。「コピペ」を防ぐだけでなく、情報の主導権をAIに渡さず、学生が自らの表現に対する責任感を育むことにもつながっています。

このユニークな実践の背景には、「母語の能力を超える外国語の能力はない」と言い切る、瀬戸先生の強い想いがありました。

#ChatGPT #英作文指導 #「コピペ」脱却 #「書く力」よりも「読む力」 #情報の主導権

「コピペ」からの脱却 ―AIに主導権を渡さないための仕掛け

――生成AIが出力した情報を生徒が丸写しする、いわゆる「コピペ」に悩む先生も多いと聞きます。

(瀬戸)本校の学生も、教員が思っている以上にAIを日常的に使っているようです。ただ彼らの多くは、AIを「検索の道具」としてしか見ておらず、1つのチャットで完結させる、いわゆる「シングルエージェント」としての使い方にとどまっている。そうなると、AIが出す「もっともらしい回答」を切り貼りして満足してしまいがちです。この検索的な使い方に対して、私は違和感を抱きました

――違和感とは?

(瀬戸)要は、主張の主導権をAIに託してしまっている状態なのです。

試しに、学生が自力で作成した英文をChatGPTに添削させてみました。中には、主語を取り違え、意味が通じない英文もありました。しかしChatGPTは、「問題なし」として添削を終了してしまったのです。つまり、ChatGPTの添削は、語彙や文法の修正にとどまり、学生が「本当に言いたかったこと」を表現するには限界があった。

この経験を経て、学生がAIの出力を受動的に鵜呑みにするのではなく、能動的に情報を判断して主張の主導権を握り続けるこの仕掛けが必要だと考えました。

――行き着いたのが、ご紹介いただく“Multi Agent Orchestration”という実践ですね。

(瀬戸)略して、MAO(マオ)と呼んでいます(笑)。「マルチエージェント」、つまり複数のチャットを立ち上げ、行ったり来たりしながら情報を精査する。AIに唯一の正解を求めるのではなく、学生が情報を「指揮」するようにAIに指示を出しながら、自身の正解を探っていくのです。

AIに指示を出すことは、「今、自分に何が必要か」を突き詰める訓練

――実践の具体的な流れを教えてください。

(瀬戸)5つのステップに分けて説明します。

【ステップ1:日本語による主張の足場固め】

テーマに沿った日本語原稿を、300〜400文字程度で書きます。この文字数は、英文にした時に80~90wordsにするための設定です。ChatGPTが勝手に想像して書き加えてしまう余地を与えないよう、元となる原稿にはある程度の分量が必要です。

テーマは、教科書で扱う文法事項を基に設定。たとえば、仮定法が単元の際は、「もし宇宙のどこにでも住めるとすれば、どこに住みたい?」としました。

学生は1週間程度で日本語原稿を完成させて提出。ChatGPTを使う前に、私が内容をチェックします。

【ステップ2:AIを「人格」に変えるための初期設定】

いよいよChatGPTを立ち上げます。ここで大切なのは、ChatGPTを単なる「検索機」ではなく、「特定の役割を持った人格」へと変えること。英文作成担当の「チャールズ先生」と、評価担当の「安西先生」という、2つの人格を与えます。

まず私が、2つの人格のバックグラウンドや性格、言葉遣いなどを設定し、それらをまとめたPDFデータを学生に配布します。学生は2つのチャット画面を立ち上げ、各PDFデータをそれぞれの画面に貼り付ける。これで初期設定は完了し、各チャットが役割を認識した上で回答するようになります。

【ステップ3:英文作成者「チャールズ先生」との徹底的な対話】

チャールズ先生に日本語原稿を読み込ませ、英文を出力してもらいます。学生は出力された英文を、「自分の言いたいことを表現できているか」「自分が理解・説明できるレベルの英文になっているか」といった観点で確認。チャールズ先生とチャットで対話を重ね、納得がいくまで調整を繰り返します。

【ステップ4:英文評価者「安西先生」による厳格な確認】

納得のいく英文ができたら、安西先生のチャット画面で、論理のズレや文法ミスがないかを確認します。必要に応じて、チャールズ先生とのチャット画面に戻りながら、自分の主張を精査していくのです。ちなみにこの安西先生、折に触れて「諦めたらそこで終わりですよ」とあの名言で鼓舞してくれます(笑)。

チャールズ先生、安西先生にサポートしてもらうためには、学生自身が「今、何を必要としているか」を明確に突き詰め、指示を出し続けなければなりません。学生が自ら指揮を執り、自らの意志で最終的な一文を決定していくこの粘り強い対話のプロセスこそが、「コピペ」に頼らない、自らの表現に対する責任感を育んでいきます。

【ステップ5:自分の言葉として放つパフォーマンステスト】

完成した英文を口頭で表現します。このパフォーマンステストがあることで、学生はただ英作文をすればよいという意識ではなく、最終的に自分がアウトプットすることを前提として英作文に向き合うことになります。

――日本語原稿は、どのようなポイントをチェックしていますか?英語教員が日本語の指導まで行うのは、ハードルが高いように感じます。

(瀬戸)決して高度な国語力や、文学的な表現力を求めているわけではありません。私が見ているのは、「英語のパラグラフ構造に耐え得る論理的な日本語になっているか」です。

日本語はその構造上、主語の所在が曖昧になりがちです。しかし、英語は1つのパラグラフの中で、できるだけ主語を変えずに論理を一貫させるという強い特徴を持っています。なので私は、「主語が散らばっているから、ここを整理して論理を整えよう」といった指摘をしています。

――この5つのステップの中で、先生はどのように関わるのですか?     

(瀬戸)私は、日本語原稿の論理をチェックして学生に返却したら、パフォーマンステストの当日まで介入しません。つまり、パフォーマンステストで初めて学生の英作文を確認するわけですが、目を閉じて聞いてもきちんと理解できるほど、彼らの等身大の表現で、わかりやすい英語になっています。

AI時代にこそ武器になる、1ミリのズレも許さない訳読法

――ChatGPTによって出力された英文を読み、調整するには、英語を書く力よりも読む力が重要になりそうですね。

(瀬戸)その通りです。ChatGPTの出力したものが、本当に自分の言いたいことと一致しているかどうかは、読んでみないと判断できません。その「読む力」を強化するために、私のリーディングの授業では、徹底的に「形」の習得にこだわっています。

――「形」にこだわるとは?

(瀬戸)意味は二の次として、文法をパーツのように分けて見る。英文が表す情報を1ミリも漏らさない「完コピ」の日本語訳を目指します

具体的には、まず英語の語順通りに読みながらスラッシュ・リーディングを行います。それも、なんとなく区切るのではなく、「なぜここにスラッシュを入れるのか」を論理的に説明させるのです。     

主語の直後は「が」がよいか、「は」がよいか考える。複数形の“s”が付いていれば、たとえ“some”などが付いていなくても「さまざまな」と補う。こうした厳格な文法訳読法によって英文法の「形」を覚え、「この形だからこう読む」と論理的に紐解いていきます。

――まるで芸道などの「守破離」でいうところの「守」の鍛錬のようです。

(瀬戸)そうですね。文法は「設計図」でしかないと考えています。設計図さえ正確に読めるようになれば、それに従ってパーツをバラバラに分解していくリーディングも、逆にパーツを組み上げていくライティングも、どちらもできるようになります。

ただ、「守」を通じて本当にやりたいのは、単なる知識の詰め込みではありません。実は私、英語教員であると同時に書家でもあります。両言語に触れている中で、個別の「何々語」という枠を超えた「言語」という1つ上の視座から眺めると、根底には言葉を司る人間としての「共通の感覚」があると思っています。言語のルール、つまり「形」と徹底的に向き合うことは、表面的なスキルの習得を超えた、「人間の感覚に訴える言語の土台作り」だと考えています。

書にも通ずる、基本の「形」の習得がもたらす自由な表現

英作文能力を「再定義」する

――ご紹介いただいた実践では、学生が英文を自力では書きませんよね。そうなると、「ゼロから自力で書く力」が育たなくなるのではないでしょうか?

(瀬戸)そもそも「英作文能力って何?」と問い直す必要があると考えています。実生活で、たとえ日本語であっても、何の助けも借りずに文章を書く状況はどれほどあるでしょうか。メモ書きや、名前・住所などを埋める入力フォームといった場合がほとんどかと思います。その際に、大量の文章は求められませんし、複雑な文法や特殊な語彙も必要ないはずです。

仕事のメールであれ、学術的な論文であれ、インターネットや辞書、その他さまざまなツールを利用しますよね。実生活において、英語でゼロから何の助けも借りずに作文する機会は限られているのです。

――たしかに、「ゼロから自力で書く」機会は、実生活にはほとんどないですね。

(瀬戸)大学入試に目を向ければ、たしかにゼロから自力で書く能力を問うような問題が出題されていますね。本校は、在校生の多くが卒業後に技術者として社会に出る高等専門学校という特殊性があるものの、本校の学生に限らず、大学入試に挑む生徒も、大学入学後はさまざまなツールを活用して文章を書くはずです。

私は、何の助けも借りずに自力で書くことを「裸足で走ること」、AIを活用して書くことを「電動自転車に乗ること」と呼んでいます。実社会で求められる英作文能力が「電動自転車」の活用を前提とするなら、学生の間に行うべきは裸足で走る修行ではなく、自転車を自在に操るための「操作能力」を高めることだと思うのです。

だからこそ、私の授業では「書く力」以上に、AIが出力した英文を正確に見極めるための「読む力」を徹底的に鍛えます。先ほどお伝えしたように、文法の「形」に沿って精読できれば、その「形」を用いて書く力もおのずと付いてくるからです。これこそが、これからの時代に必要な英作文能力なのではないでしょうか。

――お取り組みを伺う中で、特に特徴的だと感じたのは、日本語原稿の作成と先生による添削です。なぜ、日本語原稿の作成に力を入れているのでしょうか。

(瀬戸)「母語の能力を超える外国語の能力はない」と考えているからです。母語で100の深さでしか考えられない人間が、英語になった瞬間に120の深さを表現できるなんてことは極めて不可能に近い。まず日本語を徹底的に研ぎ澄ますことで、自分を自由に表現するための武器を手に入れるのです。

一方で、これからの英語教育は、国語や日本語教員との連携が必要だと思っています。英語教員が1人で頭を抱えるのではなく、言葉を扱うプロ同士で知恵を出し合うアプローチも模索できるような気がしています。

 

取材・編集:小林 慧子/構成・記事作成:早田 愛

 

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この記事に登場する先生

瀬戸 千尋先生

瀬戸 千尋先生

サレジオ工業高等専門学校

獨協大学を卒業後、地元・福岡県の公立高校に5年間勤める。その後、獨協大学大学院で異文化コミュニケーション論を専攻し、博士課程を満期退学する。複数の高校や高等教育機関で教鞭を執った後、2021年より現職。高等専門学校で英語を教えるほか、大学に… プロフィールを見る →

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